ハッド刑

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ハッド刑アラビア語: حدود[1])とは、イスラーム刑法においてクルアーンに刑罰の内容が明記された(と法学者により解釈されている)刑罰のことをさす。このため固定刑とも呼ばれる。

刑罰の内容が身体刑であることから「ハッド刑=手足の切断刑」と誤解されていることも多い。

内容[編集]

ハッド刑には以下のようなものがある。

  • クルアーン第5章第38節を根拠として「窃盗を行った者に対する指または腕の切断」
  • クルアーン第24章2節を根拠として婚外セックス(ジナ)を行った男女に対する鞭打ち
  • 飲酒者に対する鞭打ち
  • 既婚者の婚外セックスや同性愛、イスラームから他宗教への改宗者にたいする石打ちによる死刑

などを含む。そのため現代においてハッド刑を施行しているイランサウジアラビアなどいくつかの国は、国際社会から人権侵害として強い抗議を受けている。

ただし、クルアーン第五章第39節を根拠として自首した者への減刑措置なども定められている。 現在ではハッド刑の適用に厳格な規則が定められており、適用事例は極めて少数になっている。

ハッド刑が適用されるには以下の条件を満たしている必要がある。

  • 成人である。
  • 心神喪失状態ではない。
  • 強要された行為ではない。
  • 貧困などやむを得ない事情が無い。
  • 盗んだ物を返却、弁償することが出来ない。
  • 盗まれた物が私有財産であり、公共財産ではないこと。

イランでは法定刑罰として窃盗犯に対して初犯で4本の指の切断、二回目で左足の指の切断、三回目で終身刑、四回目で死刑が科されるとされると定められているが、 実際に執行された事例は稀で、実際の窃盗犯にはタージール刑として五年以下の懲役刑が科されている。

サウジアラビアでも同様の刑罰が法定刑罰として存続しているが、実際に腕の切断が実施されるのは年に数件であり、ほとんどの窃盗犯にはタージール刑として五年以下の懲役刑が科されている。 ただし、厳格なイスラム的な法適用を行うことを自国民にアピールする目的で過激な刑罰を行うと主張されることが多く、 欧米メディアで過剰に取り上げられることがある。2008年には海賊版ソフトなどの著作権侵害行為にもハッド刑が適用できるとするファトワーが出されたが、実際に刑罰が執行された事例は無い。

12イマーム派などではハッド刑が行えるのは12イマームが健在だった時代までであり、現在では行うべきでないとする意見が主流となっており、ハッド刑を否定する宗派も多い。

根拠[編集]

第五章第38節
盗みをした男も女も、報いとして両手を切断しなさい。これはかれらの行いに対する、アッラーの見せしめのための懲しめである。アッラーは偉力ならびなく英明であられる。
第五章第39節
だが悪事を行った後、罪を悔いてその行いを改める者には、アッラーは哀れみを垂れられる。アッラーは寛容にして慈悲深くあられる。
第24章2節
姦通した女と男は,それぞれ100回鞭打て。もしあなたがたが,アッラーと末日を信じるならば。アッラーの定めに基づき,両人に対し情に負けてはならない。そして一団の信者に,かれらの処刑に立会わせなさい。

脚注[編集]

  1. ^ アラビア語ラテン翻字: Ḥudūd

関連項目[編集]