バフンウニ
バフンウニ | ||||||||||||||||||||||||||||||
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市場に並んだ
バフンウニHemicentrotus pulcherrimus | ||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Hemicentrotus pulcherrimus (A. Agassiz, 1863) | ||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||
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和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
バフンウニ |
バフンウニ(馬糞海胆、馬糞海栗、学名: Hemicentrotus pulcherrimus)は、オオバフンウニ科に属するウニの一種で、バフンウニ属 Hemicentrotus に属す唯一の種。日本、台湾、朝鮮半島、中国沿岸の潮間帯から水深20 m程度の浅海に生息する。日本では古来食材として知られる。
特徴
[編集]殻径4 cm、殻高2 cm程度になる中型のウニ。殻の両面は扁平で、囲口部は平らで、全体に潰れたまんじゅうのような形をしている。5 mm程度の短い大棘が密生し、管足の配列は3縦列、歩帯孔対数は4である。体色は全体に暗緑色を帯びる。雌雄異体だが、外見から判別することはできない。
分布
[編集]北海道南端から九州・中国中南部沿岸・朝鮮半島南部に分布し、潮間帯から水深20 mの岩礁などに普通に見られる。
生態
[編集]産卵期は1月から4月。産卵期になると、地域の成熟個体から一斉に放卵・放精が行われる。生殖巣の成熟は光条件の影響を受けず、これを支配する重要な環境因子は水温の高低であるという報告がなされており、また、生殖巣の成熟開始には高水温に一定期間さらされる必要がある[2]というが、水温のみが成熟を支配する因子ではないとする見解もある[3]。卵は径0.1 mm程度で、受精後60時間程度でプリズム型幼生、85時間から120時間でプルテウス幼生となりケイソウ等のプランクトンを捕食する浮遊生活に入る。成長に伴い幼生の腕の数が4本、6本、8本と増え、45日程度で成体型の棘と管足が生えた「稚ウニ」に変態して海底に移動し、歩行生活を始める。1年から2年で成熟する。成体は海藻のほか、動物の死骸等も食べる雑食性である。
毒性
[編集]無毒だが、苦味物質のプルケリミン(4S-[2'-カルボキシ-2'S-ヒドロキシエチルチオ]-2R-ピペリジンカルボキシル酸)[4]を含む 。プルケリミンはメス[5]の生殖腺の成長に伴い増加し、放精・放卵後に減少する[6]。
利用
[編集]食用とされるほか、実験動物、アクアリウムにてペットとして飼育されることがある。
食用
[編集]精巣・卵巣ともに、生殖腺が食用となる。1個体あたりの可食部は2 g程度。前述の、苦味物質プルケリミンは産卵・放精後に減少し、成熟に伴い増加する[5]ため、産卵期直前から産卵期内は個体によって(特に雌個体の卵巣)苦みが強く、食用に適さない。産卵期が終了すると、生殖腺は萎縮した状態となる(放出期)。その後生殖腺は栄養細胞で満たされ、肥大する。この時期が最も食用に適した時期とされる。食用として、新鮮なものを生ウニとして利用するほか、塩蔵品の塩ウニ、塩または酒を混ぜたものを練りつぶした練ウニが流通する。福井県では伝統的に、本種の生殖腺に塩を用いた保存食を作る。これは越前のウニと呼ばれ、肥後のカラスミ、三河のくちこと並び「天下の三珍」として知られる。一方で津軽海峡西部沿岸においては、生ではえぐ味が強くて食用には不適であるとして、古くから「イヌガゼ」の俗称で呼ばれ、まったく漁獲利用されていないという[7]。
漁獲は、資源保護のため各地で漁期が決められており、海女や海士による素潜り漁のほか、舟の上から箱眼鏡などを用いて水中を観察し、たも網や鈎で捕集する「舟採り」などによって行われている。アオサやテングサが豊富に繁茂する漁場の個体は、生殖腺の色は明るく、味も良いとされる[8]
実験動物
[編集]卵細胞中に色素顆粒を含むため核分裂の観察に適し、発生学の実験および教育に用いられる。また、生息数が多く捕獲が容易であること、人工授精が容易であること、個体による産卵期の違いが小さいこともモデル生物としての利点として挙げられる。特に本種は日本の都市圏沿岸でも容易に採取できることから、教育実験に適している。
人に関わる歴史
