パウル・フォン・オーベルシュタイン

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パウル・フォン・オーベルシュタイン (Paul von Oberstein) は、『銀河英雄伝説』の登場人物。

概要[編集]

ローエングラム陣営の主要軍人でラインハルトの参謀役(政権確立後は軍務尚書)。主に軍略・政略面を務める。効率・能率を優先させ、目的達成のためには人道や倫理を軽視する冷徹な人物。策謀家であるが、そこに私心はなく、ラインハルトの偉業に大きく貢献する。

軍事浪漫主義者が多いローエングラム陣営においては極めて異端であり、同僚の主要提督達からも嫌われている。そのため、実力・実績は認められていても、何か策謀の気配があれば疑われるということもある。その冷徹さと正しさから作中では「ドライアイスの剣」、「正論だけを彫り込んだ永久凍土上の石版」(ヒルダ)、「劇薬」(ロイエンタールもしくはミッターマイヤー)、「絶対零度の剃刀」(シェーンコップ)などと呼ばれる。

略歴[編集]

帝国暦452年5月5日生まれ(道原かつみのコミック版に拠る。この誕生日は作者の田中芳樹自身が「オーベルシュタインにもっとも相応しくない日(子供の日)」とし選んだ)。時系列上の初登場は、劇場版アニメ第一作で描かれた第4次ティアマト会戦時にミュッケンベルガーの幕僚として報告と意見を述べた時。

本編登場時はイゼルローン要塞駐留艦隊司令官ゼークト大将の幕僚(当時は大佐)。帝国暦487年5月の第7次イゼルローン攻防戦において、2度ヤンの作戦を見抜いて進言するも受け入れられず、ゼークトを見限り単身脱出する(その後、艦隊は殲滅される)。敵前逃亡にあたるため処罰されることになったが、ラインハルトに自らを売り込んで助命され、准将に昇進、彼の参謀長兼元帥府事務局長に就任する。

同年8月、アンドリュー・フォーク立案による同盟軍の帝国領侵攻が起きると、ラインハルトに焦土作戦を進言し、結果として同盟軍全兵力の4割損失、及び帝国臣民の同盟国への敵対心を植え付けさせることに成功する。この功績で中将に二階級特進し、宇宙艦隊総参謀長に就任。

翌年のリップシュタット戦役では、門閥貴族側のオフレッサー上級大将をあえて生かす策で門閥貴族側を疑心暗鬼にさせたり、ヴェスターラントの惨劇を黙認させ、比較的早期に門閥貴族の鎮圧を成し遂げさせる。一方で、キルヒアイスの死の遠因を作っているが、それを逆用して政敵のリヒテンラーデを失脚させる。

リップシュタット戦役後にラインハルトが帝国の実権を握ると上級大将に二階級特進、宇宙艦隊総参謀長在任のまま統帥本部総長代理に就任。そしてラインハルトが皇帝となると、帝国元帥、軍務尚書に任ぜられる。以後も権謀術数を駆使して、ローエングラム王朝の影の部分に貢献する。

バーラトの和約後は、レンネンカンプを唆してヤンの謀殺を謀り、結果として同盟の早期崩壊を招かせた。そしてロイエンタールの叛乱が終結した後は、自らハイネセンで執政し、「オーベルシュタインの草刈り」と呼ばれる大規模な政治弾圧を断行する。これは軍内の軋轢やラグプール事件を引き起こすに至り、ラインハルトの勅命を持って終結する。

主君ラインハルトが死去した新帝国暦3年7月26日、地球教徒の残党を殲滅するため、病床のラインハルトを囮にした策で彼らのテロの身代わりとなって重傷を負い、そのまま息を引き取る。その死は、計算ずくの殉死とも、完全な誤算ともとれるが真偽は明かされない。39歳没(道原版コミックで示された5月5日が誕生日とすれば40歳。創元SF文庫版でも40歳とされている)。

能力[編集]

マキャヴェリズムの体現者として、下記に挙げるように目的の達成のためには手段を選ばない策を立案、実行する。(特に軍務尚書就任後は)軍略以外にもローエングラム王朝における諜報活動全般を担い、倫理を問わなければ、その手段と目的は常に理に適っている。なお、政略や戦略面を本領とし、戦術面で助言することは少ない。

