トルマリン
トルマリン (tourmaline) は、ケイ酸塩鉱物のグループ名。結晶を熱すると電気を帯びるため、電気石(でんきせき)[1]と呼ばれている。
成分・種類[編集]
- 鉄電気石 (schorl)
- NaFe3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4。主に花崗岩や花崗岩質ペグマタイトに産する。
- 苦土電気石 (dravite)
- NaMg3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4。主に変成岩中に産する。
- リシア電気石 (elbaite)
- Na(Li,Al)3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4。ペグマタイトに産する。
- オーレン電気石 (olenite)
- Na1-xAl3Al6(BO3)3Si6O18(O,OH)4。
- 鉄灰電気石 (feruvite)
- CaFe3(Al5Mg)(BO3)3Si6O18(OH,F)4。
- 灰電気石 (uvite)
- CaMg3(Al5Mg)(BO3)3Si6O18(OH,F)4。
- フォイト電気石 (foitite)
- □Fe2AlAl6(BO3)3Si6O18(OH,F)4。
- 苦土フォイト電気石 (magnesiofoitite)
- □Mg2AlAl6(BO3)3Si6O18(OH,F)4。山梨県で発見された日本産新鉱物[2][3]。
- 丸山電気石 (maruyamaite[4][5])
- K(MgAl2)(Al5Mg)(BO3)3(Si6O18)(OH)3O。ダイヤモンドと共存する。名前は丸山茂徳にちなむ[6][7]。
産出地[編集]
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ブラジル、アフリカ各地(モザンビーク、ナイジェリアなど)、スリランカ(主に苦土電気石)、アメリカ合衆国などで産出される。
特徴・性質[編集]
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三方晶系に属し、モース硬度は 7 - 7.5。弱い圧電体の一つで、圧電効果と焦電効果をもっている。また、吸収型偏光子としての性質も持つ。
用途・加工法[編集]
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宝石のひとつで、10月の誕生石である。石言葉は「希望・潔白・寛大・忍耐」。世界的に見ると多産な鉱物であるが、稀にある含銅リシア電気石に関しては、宝石としてのいわゆる「パライバ・トルマリン」として希産宝石として珍重される。パライバトルマリンは、ブラジル産とアフリカ産があり、ブラジル産は色の濃いものが多く、アフリカ産は色の薄いものが多い。
宝石としてのトルマリン[編集]
無色、紫色、青色、緑色、黄色、褐色、赤色、ピンク、黒色など多彩な色合いがあり、別々の石と考えられたため、色により名前が付けられている。
- アクローアイト(無色)
- ルベライト(赤色、ピンク)
- シベライト(赤紫色)
- インディコライト(青色)
- ドラバイト(褐色または黄色)
- ショール(黒色)
- パライバ(ネオンブルー、ネオングリーン)
- バイカラー(2つの色が混在)
- パーティカラー(3つ以上の色が混在)
- ウォーターメロン(赤色またはピンク+緑色、バイカラーの一種)
ただし、こういった呼び名はまぎらわしいので、GIA(米国宝石学会)は推奨していない。基本的にはイエロートルマリン、というふうにトルマリンの前に色をつけて呼ぶほうが無難である。たとえば、ルベライトにしても、赤からピンクオレンジまで色の範囲は幅広く、混乱を招くことがある。インディコライトは上に青色とあるが、実際には藍色に近い濃いブルーのものを称する。さらにグリーンでもクロムがはいったクロムトルマリンはプレミアがつく。
また、特殊効果として、キャッツアイトルマリンが有名である。品質は様々で、キャッツアイが出るからといって価格にプレミアはつかない。そして数は少ないが、緑から赤もしくはピンクにかわるアレキタイプトルマリンもあるが、これも緑色の部分がきわめて黒に近く、また変色効果も鮮やかなものは少なく、高品質のものはなかなかない。
サイド・ストーリー[編集]
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トルマリンの語源はセイロン島の現地語であるシンハラ語の「トルマリ」(turmali) からきている。これは、もともとイエロー・ジルコンの呼び名で、ジルコンとトルマリンが混合した石を呼ぶのにも使われていたが、それが誤ってトルマリンのみに用いられるようになったと言われている。
健康科学[編集]
1990年代後半から2000年代前半にトルマリンを使った製品がいくらか注目され研究も行われた。トルマリンを織り込んだ布とそうでない布を比較して、遠赤外線効果と副交感神経の優位によるリラックス効果が認められた[8]。トルマリンを蚕の餌にすることで、トルマリンが入り込んだシルクができる[9]。トルマリンのネックレスと織り込んだシーツでは、通常の寝具と比較して副交感神経の優位が確認された[10]。トルマリンとゼオライトを混合したネックレスやシーツの発する赤外線は、高密度なほど多く発生し、また使用によりタール状の塊ができ減少していく[11]。
コーヒーの味を保つ指標となる酸味を特徴とするクロロゲン酸の増加をトルマリンの粉末が防止し、コーヒーを長時間美味しく保存できるとされた[12]。
工学者の安井至によれば、トルマリンは過熱や応力により電圧を発生するが、常に歪みを与えるようなことをしなければ静止状態や、粉末化したトルマリンで発生し続けることはなく、むしろ放射能が発生するだろうから、電力が発生する(マイナスイオン)とした商品はインチキだと2003年に主張している[13]。一方でトルマリンを粉末化し合成樹脂で常時圧力がかかるよう固めた繊維が製品化されており、半永久的にマイナスイオンを放出するとされるが、血液検査での血液の特徴に影響は認められなかった[14]。
脚注[編集]
- ^ 文部省 編『学術用語集 地学編』日本学術振興会、1984年、379頁。ISBN 4-8181-8401-2。
- ^ Frank C. Hawthorne; et al. (1999). “Magnesiofoitite (Mg2Al)Al6(Si6O18)(BO3)3(OH)4, a new alkali-deficient tourmaline”. The Canadian Mineralogist (Mineralogical Association of Canada) 37 (6): 1439-1443. ISSN 0008-4476 .
