ディプロマシー

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ディプロマシーDiplomacy)とは、アラン・B・カラマー(Allan B Calhamer、1931年 - 2013年)が制作したボードゲーム1954年に完成し、1959年より小規模ながら一般に販売されるようになり、その後アバロンヒル社(Avalon Hill、現在はウィザーズ・オブ・ザ・コーストの1ブランド)により広く販売されるようになった。2013年現在、ホビージャパンが輸入販売している。

概要[編集]

ゲームの概略[編集]

本作は7人のプレイヤーが第一次世界大戦前の緊張した関係にあるヨーロッパ列強7ヶ国をそれぞれ担当し、ヨーロッパの覇権を巡って争う戦略ボードゲームである。 diplomacy外交)という単語が示す通り、ルールそのものはごく単純であって、「外交」すなわちプレイヤー同士の取り引きや同盟が、プレイの中核を成している。「いかにして他のプレイヤーの助けを得るか」「どのタイミングで他のプレイヤーを裏切るか」といった駆け引きと策略、外交センスが問われるゲームである。かつてイギリスの「ゲームズ・アンド・パズル」誌は「ディプロマシーは、今世紀に発売された最も偉大なインドア・ボードゲームである」と賛辞を述べた。

本作には有志によって様々な追加マップが作られているほか、1994年に続編として19世紀末アジアを舞台とする『コロニアル(植民地)・ディプロマシー』がアバロンヒルより発売された。また、舞台をルネサンス期のイタリアに移し、国家収入による経済の観念や疫病などのランダム要素(よって、ゲーム通貨による買収暗殺も交渉の道具となる)を付け加えた『マキャベリ』も、アバロンヒル[1]より発売されている。

ゲームの特徴[編集]

本作の最大の特徴は、プレイ要素からサイコロやシャッフルといった、一切のランダム性が排除されている点にある。ゲームの勝敗は、全てプレイヤー間の外交交渉および、プレイ戦略に起因する。プレイヤー間の純粋な力量差が勝敗に直結する事から、駆け引きと策略、外交センスが問われるゲームと称される理由となっている。

プレイの内容[編集]

プレイの概略[編集]

ゲーム盤は、ヨーロッパ地図が描かれたボードである。ボード上ではヨーロッパが、56の陸地と19の海域に分割されている(ただしスイスは中立国のため、入ることのできない障害物となっている)。56の陸地のうち主要な34地域には黒点が打ってあり、これを補給地(サプライ・センター)と呼ぶ。プレイヤーは7人。各々が陸軍海軍と複数の補給地を持っており、各プレイヤーはこれら軍隊を駒として使い、ヨーロッパ全土の補給地を奪い合うことになる。一般的なルールとしては、補給地を18獲得した時点でそのプレイヤーの勝利とするが、時間が長くかかりすぎる、という理由から時間を区切り、終了時の補給地数で勝敗を決する場合も多い。

各国の概要[編集]

各々の国名と駒の色、初期戦力、初期配置を示す。(駒の色はアヴァロン・ヒル社版に準拠、地名略称は後述) 表記 A-アーミー(陸軍)F-フリート(海軍)

Diplomacy.svg
国名 駒の色 陸軍の数 海軍の数 陸軍の初期配置 海軍の初期配置
イギリス 1 2 Lpl Lon,Edi
ドイツ 2 1 Ber,Mun Kie
ロシア 2 2 Mos,War StP(South Coast),Sev
トルコ 2 1 Con,Smy Ank
オーストリア・ハンガリー 2 1 Vie,Bud Tri
イタリア 2 1 Rom,Ven Nap
フランス 2 1 Par,Mar Bre

国によって戦力に明確な差があることが見て取れる。しかしこのゲームでは、往々にして「強さが仇となる」ケースも多いため、戦力的に劣るからといって直ちに不利だとは言えない。

ゲームの流れ[編集]

