ネズパース語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
ネズパース語
Niimiipuutímt
話される国 アメリカ合衆国
創案時期 2007
地域 アイダホ州
民族 ネズ・パース610人 (2000年国勢調査)[1]
話者数 20人(2007年)[2]
言語系統
言語コード
ISO 639-3 nez
Glottolog nezp1238[3]
テンプレートを表示

ネズパース語(Nez Perce, Nez Percé)は、別名ニミプーティムト(Nimipuutímt)とも呼ばれる、サハプティン語英語版(Sahaptin)のいくつかの方言に関連したサハプティアン語族英語版(Sahaptian)の言語である(-ian 対 -inの綴りの違いに注意)。ネズパース語はフランス語のnez percé(ネ・ペルセ、穴の開いた鼻)に由来するが、「人々」を意味するNimiipuu(ニミープー)と名乗るネズ・パースは鼻に穴を開けていなかった[4]。この誤称英語版は、ネズパースと、鼻に穴を開けた周囲の部族をフランス人が混同した結果生じたものと思われる。

サハプティアン語族は、誤称英語版の枝分かれの1つである(高原ペヌーティ語族は、より大きなペヌーティ語族に関連している可能性がある)。アメリカ北西部ネズ・パースの人々によって話されている。

ネズパース語は非常に危険にさらされている言語である。流暢な話者の正確な人数は情報源によって異なるが、ほぼ間違いなく100人未満である。ネズパースは、言語復興英語版プログラムを通じてこの言語を母語としての使用に再導入するよう努めているが、(2015年現在)ネズパース語の将来は安心できない[5]

ネズパース語の文法は、2つの学位論文(Rude 1985; Crook 1999)とともに、文法書(Aoki 1973)や辞書(Aoki 1994)で記述されている。

音韻[編集]

高原ペヌーティ語族の接触前の分布

ネズパース語の音韻論には、母音調和Noam ChomskyMorris Halleの『生成音韻論概説英語版』で言及されている)、およびCrook(1999)によって記述された複雑な強勢体系が含まれる。

子音[編集]

ネズパース語の子音音素[6]
両唇 歯茎 硬口蓋 軟口蓋 口蓋垂 声門
中央 側面 プレーン 唇音化 プレーン 唇音化
破裂音 プレーン p t k q ʔ
放出音 kʼʷ qʼʷ
摩擦音 プレーン s ɬ ʃ x χ h
破擦音 ts tɬʼ
声門化音英語版 tsʼ
共鳴音 プレーン m n l j w
声門化音

kʼʷqʼʷʃ音はダウンリバー方言のみで表れる[6]

母音[編集]

ネズパース語の母音音素[6]
前舌 中舌 後舌
i u
中央 o
æ æː a

強勢がある母音はアキュートアクセントを付けて示される(á、é、í、ó、ú)。

文法[編集]

ネズパースの酋長ら

他の多くのアメリカ先住民諸語のように、ネズパース語の動詞は英語の文全体に相当する意味を表すことができる。このように、1つので大量の情報を提供する方法は、多総合と呼ばれる。動詞の接辞は、主語目的語人称時制に関する情報(例えば、動作が完了したかどうか)を提供する。

語: ʔaw̓líwaaʔinpqawtaca
形態素: ʔew - ʔilíw - wee - ʔinipí - qaw - tée - ce
グロス: 1/2-3OBJ - fire - fly - grab - straight.through - go.away - IMPERF.PRES.SG
訳: 'I go to scoop him up in the fire'   (Cash Cash 2004:24)
語: hitw̓alapáyna
形態素: hi - tiw̓ele - pááy - e
グロス: 3SUBJ - in.rain - come - PAST
訳: 'He arrived in the rain'   (Aoki 1979)

[編集]

ネズパース語では、1つの文に主語と目的語がある場合には、それぞれの文法的な格、つまり語の機能を、接辞で標示できる(英語に例えるとhe対him対his)。ネズパース語は、3通りの格標示戦略を採用している。他動詞の主語、他動詞の目的語、自動詞の主語は、それぞれ異なる標示をしている。したがって、ネズパース語は非常に稀な形式の三立型言語英語版の例である(アラインメント参照)。

このように格標示するため、語順はかなり自由である。特定の語順では、主語と目的語を標示しないが、旧情報(主題英語版)に対して何が新情報(焦点)かを聞き手に伝える(英語では語順は主語-動詞-目的語に固定されている)。

ネズパース語の名詞は、動詞の他動性との関係に基づいて標示される。他動詞文の主語には、能格接尾辞 -nim が付き、他動詞文の目的語には対格接尾辞 -ne が付き、自動詞文の主語には接尾辞が付かない。例えば、次のようになる。

