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チャック・パラニューク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
2004年9月、米アルバニー大学での講演にて

チャック・パラニューク(Chuck Palahniuk, または Charles Michael "Chuck" Palahniuk, 1962年2月21日 - )は、アメリカの小説家オレゴン大学でジャーナリズムを専攻。現在オレゴン州ポートランド在住。また、ブレット・イーストン・エリスアーヴィン・ウェルシュダグラス・クープランドといった、同じ1960年代前半生まれ、同じ傾向の小説家たちとともに、ジェネレーションX、および「トランスグレッショナル・フィクション」の代表的な作家としても見られており、これまでに数々の小説、ノンフィクション、グラフィックノベル、大人向け塗り絵、および短編小説を出版している。映画化もされた『ファイト・クラブ』がよく知られており、ネット上では彼の熱狂的なファンが多い。

日本では2005年の『ララバイ』以降、邦訳が途絶え既刊も絶版になっていたが、2015年に『ファイト・クラブ』、2022年には『サバイバー』が改訳新装版で復刊した。そして2023年には18年ぶりの邦訳新刊として『インヴェンション・オブ・サウンド』が出版された。 

略歴

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生い立ち

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米国ワシントン州パスコで生まれる。同州バーバンクのトレーラーハウスで育ったが、14歳の時に両親が離婚し、彼と3人の兄弟姉妹は、ワシントン州東部の牧場で暮らす母方の祖父母のもとで暮らすことが多かった。18歳の時、両親から、父方の祖父が父方の祖母を殺害したと告げられた。1980年にバーバンクのコロンビア高校を卒業[1]

その後オレゴン大学に通い、1986年にジャーナリズムの学位を取得して卒業した。学業の一環として、地元の公共ラジオ局KLCCでインターンシップを行った。

初期

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1986年にオレゴン大学を卒業して以降、短期間地元新聞記者などジャーナリストとして活動した後、作家としてのキャリアが軌道に乗るまでフレートライナー社(ポートランドに本社を置くダイムラー・クライスラー系列のトラック製造大手)にディーゼル技師として就職し、トラックの修理マニュアルを執筆していた。ジャーナリストとしても一時的に活動したが、この仕事に戻ったのは、小説家として成功を収めてからだった。ランドマーク・エデュケーションのセミナーに参加した後、1988年にジャーナリストの仕事を辞めた。彼はその間、仕事以上のことがしたいとホームレスの宿泊施設でボランティアを行い、ホスピスでは末期患者の送迎やサポートグループの集まりへの付き添いとしてボランティアを務めた。彼が親しくなった患者が亡くなったことをきっかけに、ボランティア活動を辞めた。

また彼は、サンフランシスコなどから全米に広がっている、クリスマスなどあらゆる機会に突発的に集まって悪戯を仕掛ける団体「不協和音の会(Cacophony Society)」に参加していた。オレゴン州ポートランドで毎年開催される「サンタ・ランページ」(いたずらや酒宴が繰り広げられる公開クリスマスパーティー)をはじめ、同団体のイベントに定期的に参加している。この団体への参加経験は、彼の作品に登場するいくつかの出来事の着想源となっている。

彼は30代半ばから小説教室やワークショップに通い、小説執筆の練習を始めた。彼自身の話によると、新しい友人を作るために参加したトム・スパンバウアー主催の作家向けワークショップに通いながら執筆を始めたという。スパンバウアーは、彼のミニマリスト的な文体に多大な影響を与えた。

『ファイト・クラブ』

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最初の小説『Insomnia: If You Lived Here, You'd Be Home Already』は不満が多く出版されることはなかった(後に『ファイト・クラブ』で一部が再利用された)。その後書いた小説『インヴィジブル・モンスターズ』は出版社の編集者に不快すぎる小説だとして没にされた。こうして彼は技師の仕事の傍ら、後に彼を有名にしたデビュー作『ファイト・クラブ』に取り掛かる。最初は「より編集者にいやな気分を味わわせたい」という動機から書かれた小説は、1995年のアンソロジー『Pursuit of Happiness』に短編として(後に小説の第6章となる形で)最初に発表された後、長編小説へと膨れ上がり、出版社もこの不穏な小説の出版に踏み切った。この本はハードカバーで出版され、好意的な批評をいくらか受けた後やがて本屋から消えてしまったが、ハリウッドが映画化権を買い、デヴィッド・フィンチャー1999年に映画化して以降大変な評価と批判、そしてカルト的崇拝を生むようになった。

