タトラT6A5

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タトラT6A5
タトラT6A5
ブラチスラヴァ2012年撮影)
基本情報
製造所 ČKDタトラ
製造年 1991年 - 1998年
製造数 T6A5 296両
T6A5.3 1両
主要諸元
軸配置 Bo'Bo'
軌間 1,000 mm1,435 mm
電気方式 直流600 V
架空電車線方式
最高速度 65 km/h
車両定員 客席30人
立席85人(乗客密度5人/m2時)
最大165人(乗客密度8人/m2時)
車両重量 18.7 t
全長 15,640 mm
車体長 14,700 mm
全幅 2,500 mm
全高 3,145 mm
床面高さ 920 mm
車輪径 700 mm
固定軸距 1,900 mm
台車中心間距離 6,700 mm
主電動機出力 45 kw
出力 180 kw
制御装置 TV3(サイリスタチョッパ制御
備考 主要数値は[1][2][3]に基づく。
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T6A5は、かつてチェコスロバキア(現:チェコ)のプラハに存在したČKDタトラが製造した路面電車車両タトラカー)。チェコスロバキア(→チェコスロバキア)の路面電車向けに設計が行われた形式である[4][5][1]

概要[編集]

導入までの経緯[編集]

1960年の製造開始以降、プラハ市電を始めとしたチェコスロバキア(現:チェコスロバキア)の路面電車路線には、ČKDタトラが展開するタトラT3の大量導入が行われていた。だが、1970年代に入ると抵抗制御を始めとしたT3の機構は前時代的なものとなり、消費電力やメンテナンスの削減を目的とした後継車両の開発が求められるようになった。それを受け、同年代以降サイリスタチョッパ制御を用い車体設計も大幅に改めたタトラT5の開発が行われたが、制御装置開発の難航を始めとする諸事情で計画は大幅に遅れ、チェコスロバキア各都市にはタトラT3を含めた旧型車両の置き換えのため、新造されたタトラT3が再度導入される事態となった。これらのタトラT3の後継車両の導入が本格的に行われたのは、タトラT6A5の製造が始まった1991年以降、当初の計画から20年以上過ぎてからとなった[4][5][6][7]

構造[編集]

T6A5は1両(単行)での運転が可能な車両で、ループ線が存在する路線での運用を前提にしており運転台は片側のみに設置され、乗降扉も右側のみに3箇所存在する。タトラT5から導入された、製造やメンテナンス、車体洗浄の容易さを図った直線状のデザインが用いられ、鋼製の外板には溶接構造が使われている他、内側には腐食や騒音を抑えるコーディングが施されている。床板には滑り止め用のゴム製マットが張り付けられており、メンテナンスの際は中央部を取り外す事が出来る[4][5][1]

座席は全席クロスシートで、右側は乗降扉付近(1人掛け)を除いて2人掛け、左側は1人掛けとなっている。これらの座席は清掃の容易さを考慮し、下部に空間が設けられているのが特徴である。客室には暖房として温度が2段階で調整可能な電気抵抗加熱装置が設置されている一方で冷房装置は搭載されておらず、夏季の通風は車体上方の開閉可能な小窓や屋根上のラインデリアによって行われる[1]

台車には車軸と並行、進行方向と垂直に主電動機が2基搭載されており、自在継手や歯車を介して動力を伝達する直角カルダン駆動方式が用いられる。台車には振動防止のためにオイルダンパーが設置され、制動装置として発電ブレーキ機械式ディスクブレーキ、非常用の電磁吸着ブレーキが存在する。制御装置はタトラT6系列に共通して採用されている、サイリスタチョッパ制御方式を採用したTV3形が用いられる[2][8][1]

製造年代における差異[編集]

T6A5は量産過程において何度か設計変更が実施されている[8]

  • 1次車 - 最初に製造された車両。床面や座席の色は灰色で、乗降扉は両開き式の2枚折り戸が用いられた[1][8]
  • 2次車 - 窓枠の構造や集電装置(シングルアーム式パンタグラフ)の形式が変更された他、乗降扉に騒音抑制装置が搭載された[8]
  • 3次車 - マイクロプロセッサ制御が導入され、運転台には機器や車体の状態が表示されるディスプレイが設置された他、運転台用の冷房装置の搭載が実施された。乗降扉も両開き式のプラグドアに変わり、床面や座席の色も変更されている。また、一部車両は制御装置の変更や客室への冷房搭載が試験的に行われている[8][9]

T6A5.3[編集]

プラハ市電のT6A5のうち、1998年に導入された1両(8600)については、低価格での車両更新を目的にタトラT3から部品を流用した「T6A5.3」として製造された。車体はT6A5と同型だが流用品である台車や一部機器が異なっていた他、制御装置にはIGBT素子を用いたTV14形が用いられ、回生ブレーキの搭載も含めて更なる消費電力の削減が図られた。プラハ市電の運営を行うプラハ公共交通会社(Dopravní podnik hlavního města Prahy、DP)と共同で生産が行われたが、改造費用は新造車両の導入費用とほぼ同じ結果となり、これ以上の増備は実施されなかった。機器の不調により2008年に営業運転を離脱し、4年後の2012年までに解体されたため現存しない[5][10]

