トレイルランニング
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トレイルランニング(英: Trail running)およびマウンテンランニング(英: Mountain running)は、陸上競技の一種で、 様々な種類の地形(砂地、土の道、林道、一人しか通り抜けられない森の小道、雪道等)や環境(山、森林、平原、砂漠等)で行われるスポーツである。 トレランやトレイルランと略される。
概要[編集]
トレイルランニングは、不整地を走るランニングスポーツで、日本では以前から登山(または山岳)マラソンとして同様のものが存在していた。1970年前後にアメリカを発祥とし、欧米では盛んだったが、2000年代初頭まで日本ではあまり知られていなかった。しかし、マラソンブームや登山ブームの波に乗って、両者の要素を併せ持つ「トレイルランニング」が知られるようになった。
日本国内の競技人口は推定で30万人、潜在人口は120万人と推測され、国内では約350大会/年間ほどの大会が開催されている。男女比は、男性75%、女性は25%と言われ、競技開始年齢は26〜45歳の間と推定される。
大会では、コースは森林、山岳地帯、河川などの自然地形を利用して設定される。そのため、馴染みのない地形や天候にも対応する必要がある。また、フルマラソン以上の長距離を走ったり、種目によっては1000m近い高低差があるコースを走ったりすることもある。日本陸上競技連盟の示すルールブック[1]には、コースの一部が舗装(アスファルト、コンクリート、砕石等)されていても構わないものの、最小限の距離に抑えられている必要があり、既存の登山道や林道や小道をできるだけ使用すると定められている。また、コース上には競技者が地図を読むような特別な技術を必要とせず、容易に認識できる標識を設置しなければならない。
競技を統括する国際競技団体(IF)はワールドアスレティックスで、国内競技団体(NF)は日本陸上競技連盟。また、トレイルランニングに関連する団体として、世界マウンテンランニング協会(WMRA)、国際トレイルランニング協会(ITRA)、国際ウルトラランナーズ協会(IAU)がある。国内では日本トレイルランニング協会や日本山岳スポーツ協会も活動している。
日本においては様々な経緯から、山を走る競技全般をトレイルランニングと表現することが多くみられるため、注意が必要である。
歴史[編集]
- 起源:短距離でも長距離でも速く走りたいという欲求は、人類と同じくらい古くから存在している。速く走ることは、私たちが生き延びたり、食料として動物を捕まえたり、戦いのためであったり、危険や自然災害から逃れたり、誰かにメッセージを届けたりするのに役立った。道路も、トンネルも、橋も無かった太古の時代には、できるだけ速く山を越え、森を抜け、川を渡らなければならなかった。これがトレイルランニングの起源といえる。
- 中世から近代:山岳レースに関する、最古の記述は1068年にスコットランドの王が最も有能な伝令者を選ぶ必要があり、誰が近くの山を最速のタイムで上り下りできるかをテストするというものである。1895年には、現在も続いている最古の山岳レースがイギリスで開催された。
- 20世紀:アメリカ合衆国でのアウトドア文化の発展と共に、トレイルランニングが一般的になった。特に1960年代から1970年代にかけて、ウルトラマラソンやマウンテンランニングのイベントやコミュニティが登場すると、トレイルランニングの人気が広がった。
- 1970年代になると、カリフォルニア州オーバーンで、トレイルランニングの大会が開催されたことから、この地域はトレイルランニングの発祥地とされている。以降、トレイルランニングは世界各地で人気を博し、多くのイベントや大会が開催されている。自然の中を走ることで、健康を促進し、アウトドア体験を楽しむ人々にとって魅力的なスポーツとして広く愛されるようになった。
日本では「山岳マラソン」や「登山競争」と呼ばれ、1913年に静岡県御殿場市で開催された富士登山競走や1947年の第2回国民体育大会(石川国体)の縦走競技(パックに荷重を背負い、標高差の大きい自然の山岳を走る競技)までさかのぼることができる[2]。1990年に山田昇記念杯登山競争大会が、国体と同様の縦走形式でおこなわれ、1993年に日本山岳耐久レース(ハセツネCUP)が開催されると、現在の国内トレイルランニングの原点となっていった。