本作では1回の行動(ターン)がゲーム内での半年にあたる。すなわち、「1901年春」から始まり「1901年秋」「1902年春」・・・と続いていく。

また、このゲームでは、プレイヤーは順に行動していくのではなく全員が一斉に行動する。具体的に言うと、各ターン(半年)の初めに、自軍(の駒)をどう動かすつもりであるかを記した「命令書」を全員が作成する(メモ帳でも紙切れでも構わない)プロット制で、そして、全員が作成し終えたら、命令書を一斉に公開する。つまり、他のプレイヤーがどう軍隊を動かすか明確には分かっていない状態で、他プレイヤーの狙い・意図を推測して自軍の行動を選択しなければならないのである。これによって各国の思惑がぶつかり合い、(松田道弘はボードゲーム紹介の本の中で『パチンコ玉を1度にはじいたような複雑な屈曲運動』と表現した)まさに「マルティプル・コンフリクト」となる。

特筆すべきは、ゲームの開始前あるいは各ターンごとに交渉の時間が与えられていることである。この間、各プレイヤーは自由に話し合うことができる。この際、別室へ移るなどして、一部プレイヤー間だけの秘密の交渉を行うことも良くある。プレイヤー間の取り引き・同盟はどのような条件や内容も許されるため、ここでは様々な条件の提示や粘り強い駆け引きが行われることになる[2]。しかし交渉内容を守る義務は無い。ゲーム内の時間経過は約10年程度(20ターンほど)と比較的短いものの、この交渉で時間がかかることによりゲーム全体が長引き、プレイ時間は4時間ほどにも及ぶ。なお、日本などで本作があまり広くプレイされていない理由のひとつはこの所要時間の長さであると言われている。また裏切り前提の交渉ゲームゆえに、「友情破壊ゲーム」「ゲームサークル崩壊ゲーム」と言う仇名まであり[3]、そのせいで敬遠されるのも原因であるとも言える。

駒-陸海軍の動き[編集]

陸軍は、

  1. ムーブ(移動)
  2. H(ホールド、駐留)
  3. S(サポート、援護)

の3つの行動を選択できる。

1.の場合、例えばSpaからPorに向かう場合なら「A Spa-Por」と表記する(ただし、決まった書式があるわけではないので「わかればよい」と別の書式を用いる人もいる。これは他も同じである)。2.の場合、例えばMosに留まる場合は「A H Mos」と表記する。3.については後述する。なお、この表記はチェスの棋譜に準じている。

陸軍は隣接する陸地のみを移動できる。他方、海軍は、上記3種の行動に加えて、4.C(コンボイ、輸送)を行うことができる。

これは、「陸地-海域-陸地」と並んでいて、左側陸地の陸軍が右側に移動したいときに行う。間の海域に海軍がいれば、海軍がこの輸送によって仲立ちをし、陸軍に海をまたがせることができる。このときの表記は、例えば左から「Lon-NTH-Bel」であるとすれば、2つに分けて「A Lon-Bel」「F NTH C A Lon-Bel」とする。当然この場合、陸海軍ともにその時点で行動が終了する。また、海軍の移動可能な場所は少々複雑であり、「海域から隣接する海域」「海域から隣接する陸地、またはその逆」「陸地から、同じ海域を共有し、現地点と地続きの陸地」への移動が可能である。ただし、一部に例外が存在し、Bul,Spa,StPの三地域に関しては、「異なる二つの海岸が存在する」と認識されるため、海岸の方角に従ってN,S,E,Wを命令書の後に付け足さなければならないし、入り方次第では「同じ海域を共有している」ことにならず、移動や支援が行えなくなる場面も存在する。ただし、Kie,Con,Den,Sweについては、同じく二つの海岸があるように見えるが、「一つの海岸のみ存在する」ものとして扱える。

プレイヤーは、命令書に自軍の駒の動きを全て書いておき、駒の移動はゲームマスターが判定する。ところが、こうして駒を動かしていくと、駒同士がぶつかり合う局面が発生する。1つの地域には1つの駒しか入れないため、「スタンドオフ」と呼ばれる状態で、両軍共に動くことができない。たとえば、「Mos-Ukr-Gal」で、Mosにロシア軍、Galにトルコ軍がおり、互いにUkrに侵攻しようとしていた場合、両軍は元の地点に待機することになる。また、「互いが互いに相手の地域に侵攻しようとした場合」「一方が相手の地域に侵攻、一方がその場に駐留した場合」も同様である。