彼はこれ以後、1999年に『サバイバー』、『インヴィジブル・モンスターズ』の出版で成功を収めた。特に若い世代はカルト的ファンとなり、ネット上のパラニュークのサイトに集うようになる。

数年後、初の『ニューヨーク・タイムズ』ベストセラーとなった小説『チョーク!』を完成させる。この作品は2008年にサム・ロックウェルアンジェリカ・ヒューストン出演で映画化(邦題:『セックス・クラブ』)された。

『ララバイ』

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1999年、当時、彼の父フレッド・パラニュークは、「キスメット」というタイトルの個人広告を通じて知り合ったドナ・フォンテーヌという女性と交際を始めた。彼女の元交際相手であるデール・シャックルフォードは、過去に性的虐待で服役しており、出所次第フォンテーヌを殺すと誓っていた。パラニュークが伝えられるところによると、フォンテーヌがシャックルフォードから身を守るために、個人広告を通じて「見つけられる限り最も屈強な男」を探しており、父親がその条件に当てはまると考えていたという。釈放後、シャックルフォードは、フォンテーヌとパラニュークの父がデートに出かけた後、二人を追ってアイダホ州ケンドリックにあるフォンテーヌの自宅まで向かった。シャックルフォードは二人を銃撃し、遺体をフォンテーヌの小屋に引きずり込んだ後、その小屋に火を放った。2001年の春、シャックルフォードは第一級殺人罪2件で有罪判決を受け、死刑を宣告された。これらの事件を受けて、パラニュークは小説『ララバイ』の執筆を始めた。彼は、シャックルフォードに死刑判決を下すという決定に関与したことへの心の整理をつけるために、この小説を書いたと述べている。

『Guts(はらわた)』と『Haunted』

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2003年、小説『Diary』のプロモーションツアー中、パラニュークは聴衆に向けて『Haunted』に収録されている短編『Guts』を朗読した。この作品は自慰行為にまつわる事故を描いた物語で、語り手が聴衆に「深く息を吸って下さい。この話は、皆さんが息を止めていられるくらいの間続くはずです」と告げる場面から始まる。その衝撃的な内容に、朗読を聴いていた聴衆のうち、40人が失神したと報じられた。その後、『プレイボーイ』誌が2004年3月号にこの短編を掲載したが、パラニュークが併せて掲載するよう提案した別の作品は、内容が過激すぎると出版社側が判断し、掲載が見送られた。2004年の夏、『Stranger Than Fiction: True Stories』のプロモーションツアー中、彼は再び聴衆の前で『Guts』を朗読し、気絶した人の総数は53人に達した(その後、『Diary』のペーパーバック版プロモーションツアー中に60人まで増加した)。その年の秋、彼は『Haunted』のプロモーションを開始し、『Guts』の朗読を続けた。2005年6月、パラニュークは気絶した人の数が67人に達したと述べている。

Guts』朗読の模様は、一部は2003年制作のドキュメンタリー映画『Postcards from the Future: The Chuck Palahniuk Documentary』に収められている他、動画サイト上で各会場の聴衆が撮影した投稿動画が広まり、それを受けて多くの読者による朗読動画の投稿も増え、バイラルヒットとなった。

2005年、パラニュークはフロリダ州マイアミで行われた『Haunted』ツアーでのイベントで、『Haunted』が『ララバイ』や『Diary』を含む「ホラー三部作」の最終作であると述べた。また、当時刊行予定だった小説『Rant』が「SF三部作」の第一作となることも示唆した。

