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ターパン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ターパン
生息年代: 完新世
現存する唯一の直接の観察の下に描かれたとされる生体個体のスケッチ(1841年)。生後5ヵ月の牡馬英語版)だとされる。
保全状況評価
EXTINCT
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 EX.svg
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分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 奇蹄目 Perissodactyla
亜目 : ウマ形亜目 Hippomorpha
上科 : ウマ上科 Equoidea
: ウマ科 Equidae Gray1821
: ウマ属 Equus
: ノウマ E. ferus
亜種 : ターパン E. f. ferus
学名
Equus ferus ferus Boddaert, 1785
シノニム
  • Equus equiferus Pallas, 1811
  • Equus gmelini Antonius, 1912
  • Equus sylvestris Brincken, 1826
  • Equus silvaticus Vetulani, 1928.
  • Equus tarpan Pidoplichko, 1951
生息当時の分布
黄土色は進化において重要だった地域。

ターパンTarpan, 学名Equus ferus ferus)は絶滅した野生のノウマの亜種であり[1]。最後の1頭は1909年に死亡した。1930年代以降に品種改良によってターパンを形態的に復活させようという試みが何度か行われ、その結果、ヘックホース英語版ヘガルト等の品種が作出された。

語源

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ターパンという名前は、「野生の馬」を意味するテュルク諸語キルギス語カザフ語)に由来する[2][3]。日本語ではタルパンという表記がなされる場合もある[4]タタールコサックは野生の馬を区別し、TakjaMuzinと呼ぶ[5][6]

分類

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ターパンは1774年ヨハン・フリードリヒ・グメリンによって初めて記述された。グメリンは1769年ヴォロネジ近郊のボブロフスクでターパンを観察しており、1784年ピーター・ボダート英語版がグメリンの記述を基に Equus ferus と命名した。一方でオットー・アントニウス英語版はボダートの命名を把握しておらず、やはりグメリンの記述から1912年Equus gmelini という学名を発表した。両者は同じ記述を参照して命名しているため、ボダートによる物は新参客観異名となっている。現在では、1758年カール・フォン・リンネEquus caballus という学名を付けた家畜のウマはターパンの子孫であると考えられているが、多くの分類学者はこれらを同一種と見なしている。国際動物命名規約の規則を厳密に適用すると、ターパンの学名は E. caballus、または亜種とするならば E. caballus ferus が適用されるはずであるが、生物学者は家畜のウマとの混同を避けるために一般的にこの規則を無視して、ターパンに対しては E. ferus という学名を用いていた。

2003年動物命名法国際審議会は、家畜より以前に、または同じ時期に遡る野生種に基づく17の名前を保存すると発表し、ターパンに対する E. ferus という学名が裏付けられることとなった。家畜のウマをターパンの亜種だと考える分類学者は Equus ferus caballus という学名を用いている。Equus caballusという学名は家畜のウマを別種だとみなす名前として残された[7]

分布

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ターパンはステップ草原だけでなく森林地帯にも生息していたことが示唆されている。本来の分布はユーラシア・ステップを中心に広がっていたと考えられておりヨーロッパに生息していた野生馬の全てを同一種(E. f. ferus)とみなす場合は、西はイベリア半島から東はシベリアモンゴル中国、北はスカンジナビア半島やシベリアなどに分布していたことになるが、一方で仮にヨーロッパの野生馬が複数の亜種に再分類されるならば、厳密な E. f. ferus の生息地は東ヨーロッパのステップ地帯であった可能性がある[8][9]

特徴

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雑種の可能性もある「チェルソンのターパン」(1884年)。尻尾は飼育員によって切断され、去勢もされていた[8]

ターパンは原始的な馬であり、ヨハン・フリードリヒ・グメリンは自ら観察した本種の特徴として「ネズミのような色」「目立つ黒い点状の模様」「不釣り合いに分厚い頭部」を記述している。耳は個体によってはロバに匹敵する程に長かったり垂れ耳であった場合もあったと考えられている[8]

現存する唯一のターパンとされる生体の写真は、1866年ウクライナヘルソン州ノヴォヴォロンツォフカ英語版付近で捕獲された若い牡馬、通称「チェルソンのターパン(Cherson Tarpan)」とされた個体の物であった。この個体は肩高133センチメートルであり、非常に長い(たてがみ)と灰色の毛並み、背中と前脚の縞模様、黒い脚が特徴的だっとされる。この個体は捕獲後は1880年までノヴォヴォロンツォフカで飼育され、1884年モスクワ動物園によって購入された3年後の1887年に死亡した。一方で、この個体は(1841年の模写やモウコノウマと異なり)非常に長く垂れた鬣から純粋なターパンでない家畜馬の遺伝子を持つ雑種であった可能性も指摘されている[8]

