ドルフィン級潜水艦

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ドルフィン級潜水艦
INS Tanin (1).jpg
艦級概観
艦種 通常動力型潜水艦
建造期間
就役期間 1999年 - 就役中
前級 ガル級潜水艦
次級 最新(次級潜水艦計画中)
性能諸元
排水量 基準:1,640t(ドルフィン1級)
2,050t(ドルフィン2級)[1]
水中:1,900t(ドルフィン1級)
2,400t(ドルフィン2級)[1]
全長 57.3m(ドルフィン1級)
68.6m(ドルフィン2級)[1]
全幅 6.8m
全高 12.7m
吃水 6.2m
機関 ディーゼル・エレクトリック方式
ドルフィン1級:3,875shp、ドルフィン2級:4,243shp
ディーゼルエンジン 3基
水中電動機 1基
スクリュープロペラ 1軸
速力 シュノーケル:11kt(ドルフィン1級)
水中:20kt(ドルフィン1級)、25kt以上(ドルフィン2級)[1]
潜行深度 350m(推定)
航続距離 8,000海里(水上8kt)
無補給
航海限度
30日以上
乗員 35名(うち士官6名)、同乗者10名
兵装 533mm魚雷発射管
魚雷
サブ・ハープーン USM
合計: 16発
• 魚雷管発射型機雷
(上記兵器と交換に搭載可能)
6基
650mm魚雷発射管
巡航ミサイル 4発(推定)
4基

ドルフィン級潜水艦は、イスラエル国防軍の運用する通常動力型潜水艦である。 2000年までに就役したドルフィン1級と、2010年代から配備が始まったドルフィン2級が含まれ、イスラエル国防軍で最も高価な装備と言われている[2]

開発[編集]

ドルフィン1級[編集]

イスラエルは従来から沿岸防衛のため少数の潜水艦を運用していた。80年代後半から、新型潜水艦の導入計画が持ち上がり、ドイツでの建造が一時は決定した。しかし、その費用はあまりに高価と判断され、キャンセルされた。

再度イスラエルがドルフィン級の取得に向けて動き出したのは、湾岸戦争による。この戦争で2つの変化が起こった。
1つは、戦争においてサッダーム・フセインがイスラエルに数十発のスカッドミサイルを撃ち放ったことである[3][4]アメリカ合衆国の強い圧力により、イスラエルは反撃を断念したが、化学兵器の搭載が懸念されていたミサイル攻撃を実際に受けたことは、イスラエルに、国土が大量破壊兵器による先制攻撃を受けても影響を受けずに報復攻撃可能な潜水艦の価値を改めて認識させた。
もう1つは、戦後、イラクの化学兵器開発やミサイル技術開発にドイツの企業が協力していたことが明らかになったことであり、1987年に当時の西ドイツがミサイル技術管理レジームに参加していたにも関わらず税関での検査が適切になされていなかったことまで判明した[5]。これによってドイツは強い非難を受けた。特に化学兵器搭載ミサイルを使用されるかもしれなかったイスラエルの要求は厳しく[6]、当時のドイツ首相ヘルムート・コールが潜水艦建造についてイスラエルにかなりの協力を申し出ることになった[7][8]。イスラエルはより有利な立場で潜水艦を購入することができるようになったのである。実際に、ドイツ政府は最初の2隻の建造資金を全額、3隻目についても半額、それぞれ負担している。これはミサイルによる被害の補償という意味合いの他、冷戦集結に伴い艦船受注が低迷していたドイツ造船業界の救済という側面もあった[9][10]

ドルフィン2級[編集]

2006年、イスラエルはホヴァルツヴェルケ=ドイツ造船との間で2隻を追加調達する契約を締結した[7]。この2隻はドルフィン1級に対して排水量で28%大きく、212A型潜水艦と同型のAIP機関を搭載することとされた[7]。2006年7月6日、ドイツ政府は2012年の引き渡しに向けた建造促進費用として1億7千万ユーロの融資を行うことを決定した[11]。建造費は2隻で13億ユーロとされ、その1/3をドイツが負担した[6]。2010年には6隻目の追加発注の可能性に関する協議が持たれているという報道がされたが、イスラエルおよびドイツの双方ともこれを否定した[12]。しかし、2011年にイスラエルは6隻目を発注し、その建造費10億ドルは自己資金で賄うと報道された[13]。2011年7月にはドイツのトーマス・デメジエール国防相とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相およびエフード・バラック国防相の会合で、6隻目の建造費5-7億ユーロのうち、1億35百万ユーロをドイツが負担することが合意された[14][15]

2016年にはラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズが開発した新型ソナーをドルフィン級全艦に取り付ける作業が2年前から行われていることが明らかにされた。このソナーは、ノイズの影響の大部分を排除できるアルゴリズムにより、従来よりも低ノイズの艦船や遠方にある艦船を探知することができる[16]

