パウル・フォン・オーベルシュタイン

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パウル・フォン・オーベルシュタイン (Paul von Oberstein) は、『銀河英雄伝説』の登場人物。

概要[編集]

ローエングラム陣営の参謀長的な役割で活躍した軍人。

熱血漢が多いローエングラム陣営主要提督級の登場人物の中で異端的な、感情や倫理、人道より目的達成のための効率・能率を優先させるマキャヴェリズムを体現した冷徹・冷酷なキャラクターである。

その冷徹さから、「ドライアイスの剣」、「正論だけを彫り込んだ永久凍土上の石版」(ヒルダ)、「劇薬」(ロイエンタールもしくはミッターマイヤー)、「帝国印、絶対零度剃刀(かみそり)」(シェーンコップ)の異名を持つ。

略歴[編集]

帝国暦452年5月5日生まれ(道原かつみのコミック版に拠る。この誕生日は作者の田中芳樹自身が「オーベルシュタインにもっとも相応しくない日(子供の日)」とし選んだ[1]。)時系列上の初登場は、劇場版アニメ第一作で描かれた第4次ティアマト会戦時にミュッケンベルガー幕僚として報告と意見を述べた時[2]

容姿は長身痩躯。血色が悪く、年齢の割に白髪が多い。また、先天的障害のため両眼に障害があり、光コンピューターを内蔵した義眼をつけている[3]。自ら障害を持つ事から、劣悪遺伝子排除法を発布したゴールデンバウム王朝を憎み[4]、打倒したいと願っていたが、自分の力だけでは不可能である事を承知しており、その目的を叶える手段と人材を求めていた。大佐の時にはイゼルローン要塞駐留艦隊司令部の幕僚を務めていたが、 同盟第13艦隊によるイゼルローン要塞陥落の際に上官のゼークトの資質を見限って敵前逃亡。その為に処罰される事になったが、門閥貴族との戦いを前にしたラインハルトに自らを売り込み、助命された上でローエングラム陣営に参加し、准将に引き上げられてラインハルトの参謀長兼元帥府事務局長に就任。アムリッツァ星域会戦後に中将に二階級特進し、宇宙艦隊総参謀長に任ぜられ、リップシュタット戦役後にも上級大将に二階級特進、宇宙艦隊総参謀長在任のまま統帥本部総長代理に任ぜられる。

ラインハルトの登極とともに帝国元帥、軍務尚書となり、それ以降も様々な政策と策謀を献じ、ローエングラム王朝の影の部分に貢献したとされる。主君ラインハルトが死去した新帝国暦3年7月26日、地球教徒の残党を殲滅するため、ラインハルトを囮にした策で彼らのテロの身代わりとなって重傷を負い、そのまま息を引き取る。その死は、計算ずくの殉死とも、完全な誤算ともいわれるが不明。39歳没(道原版コミックで示された5月5日が誕生日とすれば40歳。創元SF文庫版でも40歳とされている)。

能力[編集]

謀略、権謀術数といった種類の政略・戦略を本領とした。ラインハルトもその才能を買って、彼を参謀にしている。イゼルローン要塞陥落後に同盟が帝国領に侵攻した時、オーベルシュタインの焦土作戦で同盟軍を瓦解させた。これについて、ヤンは勝つとわかっていてもこんなことは自分にはできないと述べている[5]

リップシュタット戦役では、捕虜になったオフレッサー上級大将を無事解放しながら彼の部下を全て公開銃殺した。これにより反ラインハルトの急先鋒であったオフレッサーに対して門閥貴族の不信を植え付けて殺害に至らしめ、貴族間の相互不信の引き金とした。そしてオーベルシュタインの策謀の中でも際立って有名な「ヴェスターラント虐殺の黙認」でリップシュタット連合軍に対する民衆の支持を失わせている。

彼の進言が一因となってキルヒアイスは命を落としたが、その責任・感傷に浸ることなくリヒテンラーデを首謀者に仕立てて排除するべきと提案した。それを聞いたミッターマイヤーは、嫌悪に満ちた表情で「卿を敵に回したくないものだ。勝てるわけがない」と、痛烈な皮肉を浴びせたが、結局は実行され、これによってラインハルトの権力基盤が確立された。

「バーラトの和約」後にはレンネンカンプを唆してヤンの抹殺を謀り、結果的に同盟の崩壊を導いた。のちに惑星ハイネセンで暴動が発生するとミュラービッテンフェルトを従えて乗り込み、既に駐留していたワーレンと合流して暴動を鎮圧し、旧自由惑星同盟の政府高官・要人らを大量に逮捕(「オーベルシュタインの草刈り」と呼ばれる)するが、その際ハイネセンに潜伏していたルビンスキーの逮捕に成功。全宇宙の医療カルテの中から実在しない患者を割り出す、という気の遠くなるような作業の産物であるが、それをやり遂げたことからも彼の実務能力の高さと、職務への献身ぶりが伺える。