欧米のトレランカルチャーを日本に伝えたのは、プロトレイルランナーの石川弘樹であり、メディアで『トレイルラン』という言葉が初めて日本で紹介されたのは、2005年の雑誌「ターザン」である。2009年におこなわれた海外レースでの鏑木毅の活躍が、翌年にテレビで放映されたことで、多くの人がトレイルランニングの魅力に気が付き、人気を押し上げることになった。
競技人口(推定値)[編集]
・実施人口:19,8万人(2014)→ 33,7万人(2020)
現在、トレイルランニングに参加しているのは、マラソン・ジョギング実施層の約3.2%と言われている。
・潜在人口:70,9、万人(2014)→ 121,8万人(2020)
トレイルランニング実施意向のある人は、マラソン・ジョギング実施層の約11.6%と言われている。
出典:2014年の数値や比率値については、日本能率協会総合研究所「トレイルランニングに関する実態調査(2014)」を参考とした。
さまざまな競技種目[編集]
2021年からは世界陸連(WA)、国際トレイルランニング協会(ITRA)、国際マウンテンランニング協会(WMRA)、国際ウルトラランナーズ協会(IAU)が連携して、新たな時代の到来と、山岳スポーツを一つにまとめたいという願いを示す形として「World Mountain and Trail Running Championships」を開催するようになった。これは2年に一度開催され、世界60カ国以上から多数の選手が競い合い、世界一を決める祭典である。
ここでは、世界選手権でも採用される、代表的な4つの競技を紹介する。
- Trail running
- 主に「ショートトレイル」「ロングトレイル」のふたつに分類される。
- ショートトレイルには、まだ広く受け入れられている定義はない。ただし、一般にショートトレイルとは、比較的短い距離を走るトレイルランニング競技を指し、一般的に数キロメートルから約50キロメートル前後とされる。森林、丘、山などの様々な登山道や林道で行われることがよくある。地形は簡単なものから中程度に難しいものまでさまざだが、通常は長距離のトレイルレースほどテクニカルではない。
- 世界選手権では40キロメートル前後の距離、テクニカルで急峻な場所で競われることが多い。ただし国内では初心者やトレイル ランニングの経験があまりないランナーなど、幅広いランナーが参加しやすいように設計されている場合がほとんど。
- ロングトレイルは、通常、比較的長い距離をカバーする競技を指し、多くの場合フルマラソンの距離は超える。50キロ、70キロ、100キロ、100マイル、さらにはそれ以上など、その距離はさまざまである。距離が長くなる分、険しい山道、険しい道、人里離れた荒地など、より挑戦的でテクニカルな地形で開催されることがよくある。コースには大幅な高低差が含まれる場合がある。また、完走するまでに数時間から数十時間、時には数日かかる場合もある。ランナーはさまざまな地形を長時間にわたって動き続ける体力と精神力を維持する必要があるため、高レベルのトレーニングが必要とされる。レースでは、ランナーに水、食料、医療サポートを提供するために、コース沿いにエイドステーションやサポート拠点が設置される場合がある。
- 世界選手権では70キロメートル前後の距離、テクニカルで急峻な場所で競われることが多い。
- Mountain running
- トレイルランニングと似ているが、マウンテンレースは伝統的に「アップヒル(バーティカル)」「クラッシックアップ&ダウン」のふたつに分類される。クラッシックアップ&ダウンについて、日本では普及していないが、陸上の中長距離選手やクロスカントリー選手が挑戦するのに適しており、今後に期待される競技である。
- アップヒル(バーティカル)は、上りのみに焦点を当てた競技である。比較的短い距離で大幅な標高 (通常は標高差約1000 メートル)を上る。コースは非常に急勾配で挑戦的な設定であり、山、スキー場、またはその他の急峻な地形で行われることがよくある。山腹または麓からスタートし、頂上またはあらかじめ決められた最高点までひたすら上る。他の種目とは異なり、ダウンヒル部分や周回は含まれず、体力、パワー、有酸素能力を駆使して、急な上りをできるだけ早く到達する必要がある。上りや険しい地形に特化したトレーニングが必要で、激しい環境で自分の上りの能力を試される機会を求めるランナーたちを魅了する。
- 世界選手権では、距離3~6km 累積獲得標高1000m程度でコースが設定されることが多い。
