バリノマイシン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Jump to navigation Jump to search
バリノマイシン
識別情報
CAS登録番号 2001-95-8 チェック
ChemSpider 21493802 ×
ChEBI
ChEMBL CHEMBL223643 ×
特性
化学式 C54H90N6O18
モル質量 1111.32
外観 White solid
融点

190 °C, 463 K, 374 °F

溶解度 Methanol, ethanol, ethyl acetate, petrol-ether, dichloromethane
λmax 220 nm
危険性
主な危険性 Neurotoxicant
半数致死量 LD50 4 mg/kg (oral, rat)[2]
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

バリノマイシン(Valinomycin)は、ドデカデプシペプチド抗生物質である。S. tsusimaensisS. fulvissimus等のストレプトマイセス属の菌株から得られる。

電荷を持たない残基のみから構成される中性イオノフォアである。L-バリン・D-α-ヒドロキシイソ吉草酸・D-バリン・乳酸が、交互に出現するアミド結合エステル結合でこの順に結合して1単位を構成し、これが3回繰り返されて環を形成している。細胞膜内で、ナトリウムイオンに対して、カリウムイオンに強い選択性を持つ[3]。カリウム特異的なトランスポーターとして働き、電気化学勾配が”下がる”方向に、脂質膜を通してカリウムイオンが移動するのを助ける[4]。カリウム-バリノマイシン複合体の平衡定数Kは106であるのに対し、ナトリウム-バリノマイシン複合体ではたったの10である[5]。この違いは、生体系においてカリウムイオンの輸送への選択性を維持するのに重要である。

構造[編集]

12個のアミノ酸とエステルが交互に結合して大員環を形成するドデカデプシペプチドである。12個のカルボニル基は金属イオンの結合と極性溶媒への溶媒和に必須である。側鎖のイソプロピル基及びメチル基によって非極性溶媒にも溶解する[6]。その形や大きさとともに、この分子の二重性は、結合性能の大きな理由になっている。

イオンがイオノフォアと結合するためには、その水和水を離さなければならない。K+イオンに対してバリノマイシンは、バリン由来の6個のカルボニル基を八面体状に配位させることで安定化する。結合サイトの半径は1.33Åでカリウムイオンの半径に近く、水和水との結合を切断するのに十分な強さの結合を形成できる。これに対し、Na+イオンの半径は0.95Åとかなり小さく、水和水を離すほど十分に強い結合を形成できない。これにより、Na+イオンに対してK+イオンへの選択性は1万倍に達している。

バリノマイシンは、極性溶媒中では溶媒に対してカルボニル基側を向け、非極性溶媒中ではイソプロピル基側を向ける。この配位はカリウムイオンとの結合で変化し、分子はイソプロピル基を外側に向けたまま固定される。分子振動の影響のため完全に”固定”されているわけではないが、分子全体にある程度の配向性が与えられる。

利用[編集]

近年、バリノマイシンは、ベロ細胞へのSARSコロナウイルスの感染に対して最も強力な薬剤であることが報告された。

バリノマイシンは、カリウム選択電極の非金属均質化剤として用いられる[7][8]

また、実験に電気化学勾配の破壊が必要な場合に、膜小胞とともに用いられる[9]

出典[編集]

  1. ^ http://chem.sis.nlm.nih.gov/chemidplus/rn/2001-95-8
  2. ^ http://chem.sis.nlm.nih.gov/chemidplus/rn/2001-95-8
  3. ^ Lars, Rose; Jenkins ATA, (2007). “The effect of the ionophore valinomycin on biomimetic solid supported lipid DPPTE/EPC membranes”. Bioelectrochem. 70 (2): 387–393. doi:10.1016/j.bioelechem.2006.05.009. PMID 16875886. 
  4. ^ Cammann K (1985). “Ion-selective bulk membranes as models”. Top. Curr. Chem. 128: 219–258. 
  5. ^ Rose, M.C.; Henkens, R.W. (1974). “Stability of sodium and potassium complexes of valinomycin”. BBA 372 (2): 426–435. doi:10.1016/0304-4165(74)90204-9. http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6T1W-47MP0GH-21K&_user=3034653&_coverDate=12%2F05%2F1974&_rdoc=1&_fmt=high&_orig=search&_origin=search&_sort=d&_docanchor=&view=c&_searchStrId=1469266870&_rerunOrigin=google&_acct=C000050542&_version=1&_urlVersion=0&_userid=3034653&md5=da181bf1ba64137758e3986065a56f85&searchtype=a. 
  6. ^ Thompson M and Krull UJ (1982). “The electroanalytical response of the bilayer lipid membrane to valinomycin: membrane cholesterol content”. Anal. Chim. Acta 141: 33–47. doi:10.1016/S0003-2670(01)95308-5. 
  7. ^ Safiulina D, Veksler V, Zharkovsky A and Kaasik A (2006). “Loss of mitochondrial membrane potential is associated with increase in mitochondrial volume: physiological role in neurones”. J. Cell. Physiol. 206 (2): 347–353. doi:10.1002/jcp.20476. PMID 16110491. 
  8. ^ Potassium ionophore Bulletin
  9. ^ 1.File.tmp/k_potassium.pdf Potassium ionophore Bulletin]