トウカイコモウセンゴケ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
トウカイコモウセンゴケ
Drosera tokaiensis s5.jpg
トウカイコモウセンゴケ
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
: ナデシコ目 Caryophyllales
: モウセンゴケ科 Droseraceae
: モウセンゴケ属 Drosera
: トウカイコモウセンゴケ D. tokaiensis
亜種 : トウカイコモウセンゴケ subsp. tokaiensis
学名
Drosera tokaiensis (Komiya et C. Shibata) T. Nakam. et K. Ueda subsp. tokaiensis
和名
トウカイコモウセンゴケ

トウカイコモウセンゴケ Drosera tokaiensis (Komiya et C. Shibata) T. Nakam. et K. Ueda subsp. tokaiensisモウセンゴケ科の植物で、いわゆる食虫植物の1つ。モウセンゴケコモウセンゴケの中間的な形をしており、その正体について様々な議論があったが、現在は両者の交配に由来する独立の種との判断となっている。

概説[編集]

コモウセンゴケによく似た植物であり、従来は混同されてきた。形態的な差はわずかで、判別は難しい。これがモウセンゴケとの交雑を起源に持つものであり、しかし単なる雑種でないことが核型やDNAの分析で明らかとなっている。その分布域は東海地方から一部近畿地方にまでわたり、いわゆる東海丘陵要素の一つともされる。また葉の形態による区別は困難な場合もあり、また本種とコモウセンゴケとの雑種も報告されており、より区別の困難さを増している。本種は従来はコモウセンゴケとして扱われてきたことも多いと思われ、記録の扱いには注意を要する。ただしその確認は困難と思われる。

特長[編集]

小型の多年生草本[1]。茎はごく短く、葉は根出状に出てロゼットを形成する。葉は長さ1-2cmほどで、基部はくさび形、つまり次第に狭くなり、葉柄はあまりはっきりしない。葉の表面には一面に長い腺毛があるが、葉柄部からは出ていない。腺毛は赤く、葉身そのものも赤みを帯びる。乾膜質の托葉は深く4つに裂ける。花などはコモウセンゴケとほぼ同じであるが、萼片は狭卵形から卵形である。種子は長さ0.5-0.6mm、幅0.16-0.22mm。

分布と生育環境[編集]

生育環境
水湿地に生える
モウセンゴケと一緒に生えている
白い花で葉柄の先に丸い葉があるものがモウセンゴケ

本州の北陸、東海、および中国地方と四国から知られる[2]。さらに九州からもそれらしい報告があるが、精査は行われていない[3]。コモウセンゴケは宮城県以南、琉球列島にまで分布するので、本種はこれに較べるとずっと限られた分布域を持つことになる[4]

日当たりのよい酸性の湿地に生える[5]。この点、モウセンゴケもコモウセンゴケも同様なのであるが、コモウセンゴケの方が水浸しでない環境を好むとされる。本種はコモウセンゴケより含水量の多い場所によく生育し、これは以下に述べるように本種がこれら2種の雑種に起源を持つことから、コモウセンゴケがモウセンゴケのゲノムを獲得することでより湿った土壌に適応するようになったとも考えられる[6]

分類など[編集]

コモウセンゴケとごく似たものであり、形態的に区別するのは難しい。区別点としてはコモウセンゴケの葉は葉柄と葉身の区別がほとんどないが、本種では多少とも区別できること、葉柄部分に腺毛がないこと、托葉が4裂(コモウセンゴケは3裂)、種子がより大きいこと(コモウセンゴケでは0.3-0.4mm×0.16mm)などの違いがある[7]。葉の形についてはコモウセンゴケと区別できない場合もあるが、線毛のでる位置については両者は区別できるともいう[8]。なお、モウセンゴケは葉身が倒卵状円形で基部は細い柄となり[9]、本種やコモウセンゴケとははっきり区別できる。