[編集]古来より「ガゼ(甲贏)」と呼ばれ、「ウニ(棘甲贏)」(ムラサキウニ)とともに古来より食用とされてきた。特に本種は、若狭国の貢納品として延喜式にも記録が残る[9]。さらに古く、各地の貝塚からも本種の死殻が発見されている[10]。
近縁種
[編集]本種は一属一種であるため、同属の近縁種はいないが、形態的に類似し、分布地域が重なっている他のウニ類との正確な識別は、ときに困難な場合がある。
画像 | 和名(学名) | 分布 | 特徴 |
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エゾバフンウニ (Strongylocentrotus intermedius (A. Agassiz, 1863)) |
北海道から太平洋岸は関東以北、日本海側では中国地方、ほか中国東北部からロシア沿海州に産する。バフンウニより比較的北に分布する。 | バフンウニより一回り大きく、歩帯板の孔対数が5であることで区別ができる。 | |
ツガルウニ (フランス語版) (Glyptocidaris crenularis A. Agassiz, 1863) |
日本では関東以北に分布するほか、中国北部、黄海に分布。 | バフンウニより一回り大きく、殻の色が淡褐色であること、棘がより長いこと(3cm程度)などで識別が可能である。 | |
シラヒゲウニ (Tripneustes gratilla (Linnaeus, 1758)) |
紀伊半島伊南の暖海、沖縄に生息。 | バフンウニやエゾバフンウニよりさらに大型で、大棘の色は白または黒。大棘に貝殻や藻の切れ端をくっつけてカモフラージュすることが多い。 |
脚注
[編集]- ^ Evolution of a Novel Muscle Design in Sea Urchins (Echinodermata: Echinoidea) , doi:10.1371/journal.pone.0037520
- ^ 吉田正夫、1988.昭和62年度海洋資源生物再生産の初期過程研究成果報告書.p. 130-139.
- ^ 伊藤史郎, 柴山雅洋, 小早川淳 ほか、「水温制御によるバフンウニHemicentrotus pulcherrimusの成熟,産卵促進」 『日本水産学会誌』 1989年 55巻 5号 p.757-763, doi:10.2331/suisan.55.757
- ^ 村田裕子、「バフンウニの苦味成分に関する研究(平成13年度日本水産学会賞奨励賞受賞)」『日本水産学会誌』 2002年 68巻 4号 p.513-515, doi:10.2331/suisan.68.513
- ^ a b 村田裕子, 山本達也, 金庭正樹 ほか、「バフンウニ生殖腺の苦味の発現頻度」『日本水産学会誌』 1998年 64巻 3号 p.477-478, doi:10.2331/suisan.64.477, 日本水産学会
- ^ Murata, Y., Yokoyama, M., Unuma, T., Usata, N., Kuwahara, R., and M. Kaneniwa, 2002. Seasonal changes of bitterness and pulcherrimine content in gonads of green sea urchin Hemicentrotus pulcherrimus at Iwaki in Fukushima Prefecture. Fisheries Science 68: 184-189.
- ^ 吾妻行雄、「北海道南部沿岸に生息するバフンウニ, Hemicentrotus pulclcherrimus生殖巣の季節的変化」 『水産増殖』 1992年 40巻 4号 p.475-478,doi:10.11233/aquaculturesci1953.40.475
- ^ 中村達夫, 芳永春男、「山口県外海産のウニについて」 『水産増殖』 1962年 9巻 4号 p.189-200, doi:10.11233/aquaculturesci1953.9.189
- ^ 福島好和、「古代諸国貢納水産物の分布について」 『人文地理』 1971年 23巻 5号 p.495-525, doi:10.4200/jjhg1948.23.495
- ^ 朝日遺跡II 自然科学編 愛知県埋蔵文化財センター調査報告書 第31集 1992年
参考文献
[編集]- 『海産無脊椎動物の発生実験』培風館、1988年。ISBN 4563039632。
- 『無脊椎動物の発生・下』培風館、1988年。ISBN 4563038091。
- 『原色日本海岸動物図鑑』保育社、1956年。ISBN 4586300086。
- 『日本海岸動物図鑑 [II]』保育社、1995年。ISBN 458630202X。