デトネーション
デトネーション(detonation)は日本語に直訳すると爆轟のことである。デトネーションは気体中もしくは固体中を超音速で伝播する衝撃波により、衝撃波背後で高速な発熱反応が進展し、反応により発生するエネルギーにより衝撃波が自己維持される現象・系である。
また、内燃レシプロ機関の(圧縮後期および)燃焼や膨張の段階において発生する異常燃焼現象が、以前は詳細に解っておらず、デトネーションとして総称されたりもしていたという歴史的事情から、専門的な論文等以外では今日でも総称的に(あるいは混同して)この語が使われることがある。この記事では内燃レシプロ機関の異常燃焼一般についても扱う。
概要
[編集]ガスデトネーションの場合、水素もしくは炭化水素と酸素もしくは空気からなる系などが知られており、デトネーションの衝撃波面は無数の爆発的燃焼セルで構成される。固体デトネーションを引き起こす系としては爆薬の類、人工的な装置としては爆縮を伴う核爆弾が知られている。いずれの系においても衝撃波を伴うことから、大きな破壊力を持ち、制限された空間で自己維持されながら伝播することが知られている。また、この現象によるガス中の衝撃波の伝播速度は衝撃波前方の媒質を伝播する音波の速度の数倍に到達し、炭化水素類の拡散火炎の伝播速度が数十 cm/sであることと比較して非常に高速である。
デトネーション現象の発生、伝播、減衰に関する知見は可燃性ガスや固体の爆発性物質を有益に利用する際の安全確保に必須であり、原子力発電所を含む化学プラント、鉱山の採掘現場などの保安に生かされている。そして衝撃波により瞬間的に発生するエネルギーは、鉱山における岩石の採掘、兵器(火器・爆弾)、医療機器、デトネーションを利用した推進器・熱機関、天体にまつわる現象などにおいて、利用もしくは研究されている。
内燃機関の異常燃焼にはいくつかのパターンがあるが(点火前の圧縮行程で高温になった混合気が自然発火するものや、点火後に膨張する燃焼ガスに押されて未燃焼の部分が高圧高温になり、火炎面が到達する以前に発火してしまうもの、など)、特に、音速を越える非常に速い圧力伝播速度を持つ、衝撃波を伴う爆轟現象が内部で起きているものが(狭義の)デトネーションである。
異常燃焼は、過度に高い圧縮比やブースト(ターボチャージャーなどの過給器搭載機関)、指定オクタン価に満たないガソリンの使用、希薄な空燃比などが原因で発生し、軽度であればノッキング程度であるが[注 1]、重度のものはピストンが溶けるなど、エンジンに致命的損傷を与える。
なお、積極的にデトネーションを利用し高効率化を期待した研究も行われており[1][2][3]、パルス・デトネーション・エンジンや回転デトネーションエンジンの開発が各国で進められている[4]。
関連項目
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 厳密には、「金属を叩くような音がする」という原義の(狭義の)ノッキング現象の正確な説明としては、デトネーションそのものによるものではない。圧縮中の燃焼室内における、点火プラグの火花からの燃焼の伝播によらない自発点火現象は、細かく見ると、同時多発的に着火するため、ピストン上面に対し激しい圧力変化を伴うような燃焼となる。その圧力変化が振動として、ピストンからエンジン全体に伝わり、最終的にノック音となる。
なお、いわゆる「ディーゼルノック」は、空気のみを圧縮し、高温・高圧となったシリンダー内に燃料を噴射するディーゼルエンジンの原理から、通常の燃焼様態が火花点火エンジンのノッキングに近いためと説明でき、異常な燃焼ではない。
出典
[編集]- ^ 究極効率のエンジンを生む新圧縮燃焼原理を発見!
- ^ デトネーションを利用した新しい内燃機関
- ^ プロパン-空気混合気を用いたパルスデトネーションタービンエンジンの作動実験
- ^ 松岡健, 後藤啓介, ブヤコフバレンティン, 石原一輝, 野田朋之, 伊東山登, 川﨑央, 渡部広吾輝, 松山行一, 笠原次郎, 松尾亜紀子, 船木一幸, 中田大将, 内海政春, 竹内伸介, 岩崎祥大, 和田明哲, 増田純一, 荒川聡, 羽生宏人, 山田和彦「S-520-31号機によるデトネーションエンジン実験の進捗状況:回転デトネーションエンジン」『令和二年度宇宙輸送シンポジウム: 講演集録= Proceedings of Space Transportation Symposium FY2020』、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所(JAXA)(ISAS)、2021年1月、NAID 120007041580。