ハルキゲニア

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ハルキゲニア
生息年代: 525–505 Ma[1]
Hallucinogenia.jpg
三種のハルキゲニア:H. sparsaH. hongmeiaH. fortis の復元図
保全状況評価
絶滅(化石
地質時代
古生代カンブリア紀第三期 - ドラミアン(約5億2,500万 - 5億500万年前)
分類
: 動物界 Animalia
上門 : 脱皮動物上門 Ecdysozoa
階級なし : 汎節足動物 Panarthropoda
葉足動物 "Lobopodia"
: (和訳なし) Xenusia
: ハルキゲニア科 Hallucigeniidae
: ハルキゲニア属 Hallucigenia
学名
Hallucigenia
Conway Morris1977
タイプ種
Hallucigenia sparsa
(Walcott, 1911)
  • Hallucigenia sparsa
    (Walcott, 1911)
  • Hallucigenia fortis
    Hou & Bergström1995[2]
  • Hallucigenia hongmeia
    Steiner et al., 2012[3]

ハルキゲニア学名Hallucigenia)は、古生代カンブリア紀の海に生息していた葉足動物の1。細長い脚と背中の発達した棘を特徴とし、カナダバージェス動物群に属する Hallucigenia sparsa によって知られ[1]中国からにも同属と思われる類が発見される[2][3]アイシュアイアと同様、葉足動物の中で最初に記載されたものとして代表的な1属である。

名称[編集]

学名 Hallucigeniaラテン語: hallucinatio 「夢みごこち、夢想」[1]からの造語で、その後半を省略した上で、「〜を生むもの」といった意味の接尾辞英語: -gen; フランス語: -gène)をおそらく添えたもの。夢に出てきそうな不思議な姿を指したものか、多くの文献では「幻覚のような (like a hallucination) 」といった意味であるとする。また、中国語では「怪誕蟲」(簡体字:怪诞虫、ピンインguàidànchóng, グアイダンチョン)と呼ぶ[4]

特徴[編集]

H. sparsaの生態復元想像図

最大の体長は種によって1cm以上から3cmにおよぶ[1]。頭部には1対の単眼があり[5]、口は頭部の先端に開く[6]H. sparsa の場合、口のすぐ内側に環状の歯と咽頭の内壁に一例の歯をもつことが分かる[6]。頭部は他の一部の葉足動物に見られるような甲皮と触角はない[5]。頭部の直後、いわゆる胴部の前端には触手状に特化した葉足を2-3対あり、いずれも先端に爪はなく、口まで伸ばすことができるほど長い[6]。円柱状の胴部には、7対以上の細長い歩脚状の葉足が並んでおり、そのほとんどの先端には1対もしくは1本の爪がある[3][7][6]。胴部の背側には、葉足の位置に対応した7対の棘が並んでいる。この棘の形は種によって異なり、表面は棘状ないし円筒状の顕微構造に覆われている[3][5][6]H. sparsa の場合、葉足と体の表皮は単純で、葉足動物において一般的な環形構造が見当たらないが、 H. fortisH. hongmeia ではそれが顕著に見られる[2][3]

よくカイメンや有機堆積物と共に発見される化石標本の状況から、カイメンを捕食し、または屍肉をあさる腐肉食の動物であったと考えられている[1]

発見と復元の経緯[編集]

バージェス頁岩累層から発見されたハルキゲニアの化石(米国、スミソニアン博物館所蔵)

本属のタイプ種である Hallucigenia sparsa は、カナダブリティッシュコロンビア州バージェス頁岩ドラミアン、約5億500万年前)にて、1911年、アメリカ合衆国古生物学者チャールズ・ウォルコットCharles Walcott)によって発見された。その頃、本種は同じ生息地にある多毛類環形動物)のカナディア属(Canadia)の1種と同定され、Canadia sparsa と命名された[8]

1977年、イギリスの古生物学者サイモン・コンウェイ・モーリスSimon Conway Morris)によって、前述の種は Hallucigenia sparsa として再記載された[9]。このとき、ハルキゲニアは細長い体の腹面に長い(とげ)が歩脚のように2列で並び、背面に「触手」が縦一列に並ぶという形で復元された。腹面にある棘状の脚で海底を移動し、背面にある細長い一例の「触手」を自在に伸ばしては、その先端部にあるはずの口で餌を吸い取るようにして食べていたのではないかと解釈された[9]

また一方で、現存するいかなる動物からも掛け離れたそのような復元像をあり得ないものと考え、H. sparsaアノマロカリスの前部付属肢のように、他の大型動物から脱落した付属肢ではないかとも言われていた[10]