これは帝国軍の内部対立を引き起こしたが、結果的に事態を収拾したラインハルトの好感度が上がる事になった。ユリアンは、それがオーベルシュタインの計算ずくである可能性も考えていた。

ラインハルトにより却下されたものの、帝国軍の有力な将帥を人質としてイゼルローン要塞に派遣し、その犠牲のうえにヤン・ウェンリーを誘殺する、という冷酷な策を提案したが、自らその人質となることも具申しており、自分の命をも道具として使う恐るべき謀略家である事が伺える。

また、メックリンガーが後年記した回顧録によると、軍政に於いても高い見識と能力を備えていたとされる。しかしオーベルシュタインが軍務尚書になったあと、事務が滞る事は皆無であったが、統計上軍務省の職員に胃痛が増えたというエピソードがあり、そのエピソードから、彼の軍政の手腕の質が垣間見える。

その一方で戦場においては、ラインハルトとヤンが直接対戦したバーミリオン星域会戦では有効な助言ができなかった。戦術面においてはその道の天才たるヤンやラインハルトに及ばず、周囲からも「軍官僚や参謀としての能力と比較して、実戦面でのそれは不足している」と評価されている。またラインハルトも、戦術面においてのオーベルシュタインの助言を最初からあてにしていなかった。

ヤンによるイゼルローン攻略戦ではヤンの行動を当てており[6]、水準以上の戦術的才能は有している。

人柄[編集]

冷静かつ冷徹な策略家。前述通り、その性格を思わせる容姿の持ち主でもある。同僚並びに多くの者が実力・実績を認めるものの、マキャヴェリズム的な目的のために手段を問わない冷徹な手法により、人格面では敬遠または忌避されている。その最たるものがヴェスターラント虐殺をラインハルトに黙認させた件であろう。それ故、大半が熱血漢である帝国軍諸将との軋轢を生み、思想の質においてはミッターマイヤーロイエンタールと、感情面ではビッテンフェルトと特に激しく対立した。また、持論の「ナンバー2不要論」が結果としてキルヒアイスの死とロイエンタール反逆を招き、それがオーベルシュタインへの感情をより悪化させている。フェルナーは、諸将の反感・敵意・憎悪を彼の一身に集中させることでラインハルトの楯となろうとしている故だと推測している。

一方、公人としてほぼ全く私心がないとされ(この点に関してもビッテンフェルトは「私心がないことを武器にしている」と嫌悪している)、目的の為には自分の命をも犠牲にする案[7]を提案するなど、見方によっては極めて清廉な資質を有している。また、ヴェスターラントで家族を殺されたテロリストがラインハルトを弾劾した時に敢えて立ち塞がり、責任の所在とテロの標的は自分だと発言するなど、自らを犠牲にしてラインハルトを擁護しようとする事がある。他にも、アンスバッハによるラインハルト暗殺未遂の際、ラインハルトの前に立ちはだかって庇っている[8]。しかしラインハルト個人に絶対の忠誠を誓っている訳ではなく、ラインハルトは、ラインハルトの存在が王朝の利益と背反する時は、オーベルシュタインはラインハルトを廃立するであろうと述べている。そして実際にも、ラインハルトの崩御が不可避という状況下で、そのラインハルト自身を囮として地球教団の実戦部隊を呼び寄せるという策略を実行している。必要とあれば自分の身を投げ出す事にためらいもないが、主君の身についても同様であった。

前述の通り、ルドルフとゴールデンバウム王朝に対しては強い憎悪を抱いており、皇帝フリードリヒ4世崩御の際にその事実を皇帝に対する敬語表現を使わずに発言するなど、感情を表さない彼としては例外的に嫌悪を思わせる思考傾向を見せている。ラインハルトに接近した動機も、その根底にはゴールデンバウム王朝打倒があった。ただしヴェスターラントの虐殺に見られるように、ゴールデンバウム朝的な手法については、それが有効な状況ならばためらわずに使用している。

一方、主君ラインハルトとの関係は、前述通り危機には自らの身をためらいもなくさらして庇うなど、絶対的とはいえないまでも確かな忠誠心を示す一方、政策に対しては、他の主要な配下たちとは異なりしばしば辛辣なまでにラインハルトの意に沿わない意見を述べ、特に人事に関してはキルヒアイスの重用やヤンの登用、ロイエンタールの高等弁務官就任など、幾度も強硬に反対している。なお、彼がラインハルトの人事案を全面的に賛成して登用された例としてはシュトライトアイゼナッハが挙げられ、いずれもラインハルトの能臣としてその能力を発揮している。他方、自分の部下は、ラングのような才能に対して野心が過多な者を「便利な道具」として重用するなど、その多くを思い通りに動く、いわば道具にできる者で占めさせていた。有能ではあるが決して忠実とは言えず、時には苦言や諫言を呈すフェルナーは、ラインハルトの命令で部下としたのであり、自らの人選ではなかった。しかしそのフェルナーに対しては、ロイエンタール反逆時にミッターマイヤーの心情に対する自身の意見を彼に披瀝する(その際、一瞬ながら苦笑し、「口数が多くなった」と発言している)など、心を少しだけ開けたと取れるシーンが散見される。言い換えれば、自ら便利な道具として重用した者に対しては、全く心を開く事が無かった。