ただし本種にも地方変異があり、関西地方のものは東海のものに較べてコモウセンゴケに近い形であるといい、線毛の配置についてもコモウセンゴケほどではないが東海のそれより葉柄側に広く存在するが、このような差異が起源の違いによるのか、本種が成立した後に変化したものかなど、多くの問題が解決されていない[10]

やっかいなことに本種とコモウセンゴケの更に中間的なものがあり、両者の雑種と考えられている。これをヒュウガコモウセンゴケと言い、本種の亜種 subsp. hyugaensis Seto と位置づけられており、四国と九州から知られている[11]

遺伝的関係[編集]

愛知と兵庫での染色体の観察によると、モウセンゴケは 2n = 20 の2倍体、コモウセンゴケは 2n = 40 の4倍体、本種は 2n = 60 の6倍体であった[12]。また染色体の大きさに顕著な差があったためにこれらをLとSで示すと、モウセンゴケの核型は 2n=20=20S、コモウセンゴケは 2n = 40 = 40L、本種のそれは 2n = 60 = 20L + 40S で示されるものだった。また減数分裂はいずれのものでも正常に進行していた。つまり本種の持つ染色体の大きい方はモウセンゴケ、小さい方はコモウセンゴケに由来すると考えれば、本種はこの両種の雑種に由来し、それがさらに倍数化したもの、雑種複2倍体起源の分類群であると考えることが出来る。

また、葉緑体DNAの分析によると、本種のそれはコモウセンゴケのものに一致し、コモウセンゴケが本種の唯一の母親種であることを示すと考えられる[13]

経緯[編集]

日本産のコモウセンゴケに2つの型があることは古くから知られていたことであった[14]。1つは葉の形がへら型で葉柄の部分にまで毛があるもので、これは従来のコモウセンゴケ D. spathulata の記載によく一致する。これは宮城県以南に広く分布する。他方、東海地方を中心とする地域には葉の形が円形に近くて葉柄が区別でき、しかもその部分が無毛である型が見られる。この葉柄のある型を関西型と称し、前者の方を関東型と呼ぶことは1970年代から始まった。1978年に 関西型、つまり本種はコモウセンゴケの亜種との判断から、D. spathulata ssp. tokaiensis として記載され、和名としてはカンサイガタコモウセンゴケを提唱された。これに呼応して染色体の研究も行われ、関西型が 2n = 60 であり、関東型が 2n = 40 であることも知られるようになった。このようなことを踏まえ、その上で形態的、細胞学的な精査を行った中村、植田(1991)はむしろ本種を独立種と判断した。同時に上記の和名を『通称名をそのまま採用』したもので『標準和名としては不適当』[15]との理由で頭記の和名を示している。

保護の状況[編集]

環境省のレッドデータブックでは取り上げられていないが、各府県単位では福井、滋賀、岐阜、京都など数県で指定されている[16]。どうやら分布域の辺縁部での指定と思われる。

問題点[編集]

中村・植田(1991)は本種に関わって以下のような問題を指摘している。 本種は従来はコモウセンゴケと判断され、そのように記録されてきた。しかし東海から近畿においては本種であった可能性が大いにあり、むしろ本種であった可能性の方が大きい。しかし確認しようにも、本種らの生息環境である湿地が大いに失われており、そのような場所のものは、その標本が残されていない限りは確かめることが不可能となっている。しかも日本ではそのような標本管理の施設が不十分であり、今後は公的機関で永続性のある標本の蓄積というものが重要になる、と言うものである。

栽培[編集]

本種はハエトリグサの栽培方法とほとんど同じように栽培できる[17]