ところが、澄江動物群(後述)から発見される葉足動物の形態に比較すると、従来の復元で「触手」とされた部位は対になる脚であり、H. sparsa の上下を逆さまに誤解釈した可能性が浮かび上がる[5]。これは Ramsköld 1992 の再検証に証明されており、H. sparsa の化石から反対側の「触手」とその先端にある爪が発見された[11]。それ以降、H. sparsa は胴部の腹面に数対の細長い脚を、背面には2列の鋭い棘をもつ動物として復元された[11]

Ramsköld 1992 は上下の他に、従来頭部とされてきた球状の部分は体の一部ではなく、泥に押しつぶされた際に後端の肛門から押し出された内容物であり、今までの復元は上下だけでなく、前後も逆さまに誤解釈された可能性も示したが、証拠不足により結論を与えていなかった[11]。なお2015年、この説はケンブリッジ大学のマーティン・スミスらの調査に証明されており、ハルキゲニアの化石から、従来尾部とされた細長い部位の先端に目と歯などの頭部構造が発見された[6][12]

H. sparsa によく似ており、それぞれ中国雲南省澄江動物群カンブリア紀第三期、約5億2,500万- 5億2,000万年前)と Guanshan Biotaカンブリア紀第四期、約5億1400万年-5億900万年前)から発見される H. fortisH. hongmeia は、それぞれ1995年と2012年において同属として記載される[2][3]

分類[編集]

汎節足動物

様々な葉足動物側系統群

節足動物

緩歩動物クマムシ

様々な葉足動物(側系統群)

ハルキゲニア

様々な葉足動物(側系統群)

有爪動物カギムシ

ハルキゲニアを基盤的な有爪動物とする系統仮説[7]
汎節足動物

様々な葉足動物側系統群

ハルキゲニア科

ハルキゲニア

タナヒタ

様々な葉足動物(側系統群)

有爪動物カギムシ

緩歩動物クマムシ

節足動物

ハルキゲニアを独立した別系統とする系統仮説[13]

多くの葉足動物と同様、ハルキゲニアの汎節足動物における系統的位置は確実でない。その中でも、ハルキゲニアを一部の葉足動物と共に、有爪動物ステムグループ(絶滅した初期系統群)に位置し、基盤的な有爪動物とする説[2][7][6]が一般に知られている。特に H. sparsa の爪には、現生有爪動物であるカギムシと同じく、内側から一層ずつ積み重ねている構造が確認されており、これは有爪動物とハルキゲニアの類縁関係を示唆する証拠とも見なされる[7]。一方で、この特徴を両者の類縁関係を反映せず、単なる汎節足動物共有原始形質とし、ハルキゲニアを一部の葉足動物と共に、有爪動物から独立した別系統とする分岐学的見解もある[14][13]

ハルキゲニアは、一部の葉足動物と共にハルキゲニア科Hallucigeniidae)に分類される場合がある[13]

2018年現在、ハルキゲニア属 Hallucigenia として分類される葉足動物は次の3種が知られている[15]

  • Hallucigenia sparsa (Walcott, 1911)[9](旧称 Canadia sparsa Walcott, 1911[8]
本属のタイプ種バージェス頁岩バージェス動物群)から発見される。頭部は細長く、その直後にある触手状の葉足は3対。歩脚状の葉足は7対で、第1-5対に2本と、第6-7対に1本の爪をもつ。背側の棘はほぼ湾曲せず、同形で後述の2種より細長い。胴部の終端に尾状突起はない[6]。最大体長3cm[1]
  • Hallucigenia fortis Hou & Bergström, 1995[2]
Maotianshan Shales澄江動物群)から発見される。頭部は嚢状で、その直後にある触手状の葉足は2対。歩脚状の葉足は8対で、爪の有無は不明。背側の棘は H. sparsa に比べてやや短く、前後ほど強く湾曲する。胴部の終端には短い尾状突起がある[5]。最大体長1.72cm[2]
  • Hallucigenia hongmeia Steiner et al., 2012[3]
Wulongqing FormationGuanshan Biota)から発見される。頭部とその直後にある触手状の葉足は不明。歩脚状の葉足は8対で、確認されるものでは1本の長い爪をもつ。背側の棘は前述の2種より短く、前後ほど発達で、表面の顕微構造は途中の棘ほど小さく円筒状、後方の棘ほど大きく棘状に発達する。胴部の終端には短い尾状突起がある。最大体長1.2cm(不明の頭部を除く)[3]