2016年末には、さらに3隻を追加購入する交渉が行われていると報じられた[17]。在任中、追加購入に反対していた前国防相モーシェ・ヤアロンは アヴィチャイ・マンデルブリット司法長官に対して、以前ティッセンクルップのイスラエル代理人であるミキ・ガノアの事務所で働き、現在はネタニヤフ首相の個人弁護士であるダヴィド・シムロンを含めて交渉過程を調査すべきであると要請した[18][19][19]。 2016年11月23日にマンデルブリット司法長官は検察官に調査を指示することを決定した[20]

2017年10月、イスラエルがドルフィン1級3隻を2027年から代替するための後継艦をドイツから購入し、ドイツは費用の半額を負担することについて覚書が締結された[21]

設計[編集]

ドルフィン1級はドイツにおいて209型をベースに設計されたものである。しかしその大きさは212A型潜水艦をも凌ぐ。AIP機関は搭載せず、従来のディーゼル・エレクトリック方式である。喫水線より上の艦体のエメラルドグリーン塗装が印象的であるが、実際の運用状況がどうなっているかは秘匿されており不明である。

武装は533mm魚雷発射管を6基、650mm魚雷発射管を4基搭載する。533mm魚雷発射管は対艦ミサイル魚雷の運用、機雷の射出に用いられているが、650mm魚雷発射管は巡航ミサイルを発射できると考えられている。また、潜行中に工作員を放出できると思われる。

ドルフィン2級は212型をベースとしたAIP搭載通常動力型潜水艦であるが、船体を12m延長して排水量が500t増しになっており、第二次世界大戦後にドイツで建造された最大の潜水艦となった[1]

運用[編集]

導入が決まったときから、ドルフィン級はそれまでの潜水艦運用とは異なる運用をされるというのが諸外国の見方であった。ドルフィン級は核弾頭を装着したなんらかの巡航ミサイルを搭載しているというのが、各国研究機関の推測である。

ミサイルについては、ハープーンを元に開発された巡航ミサイルなど諸説あるが、有力なのはポップアイをイスラエルが水中発射型として再開発したものである。ポップアイの射程距離は少なくとも1,500 km (930 mi)[22]とされ、ドルフィン級は2000年インド洋においてすでに実射実験を実施済み[23][24][25]である。水中発射型ポップアイは6kgのプルトニウムを含む核出力200キロトンの核弾頭を搭載している[24][26]と考えられており[27][28]、これが事実であるとすれば、イスラエルは外地からの核報復能力を有していることになる[29][30][31][32]。現在は本国から遠く離れた海域にローテーション配備され、事あればインド洋や紅海からペルシャ湾に突入してイランに対して核報復を行える態勢を構築していると推測されている。

ドルフィン級の配備により、これまで国防軍内でもっとも重要度の低かった海軍部門はその戦略的地位を飛躍的に向上させることになり、従来の海軍の歴史とは一線を画すようになった。

イスラエルはその核兵器の有無についてと同様に、ドルフィン級の情報を公表しておらず、ドルフィンが核弾頭はもちろん、巡航ミサイルについてもこれを搭載しているとの公式データは存在しない。ドルフィン級については研究機関や報道の推測に頼らざるを得ないのが現状である。

同型艦[編集]