これでは互いに動けずこう着状態であるが、これを打開するのがS(支援)の存在である。例えば先ほどの「Mos-Ukr-Gal」だが、UkrにはRumもつながっている。そこで、Rumにもトルコ軍がいたとしよう。このとき、「A Rum S A Gal-Ukr」と書くと、Rumのトルコ軍が、Galのトルコ軍のUkr侵攻を支援したことになる。こうなると、ロシア軍とトルコ軍のUkrへの戦闘力は「1対2」となり、結果Galのトルコ軍がUkrへの移動に成功する。戦闘力が高いほうが勝利となるのだ。

また、支援はこうした「移動」だけでなく、「駐留」の支援も行える。こうした時は、「A 支援軍の地点 S H 駐留軍の地点」として表す。こうした攻防によって、互いに領土を取り合っていく。また、支援は、自国の軍だけでなく、他国軍に対しても行うことができる。

戦闘の結果、元いた地点を追われることがある。このときは、最も近い地続きの地域に撤退するが、撤退する場所がないときは、その軍は全滅した、とみなされて盤から外す。

しかし、支援が無効となることもある。それは、支援軍の地点に対して敵軍が侵攻してきた場合である。このとき、支援軍は支援を行う余裕を失い、支援は無効となって単なる駐留になってしまう。これを利用し、敵の戦闘力を減らす戦術も可能である。

支援は、その軍が移動できる場所に限られる。また、支援は1つの軍は1つの軍に対してしかできないが、支援される側はいくつの軍からでも支援を受けることができる。

補給地の集計[編集]

秋のターンが終わる都度、国ごとの補給地数の集計を行う。「国の補給地」として認められるのは、

  1. その国が既に支配しており、他国に支配されていない補給地
  2. 秋が終了した時点で、その国の軍がいた補給地

である。2.については、あくまで秋のターン終了時のみで、「春のターン終了時にはいたが、秋のターンで別な地点に移った」場合は補給地として認められない。

補給地の数が自軍の駒の数よりも多い場合、陸軍、海軍のいずれか好きな駒を補給地の数と一致するように自軍の補給地のどこかに増援として配置することができる。逆に、補給地の数が自軍の駒の数より少ない場合、補給地の数と一致するまで自軍の駒をいずれか減らさなければならない。

これらのことを踏まえつつ、他プレイヤーと協力し、時には裏切り合って自国の領土を拡大していくのが、このディプロマシーというゲームである。

その他[編集]

様々なプレイ形態[編集]

「ディプロマシー」にはゲーム的な手続きや処理は少なく、主としてプレイヤー間の交渉が重要であることから、直接顔を合わせずに何らかの通信手段を介してプレイすること(プレイバイメール)が比較的平易に実現できる。プレイ時間の長さなどを考慮すると、場合によってはこのような形態の方がプレイしやすいとも考えられる。

インターネットの普及に伴い、郵便ではなく電子メールを使ったプレイも普及し、さらにウェブサイト上でのプレイ(オンラインゲーム)も可能となった。

この他、コンピュータゲーム[4]も存在する。

地域略称一覧(アルファベット順)[編集]

本作において用いられる、地名の略称。

海域
陸地

脚注[編集]

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  1. ^ 元はバトルライン社。
  2. ^ ゲームぎゃざ』の記事によると、とある大学のゲームサークルで「買収の上限は学食のカレーまで」という話もあったそうだ。無論、現実での金品の授与を伴う賄賂や、ゲーム外でのリアルでの事象を持ち出してのパワハラまがいの脅迫は遊戯であるゲームの範囲を逸脱した行為であって、誉められたものではない。
  3. ^ 対人交渉のみで一切のランダム要素がないので、プレイヤー間の恨みが残りやすい。『タクテクス』No7「ルネッサンス・イタリアにおける決断の条件」の記事内では、敗北しても『ディプロマシー』よりも疫病等、ランダム要素がある『マキャベリ』の方が「アンラッキーであった。ハハハ」で済ませる事が可能なので、何より後々、恨みが残らなくていい」との記述すらある。
  4. ^ 『ディプロマシー完全日本語版』(メディアクエスト,1999-2000,動作環境:Windows 95/98)

外部リンク[編集]

  • Diplomacy - アヴァロン・ヒルの公式ページ
  • Diplomacy MOE - ディプロマシーネット対戦サイト。行軍は自動判定。掲示板形式で外交記録が残る。