ナショナル・ミニマム
ナショナル・ミニマム(national minimum)とは、国家(政府)が国民に対して保障すべき最低限度の生活水準のことである。
社会保障制度の根幹を基礎づける概念の一つであり、それぞれの国や社会に対応した「最低限度の生活水準」がある[1]。日本においては、日本国憲法第25条における生存権保障の規定が、ナショナルミニマム概念を示す規範的概念として提示されている[2]。
イギリス
[編集]ナショナルミニマムという概念は、イギリスのウェッブ夫妻が、著書『産業民主制論』(1897年)においてはじめて提唱した。ウェッブは同書において、「労働者に、生産者や市民と同等の、必要な生活水準を保証する」という意味で「ナショナルミニマム」の語を使用し、その具体的内容は「最低賃金」,「労働時間の上限」,「衛生・安全基準」,「義務教育」の4項目からなるとした。生存権概念の先駆としても重要であるが,もともとは貧困者への人的資本投資による経済成長政策であり,19世紀末のイギリス経済衰退への処方箋でもあった。同概念は,イギリスのケンブリッジ学派のA.C.ピグーによる『厚生経済学』(1920年)最終章にも継承された。
イギリスの経済学者ライオネル・ロビンズは、第二次世界大戦中の1940年に内閣経済部に配属され、戦時経済、食糧供給、雇用の安定などの政策を立案するなか、国民最低限保障(ナショナル・ミニマム)の必要性を主張した[3]。その後、1942年のベヴァリッジ報告書ではナショナル・ミニマムを達成するため、ミーンズテストに基づく公的扶助制度および社会保険を設けるとした[4]。
日本
[編集]日本の場合、根拠として日本国憲法第25条がある。これを保障するための社会政策は、生活保護法など数々あるが、それらを総称して「セーフティネット(安全網)」と呼ぶ場合がある。 なお、国家として保障するものを「ナショナル・ミニマム」というが、地方自治体単位での最低限度の生活水準(生活環境水準)については「シビル・ミニマム(civil minimum)」という。ただし、これは「和製英語」である。
脚注
[編集]- ^ 杉村,岡部,布川 2008, p. 26.
- ^ 杉村,岡部,布川 2008, p. 27.
- ^ ロビンズ 2016, p. 176,179.
- ^ 平岡公一『社会福祉学』有斐閣、2011年12月、113-119頁。ISBN 9784641053762。
参考文献
[編集]- ロビンズ, ライオネル 小峯敦・大槻忠史 訳 (2016), 経済学の本質と意義 (原著1932), 京都大学学術出版会
- 杉村宏, 岡部卓, 布川日佐史 編 (2008), よくわかる公的扶助 低所得者支援と生活保護制度, ミネルヴァ書房