ノースロップ・グラマン ファイアーバード

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ノースロップ・グラマン ファイアーバード

イギリス、フェアフォード空軍基地で駐機中のファイアーバード

イギリス、フェアフォード空軍基地で駐機中のファイアーバード

ノースロップ・グラマン ファイアーバード(Northrop Grumman Firebird)は、ノースロップ・グラマンが開発した無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle, UAV)。2011年5月9日に発表され、開発にはスケールド・コンポジッツ(旧ルータン航空機製作所)が関わっている[1][2]。スケールド・コンポジッツによるモデルナンバーは355である。

中高度・長時間滞空型無人航空機英語版(Medium Altitude Long Endurance Unmanned Aerial Vehicle, MALE UAV)市場への参入を企図して開発された機体で[3]、初飛行は2010年2月。機首にコックピットがあり、オプションで有人・無人選択可能機英語版(Optionally Piloted Vehicle, OPV)としても運用可能である[3][4][5]

設計と開発[編集]

ファイアーバードは、2011年4月に引退したアメリカ合衆国の著名な航空機設計家であるバート・ルータンによって設計・監修された最後の航空機の一つで、最高速度370 km/h(230 mph)、運用高度9,100 m(30,000 ft)、最長航続時間40時間で飛行するMALE UAVとなっており、機体は双胴機で、尾端にエンジンと5翅のプロペラ[注釈 1]を取り付けたプッシャー型配置をとり、プロペラを避けるために双テールブームを伸ばして門型に垂直尾翼水平尾翼が取り付けられている[1][3]

主翼は細長い[注釈 2]翼前縁に前進角を持つ[6]

機体は全幅19.8 m、全長10.3 m、全高3 m、最大離陸重量2,268 kg、積載量562 kgで[3][7][8]ライカミングTEO-540英語版水平対向6気筒ターボ付きレシプロエンジンを搭載する[3][8]

ファイアーバードはTEO-540エンジンの出力350馬力(260 kW)から制限が大きいものの、パイロンを介してハードポイントを設置して武装化することもできる設計となっている[3][9]

ファイアーバードの派生型として、翼幅を22.0 m から 24.1 mに延長して揚抗比をさらに増大させ、長距離・長時間継続飛行能力を向上させた機体が2018年3月に初飛行し、2019年初頭から販売される予定である[10]

偵察能力[編集]

ファイアバードは、モジュール構造の偵察用ペイロードを有しており、最大4基の情報収集機器を搭載でき、これらの機材は1時間程度で交換可能である[3][11]

ノースロップ・グラマンの幹部であり、開発プロジェクトに携わるリチャード・クルックスによれば、この設計思想によって新しい機器モジュールの導入・搭載に、「数年ではなく、数日または数週間の短い日数のみ要する」ことを意味する[11]

ファイアーバードにはこれまでに、FLIRシステムズ英語版電子光学/赤外線(Electro-Optics/Infrared, EO/IR)センサー、ノースロップ・グラマン製電子支援対策(Electronic Support Measures, ESM)装置や通信中継ポッド・スマートノード、ハリス英語版製広帯域通信用無線機(Highband Networking Radio, HNR)など15種類以上の機材が搭載されている[3]

運用履歴[編集]

航空機操縦士の有無にかかわらず飛行可能な航空機の開発という構想は、ノースロップ・グラマン内においてノースロップ側の代表的人物であるリチャード・クルックスが2009年2月9日に、実現の可能性についてスケールドコンポジッツに問い合わせたことがきっかけであった[11]。両者の目的が一致して開発されたファイアーバードは、2010年2月9日に初飛行した[11]。2010年10月、ファイアーバードはカリフォルニア州サクラメントで防衛当局者に対してデモ飛行を行った際に初公開され[8]、2011年5月9日に初めて一般公開、同年5月23日から6月3日の期間で開催されたエンパイア・チャレンジ11演習(Exercise Empire Challenge 11, EC11)に参加し、複数の機材の搭載および交換する能力を示した[8]

2012年11月11日、ファイアーバードは試験飛行を開始し、生産が承認された[12]

2019年7月にはイギリスグロスターシャー州所在のイギリス空軍フェアフォード空軍基地で開催される航空ショーロイヤル・インターナショナル・エアタトゥー英語版に参加し、ヨーロッパで初公開された[13]

