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ナヌチュカ型コルベット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナヌチュカ型コルベット
1234型小型ミサイル艦
基本情報
艦種 ミサイルコルベット[1]
建造所 ソビエト連邦の旗 ソビエト連邦
就役期間 1967年-現在
同型艦 37隻(I・III・IV型)[2]
要目
排水量 基準569トン
満載730トン[2]
全長 59.3メートル (195 ft)[1][2]
最大幅 12.6メートル (41 ft)[1]または11.8ノット[2]
吃水 2.4メートル (7.9 ft)[1]
主機 M-507A ディーゼルエンジン×3基[1]
推進 スクリュープロペラ×3軸[1]
出力 30,000馬力[1]
速力 32ノット (59 km/h)[1]または34ノット[2]
航続距離 2,500海里(12ノット巡航時)[1]
900海里(30ノット航行時)[1]
乗員 約60名[1]
兵装 AK-725 57mm連装速射砲×1基(I型・II型)[1]
AK-176 76mm単装速射砲×1基(III・IV型)[1]
AK-176MA 76mm単装速射砲×1基(III型「スメルチ」)[3]
AK-630M 30mm6連装機関砲×1基(III・IV型)[1]
4K33 オサーM短SAM連装発射機×1基
P-120 マラヒート SSM 3連装発射筒×2基(I・III型)[2][1]
P-15 SSM 単装発射筒×4基(II型)
P-15 SSM 4単装発射筒×4基(III型「スメルチ」)
P-800 オーニキス SSM 6単装発射筒×4基(IV型)
レーダー 「ポップ・グループ」ミサイル管制(I型)[1]
「ピール・ペア」対空捜索用[1]
「マフ・コブ」砲射撃指揮用(I・II型)[1]
MR-123「バス・ティルト」砲射撃指揮用(III型)[1]
2R33「ポップ・グループ」短SAM射撃指揮用[1]
チタニート「バンド・スタンド」 SSM射撃指揮用
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ナヌチュカ型[1]コルベット[注 1]英語: Nanuchka class corvette)は、ソビエト/ロシア海軍ミサイルコルベット艦対艦ミサイルを主兵装とする世界初のコルベットとして知られている。なお、ナヌチュカ型という名称はNATOコードネームであり、ソ連海軍の計画名は1234号計画型小型ミサイル艦「オーガド」Малые ракетные корабли проекта 1234≪Овод≫、「Овод」はヒツジバエの意)である。

開発

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1950年代より、ソ連海軍の水上艦艇は、侵入してくる西側諸国の海洋兵力を近海において要撃することを任務としてきた。この任務にあたり、ソ連海軍は沿岸警備を任務とする「大型魚雷艇」を更新する新艦種として「大型ミサイル艇」を開発した。これは、小型の艇体に艦対艦ミサイルを搭載し、高速力と強力な打撃力とで以って沿岸部に接近した敵輸送艦揚陸艦撃破する哨戒艦艇であった。大型ミサイル艇は、P-6型魚雷艇の艇体を流用した最初のコマール型ミサイル艇のあと、より本格的なオーサ型ミサイル艇が計画され、1960年代初頭にかけて、多数の大型ミサイル艇が建造された。

しかし、これらの大型ミサイル艇は多くても4門の短射程艦対艦ミサイル発射機しか搭載せず、また、防空火力機関砲のみという比較的貧弱なものであった。このことから、大型ミサイル艇の上位艦種として、より強力な対水上火力・防空火力を備えた沿岸警備艦艇として構想されたのが、小型ミサイル艦Малый ракетный Корабль, 略称:МРК)であり、その最初の実用艦級として開発されたのが本型である。

設計

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本型は、沿岸警備艦艇としては初めて、個艦防空ミサイル・システムと長射程の艦対艦ミサイルを搭載することで、防空火力および対水上火力を大幅に増強した重武装の勘となった。ソ連海軍は、対水上火力として長射程と短射程の2種の対艦ミサイルを整備する方針を採用しており、従来の沿岸警備艦艇はいずれも第1世代の短射程艦対艦ミサイルであるP-15 テルミート(NATOコードネーム:SS-N-2 スティックス)しか搭載していなかった。しかし、第2世代の長射程対艦ミサイルであるP-120 マラヒート(NATOコードネーム:SS-N-9 サイレン)は、前任のP-15よりも大幅に軽量化されており、小型艦への搭載が可能となったほか、射程も大幅に延長された。ソ連海軍に配備されたナヌチュカI・III型は、このミサイルの3連装発射筒を2基、上部構造物の両側に配置することで、従来のミサイル艇を大きく上回る対水上火力を獲得した。輸出型のナヌチュカII型は、ミサイルをP-15 テルミートにダウングレードして単装発射機を4基搭載し、艦橋上の「バンド・スタンド」管制レーダーを「スクエア・タイ」レーダーに換装した[1]1990年代にIII型のナカトロシア語版」は開発中のP-800 オーニキス(SS-N-26)の6連装発射機2基に換装したほか、2010年代後半にはIII型の1番艦である「スメルチ」がより軽量かつ長射程の3M24 ウラン(NATOコードネーム:SS-N-25 スイッチブレード)の4連装発射機4基に換装した[3]

