トゥガーリン・ズメエヴィチ

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トゥガーリン・ズメエヴィチトゥガーリン・ズメーエヴィチ[1]トゥガーリン・ズメエーウィチ[2]とも。: Tugarin Zmeyevich: Тугарин Змеевич)は、古くからロシアで口承で伝えられてきた物語、ブィリーナに登場する悪役の名前である。ズメエヴィチ (Zmeyevich) の名の通り「の子」または「の子」という意味が含まれている[注釈 1]竜人として表現する場合もある。

その正体(モデル)はトゥゴルカンという実在のハーンだと考えられている[3]ソ連ロシア)の歴史学者ボリス・ルイバコフ英語版によれば、このブィリーナには、ポローヴェツ族クマン人)の族長(ハーン)、トゥゴルカンに対するウラジーミル2世モノマフの勝利が反映されているという[4]

『アリョーシャと怪物トゥガーリン』[編集]

ブィリーナの節回し

トゥガーリン・ズメエヴィチは、「ブィリーナ」や民話では勇者アリョーシャ・ポポーヴィチ英語版に退治される。

故郷を出たアリョーシャ・ポポーヴィチは、ウラジーミル公のいるキエフに向かう途中、旅の巡礼に出会う。そして怪物のような姿の「大蛇の子トゥガーリン」の事を巡礼から聞き、成敗を思い立つ。アリョーシャが巡礼の姿でトゥガーリンの前に現れると、トゥガーリンは彼の正体に気付かず、アリョーシャを殺したいので居場所を知らないかと尋ねる。アリョーシャはトゥガーリンの頭を砕いて殺害し、素晴らしい色で染められた彼の着衣と駿馬とを奪い、再びキエフへ向かう[5][6]

別のヴァリアントでは、司祭の家に生まれすくすくと成長したアリョーシャ・ポポーヴィチ(ポポーウィチ)は、親の許しを得てキエフへ向かう。宮殿に着いたアリョーシャは、人間で乱暴者のトゥガーリン・ズメエヴィチが宮殿内で好き放題に振る舞いながらも、ウラジーミル公をはじめ誰一人彼に逆らえない様子を目の当たりにし、成敗を思い立つ[7][8]。アリョーシャが勝負を申し込むと、トゥガーリン・ズメエヴィチは応じ、一騎打ちとなったが、アリョーシャがトゥガーリンの首を刎ねて勝利した[9]。あるいは、決闘によって宮殿内が穢れるのを嫌ったアリョーシャは、トゥガーリン・ズメーエヴィチをいったん荒野に追いやる。翌日の戦いでは、翼のある馬に乗って空を飛び回るトゥガーリンに対し、アリョーシャは雲を呼び雨を吹きつけて彼を地上に落とした。そしてトゥガーリンの首を刎ねるとそれを高々と掲げつつ、ウラジーミル公の元へ戻った[10]

この話はロシアでは有名で『アリョーシャ・ポポーヴィチと蛇のトゥガーリン』というアニメにもなっている[注釈 2]

怪物としてのトゥガーリン・ズメエヴィチ伝説[編集]

怪物としてのトゥガーリン・ズメエヴィチは竜人として表現される。その姿は黒の鱗を纏い、紙の翼を持ち、空を飛び、火を噴く竜人だという。

脚注[編集]

注釈[編集]

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  1. ^ ロシア英雄叙事詩 ブィリーナ』pp. 180-189.(「アリョーシャとトゥガーリン」)および『ロシア英雄物語』pp. 116-126(「アリョーシャと怪物トゥガーリン」)では大蛇の子トゥガーリンと呼ばれている。
  2. ^ 2004年作品。詳細はロシア語版記事「Алёша Попович и Тугарин Змей」を参照。

出典[編集]

  1. ^ ロシアの民話 1』(「アリョーシャ・ポポーヴィチ」)で確認した表記。
  2. ^ ロシアの神話伝説』(「アリョーシャ・ポポーウィチ」)で確認した表記。
  3. ^ ロシア英雄物語』p. 264.(作品解説「アリョーシャと怪物トゥガーリン」)
  4. ^ (ロシア語) B. A. Rybakov. The World of History. First Centuries of Russian History. Moscow, 1987. p. 196.
  5. ^ ロシア英雄物語』pp. 116-126.
  6. ^ ロシア英雄叙事詩 ブィリーナ』pp. 180-189.
  7. ^ ロシアの神話伝説』pp. 55-59.
  8. ^ ロシアの民話 1』pp. 27-29.
  9. ^ ロシアの神話伝説』pp. 59-61.
  10. ^ ロシアの民話 1』pp. 29-32.

参考文献[編集]

  • 「アリョーシャ・ポポーヴィチ」『ロシアの民話』1、ガツァーク, ヴィクトル編、渡辺節子訳、恒文社1980年7月、27-32頁。全国書誌番号:81016048NCID BN00951970
  • 「アリョーシャ・ポポーウィチ」『ロシアの神話伝説』 昇曙夢編、名著普及会〈世界神話伝説大系 32〉、1980年9月、改訂版、55-72頁。ISBN 4895512827NCID BN01846370
  • 「アリョーシャとトゥガーリン」『ロシア英雄叙事詩 ブィリーナ』 中村喜和編訳、平凡社1992年2月、180-189頁。ISBN 978-4-582-45212-9
  • 「アリョーシャと怪物トゥガーリン」『ロシア英雄物語 語り継がれた《ブィリーナ》の勇士たち』 中村喜和編訳、平凡社〈平凡社ライブラリー 76〉、1994年11月、116-126頁。ISBN 978-4-582-76076-7

資料[編集]

  • Edythe C. Haber著「Nabokov's Glory and the fairy tale」 The Slavic and East European Journal 21(2)、1977年.
記事「ウラジーミル・ナボコフ」も参照。

関連項目[編集]