ノースロップ・グラマンによれば、試作機の段階を超えて生産される予定の[注釈 3]初号機は運用上の準備ができていると考えられている[8]。なお、ファイアーバードの一般公開時に、2機目を生産するという初期の計画があった[8]ライン生産方式による大量生産が開始された場合、ファイアーバードの製造ラインは、カリフォルニア州モハーヴェ砂漠モハーヴェ空港に所在するスケールドコンポジッツの施設ではなく、カリフォルニア州パームデールまたはミシシッピ州モスポイントの工場に移転して生産する予定である[8]

アメリカ合衆国での就役[編集]

最初のファイアーバードは、2019年半ばまでに匿名(名前の公表されていない)のアメリカ合衆国連邦政府機関に引き渡される予定である[14]

運用者[編集]

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

仕様[編集]

出典: [1][3][16]

諸元

性能

  • 最大速度: 370 km/h (230 mph)
  • 運用高度: 9,100 m (30,000 ft)
  • 航続時間: 24時間 - 40時間

武装

お知らせ。 使用されている単位の解説はウィキプロジェクト 航空/物理単位をご覧ください。

脚注[編集]

  1. ^ 開発初期は3翅。
  2. ^ 翼弦比が大きく、高アスペクト比が非常にわずか。
  3. ^ 2020年7月現在では1機のみの予定。
  4. ^ 主翼下2か所のハードポイント外側に2箇所追加して4箇所とする予定あり。

出典[編集]

  1. ^ a b c Hennigan, W.J. (2011年5月9日). “Onboard pilot optional with Northrop's Firebird spy plane”. The Los Angeles Times. 2011年5月9日閲覧。
  2. ^ Robbins, Gary (2011年5月9日). “Northrop secretly develops spy plane in San Diego”. The San Diego Union-Tribune. 2011年5月9日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i イカロス出版 軍用ドローン年鑑 2016年 25頁 「ファイアバード」井上孝司
  4. ^ Butler, Amy (2011年5月9日). “Exclusive: Northrop Unveils Firebird MALE”. Aviation Week & Space Technology. 2011年5月9日閲覧。
  5. ^ Grady, Mary (2011年5月). “Scaled's Latest: Pilot-Optional Spyplane”. AvWeb. http://www.avweb.com/avwebflash/news/ScaledsLatest_PilotOptionalSpyplane_204625-1.html 2011年5月10日閲覧。 
  6. ^ Northrop Grumman unveils new intelligence aircraft that can be flown unmanned or by pilot”. The Washington Post (2011年5月9日). 2011年5月9日閲覧。
  7. ^ Firebird spy plane at a glance”. The Los Angeles Times (2011年5月9日). 2011年5月9日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g Butler, Amy (2011年5月6日). “Northrop Grumman Aims To Take On Predator”. Aviation Week & Space Technology. 2011年5月9日閲覧。[リンク切れ]
  9. ^ Rosenberg, Zach (2011年5月9日). “Northrop Grumman formally unveils Firebird”. Flightglobal.com. 2011年5月9日閲覧。
  10. ^ Steve Trimble (2018年12月14日). “Northrop Grumman Formally Unveils Firebird UAS”. Aviation Week & Space Technology. http://aviationweek.com/defense/northrop-grumman-formally-unveils-firebird-uas 
  11. ^ a b c d Famed Spaceship Maker Gives Spy Drones a Try”. Wired Magazine (2011年5月9日). 2011年5月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年5月11日閲覧。
  12. ^ Norris, Guy (2019年7月17日). “Firebird Wins Northrop Grumman Production Go-Ahead”. Aviation Week. 2012年11月22日閲覧。
  13. ^ Firebird to appear in Europe for first time at RIAT 2019.”. Aerotech News and Review (2012年11月19日). 2019年7月18日閲覧。
  14. ^ a b Avalon 2019: Optionally manned Firebird set to enter service”. Jane's 360 (2019年2月28日). 2019年3月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月1日閲覧。
  15. ^ a b Hoyle, Craig (2019年7月21日). “RIAT: Firebird makes European debut as Northrop names buyers”. Flightglobal. 2019年7月21日閲覧。
  16. ^ Butler, Amy (2011年5月6日). “Exclusive: Northrop Grumman's Firebird”. Aviation Week & Space Technology. 2010年3月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年12月21日閲覧。


関連項目[編集]