- クラシック アップ&ダウンは、距離10キロメートル程度で上り下りが激しいコースを走る。全体の半分の距離で周回形式やアウト&バック形式となることが多く、競技時間も1時間程度であることが特徴。参加者は指定された地点 (通常は山の麓や高い地点)からスタートし、コース上の頂上や高い地点を目指して上りを走る。最高点に到達すると、向きを変えてスタート地点まで駆け下りる。特徴は、上りと下りの両方とスピードに重点を置いている点であり、トレランが山のマラソンなら、こちらは山のトラック競技とも言えるほど、ハイスピードで競われ、テクニカルな地形での急な上りに加え、頂上に到達したら、すぐに下りに移行し、時には険しい下りを乗り越える。そのため、スピード、バランス、技術スキルなど、ランナーの総合的な能力が求められる。
- 世界選手権では、距離10~12km 累積獲得標高500~700m程度で設計されることが多い。
装備[編集]
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トレイルランニングは、道路を走るマラソンと比べて地形の変化が大きく、危険性が高いため、適切な装備を準備することが重要である。以下に、トレイルランニングに必要な装備をまとめる。
1.トレイルランニングシューズ - トレイルランニングシューズは、スピードや快適性よりも、トレイルの不規則な地形に対応できるように作られたものである。足裏をしっかりサポートし、グリップ性に優れることが求められる。
2.ランニングウェア - トレイルランニングウェアは、吸汗速乾性に優れている。裾を引っ掛けて転ぶ危険があるので、パンツは短めかタイトなもの、シャツも肘の部分が伸縮性があり身体の動きを妨げないものなど、トレイルランニング向けのものを選ぶと良い。
3.水筒類 - 山に入る、長時間のランニングをする際は、必ず水分補給ができるものを持って行く。携帯型の水筒に類するものが多数あり、トレイルランニング用の小型のバックパックで持っていく人が多く、水分補給はこまめに行うようにする。
4.レインウエア - 天候が急に悪くなることもあり、トレイルランナーは雨具としてレインウエア上下を持参しておく必要がある。また、暑い季節に濡れた状態で過ごすことは、身体の冷やしすぎや体調不良の原因となるため、レインウエアは持って行くことが重要である。
5.ヘッドランプ - トレイルランニングを行う場合は、ヘッドランプが必要である。トレイルランニングコースは森林部では日没前から暗くなることが想定され、山間エリアであり林道はライトアップされていないことが多い。夜間では自分のペースを取り、足元をしっかり確認しながら進むために必要なアイテムである。
6.GPSウォッチ - 走る時には自分の位置や進んだ距離、走りの速度などを把握する必要があるため、GPS機能付きのウォッチがあると便利である。
以上が、トレイルランニングに必要な装備の一部である。トレイルランニングは、自然の中で行うアクティビティの一つであるが、適切な装備を準備することで、より安全かつ快適に楽しめるようになる。
7. 下記は必要とされるその他の装備。
- ウィンドブレーカー(最低限の防水の物) - 体温調整の為に羽織るウェア。防水性は限定的であり、レインウエアとして利用することは出来ない。
- グローブ - 転倒時の保護、岩場などをつかむ
- バックパック - トレイランニング用の小型の物が発売されている
- 行動食 - 高カロリーで軽量なエナジージェルなど
- ファーストエイドキット
- バンドエイドなど
- テービング用のテープ - 捻挫や骨折用
- ポイズンリムーバ- 蜂用アナフィラキシーショック
- ティッシュ
- 遭難対策
- 熊鈴 - 動物対策という面もあるが、加えて、一般のハイキングの人にランナーが近づいていることを知らせるという目的も兼ねる。一方で、秋田県では死亡事故が多発しており[要出典]、「熊鈴が熊を呼ぶ」とも言われる[要出典]。
必須ではないが、下記装備なども持って行く人も多い。
- ランニング用タイツ - 膝などのサポート、木の枝や虫から足を守るため
- トレイルランニング用ストック
- トレイルランニング用ソックス - 水の中に入っても大丈夫な物、まめができにくい物などがある
- キャップやサンバイザー
- 行動食以外の食料
- 熊は、クマ鈴や普通の威嚇には怯まない。熊スプレーが効果的。
20cm程度以下の積雪であれば、より厚着のウェアと軽アイゼン(チェーンアイゼン)などが追加になる。積雪量が多すぎる場合は入山を控える。
なお、黎明期では「ランニング登山」と称して、通常登山靴や、登山用の杖などを装備して登るような山を、Tシャツに短パン、スパッツ、ランニング・シューズといったランニングのスタイルで入山して走っていた。