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ a b c d e f Canada, Royal Ontario Museum and Parks (2011年6月10日). “The Burgess Shale” (英語). burgess-shale.rom.on.ca. 2021年2月16日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g Hou, Xianguang; Bergström, Jan (1995-05). “Cambrian lobopodians-ancestors of extant onychophorans?” (英語). Zoological Journal of the Linnean Society 114 (1): 3–19. doi:10.1111/j.1096-3642.1995.tb00110.x. https://academic.oup.com/zoolinnean/article-lookup/doi/10.1111/j.1096-3642.1995.tb00110.x. 
  3. ^ a b c d e f g h Steiner, M.; Hu, S.; Liu, J.; Keupp, H. (2012). “A new species of Hallucigenia from the Cambrian Stage 4 Wulongqing Formation of Yunnan (South China) and the structure of sclerites in lobopodians”. Bulletin of Geosciences 87: 107–124. doi:10.3140/bull.geosci.1280. 
  4. ^ 台灣海洋生態資訊學習網 > 依海生館 > 海洋生物 >”. study.nmmba.gov.tw. 2021年2月16日閲覧。
  5. ^ a b c d e Liu, Jianni; Dunlop, Jason A. (2014-03-15). “Cambrian lobopodians: A review of recent progress in our understanding of their morphology and evolution” (英語). Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 398: 4–15. doi:10.1016/j.palaeo.2013.06.008. ISSN 0031-0182. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S003101821300285X. 
  6. ^ a b c d e f g h Smith, Martin R.; Caron, Jean-Bernard (2015). Hallucigenia's head and the pharyngeal armature of early ecdysozoans”. Nature 523 (7558): 75–8. Bibcode2015Natur.523...75S. doi:10.1038/nature14573. PMID 26106857. https://www.repository.cam.ac.uk/bitstream/1810/248498/1/Smith%20and%20Caron%202015%20Nature.pdf. 
  7. ^ a b c d Smith, Martin R.; Ortega-Hernández, Javier (2014). Hallucigenia's onychophoran-like claws and the case for Tactopoda”. Nature 514 (7522): 363–366. Bibcode2014Natur.514..363S. doi:10.1038/nature13576. PMID 25132546. http://dro.dur.ac.uk/19108/1/19108.pdf. 
  8. ^ a b WALCOTT, C. 1911. Cambrian Geology and Paleontology II. Middle Cambrian annelids. Smithsonian Miscellaneous Collections, 57(5): 109-145.
  9. ^ a b c CONWAY MORRIS, S. 1977. A new metazoan from the Burgess Shale of British Columbia. Palaeontology, 20: 623-640.
  10. ^ Gould, Stephen Jay (1989) (English). Wonderful life: the Burgess Shale and the nature of history. ISBN 978-0-393-02705-1. OCLC 18983518. https://www.worldcat.org/title/wonderful-life-the-burgess-shale-and-the-nature-of-history/oclc/18983518 
  11. ^ a b c Ramsköld, Lars (April 1992). “The second leg row of Hallucigenia discovered”. Lethaia 25 (2): 221–4. doi:10.1111/j.1502-3931.1992.tb01389.x. 
  12. ^ カンブリア紀の珍生物「ハルキゲニア」、また復元図が書き換えられる 実は前後も逆だったITメディア、2015年6月26日、同年6月27日閲覧
  13. ^ a b c Siveter, Derek J.; Briggs, Derek E. G.; Siveter, David J.; Sutton, Mark D.; Legg, David (2018-08-01). “A three-dimensionally preserved lobopodian from the Herefordshire (Silurian) Lagerstätte, UK” (英語). Royal Society Open Science 5 (8): 172101. doi:10.1098/rsos.172101. ISSN 2054-5703. http://rsos.royalsocietypublishing.org/content/5/8/172101. 
  14. ^ Caron, Jean-Bernard; Aria, Cédric (2017-01-31). “Cambrian suspension-feeding lobopodians and the early radiation of panarthropods” (英語). BMC Evolutionary Biology 17 (1). doi:10.1186/s12862-016-0858-y. ISSN 1471-2148. PMC: PMC5282736. PMID 28137244. https://doi.org/10.1186/s12862-016-0858-y. 
  15. ^ Ou, Qiang; Mayer, Georg (2018-09-20). “A Cambrian unarmoured lobopodian, † Lenisambulatrix humboldti gen. et sp. nov., compared with new material of † Diania cactiformis” (英語). Scientific Reports 8 (1): 13667. doi:10.1038/s41598-018-31499-y. ISSN 2045-2322. PMC: PMC6147921. PMID 30237414. https://www.nature.com/articles/s41598-018-31499-y. 

参考文献[編集]

  • X.ホウ他著、鈴木寿志、伊勢戸徹訳、大野照文監訳、『澄江生物群化石図譜 -カンブリア紀の爆発的進化-』、(2008)、朝倉書店

関連項目[編集]

外部リンク[編集]