デペイズマン

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デペイズマン (dépaysement) とは、シュルレアリスムの手法の1つ。この言葉は、もともとは「異郷の地に送ること(dé「分離」+pays「国、故郷」+ment(名詞の語尾))」というような意味であるが、意外な組み合わせをおこなうことによって、受け手を驚かせ、途方にくれさせる(dépayser)というものである。文学絵画で用いられる。

19世紀の詩人ロートレアモン伯爵の次の詩句(「マルドロールの詩;Chants de Maldoror」より)を原点にしているといわれる。

  • 「解剖台の上でのミシンとこうもりがさの不意の出会いのように美しい。」(日本語訳)
  • «Il est beau [...] comme la rencontre fortuite sur une table de dissection d'une machine à coudre et d'un parapluie !»(フランス語原文)
  • "beautiful as the chance meeting on a dissecting-table of a sewing-machine and an umbrella!"(英語訳)

この語は、1921年にパリでひらかれたマックス・エルンストコラージュ展の序文の中で、アンドレ・ブルトンによって動詞dépayserとして用いられ、さらに1929年にエルンストのコラージュ小説『百頭女』(La femme 100 têtes)の序文ではじめて名詞として用いられた。[1]

デペイズマンの例[編集]

ルネ・マグリットジョルジョ・デ・キリコなどの作品における、次のようなものが典型である。

  • 場所のデペイズマン - 本来の語源的意味。物をそれが本来あるはずがない場所に置くこと。
    • 「秘密の遊技者」(ルネ・マグリット) - 野球をする人たちの上に黒いオサガメが浮かんでいる。
    • 「谷間の家具」(ジョルジョ・デ・キリコ) - 豪華な椅子が屋外の荒涼とした場所に置かれている。
    • 「贈り物」(マン・レイ) - アイロンの表面にくぎがならんでいる。
    • L.H.O.O.Q.」(マルセル・デュシャン) - モナ・リザに口ひげが生えている。
  • 大きさのデペイズマン - 対象を実際よりもはるかに大きく、あるいは小さく描くこと。
    • 「盗聴の部屋I」(ルネ・マグリット) - 部屋いっぱいに、巨大なリンゴが描かれている。
    • 「身の廻り品」(ルネ・マグリット) - 部屋の中に家具より大きなくしやグラスなどがある。
  • 時間のデペイズマン - 絵の一部が夜なのに、他の一部が昼であったりする。
    • 「光の帝国」(ルネ・マグリット)
  • 材質のデペイズマン - 物の形はそのままで素材がまったく異質なものに置きかえられている。
    • 「毛皮の朝食」(メレット・オッペンハイム) - コーヒーカップが毛皮でおおわれている。
    • 「旅の思い出」(ルネ・マグリット) - 石でできた巨大なリンゴとナシ。
  • 人体のデペイズマン - 上半身が魚なのに下半身が人間であったり、上半身が石膏像なのに下半身が人間であったりする。あるいは、体の一部に木目が入っている、石膏像が血を流している、靴の先が足になっているなど。
    • 「共同発明」(ルネ・マグリット) - 波打ちぎわに上半身が魚・下半身が人間の体をした生き物が横たわっている
    • 「陵辱」(ルネ・マグリット) - 女性の顔が女性の裸体の前面になっている。

デペイズマン手法を使用する代表的な美術関係のアーティスト[編集]

文学におけるデペイズマン[編集]

  • 檸檬」(梶井基次郎) - 積みあげられた画集の上に置かれたレモンがデペイズマン的効果を出していると考えることができる。

脚注[編集]

  1. ^ 巌谷國士(2013)「〈遊ぶ〉シュルレアリスム」CORONA BOOKS