  • 置き場所は、真夏以外は直射日光がよく当たり、ある程度風通しがある場所が適する[18]。真夏は午前中だけ日光をよく当てる[19]
  • 本種はモウセンゴケより比較的乾燥した場所に自生するため、腰水は高さ1cmまでにし、株を水面から5-10cm程度離す[19]
  • 本種は冬芽をつくらないため、モウセンゴケより若干寒さに弱い[19]。冬季は、凍結しない場所に置くと良い。この時期も腰水を行い水を切らさないように注意を払う必要がある。
  • 用土は、鉢底石と、酸性で、通気性と保水性に優れるものを使う。水を十分に吸った乾燥ミズゴケの単用が一般的であるが、ケト土を使っても良い[19]。肥料は生育が悪くなるため基本的に必要ない。
  • 植え替えは1年に1回、真夏以外の時期(1 - 2月が良い)に行う[20]。方法は、用土がミズゴケの場合、新しい鉢と用土を用意して、鉢から株を取り、ピンセットで古いミズゴケを取り除いてからバケツの水で洗う。次に、新しいミズゴケを株の根に巻き付けて新しい鉢と同じ大きさになるまで周りに足していく。その後やや堅め(鉢の中の水が4 - 5秒で流れる程度)に植え付けて鉢に戻す。植え替えを実施したものとしなかったものでは翌年の生育に差が出る。[17]
  • 繁殖は実生で行う。4 - 5月に種を親株と同様の用土に蒔き、鉢の上から水を遣らずに腰水で水を十分与えて乾燥しないようにすれば1か月で発芽する[20]。繁殖力は旺盛で、勝手に種を飛ばし、雑草のように増えることもある[17]

脚注・出典[編集]

  1. ^ 以下、主として大橋他編(2017),p.106、ただし種の記載文には形態がほとんど触れられておらず、ここには検索表を元に記す。
  2. ^ 大橋他編(2017),p.106
  3. ^ 中西(2007)P.3
  4. ^ 中村、角野(1993)
  5. ^ 佐竹他編(1982),P.120
  6. ^ 中村、角野(1993)
  7. ^ 大橋他編(2017),p.106
  8. ^ 中村、植田(1991),p.133
  9. ^ 佐竹他編(1982),P.120
  10. ^ 中村、植田(1991),p.134-136
  11. ^ 大橋他編(2017),p.106
  12. ^ 以下、中村、植田(1991)
  13. ^ 市橋、南(2009)
  14. ^ この項、主として中村、植田(1991)
  15. ^ 引用は中村、植田(1991),p.126
  16. ^ 日本のレッドデータ検索システム[1]2019/05/11閲覧
  17. ^ a b c 田辺(2010).
  18. ^ 土居(2014).
  19. ^ a b c d 柴田(2008).
  20. ^ a b 田辺(2008).

参考文献[編集]

  • 大橋広好他編、『改訂新版 日本の野生植物 4 アオイ科~キョウチクトウ科』、(2017)、平凡社
  • 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他『日本の野生植物 草本II 離弁花類』,(1921),平凡社
  • 中村俊之、植田邦彦、「東海丘陵要素の植物地理 II. トウカイコモウセンゴケの分類学的研究」、(1991)、Acta Phytotax, Geobot. 42(2):p.125-137.
  • 中西弘樹、「長崎県植物誌ノート(30)」、(2007)、長崎県生物学会誌 No.63 p.3-6
  • 市橋泰範、南基泰、「東海丘陵要素トウカイコモウセンゴケとその両親種モウセンゴケとコモウセンゴケの系統的位置づけ」、(2009)、植物地理・分類研究 57(1): p.7-16.
  • 中村俊之、角野康郎、「兵庫県南部におけるコモウセンゴケとトウカイコモウセンゴケの分布」、(1993)、Acta Phytotax. Geobot. 44:p.75-76
  • 柴田千晶、『食虫植物栽培マニュアル』株式会社誠文堂新光社、2008年、pp.37,46。ISBN 978-4-416-40805-6
  • 田辺直樹、『食虫植物育て方ノート』株式会社白夜書房、2008年、pp.26-27。ISBN 978-4-86191-420-1
  • 田辺直樹、『食虫植物の世界 : 420種 : 魅力の全てと栽培完全ガイド』株式会社エムピージェー、2010年、pp.13-14,20-21。ISBN 978-4-904837-04-7
  • 土居寛文、『ネペンテスとその仲間たち 食虫植物ハンドブック』株式会社双葉社2014年、pp115-116。ISBN 978-4-575-30746-7