日本では『Guts』が、『ミステリマガジン』2005年6月号に、柳下毅一郎訳、『はらわた-聖ガット・フリー語る』の邦題で掲載された。

作風

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文体

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パラニュークは、自身の文体が、トム・スパンバウアー(パラニュークは1991年から1996年までポートランドでスパンバウアーが主催する週1回のワークショップに参加していた)、エイミー・ヘンペル、マーク・リチャード、デニス・ジョンソン、ジョアン・ディディオン、トム・ジョーンズ、ブレット・イーストン・エリスといった作家たち、そして哲学者ミシェル・フーコー、フリードリヒ・ニーチェ、アルベール・カミュの影響を受けていると述べている。著者が「ミニマリスト的アプローチ」と呼ぶ手法において、彼の作品には限られた語彙と短い文が用いられ、一般人が物語を語る際の話し方を模倣している。あるインタビューで、彼は「形容詞ではなく動詞を使って書くことを好む」と語っている。物語のナレーションにおける特定の行やフレーズの反復(自身が「コーラス」と呼ぶもの)は、彼の文体の最も一般的な特徴の一つであり、小説のほとんどの章に散りばめられている。パラニュークは、小説をまたぐ形でもいくつかの「コーラス」が存在すると述べており、コーンフラワーブルーという色や、モンタナ州ミズーラという都市が自作に多く登場することを指摘している。物語に登場する登場人物たちは、しばしば哲学的な余談を挟む(語り手が読者に向けて語るか、あるいは対話を通じて語り手に向けて語られる形をとる)。そこでは、死、道徳、子供時代、親としての役割、性、そして神といった複雑な問題について、多くの奇妙な理論や意見が提示されるが、その性質は往々にして人間嫌悪的、あるいは暗く不条理なものとなっている。スパンバウアーから借用されたその他の概念には、「既成の表現」(陳腐なフレーズや言い回し)の回避や、「バーント・タン」(意図的に奇妙な言い回し)の使用などが含まれる。

ジェイソン・タナモールとのインタビューでは「情けなくなるほど書き直します。エージェントに見せる前に、どのシーンも100回は書き直します。それから編集者に渡す前に、さらに12回ほど書き直します。そして校正者に渡す前には、ほぼ原型を留めないほど全てを書き直します。私の初稿は、ほぼ骨組みだけのアウトラインに過ぎず、その後の推敲のたびに肉付けされていくのです。ワークショップや友人たちとでシーンを『試作』して、読者の反応やフィードバックをもとに修正を加えます。組版が済んだ時に初めて原稿が『完成』するのです。その頃にはもう新しいアイデアに夢中になっているので、前のアイデアは正式に終わりを迎えます。」と語った。

主題

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作品には、しばしば反消費主義的なテーマが見られる。『ファイト・クラブ』について論じたポール・ケネットは、語り手とタイラー・ダーデンとの戦いは自分自身との戦いであり、また上司の前で自分自身と戦っていることから、語り手は戦いを、自分が自分自身の主導権を握るための手段として利用していると主張している。これらの戦いは、より強大な資本主義勢力に翻弄されるプロレタリアートの苦闘を象徴している。語り手は自分にも同じ力があることを示すことで、自らの主人となるのである。後にファイト・クラブが結成されると、参加者たちは皆、同じような服装と身だしなみをするようになり、クラブ内で象徴的に自分自身と戦い、同じ力を得ることができるのだ。ハフポストとのインタビューで、パラニュークは「『ファイト・クラブ』の核となるメッセージは、常に、少しずつエスカレートしていく小さな挑戦を通じて個人が力を得ることについてだった」と語っている。

評価

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パラニュークの作品の内容は、ニヒリズム的であると評されてきた。彼自身はこのレッテルを否定し、自分はロマンチストであると述べ、他人が信じないような思想を表現しているために、作品が誤ってニヒリズム的と見なされているのだと主張している。

家族

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ウクライナ人の祖父が1907年カナダからアメリカに移民した一族で、ウクライナ、ロシアフランスの家系を持つ[2]。苗字のPalahniukは、父方の祖父母が自身の名であるポーラとニックを組み合わせて作ったもので[2]、「ポーラニック」と発音すると本人がインタビューで答えている[3]

