タチジャコウソウ

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タチジャコウソウ(タイム)
Thymian.jpg
タチジャコウソウ (Thymus vulgaris)
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: シソ目 Lamiales
: シソ科 Lamiaceae
: イブキジャコウソウ属 Thymus
: タチジャコウソウ T. vulgaris
学名
Thymus vulgaris L.[1]
和名
タチジャコウソウ
英名
Thyme
Comon thyme
Garden thyme

タチジャコウソウ (立麝香草、学名Thymus vulgaris L.) は、シソ科イブキジャコウソウ属多年生植物。日本では一般にタイムとよばれている代表種で、株全体に芳香があり、ハーブ香辛料としてよく知られる。

名称[編集]

和名タチジャコウソウは、茎が立ち上がり、麝香のようなよい香りがするので、漢字で「立麝香草」と書く[2]。和名の由来は、日本にも自生する近縁種のイブキジャコウソウが地を這うのに対して、本種は先端が立ち上がることから名付けられたものである[3]

日本ではタチジャコウソウのことを一般にタイムと呼ぶことが多く[2]、キダチヒャクリコウ(木立百里香)、チームソウ(チーム草)、スペインジャコウソウなどの別名もある[1][4][5]ラテン語名ティムス(Thymus)が転訛して、「チムス草」の別名も生まれている[3]

英語圏では、タイム(Thyme[5]、コモンタイム(Comon thyme[6]、ガーデンタイム(Garden thyme[6]と呼ばれている。「タイム」の語源は諸説あり、ギリシア語で「神前に香を焚く」ことを意味するセインから、スモン(勲香)となり、ラテン名のティムスから英名のタイムへと変化したという説[3]、ギリシア語の thuo(消毒)に由来するという説[5]、ギリシア語で防腐を意味するチモン(Thymon)に由来し、殺菌・防腐作用が強いことにちなむという説[7]などがある。

中国名は麝香草(じゃこうそう)[8]漢名は百里香(ひゃくりこう)[9]という。

分布・生育地[編集]

ヨーロッパ南部の地中海沿岸地域の原産といわれており[2]、地中海西部沿岸地域の乾燥地帯に分布する[10]。海岸部の標高600メートル (m) 付近から内陸寄りの標高1600 m付近の山腹で乾燥した砂地に、雑草化した野性のものが自生している[10][6][4]。香料用などのために世界各地で栽培もされている[11]日本には明治時代初期に渡来したが、現代においてはあまり多く栽培されていない[11]

特徴[編集]

タチジャコウソウ(タイム)のイラスト
多数枝分かれして叢生する。
開花期の茎葉

常緑性の多年草、もしくは常緑小低木[6]で、ハーブの一種として知られる。全体に芳香があり、外観は草のようにも見える[3]

花茎がないときは高さ3 - 10センチメートル (cm) 、花茎があるときは高さ18 - 40 cmほどになり、は細く、基部は地面を這うようにまっすぐに伸びてよく分枝して広がり、先端が直立または斜上する[10][11][4]。若い枝は緑色でやわらかいが、古くなると褐色になって木質化する[10]

対生してつき叢生する[2][6]。葉身は緑色で長さ9 - 12ミリメートル (mm) と小さく、肉厚で芳香があり、線形、長楕円形、やや細い被針形、長卵形、倒卵形などがある[10][11][2][6][3]。全縁で葉の先は尖り、葉縁が下面側に反り返って巻き込むように半曲する[10][8]。芳香を放つ細長い葉は濃緑色から灰緑色まであり、上の方は暗緑色、下の方は白っぽく、花が咲くときが最も香りが強い[12][4]葉柄はないか、または短い[10]

花期は晩春から初夏(5 - 6月)。花茎の頂に、唇形の淡紅色の小を輪散花序に群がって咲かせる[2][6]。花色は淡桃色が多く、中には白色のものもあり[10]、花形はシソ科特有の2唇形で上唇は浅く2裂、下唇は3裂して中央の裂片が大きく、4本ある雄しべは花冠よりも突き出す[9]。繁殖は、種子繁殖も栄養繁殖もできる[4]

利用[編集]