彼が実行した(提案した)代表的な例を挙げる。

同盟軍の帝国領侵攻に対する焦土作戦
この作戦によって補給が限界に達した同盟軍は支配地から物資を奪うに至り、帝国民に同盟に対する反感を植えつけることに成功する。続く帝国軍の大規模攻勢によって最終的に侵攻した同盟軍の約7割(当時の同盟軍全体の4割)を失わせ、後の同盟の破滅を決定付ける。
オフレッサー上級大将の生け捕りと無傷解放
勇猛な戦士として有名なオフレッサーをあえて生け捕りにさせ、彼の部下達は公開銃殺した上で、彼だけをガイエスブルグへ帰還させる。結果として裏切ったと疑われたオフレッサーは門閥貴族派に殺害される。これは反ラインハルトの急先鋒であったオフレッサーさえも裏切ったとして貴族間の相互不信の引き金を引かせ、また切り崩し工作を始める呼び水とする。
ヴェスターラント虐殺の黙認
ブラウンシュヴァイク公が命じたヴェスターラント虐殺を事前に察知したが、これを黙認することで帝国臣民に門閥貴族派への強い反感を抱かせる。これによって、門閥貴族派の戦線維持が難しくなり、結果として戦役を3ヶ月早く終わらせ、1000万人の命が失われずに済んだとする。
オーベルシュタインの草刈り
旧同盟領の要人を政治犯・思想犯として逮捕・拘禁することで人質とし、ユリアン率いるイゼルローンの革命軍が何であれ行動を起こさざるを得ない状況に追い込む。ただし、この目論見はその後のラグプール事件の発生で失敗している。もっとも、その後のラインハルトの恩赦までが目的だったと見ると完全失敗というわけではなかった。

政略・軍略での活躍の一方、戦術面で彼が活躍するシーンはない(そもそも稀代の戦術家であるラインハルトは、戦術の立案において参謀を必要としてない)。作中でも「軍官僚や参謀としての能力と比較して、実戦面でのそれは不足している」と評価されている。しかし、宇宙暦796年のヤンのイゼルローン攻略戦において、彼の狙いを唯一見抜いていたなど、全く疎いわけではない。

後述の通り、人柄は嫌われていたが、ラインハルトから「オーベルシュタインを好いたことは一度もないが、結果として彼の意見を全て聞いてきた」と評される。

人物[編集]

長身で黒っぽい頭髪には若白髪が目立つ人物。先天的な視覚障害者で義眼(この義眼の性能によって晴眼者に近い視覚を持つ)。上記の通り、有能で職務に忠実であるが、性格は冷静かつ冷徹で徹底的な合理主義者、万事感情を表す事がないとして敵味方問わず知られる。ルドルフの治世下であれば、その生まれつきの視覚障害により劣悪遺伝子排除法によって処断されていただろうとしてゴールデンバウム王朝を憎み、それを打倒する存在としてラインハルトに自らの能力を捧げようとする。

とかく倫理や人間感情を問わずに正論と合理主義で周りを説き伏せるために、ビッテンフェルトを代表として同僚らから嫌われ、基本的に公平なキルヒアイスやミッターマイヤーからも嫌悪感を抱かれる。特に「ナンバー2不要論」は結果としてキルヒアイスの死を招いたことも、その評価に後々まで尾を引いた。ただ、有効な策であれば自分を囮にすることも厭わず、OVA版ではアンスバッハがラインハルトの命を狙った際には自らが盾となったり、ヴェスターラントの遺族にラインハルトが狙われた際にも自らが元凶であったと名乗るなど、そこに私心はない(ただし、私心がないこと自体を武器に使っているとも非難される)。こうしたオーベルシュタインの態度について、副官のフェルナーは、諸将の反感・敵意・憎悪を彼の一身に集中させることでラインハルトの楯となろうとしていると推測している。

また、万事感情を表す事がないと同時に、作中で彼の内心が明かされないために、何を考えているのか不明で、基本はフェルナーなどの周りの人物の推測という形で読者に提示される。例外的にロイエンタールの叛乱については、彼が叛乱を決意した心理についての推論をフェルナーに話し、本人としてもいつもと異なる行動だったために、周りに感化されてしまったかと自嘲している。

私生活も謎が多く、独身でラーベナルトという名の執事夫婦と暮らしていることが明かされるのみである。数少ない人間的なエピソードとして元帥府に登庁した際、後を付いてきたダルマチアン種の老犬をそのまま飼い始めたというものがあり、老犬故に柔らかく煮た鶏肉しか食べないためにオーベルシュタイン自身が夜な夜な肉屋に鶏肉を買いに行ったところを、ミュラーが見たという。また、最期に遺言を残す際にも、遺言書の場所などを実務的に述べた後に、残り命の短い老犬の世話を頼むことをあえて話す。

演じた人物[編集]

アニメ
塩沢はアニメ版のインタビュー映像で、オーベルシュタインを演じるにあたって常に他人に何を考えているのか悟られないようなキャラであるという部分に気をつけて、高揚したしゃべり方は避けるように演じていたと語っている。またオーベルシュタインについて「犬しか友達の居ない寂しい男」と評している[1]
また、最初のアニメ化『わが征くは星の大海』では、ほとんど登場しないため、塩沢は自分が登用された意図を計りかねたとも語った。
プロデューサーの田原正利によれば、原作者である田中芳樹はキャスティング表を見た際、開口一番「オーベルシュタインが塩沢さんというのはわかりますねぇ」と発言している。
舞台

その他[編集]

セガサターン版ゲームでは彼を登用するかどうか選択するイベントが発生するが、この選択によって、その後の展開が大きく左右される。

脚注[編集]

  1. ^ ただし「オーベルシュタインのファンと言っていただける方がいたら、変わった人と言われるか世間から蔑まれているかと思われますが……」と冗談めかしながらの発言である。

関連項目[編集]