運用[編集]

タトラT6A5の製造は1991年の試作車から始まり、同年から1998年までチェコスロバキアの5都市にT6A5.3を含めて合計297両が導入された。1両での運行の他、総括制御可能な機構を活かした連結運転も行われており、チェコブルノブルノ市電)では需要に対応するため2019年7月1日からT6A5を用いた3両編成が運転を開始している[11]

その一方で、チェコプラハプラハ市電)に導入された車両については超低床電車シュコダ15T "フォアシティ・アルファ"の導入に伴い2015年以降廃車が進み、2021年6月19日を最後に保存車両を除き営業運転を終了した。また、オストラヴァオストラヴァ市電)からも2023年6月29日さよなら運転をもって営業運転から撤退している。廃車された車両の一部はブルガリアソフィア市電)、ウクライナキーウ市電コノトプ市電)など他国への譲渡が行われている他、ブルノ市電でもプラハ市電から譲渡されたT6A5により老朽化した同型車両を置き換えられている[10][12][13][14][15][16][17]

導入都市[編集]

T6A5およびT6A5.3が導入された都市は以下の通りである。国名や都市名の一部には略称を含む[1][2][5][10]

T6A5 導入都市一覧[2][5][10]
形式 導入国 都市 導入車両数
T6A5 チェコ プラハ
(プラハ市電)
150両
オストラヴァ
(オストラヴァ市電)
38両
ブルノ
(ブルノ市電)
20両
スロバキア ブラチスラヴァ
(ブラチスラヴァ市電)
58両
コシツェ
(コシツェ市電)
30両
T6A5.3 チェコ プラハ
(プラハ市電)
1両

ギャラリー[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g TRAMCAR TYPE T6A5” (英語). SKD TRADE a.s.. 2020年1月29日閲覧。
  2. ^ a b c d Ryszard Piech (2008年3月18日). “Tramwaje Tatry na przestrzeni dziejów (3) od KT8 do upadku” (ポーランド語). InfoTram. 2020年1月29日閲覧。
  3. ^ Dopravoprojekt a.s. (2010年3月). Technicko - ekonomická štúdia: koľajová trať na území mestskej časti Bratislava Petržalka (PDF) (Report). pp. 93–94. 2020年1月29日閲覧
  4. ^ a b c (スロバキア語) Připomenutí prototypu tramvaje T5A5. Československý dopravák. (2017-3-21). http://www.cs-dopravak.cz/zpravy/2017/2/23/pipomenut-prototypu-tramvaje-t5a5 2020年1月29日閲覧。. 
  5. ^ a b c d e f Trams - T6A5” (英語). Opravna tramvají. 2020年1月29日閲覧。
  6. ^ Libor Hinčica (2019年1月30日). “V PRAZE VYJEDE POPRVÉ DO PROVOZU S CESTUJÍCÍMI REPASOVANÝ VŮZ T3SU” (チェコ語). Československý Dopravák. 2020年1月29日閲覧。
  7. ^ tramwaje - T3SU” (チェコ語). Opravna tramvají. 2020年1月29日閲覧。
  8. ^ a b c d e ČKD T6” (スロバキア語). imhd.sk.. 2013年6月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年1月29日閲覧。
  9. ^ #7957 a #7958 už v Bratislave” (スロバキア語). imhd.sk.. 2013年7月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年1月29日閲覧。
  10. ^ a b c d Pražské „té šestky“ míří do Sofie” (チェコ語). Československý Dopravák (2016年6月30日). 2020年1月29日閲覧。
  11. ^ Libor Hinčica (2019年6月27日). “V Brně vyrazí do provozu „trojče“ vozů T6A5” (チェコ語). Československý Dopravák. 2020年1月29日閲覧。
  12. ^ В Киеве ввели в эксплуатацию чешские трамваи «Tatra T6A5» из Праги” (ロシア語). Пассажирский транспорт (2019年7月10日). 2020年1月29日閲覧。
  13. ^ Praha připravila „Tramvajovou slavnost“” (チェコ語). Československý Dopravák (2017年3月28日). 2020年1月29日閲覧。
  14. ^ Brno kupuje 10 tramvají T6A5 z Prahy” (チェコ語). Československý Dopravák (2019年6月2日). 2020年1月29日閲覧。
  15. ^ DPP se rozloučí s tramvajemi T6A5, do pravidelného provozu vyjedou naposledy tuto sobotu”. Dopravní podnik hlavního města Prahy, a.s. (2021年6月15日). 2021年6月18日閲覧。
  16. ^ Libor Hinčica (2023年6月17日). “Ostrava se dne 29. 6. 2023 rozloučí s tramvajemi T6A5”. Československý Dopravák. 2023年7月16日閲覧。
  17. ^ Libor Hinčica (2023年6月27日). “Ostrava předá do Konotopu 25 tramvají typů T6A5 a T3”. Československý Dopravák. 2023年7月16日閲覧。