ニホンアナグマ

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ニホンアナグマ
Meles meles anakuma at Inokashira Park Zoo.jpg
ニホンアナグマ (Meles meles anakuma)
井の頭自然文化園本園
(2009年6月20日)
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 LC.svg
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: ネコ目 Carnivora
: イタチ科 Mustelidae
亜科 : アナグマ亜科 Melinae
: アナグマ属 Meles
Boddaert, 1785
: アナグマ M. meles
亜種 : ニホンアナグマ
M. m. anakuma
学名
Meles meles anakuma
Temminck, 1844
和名
ニホンアナグマ
英名
Japanese Badger
Japanese Badger area.png
ニホンアナグマの分布域
Top View(井の頭自然文化園本園、2009年6月20日)
座姿(井の頭自然文化園本園、2009年6月20日)

ニホンアナグマ(日本穴熊、学名:Meles meles anakuma)は、ネコ目イタチ科アナグマ属に属するアナグマの日本産亜種。独立種とする説もある。

日本本州四国九州地域の里山に棲息する。11月下旬から4月中旬まで冬眠するが、地域によっては冬眠しないこともある。 体長は40 - 50 cm。尾長6 - 12 cm(地域や個体差により、かなり異なる)。体重4 - 12 kg。前肢後肢ともに5本あり、親指はほかの4本の指から離れていて、は鋭い。体型はずんぐりしている。 食性タヌキとほとんど同じであるが[2]、木の根やミミズなども掘り出して食べる。 巣穴は自分で掘る。 ため糞[3]をする習性があるが、タヌキのような大規模なものではなく、規模は小さい。 本種は擬死(狸寝入り)をし、薄目を開けて動かずにいる。

生態[編集]

1年の生活[編集]

1日の平均気温が10℃を超える頃になると冬眠から目覚める。春から夏にかけては子育ての時期であり、夏になると子どもを巣穴の外に出すようになる。秋になると子どもは親と同じくらいの大きさまで成長し、冬眠に備えて食欲が増進し、体重が増加する。秋は子別れの時期でもある。冬季は約5ヶ月間冬眠するが、睡眠は浅い。

メスの子ども(娘)との同居[編集]

秋は子別れの時期であるが、母親はメスの子ども(娘)を1頭だけ残して一緒に生活し、翌年に子どもを出産したときに娘に出産した子どもの世話をさせることがある。娘は母親が出産した子どもの世話をするだけでなく、母親用の食物を用意することもある。これらの行為は娘が出産して母親になったときのための子育ての訓練になっていると考えられる。

巣穴(セット)[編集]

巣穴は地下で複雑につながっており、出入口が複数あり、出入口は掘られた土で盛り上がっている。 巣穴の規模が大きいため巣穴全体をセットと呼び、セットの出入口は多いものでは50個を超えると推測される。 セットは1頭の個体のみによって作られたのではなく、その家族により何世代にもわたって作られている。春先になると新しい出入口の穴が数個増え、セット全体の出入口が増えていく。 巣穴の出入口の形態は、横に広がる楕円形をしていて、出入口は倒木や樹木の根、草むらなどで隠されている。 巣穴の掘削方法は、穴の中から前足で土を押し出し、押し出したあとにはアクセストレンチと呼ばれる溝ができる。 セットには崖の途中などに突然開いている裏口のような穴が存在することもある。

巣材[編集]

巣材として草を根から引き抜いて使用していると推測される。 巣材が大雨などで濡れると、昼に穴の外に出して乾燥させて夜に穴に戻す、という話もある。

擬死の利点[編集]

(本節は 西野(2009)を参考文献とする)

脊椎動物擬死(thanatosis)は、動物催眠(animal hypnosis)、または、持続性不動状態(tonic immobility)と呼ばれることもあるが、この節では「擬死」という語句を使用して説明する。

擬死の機構

動物は自らの意志で擬死(死にまね。death feigning, playing possum)をするのではなく、擬死は刺激に対する反射行動である。哺乳類では、タヌキニホンアナグマリスモルモットオポッサムなどが擬死をする。 擬死を引き起こす条件や擬死中の姿勢、擬死の持続時間は動物によって様々である。