著名な選手[編集]
- キリアン・ジョルネ - UTMB3勝、スカイランナーワールドシリーズ3連覇など
- ジム・ウォルムズリー
- モード・マティス
- トーベ・アレクサンダーソン
- 鏑木毅 - 2009年よりプロ
- 石川弘樹 - 2001年よりプロ[3]
- 山本健一 - プロランナー
- 上田瑠偉 -プロランナー
- 川崎雄哉
- 吉野大和
- 秋山穂乃果
- 吉住友里 -プロランナー
- 高村貴子
技術[編集]
トレイルはロードとは異なる技術が必要。
下りに関しては下記の方法などが提案されている。
- 腕は脱力させ、バランスを取るのに使用する[4]。
- 重心を後傾にしない。重心を後ろにすると転倒しやすくなる[5][6]。
- ストライドを短くして走る方法[5][6]。
- 登山道は真ん中だけでなく、広く、端も使用する[4]。
- 足を進行方向に対して斜めにしたり、サイドステップを使って減速する方法。靴の縦方向に滑ると転倒しやすいが、横方法は転倒しにくく、横方向にエネルギーを逃がす。トレランシューズはサイドステップを取りやすくなっている。登山道を広く使用する方法を併用して、スキーの小回りのパラレルターンと似た原理で減速できる[4][6]。
- ギャロップ走法。減速のためや、足をおける場所が不均等の時などに使用する[6]。
安全対策[編集]
一般登山道で楽しむことが多く、最終的な安全の確保はランナーの自己責任に任されることとなる。山に入る際は、登山届けを提出したり友人や知人に行き先を告げておき、十分な装備と飲食物を用意することが重要である。
激しい運動は、マラソン同様に心臓発作のリスクがあります。また、登山道からの滑落[7]や落石などの危険もある。クマに襲われる例[8]も稀にあるため、注意が必要である。
大会に出場する際は、健康診断を受けておき、体調管理に十分気を配り、無理をせずに参加することが大切である。大会によっては体調チェックシートなどの提出が求められる場合もある。
日本における普及状況と課題[編集]
大会を開催するにあたっては、登山者やトレッキング愛好者から拒絶反応を受けることも過去にはあったが、近年ではトレランと登山の両方を楽しむ愛好家が増加しており、地域振興にも利用されるなど、良質のアウトドアスポーツとして認知されている。過去に箱根で実施されたレースは、登山者からのクレームもなく、コースもほとんど荒れなかったのにも関わらず、環境省箱根自然環境事務所が「箱根の歩道(登山道)利用に関するガイドライン」を元に大会開催の自粛を要請したため、2007年に第1回開催を果たしたのみでその後は開催不可能になるなど、世間の理解を得られない時代もあった[9]。
大会がおこなわれることで、周辺の植生に悪影響を及ぼすはずだと考える地元関係者も存在するが、近年では主催者により登山道が保全され、安全かつ安心して通行が出来るようになるなど、大会主催者や愛好者の努力が行われている。
重大な事故が発生した場合、後援団体やスポンサーによっては、これをマイナス要素と受け止め、次年度以降の支援を停止することもある[10]。
テレビ番組[編集]
- 「〜グレートレース〜」(NHK BS1、2015年放送開始)
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ 競技規則・第8部 クロスカントリーとマウンテンレース、トレイルレース 日本陸上競技連盟、2023年9月1日閲覧。
- ^ 【初心者向け】トレイルランニング(トレラン)の始め方 R×L、2022年9月9日
- ^ 石川 弘樹 hiroki ishikawa オフィシャルサイト -STORY-
- ^ a b c 鏑木毅講習会菅平下りレクチャー.MOV - YouTube
- ^ a b 石川弘樹 急な坂の下り方 - YouTube
- ^ a b c d 安全かつスムーズに山を走るTips!その3 | Seven Hills Blog
- ^ トレイルランで男性死亡、滑落か 埼玉・秩父 日本経済新聞(2017年11月18日)2018年1月1日閲覧
- ^ トレイルランの大会中に少年がクマに襲われ死亡 米アラスカ州 AFP(2017年6月20日)2018年1月1日閲覧
- ^ 「OSJハコネ50K」 2008年度中止のお知らせ POWER SPORTS
- ^ トレイルラン後援せず 秩父市、死亡事故受け方針 東京新聞(2017年11月23日)2018年1月1日閲覧