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ダクテュロス (精霊)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ダクテュロス[1]古希: Δάκτυλος, Daktylos, ラテン語: Dactylus)はギリシア神話に登場するイーデー山に住む精霊[1]。複数形はダクテュロイ古希: Δάκτυλοι, Daktyloi, ラテン語: Dactyli[1]。その名は「」の意[1]。常に「イーデー山の」と形容され[2]、「イーデー山の指 (Daktyloi Idaioi)」と呼ばれた[3]。彼らは冶金の術に優れた山の精と考えられた[3]

概要

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レアーまたはキュベレーの従者で、クレーテー島で幼いゼウスの番をしたとされ、コリュバースたちやクーレースたち、テルキーネスカベイロスたちと混同される[1]小人とも巨人ともいわれ、その数も3人、5人、10人、100人など諸説ある[1]。最古の文献ではケルミス (Kelmis)、ダムナメネウス (Damnameneus)、アクモーン (Akmon) の3人でアドレーステイア (Adresteia)[注釈 1]の召使で冶金術の発明者となっている[3]

一説にはヘーラクレース(英雄のヘーラクレースとは別である)、エピメーデース (Epimedes)、イーダース(またはアケシダース、Akesidas)、パイオーナイオス (Paionaios)、イーアソスの5人兄弟で[3]、彼らが幼いゼウス(オリュンピアの祭神)を慰めるためオリュンピアで初めて競技を行ったという(エーリス地方の伝説でこれがオリュンピア競技祭の起源とされる)[4]。彼らは6人の男性の巨人と5人の姉妹からなるともいわれ、男たちはクレーテー島の人々にの使用を教え、女たちは大地母神の秘儀を教えたという[2]。さらに、魔力を発揮する32人と、その魔力を解く20人からなるという説もある[2]。また、男女6人ずつの12人だともいわれる[4]

レアーがゼウスを産んだ際に、苦痛の余り土を手指で掴んで投げた所、右手から男5人、左手から女5人が生まれたためダクテュロイと呼ばれたとされる[1]ロドスのアポローニオスによれば、土を掴んで彼らを生んだのはニュンペーアンキアレー英語版だという[3]。また、ゼウスの乳母たちが指で背後に投げた塵から生まれたともいわれる[3]。後述のプリュギアイーデー山と関連付けられる際には彼らはキュベレーの子供たちとされることもあった[2]

初めて鉄を発見して加工し、その精練を通して優れた器具を製造したとされる[1]呪術に通じ、ローマ時代になっても多くの女性が彼らの魔術の呪文に従って護符を作っていたという[1]。クーレースたちとコリュバースたちがダクテュロスたちの子孫であるとする説もある[1]

別伝によれば、彼らはプリュギアのイーデー山におり、パリスに音楽を伝授し、その後サモトラーケー島へ移住して密儀宗教に従事したという[1]。その弟子となったオルペウスは密儀や入信儀礼をギリシア人の間に広めたといわれる[1]

脚注

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注釈

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  1. ^ この名がキュベレーないしレアーの別名かどうかは不明である[3]

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l 『西洋古典学事典』723頁。
  2. ^ a b c d マイケル・グラント『ギリシア・ローマ神話事典』293頁。
  3. ^ a b c d e f g 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』144頁。
  4. ^ a b 呉茂一『ギリシア神話』103,104頁。

参考文献

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