祖父のニックはミシンの購入を巡る口論から妻を射殺し、家族を追いかけ回したのち自分を撃ち抜いて自殺した。当時3歳だった父親のフレッドは、難を逃れてベッドの下に逃げ込み、事の次第を目撃した。チャックが親戚から聞いた話によると、祖父はクレーンに頭をぶつける事故に遭ったことがあり、それ以降おかしくなったという。

父のフレッドは、母のキャロルと離婚後、雑誌の出会い欄で知り合った女性と付き合っていたが、チャックのデビュー作『ファイトクラブ』が映画化された1999年に、その女性の元夫によって女性とともに射殺され、家ごと燃やされるという事件に巻き込まれ亡くなった[2][3][4]。母キャロルは工場で働いていたが[5]、2009年に亡くなった[6]

兄弟は4人[6]

2004年、『エンターテインメント・ウィークリー』誌の記者カレン・ヴァルビーとのインタビューを経て、自身がゲイであることを公表した。フレートライナー社に勤めていた時期から20年以上付き合いのある男性と暮らしていることを公言している[7]。 2008年5月の『アドボケート』誌のインタビューによると、彼とパートナーのマイクは、ワシントン州バンクーバー郊外にある元教会の敷地内に住んでいる。

2007年のインタビューで、俳優のジャック・パランス(本名ヴォロディミル・パラニューク)とその娘ホリーとは遠縁の関係にあると語った。

作品

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長編
短編
  • Negative Reinforcement (1990年)
  • The Love Theme of Sybil and William(1990年)
  • Guts(2004年)
    • 『はらわた-聖ガット・フリー語る』、柳下毅一郎 訳、早川書房、2005年
  • Insiders(2007年)
  • Mister Elegant(2007年)
  • Fetch(2009年)
  • Loser(2010年)
  • Knock, Knock(2010年)
  • Romance(2011年)
  • Phoenix(2013年)
  • Cannibal(2013年)
  • Zombie(2013年)
  • Let's See What Happens(2015年)
  • Dad All Over(2015年)
  • One Day You'll Thank Me(2018年)
  • Unlawful Entry(2018年)
  • Repercussions(2019年)
ノンフィクション
  • Fugitives and Refugees: A Walk in Portland, Oregon (2003年)
  • Stranger Than Fiction: True Stories (2004年)
  • You Do Not Talk About Fight Club: I Am Jack's Completely Unauthorized Essay Collection (2008年)
  • Consider This: Moments In My Writing Life After Which Everything Was Different (2020)年
    • 『創作のルール ―最初の一行で読者を惹きつける技法―』、池田真紀子 訳、早川書房、2026年
映像作品
  • ファイト・クラブ(1999年/映画/原作 監督:デヴィッド・フィンチャー)
  • Postcards from the Future: The Chuck Palahniuk Documentary (2003年/ドキュメンタリー映画/出演)
  • セックス・クラブ(2008年/映画/原作 監督:クラーク・グレッグ
  • Romance(2012年/短篇映画/原作)
  • The Royal Bengal Tiger(原題:দ্য রয়েল বেঙ্গল টাইগার (চলচ্চিত্র))(2014年/映画/原作 監督:ラジェス・ガングリー)
  • Swan Song(2015年/短篇映画/原作)

脚注

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  1. Strange But True: A Short Biography of Chuck PalahniukThe Cult/The official fan site of Chuck Palahniuk
  2. 1 2 3 Chuck Palahniuk: 'I shy away from non-consensual violence' The Independent, 16 June 2012
  3. 1 2 'It's Paula-nick'theguardian.com, Wednesday 24 March 2004
  4. Dale Carter SHACKELFORDMurderpedia, the encyclopedia of murderers
  5. Blokes on the ropesThe Guardian, 8 November 2000
  6. 1 2 My Secret Life: Chuck Palahniuk, author, 49The Independent, 03 September 2011
  7. チャック・パラニューク. ファイト・クラブ. 早川書房. p. 321. ISBN 978-4-15-041337-8

外部リンク

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