能格接尾辞 -nimᶍáᶍaas-nim hitwekǘxcegrizzly-ergative he.is.chasing「グリズリーが私を追いかけている」対格接尾辞 -ne(ここでは母音調和の影響を受けた結果、表層形の -naで現れる)ʔóykalo-m titóoqan-m páaqaʔancix ᶍáᶍaas-naall-ergative people-ergative they.respect.him grizzly-accusative「すべての人がグリズリーを尊重する」自動詞の主語ᶍáᶍaac hiwéhyemgrizzly has.come「グリズリーが来た」(Mithun 1999)

この格標示体系により、ネズパース語では柔軟な語順が可能になる。

動詞-主語-目的語の語順 kii pée-ten’we-m-e qíiw-ne ’ iceyéeye-nmthis 3→3-talk-csl-past old.man-obj coyote-erg
「コヨーテは老人と話した」
主語-動詞-目的語の語順
Kaa háatya-nm páa-’nahna-m-a ’iceyéeye-neand wind-erg 3→3-carry-csl-past coyote- obj
「そして風がコヨーテを運んだ」
主語-目的語-動詞の語順
Kawó’ kii háama-pim ’áayato-na pée-’nehnen-ethen this husband-erg woman-obj 3→3-take.away- past
「今、夫が女性を連れ去った」(Rude 1992)。

参照資料[編集]

  1. ^ Lewis, M. Paul; Simons, Gary F.; Fennig, Charles D., eds. (2015). "ネズパース語". Ethnologue: Languages of the World (18th ed.). Dallas, Texas: SIL International.
  2. ^ UNESCO Atlas of the World's Languages in danger” (英語). www.unesco.org. 2018年5月17日閲覧。
  3. ^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Nez Perce”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/nezp1238 
  4. ^ Facts for Kids: Nez Perce Indians (Nez Perces)”. www.bigorrin.org. 2017年2月9日閲覧。
  5. ^ Nimi'ipuu Language Teaching and Family Learning”. NILI Projects. 2017年8月10日閲覧。
  6. ^ a b c Haruo, Aoki (1994). Nez Perce Dictionary. ISBN 9780520097636. https://books.google.com/?id=Z3X0q28uB7cC&printsec=frontcover&dq=nez+perce+dictionary#v=onepage&q&f=false 

関連文献[編集]

母音調和[編集]

  • Aoki, Haruo (1966). “Nez Perce vowel harmony and proto-Sahaptian vowels”. Language 42 (4): 759–767. doi:10.2307/411831. JSTOR 411831. 
  • Aoki, Haruo (1968). “Toward a typology of vowel harmony”. International Journal of American Linguistics 34 (2): 142–145. doi:10.1086/465006. 
  • Chomsky, Noam; & Halle, Morris. (1968). Sound pattern of English (pp. 377–378). Studies in language. New York: Harper & Row.
  • Hall, Beatrice L.; & Hall, R. M. R. (1980). Nez Perce vowel harmony: An Africanist explanation and some theoretical consequences. In R. M. Vago (Ed.), Issues in vowel harmony (pp. 201–236). Amsterdam: John Benjamins.
  • Jacobsen, William (1968). “On the prehistory of Nez Perce vowel harmony”. Language 44 (4): 819–829. doi:10.2307/411901. JSTOR 411901. 
  • Kim, Chin (1978). 'Diagonal' vowel harmony?: Some implications for historical phonology. In J. Fisiak (Ed.), Recent developments in historical
  • Lightner, Theodore (1965). “On the description of vowel and consonant harmony”. Word 21 (2): 244–250. doi:10.1080/00437956.1965.11435427. 
  • Rigsby, Bruce (1965). “Continuity and change in Sahaptian vowel systems”. International Journal of American Linguistics 31 (4): 306–311. doi:10.1086/464860. 
  • Rigsby, Bruce; Silverstein, Michael (1969). “Nez Perce vowels and proto-Sahaptian vowel harmony”. Language 45 (1): 45–59. doi:10.2307/411752. JSTOR 411752. 
  • Zimmer, Karl (1967). “A note on vowel harmony”. International Journal of American Linguistics 33 (2): 166–171. doi:10.1086/464954. 
  • Zwicky, Arnold (1971). “More on Nez Perce: On alternative analyses”. International Journal of American Linguistics 37 (2): 122–126. doi:10.1086/465146. 

語学教材[編集]

辞書と語彙集[編集]

文法書[編集]

テキストとコース[編集]

外部リンク[編集]