艦番号 艦名 造船所 竣工 就役 退役
ドルフィン1級
ドルフィン (Dolphin) ティッセン・ノルトゼーヴェルケ 1998年5月 1999年7月
レヴィアタン (Leviathan) 1999年 1999年11月
テクマ (Tekumah) 2000年 2000年7月
ドルフィン1級
タニン (Tanin) ホヴァルツヴェルケ=ドイツ造船 2012年 2014年9月
ラハヴ(Rahav) 2014年 2016年1月
ドラコン(Drakon) 建造中 2018年予定
  1. ^ a b c d e Cavas, Christopher P. (2014年8月15日). “Israel's Deadliest Submarines Are Nearly Ready”. Intercepts. Defense News. 2014年12月25日閲覧。
  2. ^ “‘Spy tool’: Commander touts strategic role of new Israeli submarines”. World Tribune. (2013年12月5日). オリジナル2014年12月22日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20141222054116/http://www.worldtribune.com/2013/12/05/spy-tool-commander-touts-strategic-role-of-new-israeli-submarines/ 2014年12月25日閲覧。 
  3. ^ The Gulf War (1991)”. Israel Ministry of Foreign Affairs. 2013年12月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月17日閲覧。
  4. ^ “On This Day: January 18 – 1991: Iraqi Scud missiles hit Israel”. BBC. http://news.bbc.co.uk/onthisday/hi/dates/stories/january/18/newsid_4588000/4588486.stm 2014年12月25日閲覧。 
  5. ^ https://www.idsa-india.org/an-sep9-5.html
  6. ^ a b Williams, Dan (2009年11月25日). “Israel seeks discount on two German warships”. Reuters. https://www.reuters.com/article/2009/11/25/arms-israel-germany-idUSGEE5AN12E20091125 2014年12月25日閲覧。 
  7. ^ a b c German-Israeli Dolphin AIP Sub Contract Signed”. Defense Industry Daily (2006年8月22日). 2014年12月25日閲覧。
  8. ^ Fogelson,, Captain(Res.) I. (1999年12月11日). “The Dolphin Project”. Zahal (Israel military store). 2014年12月25日閲覧。
  9. ^ Guay, Terrence (2005年10月). “The European Defense Industry: Prospects for Consolidation”. UNISCI Discussion Papers. 2014年12月25日閲覧。
  10. ^ Israel: Submarines”. GlobalSecurity.org. 2011年6月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年7月25日閲覧。
  11. ^ Weinthal, Benjamin (2010年1月18日). “First German-Israeli cabinet set to meet”. The Jerusalem Post. http://www.jpost.com/Home/Article.aspx?id=166072 2014年12月25日閲覧。 
  12. ^ Katz, Yaakov (2010年7月23日). “MOD: No talks with Germany over sub”. The Jerusalem Post. http://www.jpost.com/Israel/Article.aspx?id=182358 2014年12月25日閲覧。 
  13. ^ Shiffer, Shimon (2011年5月5日). “Israel buys Dolphin submarine”. Ynetnews.com. http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4064989,00.html 2014年12月25日閲覧。 
  14. ^ “Waffendeal: Deutschland subventioniert U-Boot für Israel” (German). Der Spiegel. (2011年7月17日). http://www.spiegel.de/politik/deutschland/0,1518,774904,00.html 2014年12月25日閲覧。 
  15. ^ JPost.com Staff (2011年7月18日). “'Germany to finalize sale of Dolphin submarine to Israel'”. The Jerusalem Post. http://www.jpost.com/Defense/Article.aspx?id=229801 2014年12月25日閲覧。 
  16. ^ Israel Navy to fit upgraded sonar on submarines 09/11/2016, 20:58, Yuval Azulai
  17. ^ http://www.timesofisrael.com/israel-looks-to-buy-three-new-nuclear-capable-subs-report/
  18. ^ http://www.haaretz.com/israel-news/.premium-1.753665
  19. ^ a b http://www.jpost.com/Israel-News/Benjamin-Netanyahu/German-company-claims-no-misconduct-in-submarine-deal-473301
  20. ^ http://www.jpost.com/Breaking-News/Attorney-General-to-open-police-investigation-into-Netanyahu-submarine-affair-473471
  21. ^ http://www.janes.com/article/75163/israel-and-germany-sign-delayed-mou-for-submarine
  22. ^ Friedman, Norman (2006). The Naval Institute guide to world naval weapon systems. Naval Institute Press. p. 505. 
  23. ^ SSK Dolphin Class, Israel”. naval-technology.com. 2014年12月25日閲覧。
  24. ^ a b Popeye Turbo”. GlobalSecurity.org. 2014年12月25日閲覧。
  25. ^ Popeye Turbo - Israel Special Weapons”. Federation of American Scientists (2000年6月20日). 2014年12月25日閲覧。
  26. ^ Mahnaimi, Uzi; Campbell, Matthew (2000年6月18日). “Israel Makes Nuclear Waves With Submarine Missile Test”. Sunday Times (London) 
  27. ^ Bergman, Ronen (2012年6月3日). “Report: Dolphin subs equipped with nuclear weapons”. ynetnews.com. http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4237408,00.html 2014年12月25日閲覧。 
  28. ^ International and Professional Press about the new Dolphin Submarines”. 2014年12月25日閲覧。
  29. ^ Cirincione, Joseph; Wolfsthal, Jon B.; Rajkumar, Miriam (2005). Deadly arsenals: nuclear, biological, and chemical threats. Carnegie Endowment. pp. 263–4. 
  30. ^ Plushnick-Masti, Ramit (2006年8月25日). “Israel Buys 2 Nuclear-Capable Submarines”. The Washington Post. https://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/08/24/AR2006082401050.html 2014年12月25日閲覧。 
  31. ^ Ben-David, Alon (2009年10月1日). “Israel seeks sixth Dolphin in light of Iranian 'threat'”. Jane's Defence Weekly. オリジナル2009年10月3日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20091003120045/http://www.janes.com/news/defence/jdw/jdw091001_1_n.shtml 2009年11月3日閲覧。 
  32. ^ Mahnaimi, Uzi (2010年5月30日). “Israel stations nuclear missile subs off Iran”. The Sunday Times (London). オリジナル2011年5月6日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110506200452/http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/europe/article7140282.ece 2014年12月25日閲覧。