ラインハルトのオーベルシュタインに対する感情は微妙である。登用の際に苦言を呈したキルヒアイスに対しては「あの男とはお互いに能力を利用しあうだけだ」と距離を置いて付き合う意志を示したが、自らの意に沿わない発言やしばしば提案される倫理にもとる作戦などに対して強い嫌悪感を抱く一方で、その発言や提案が全くもって「正しい」ために多くの場合は受諾せざるを得ず、後にヒルダに対し「あの男を好いたことは一度もないが、振り返ってみるとあの男の進言に最も多くしたがってきた」と述懐している[9]。死の床においてオーベルシュタイン不在の理由が「外せない所用のため」席を外しているという回答(実際はこの時点で既にこの世を去っている)を得たとき、「あの男のすることには常にもっともな理由があるものだ」と皮肉とも納得ともつかない口調で述べており、ラインハルトがオーベルシュタインに抱く嫌悪感と信頼の入り混じった複雑な感情を端的に表している。

上記のように大半の劇中人物からは「万事感情を表す事がない」と評されているが、本文では「ダルマチアン種の老犬」にまつわるを幾つかの余話[10]に示されるように、彼もまた「感情の動物」である人間なのだという一面も見せた。

家族[編集]

独身。ラーベナルトという名の執事夫婦と、ダルマチアン種の老犬と暮らしている。

演じた人物[編集]

アニメ
  • 塩沢兼人
    塩沢はアニメ版のインタビュー映像で、オーベルシュタインを演じるにあたって常に他人に何を考えているのか悟られないようなキャラであるという部分に気をつけて、高揚したしゃべり方は避けるように演じていたと語っている。またオーベルシュタインについて「犬しか友達の居ない寂しい男」と評している[11]
    また、最初のアニメ化『わが征くは星の大海』では、ほとんど登場しないため、塩沢は自分が登用された意図を計りかねたとも語った。
    プロデューサーの田原正利によれば、原作者である田中芳樹はキャスティング表を見た際、開口一番「オーベルシュタインが塩沢さんというのはわかりますねぇ」と発言している。
舞台

その他[編集]

セガサターン版ゲームでは彼を登用するかどうか選択するイベントが発生するが、この選択によって、その後の展開が大きく左右される。

脚注[編集]

  1. ^ 月刊コミックボックス1990年12月号に掲載されたコメント(銀河英雄伝説読本に再録)
  2. ^ ただし原作外伝第1巻の「間奏曲(新書版p.104)」に於いて、第4次ティアマト会戦以前にミュッケンベルガーが次席副官を更迭し、統帥本部の情報処理科に転属させた事が書かれている。更迭された人物はオーベルシュタインと同様の外見及び両目が義眼という特徴を有しているが、名前は明記されていない。
  3. ^ 作中における義眼は、現実の義眼と異なり、視力を回復させるものである。
  4. ^ 劣悪遺伝子排除法は、後にルドルフの制定時よりかなり適用が緩和されている。ルドルフの存命中であれば、眼に障害を持つオーベルシュタインは適用対象とされたとされる。
  5. ^ ただしヤンはラインハルトの作戦と理解しており、オーベルシュタインの存在はこの時点では知らないと思われる。
  6. ^ ゼークトやシュトックハウゼンがオーベルシュタインの意見を取り入れていれば、ヤンの作戦は失敗した可能性がある。
  7. ^ 回廊の戦い」の後に上申された、志願者を人質としてヤンをおびき出して謀殺する案。志願者がいない場合は自らが人質になる、と手紙に明記。
  8. ^ アニメ及びコミック版のみの描写
  9. ^ 現に彼のナンバー2不要論が採用されたかどうか不明だが、ローエングラム王朝においては三長官のナンバー2である宇宙艦隊副司令長官、軍務次官、統帥本部次長の役職は置かれていない。
  10. ^ ある日元帥府に向かった際、守衛に自らの後をつけてきた老犬がいることを教えられ、自分の犬であると思われたことに感心したらしき様子を見せ、連れ帰った。その老犬は柔らかく煮た鶏肉しか食べず、オーベルシュタイン自らが夜な夜な肉屋に行き鶏肉を買っていると、その現場を直接見たナイトハルト・ミュラーが語っている。後に自らの死の直前、「老犬だから」と自分の死後も鶏肉を与えるようにと遺言を残した。
  11. ^ ただし「オーベルシュタインのファンと言っていただける方がいたら、変わった人と言われるか世間から蔑まれているかと思われますが……」と冗談めかしながらの発言である。

関連項目[編集]