開花期の5 - 6月ころに、花をつけたままの茎葉を刈り取って陰干ししたものをタイム、またはチムス草とよんでハーブとして茶、料理として食用するほか[2]、芳香料としてポプリにしたり、観賞用に用いる[6]。料理用には、茎葉を随時摘み取って生のままか、乾燥保存して利用する[13]。茎葉に0.3 - 2.5%含まれているチモールなどの精油成分は[2]、香料や薬用とする[11]

古代からタイムが持つ芳香と薬効が利用されており、古代エジプトの人々は被葬者の防腐処理をするために使用した[12]古代ギリシアの神殿では香として焚かれ、古代ローマ人は愛と美の女神ビーナスに献上したという[12]。また中世期になると、タイムが人々に勇気を与えてくれるものだと信じられていた[12]。冷蔵技術がまだ発達していない時代のヨーロッパでは、古くから肉や野菜の保存や料理の香味付けに欠かせないハーブとして重宝されてきた[10][7]

薬効[編集]

薬用部位は全草で、生薬名を麝香草(ジャコウソウ)、百里香(ヒャクリコウ)、またはタイム(Thyme)と称して、5 - 6月の開花期に採取して、水洗い後にそのまま使用するか、日干ししたものが使われる[8][5]

利尿剤、鎮咳作用から喘息の発作の抑制、鎮痙作用、催淫作用、興奮剤、去痰作用があるといわれており、発汗作用や月経を促し、腹にたまったガスを取り去って腸をすっきりさせる駆風効果がある[12]

含まれている精油成分として、チモール20 - 50%、カルバクロールピネンリナロールオレアノール酸ウルソール酸などがある。チモールには痰をきる去痰作用、せきを鎮める鎮咳作用、芳香性の健胃などの働きがあり、大腸菌黄色ブドウ球菌に対し抑制作用があり、皮膚真菌に対しても抗真菌作用がある[8]。チモールやカルバクロールには、防腐や鈎虫(こうちゅう)、鞭虫などに対する駆虫効果がある[12][8]。往年では製薬原料とされていたが、近年は合成チモールに切り替えられている[2]

薬用[編集]

世界保健機関 (WHO) では、消化不良などの胃腸障害、風邪気管支炎百日咳による咳に対する内服薬、咽頭炎扁桃炎に対するうがい薬として、また口腔衛生での抗菌薬として局所的な使用を認めている[5]。薬草の使用量は1歳超から成人まで、乾燥または新鮮薬草を1日1 - 2グラムを数回に分けて服用するとし、妊娠中や授乳中の女性は使用禁忌、高血圧症の人には長期間の連続使用や多量摂取は避けるべきとしている[5]。精油には通経作用があるため、妊娠中の使用に注意を要するという説もある[5]

民間療法ではハーブティーにして飲まれており、胃のむかつきや消化不良時の胃もたれ、食欲不振、また風邪の咳止めに、タイム5 - 10グラムほどをカップに入れて、紅茶を注いで3 - 5分程の間おいておき、タイムを取り除いたあとのタイムティーにして飲むとよいとされる[3]

肩こり腰痛筋肉痛不眠症などには、タイム1握りほどを布袋に入れて浴湯料にして風呂に入れ、入浴するとよいとされる。タイムに含まれる精油を浴湯料として用いると、実際には感じない程度であるが肌を刺激し、血液循環を促進する作用がある[2]。陰干しした全草を水蒸気蒸留して得られるチアミン油は、皮膚刺激剤として用いられる[8]

料理のハーブ[編集]

タイムはセージとならび、最もポピュラーな香辛野菜として知られる[4]。ヨーロッパでは香味料としてソーススープ肉料理魚料理に広く利用されている。特に「魚のハーブ」と呼ばれるほど魚介料理との相性はよく、ムニエルマリネクラムチャウダーの風味づけに使われる[7]

フレッシュタイムとよばれる生の新芽の部分は、快い苦味があり、西洋料理の風味づけに好適で、枝ごとまたは葉をちぎって使用され、ガーニッシュ(付け合わせ)としても用いられる[3][7]。乾燥品(ドライ)は清涼感のある甘い香りと、ほろ苦みがある[7]。フレッシュあるいは乾燥いずれの場合も、香りがとびにくく、加熱調理によく耐えることから、スープやシチューカスレトマトソーススープストック、オーブン焼き料理、煮込み料理などに向いている[12][7]パセリベイリーフに加えて、ブーケ・ガルニにする材料のひとつでもある[12]。タイムと相性のよい他のハーブやスパイスに、ローズマリーレモンバームオレガノレモンバーベナディルバジルガーリックなどが挙げられている[7]