- ^ 松原聰「あやうくさらわれそうになった石―苦土フォイト電気石」『新鉱物発見物語』岩波書店〈岩波科学ライブラリー〉、2006年、107-114頁。ISBN 4-00-007455-5。
- ^ Lussier, A.; et al. (2014). “Maruyamaite, IMA 2013-123. CNMNC Newsletter No. 20, June 2014, page 550” (PDF). Mineralogical Magazine (The Mineralogical Society) 78 (3): 549-558. doi:10.1180/minmag.2014.078.3.05. ISSN 0026-461X .
- ^ Maruyamaite (英語), MinDat.org, 2014年8月27日閲覧。(英語)
- ^ “新鉱物発見、maruyamaite(丸山電気石)と命名 世界初、ダイヤモンドと共存し、カリウムを多量に含む特殊な電気石”. 早稲田大学 (2014年8月25日). 2014年8月27日閲覧。
- ^ “新鉱物発見、maruyamaite(丸山電気石)と命名 ―世界初、ダイヤモンドと共存し、カリウムを多量に含む特殊な電気石―”. 東工大ニュース. 東京工業大学 (2014年8月25日). 2014年8月27日閲覧。
- ^ 町好雄「特製トルマリン入り「APファイバー」布を着用した時の生理効果」『国際生命情報科学会誌』第19巻第1号、2001年、69-74頁、doi:10.18936/islis.19.1_69。
- ^ 神谷文代、成瀬信子「トルマリンシルクの開発」『日本シルク学会研究発表要旨集録』第12巻、2003年12月1日、78-79頁、doi:10.11417/silk.12.78。
- ^ 江角弘道、木村幸弘「トルマリン利用健康商品の生体に対する効果--心拍変動スペクトルによる検討」『島根県立看護短期大学紀要』第9巻、2004年、63-67頁。
- ^ 江角弘道「トルマリン利用健康商品の遠赤外線放射特性」『島根県立看護短期大学紀要』第9巻、2004年、69-74頁。
- ^ MATSUMURATakanobu、SHIGENOBUKazuhiro、NISHIYoshitake、OGURIKazuya「コーヒーの味と成分に及ぼすトルマリンの効果」『Journal of advanced science』第10巻第2号、1998年9月30日、120-121頁、doi:10.2978/jsas.10.2-3_120。
- ^ 安井 至 (2003年8月31日). “高校の先生のために書いたマイナスイオン”. 20070827閲覧。
- ^ 野坂大喜、藤岡美幸ほか「マイナスイオン発生素材の医療応用化に関する研究」(PDF)、弘前大学医学部保健学科。
参考文献[編集]
- 黒田吉益、諏訪兼位『偏光顕微鏡と岩石鉱物』(第2版)共立出版、1983年、175-176頁。ISBN 4-320-04578-5。
- 松原聰『日本の鉱物』学習研究社〈フィールドベスト図鑑〉、2003年、186-189頁。ISBN 4-05-402013-5。
- 秋月瑞彦『鉱物マニアになろう』裳華房〈ポピュラー・サイエンス〉、2003年。ISBN 4-7853-8760-2。
- 松原聰、宮脇律郎『日本産鉱物型録』東海大学出版会〈国立科学博物館叢書〉、2006年。ISBN 4-486-03157-1、ISBN 978-4-486-03157-4。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
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- Tourmaline (英語), MinDat.org, 2012年7月26日閲覧。(英語)
- 福岡正人. “Tourmaline〔電気石〕グループ”. 地球資源論研究室. 広島大学大学院総合科学研究科. 2012年7月26日閲覧。