トリメチルボラン

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トリメチルボラン
識別情報
CAS登録番号 593-90-8[2]
PubChem 68979
ChemSpider 62201 チェック
EC番号 209-816-3
特性
化学式 C3H9B
モル質量 55.92 g/mol
外観 液体、気体は共に無色
密度 0.625 g/cm3 at −100 °C[3]
融点

−161.5 °C, 112 K, -259 °F

沸点

−20.2 °C, 253 K, -4 °F

への溶解度 やや高い
構造
分子の形 Δ
危険性
GHSピクトグラム 可燃性 高圧ガス 腐食性物質
GHSシグナルワード 危険(DANGER)
Hフレーズ H220, H250, H280, H314
Pフレーズ P210, P222, P260, P264, P280, P301+330+331, P302+334, P303+361+353, P304+340, P305+351+338, P310, P321, P363, P370+378
主な危険性 空気中で自然発火
引火点 自然発火性をもつ気体
発火点 −40 °C (−40 °F; 233 K) [4]
関連する物質
関連物質
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

トリメチルボラン英語: Trimethylborane、化学式:B(CH3)3またはMe3B)は毒性と自然発火性のある常温下で気体の物質である。

特徴[編集]

融点は−161.5 °Cで沸点は−20.2 °Cであり、液体でも気体でも無色である。赤外吸収スペクトルのピークが最高値をとる波長は1330 cm−1であり、3010 cm−1と1185 cm−1でもピークが現れる。 高濃度のトリメチルボランは空気中で自然発火し、緑色の炎を発しながらすすを出して燃焼する[5]。 蒸気圧曲線はlog P = 6.1385 + 1.75 log T − 1393.3/T − 0.007735 TTケルビン温度)で与えられる[6]。分子量は55.914であり、蒸発熱は25.6 kJ/molである[4]

合成[編集]

トリメチルボランが初めて合成された際に用いられた反応は気体状態の三塩化ホウ素ジメチル亜鉛を作用させるというものであった[6]。 しかし、この反応ではグリニャール試薬を用いて合成されるが、溶媒からの不純物によって汚染される。トリメチルボランはジブチルエーテル溶媒中の三臭化ホウ素ヘキサン溶媒中のトリメチルアルミニウムの合成反応によって約98%の収率で合成される[6]。また、トリブチルボラントリメチルアルミニウムクロリドとの反応やテトラフルオロホウ酸カリウムとトリメチルアンモニウムとの反応によっても得られる[7]。更に、ヨウ化メチルマグネシウムとエーテル溶媒中の三フッ化ホウ素との反応でも得られる[8]

反応[編集]

溶媒中または気体中に酸素が存在するとゆっくりと酸化してジメチルトリオキサジボランが生成される。ただし、この反応の主生成物はジメチルボリルメチルペルオキシドであり、急速に分解してジメトキシメチルボランになる[9]。 トリメチルボランは強いルイス酸である。室温で水や塩素と反応する。グリースとは反応するが、テフロンやガラスとは反応しない[6]アンモニアとは付加体を作ることがある[10]。 トリメチルボランはジボランと不均化反応して、モノメチルジボランジメチルジボランを生成する。 気体の状態では、トリメチルホスフィンと反応してルイス塩を作る。この反応熱は−41 kcal/molであり、この時の昇華熱は−24.6 kcal/molである。 メチルリチウムはトリメチルボランとの反応により、テトラメチルボラン塩を作る[11]。テトラメチルホウ酸イオンは負電荷をもち、ネオペンタンテトラメチルシランテトラメチルアンモニウムのカチオンと等電子的である。

用途[編集]

高純度のトリメチルボランは中性子カウンターとして用いられる[10]。 また、化学蒸着にも用いられる。

脚注[編集]

  1. ^ “CHAPTER P-6. Applications to Specific Classes of Compounds”. Nomenclature of Organic Chemistry : IUPAC Recommendations and Preferred Names 2013 (Blue Book). Cambridge: The Royal Society of Chemistry. (2014). p. 974. doi:10.1039/9781849733069-00648. ISBN 978-0-85404-182-4 
  2. ^ Graner, G.; Hirota, E.; Iijima, T.; Kuchitsu, K.; Ramsay, D. A.; Vogt, J.; Vogt, N. (2001). “C3H9B Trimethylborane”. Molecules containing Three or Four Carbon Atoms. Landolt-Börnstein - Group II Molecules and Radicals. 25C. pp. 1. doi:10.1007/10688787_381. ISBN 978-3-540-66774-2 
  3. ^ http://www.voltaix.com/images/doc/Msb000_TMB.pdf MSDS from Voltaix
  4. ^ a b Trimethylborane
  5. ^ Herbert Ellern (1968). Military and Civilian Pyrotechnics. Chemical Publishing Company. p. 24 
  6. ^ a b c d William S. Rees, Jr. and al (1990). Alvin P. Ginsberg. ed. Trimethylborane. 27. p. 339 
  7. ^ Roland Koumlstera, Paul Bingera Wilhelm, V. Dahlhof; Binger; Dahlhoff (1973). “A Convenient Preparation of Trimethylborane and Triethylborane”. Synthesis and Reactivity in Inorganic and Metal-Organic Chemistry 3 (4): 359–367. doi:10.1080/00945717308057281. http://www.informaworld.com/smpp/content~db=all~content=a762676557. 
  8. ^ Donald Charles Mente (1975年5月). “The Reactions of Trimethyl group Va Lewis Bases with simple Boron Lewis Acids”. 2010年9月23日閲覧。
  9. ^ Barton, Lawrence; Crump, John M.; Wheatley, Jeffrey B. (June 1974). “Trioxadiborolanes from the oxidation of methyldiborane”. Journal of Organometallic Chemistry 72 (1): C1–C3. doi:10.1016/s0022-328x(00)82027-6. 
  10. ^ a b Gaylon S. Ross (2 October 1961). “Preparation of High Purity Trimethylborane”. Journal of Research of the National Bureau of Standards Section A 66 (1). http://nvl.nist.gov/pub/nistpubs/jres/066/1/V66.N01.A06.pdf. 
  11. ^ Georg Wittig in 1958