イワン・パブロフは脊椎動物の擬死の機構を次のように説明している。

「不自然な姿勢におかれた動物がもとの姿勢に戻ろうとしたときに抵抗にあい、その抵抗に打ち勝つことができない場合にはニューロンの過剰興奮を静めるための超限制止がかかってくる」(イワン・パブロフ)

擬死を引き起こす刺激

拘束刺激は擬死を引き起こす刺激の一つである。カエルハトなどは強制的に仰向けの姿勢をしばらく保持すると不動状態になる。また、オポッサムコヨーテに捕獲されると身体を丸めた姿勢になって擬死をする。

擬死の利点

本種が擬死を行うことによる利点として、身体の損傷の防止と捕食者からの逃避が考えられる。擬死は捕食者に捕えられたときなどに起こる。捕食者から逃げられそうにない状況下で無理に暴れると疲労するだけでなく、身体を損傷する危険がある。捕食者は被食者[註 1]が急に動かなくなると力を緩める傾向がある。このような時に捕食者から逃避できる可能性が生まれる。この機会を活かすためには身体の損傷を防ぐ必要がある。

擬死の特徴

擬死中の動物は、ある姿勢を保持したまま不動になる。その姿勢は動物により様々である。ただ、不動状態のときの姿勢は普段の姿勢とは異なる不自然な姿勢である。 動物は外力によって姿勢を変えられると、すぐに元の姿勢を維持しようして動作する。この動作を抵抗反射(resistance reflex)という。しかし、擬死の状態では抵抗反射の機能が急に低下して、不自然な姿勢がそのまま持続する。このような現象をカタレプシー(catalepsy)という。カタレプシーは擬死中の動物すべてにあてはまる特徴である。 擬死の持続時間は、甲虫類以外は数分から数十分で、擬死からの覚醒は突然起こる。擬死中の動物に対して機械的な刺激(棒で突つくなど)を与えると覚醒する(甲虫類は逆に擬死が長期化する)。 擬死中は呼吸数が低下し、また、様々な刺激に対する反応も低下する。 擬死中の動物の筋肉は通常の静止状態の筋肉と比較してその固さに違いがあり、筋肉が硬直している。そのため、同じ姿勢を長時間維持することが可能となる。

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  1. ^ 他の生物に捕食される生物のこと --『広辞苑』より。

本節の参考文献


文化[編集]

『かちかち山』のタヌキ
昔話の『かちかち山』は、タヌキが老婆を「婆汁」にして食べてしまう物語である。かつての日本では死者の埋葬方法として土葬が一般的に行われており、本種が墓を掘り返して食べていた、という話が残っている。そのため、『かちかち山』のタヌキは本種だったのではないか、という説もある。
同じ穴の貉[4]
タヌキと本種は混同されることがある(例えばたぬき・むじな事件)が、その理由の一つとして、同じ巣穴に住んでいる、ということがあるのではないかと推察される。本種は大規模な巣穴を全部使用しているのではなく、使用していない部分をタヌキが使用することもある。
昔の猟師は本種の巣穴の出入口を1ヶ所だけ開けておき、残りのすべての出入口をふさぎ、煙で燻して本種が外に出てくるところを待ち伏せして銃で狩猟した。そのときに本種の巣穴の一部を利用していたタヌキも出てきたことも考えられ、このことがタヌキと本種を混同する原因の一つになったと思われる。

脚注[編集]

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  1. ^ IUCN Red List of Threatened Species. 2013.1 (Meles anakuma)” (英語). IUCN. 2013年9月2日閲覧。
  2. ^ タヌキの主な食物は、ネズミ農作物穀物カエルヘビ果実木の実昆虫サワガニ、ゴミ捨て場の残飯、など --「おもな食べもの」『タヌキを調べよう』(p5)より。
  3. ^ タヌキは数頭で一緒に糞をする場所を持っており、そこに糞をためる。これをため糞という。ため糞の山は大きなものでは直径1 m、高さ10 cmになるが、夏は昆虫がタヌキの糞を食べるため、それほど大きくはならない --「手がかり5 フン」『タヌキを調べよう』(p16)より。
  4. ^ 読みは「おなじあなのむじな」。意味は「一見別に見えて、実は同類であること」--『広辞苑』より。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]