人間との関係

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絶滅

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ラスコー洞窟洞窟壁画に描かれた、モウコノウマにも似た薄墨毛のウマ。

ターパンは有史以前よりフランススペインの南部からロシアの東部、中央部にかけて分布していた。ラスコーアルタミラ洞窟壁画に描かれた動物はターパンだと考えられており、またロシア南部では紀元前3000年頃のスキタイ遊牧民がターパンを家畜化していた痕跡が残っている[9]

モウコノウマと同様に珍味とみなされたこともあって人類による狩猟の対象にされていたが、同時に開発などによる生息環境の破壊や農業などとの軋轢、家畜馬との交配による遺伝子攪乱などもターパンの減少と最終的な絶滅に多大な影響を及ぼしたとされており、ターパンによる農作物の食害や、オスのターパンによる家畜の牝馬の拉致などが問題視されたこともターパンと農業従事者の衝突の原因になった。とくに東ヨーロッパでは、当時の農民からのターパンへの扱いは現代の北米における野生化した存在であるマスタングや野生化ロバ英語版)を取り巻く状況と類似していたとされる[8][9]

野生のターパンは1875年から1890年の間に絶滅したと考えられている。最後の1頭のオスは、1876年の現在のウクライナアスカニア・ノヴァ生物圏保護区[9]における捕獲の最中の事故で死亡した。飼育下の最後のターパンは1909年にロシアの動物園で死亡した[10]ポーランド政府によって、ビャウォヴィエジャの森のターパンの子孫を保護する努力がなされたが、これらの子孫はコニック(Polish primitive horse)として今日でも知られている[9]

復元の試み

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ヘックホース英語版

ターパンを復活させるために、これまでに3度の試みが行われた。1930年代前半にはベルリン動物園ルッツ・ヘック英語版ミュンヘン動物園ハインツ・ヘック英語版の兄弟が試みを開始し、1960年代になってヘックホース英語版を作り上げた[8]

1936年には、ポーランドの大学教授のタデウシュ・ベトゥラニコニックを使った試みを開始し、1960年代中盤にはアメリカでハリー・ヘガードが野生化馬のマスタングと地元の牧場で労働に使われていた馬を使って試みを始めてヘガルトを作り出した。完全に成功した試みはなかったが、3度ともグルロ色の毛色を筆頭にターパンと類似点の多い品種を産出することに成功した[8]

現在では、ターパンと家畜のウマの間の子孫を便宜的に「ターパンホース(Tarpan Horse)」という別の品種として区別している[9][11]

関連画像

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出典

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  1. ^ Grubb, P. [英語版] (2005). “Order Perissodactyla”. In Wilson, D.E.; Reeder, D.M (eds.). Mammal Species of the World: A Taxonomic and Geographic Reference (英語) (3rd ed.). Johns Hopkins University Press. p. 630-631. ISBN 978-0-8018-8221-0. OCLC 62265494.
  2. ^ Merriam-Webster Unabridged - Tarpan
  3. ^ Vasmer's Etymological Dictionary - Tarpan
  4. ^ 長谷川政美. “ウマの起源”. 進化の目で見る生き物たち. 2025年6月17日閲覧。
  5. ^ Boyd, Lee; Houpt, Katherine A. (1994). Przewalski's Horse: The History and Biology of an Endangered Species. SUNY Series in Endangered Species. SUNY Press英語版ニューヨーク州立大学オールバニ校. ISBN 0-7914-1890-1 
  6. ^ Smith, Charles Hamilton (1841-1866). The Natural History of Horses, with Memoir of Gesner. https://books.google.co.jp/books?id=xykBAAAAQAAJ&redir_esc=y&hl=ja 
  7. ^ 動物命名法国際審議会. 2003年. Opinion 2027 (Case 3010). "Usage of 17 specific names based on wild species which are pre-dated by or contemporary with those based on domestic animals (Lepidoptera, Osteichthyes, Mammalia): conserved." Bulletin of Zoologic Nomenclature, 60:81-84.
  8. ^ a b c d e f g Equus ferus ferus”. Recently Extinct Animals. The Extinction Website. 2009年1月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年7月9日閲覧。
  9. ^ a b c d e f Tarpan Horses”. Breeds of Livestock. オクラホマ州立大学. 2008年10月7日閲覧。
  10. ^ Dohner, Janet Vorwald (2001). “Equines: Natural History”. In Dohner, Janet Vorwald (ed.). Historic and Endangered Livestock and Poultry Breeds. イェール大学出版局英語版. p. 300. ISBN 978-0300088809.
  11. ^ What are Tarpans and Tarpan horses?”. Tarpan Horse Conservation Program. 2008年10月7日閲覧。

外部リンク

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