本型は対艦ミサイルと共に、艦対空ミサイル艦砲を搭載することで、高い対空防御能力を得た[1]。艦首側に4K33 オサーM(NATOコードネーム:SA-N-4 ゲッコー)短SAMの連装発射機を1基を搭載し、艦橋上部の2R33「ポップ・グループ」短SAM射撃指揮用レーダーで管制する[1]。対空砲として、ナヌチュカI・II型はAK-725 57mm連装速射砲×1基を艦尾に搭載した。ナヌチュカIII型ではAK-176 76mm単装速射砲とAK-630M 30mm6連装機関砲各1基に換装された[1][2]。「スメルチ」のみ、AK-175をAK-175MAに換装したほか、主機のディーゼルエンジンも換装したとされる[3]

運用

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炎上するリビア海軍のナヌチュカII型「アイン・ザクィート」(1986年3月24日)
アルジェリア海軍のナヌチュカII型「レイズ・アリ」

ナヌチュカ型のうち、I型の17隻とIII型の21隻はソビエト連邦海軍(ソ連海軍、後にロシア海軍)に配備した。ナヌチュカI型の最終艦「ムッソンロシア語版」は、演習中の1987年4月16日、ミサイル艇「R-42」が発射したRM-15M標的ミサイルが命中しアスコリド島ロシア語版の南33海里、北緯42度11分 東経132度27分 / 北緯42.183度 東経132.450度 / 42.183; 132.450、水深2,900mの海域に沈没した。この事故で艦長以下39人が死亡し、水温4℃の海に飛び込んだ37人が生存した。ソ連崩壊後は徐々に退役し、2022年時点で、ナヌチュカIII・IV型が北方艦隊に2隻、バルチック艦隊に3隻、太平洋艦隊に4隻の計9隻が就役している[2]

冷戦時代にはナヌチュカII型が輸出されており、インド海軍ドゥルグ級コルベット、3隻)やアルジェリア海軍英語版(3隻)、リビア海軍英語版(4隻)に配備された。

実戦

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1986年3月24日アメリカ海軍の空母機動部隊がリビア沿岸の軍事基地を攻撃したプライヤ・ファイア作戦英語版では、空母「サラトガ」の攻撃部隊がリビア海軍のナヌチュカII型「アイン・アル・ガザーラ(Ain Al Gazala)」と「アイン・ザクィート(Ain Zaquit)」を攻撃し、前者は撃沈、後者も大破して退役に追い込まれた。

2008年8月9日から10日にかけて、南オセチア紛争中に発生したアブハジア沖海戦にて、Ⅲ型の「ミラーシュ」がグルジア海軍哨戒艇「ゲオルギー・トレリ」に向けてマラヒート艦対艦ミサイルを発射、これを撃沈している。これは冷戦後のロシア海軍初の海戦における戦果であり、第四次中東戦争ダミエッタ沖海戦以来のミサイル艇が艦対艦ミサイルによって敵艦艇を撃沈した事例となった。

リビア海軍に残った2隻のナヌチュカII型は、「アイン・ザーラ(Ain Zaara)」は2011年リビア内戦に介入した多国籍軍により5月19日に破壊され、最後まで残った「タリク・イブン・ジラート(Tariq Ibn Ziyad)」もリビア人民軍鹵獲した後、リビア海軍に編入されたが、2014年11月3日にベンガジでリビア政府軍とイスラム過激派勢力との戦闘中に破壊された。

派生型

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ナヌチュカI型(1234号計画艦)
原型艦。ソ連海軍向けに17隻が建造されたが、1991年から2005年までに退役し運用を終了した。
ナヌチュカII型(1234E号計画艦)
輸出版。対艦ミサイルが短射程のP-15 テルミートにダウングレードされた。10隻が建造され、アルジェリア海軍の3隻が運用中。
ナヌチュカIII型(1234.1号計画艦)
I型をもとにした改良型。主砲を新しい両用砲であるAK-176に変更し、AK-630 30mm CIWS×1基を搭載することで近接防空力を強化している。18隻が建造され、2022年時点で8隻がロシア海軍において運用中[2]
ナヌチュカIV型(1234.7号計画艦)
III型の「ナカト」を改装した実験で、艦対艦ミサイルを新しいP-800 オーニクスに換装した。ロシア海軍において、1隻が運用中。

脚注

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注釈

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  1. ^ 統合幕僚監部ナヌチカ級ミサイル護衛哨戒艇と表記している[4]

出典

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関連項目

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参考文献

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