酢に個性的な風味づけをすることに加え、防腐効果もあることから、デリカテッセン肉やマリネをつくる際に材料として使われる[12]。冬季に霜焼けて暗赤色になった葉は、食用油ビネガーバターなどの風味づけや着色料になる[10]

栄養成分は、粉に挽いた乾燥葉1グラムあたり、カルシウム26 mgカリウム11 mg、ビタミンAμgRE、マグネシウム3 mg、リン3 mg、1.7 mgを含む[12]

香料[編集]

精油は香水石鹸バスタオル、その他の化粧品の香料に使われる[12]ギリシアでは、神殿を香らせる燻香料として用いられている。これは、香りの高いところに邪気は起こらないという考えの基に行われるものである[2]

栽培[編集]

プランター栽培されているタイム(タチジャコウソウ)

日当たりと排水性、通気性の良い酸性ではない土壌を好む性質で、風通しが悪いと蒸れて枯れるときがある[9]挿し木株分け、種蒔きで増やすことができ、種蒔期は春蒔きと秋蒔きがあり、挿し木と株分けは晩春から初夏と初秋が適する[9]。種子は細かいため、蒔いたあとの土は被せないで、上から手で抑えるようにする[9]。芽が出て生長してきたら、定植をする。株がしっかりしたら茎葉を常時収穫することができるが、越冬前は収穫が控えられる[9]

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Thymus vulgaris L.” (日本語). BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年4月6日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k 田中孝治 1995, p. 93.
  3. ^ a b c d e f g 田中孝治 2002, p. 161.
  4. ^ a b c d e f 平総監修 芦澤・梶浦・竹内・中井監修 2006, p. 160.
  5. ^ a b c d e f g NTS薬用植物辞典編集委員会編 2016, pp. 205–206.
  6. ^ a b c d e f g h タチジャコウソウ”. かぎけん花図鑑. 科学技術研究所. 2021年4月6日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g 学研パブリッシング編 2015, p. 100.
  8. ^ a b c d e f 岡田稔監修 2002, p. 463.
  9. ^ a b c d e f 主婦の友社編 1995, p. 72.
  10. ^ a b c d e f g h i j 耕作舎 2009, p. 84.
  11. ^ a b c d e 邑田・米倉編 2013, p. 564.
  12. ^ a b c d e f g h i j k 杉田浩一・村山篤子監修 1999, p. 477.
  13. ^ 耕作舎 2009, p. 85.

参考文献[編集]

  • NTS薬用植物辞典編集委員会編『薬用植物辞典』エヌ・ティー・エス、2016年12月8日、205 - 206頁。ISBN 978-4-86043-416-8
  • 岡田稔監修『新訂原色 牧野和漢薬草大圖鑑』北隆館、2002年10月20日、新訂版、463頁。ISBN 4-8326-0810-X
  • 学研パブリッシング編『贅沢時間 スパイス&ハーブ事典』学研パブリッシング、2015年3月11日、100頁。ISBN 978-4-05-800435-7
  • 耕作舎『ハーブ図鑑200』アルスフォト企画(写真)、主婦の友社、2009年、84 - 86頁。ISBN 978-4-07-267387-4
  • 主婦の友社編『たのしいハーブ作り』主婦の友社〈主婦の友生活シリーズ〉、1995年4月20日、72頁。
  • 杉田浩一・村山篤子監修『カラー版 世界食材辞典』原文 Les Editions Quebic Amerique Inc.、大羽和子ほか訳、柴田書店、1999年5月10日、477頁。
  • 平宏和総監修 芦澤正和・梶浦一郎・竹内昌昭・中井博康監修『食品図鑑』女子栄養大学出版部、2006年、160頁。ISBN 4-7895-5430-9
  • 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、93頁。ISBN 4-06-195372-9
  • 田中孝治『家庭で使える薬用植物大辞典』神藏嘉髙(写真)、家の光協会、2002年2月1日、161頁。ISBN 4-259-56016-6
  • 邑田仁米倉浩司編『APG原色牧野植物大図鑑II〔グミ科〜セリ科〕』北隆館、2013年3月25日。ISBN 978-4-8326-0974-7

関連項目[編集]

外部リンク[編集]