スラヴ舞曲

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スラヴ舞曲集から転送)
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全曲を試聴する《原典版(4手連弾)》
Slavonic Dances, Op.46 & Op.72 - デュオ・クロムランクP連弾)による演奏。Claves Records(レコードレーベル)公式YouTube。

スラヴ舞曲集』(スラヴぶきょくしゅう、チェコ語: Slovanské tance)は、アントニン・ドヴォルザークが作曲した舞曲集。元はピアノ連弾のために書かれたが、作曲者自身によって全曲が管弦楽編曲された。

何れも8曲からなる第1集作品46(B83)と第2集作品72(B147)が存在する。

第1集 作品46 (B83)[編集]

第1集(作品46)初版の楽譜表紙
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第1集作品46(管弦楽版)を試聴
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ラファエル・クーベリック指揮、バイエルン放送交響楽団による演奏。YouTubeアートトラック公式収集による。

ドヴォルザークは1875年オーストリア帝国政府の奨学金の審査で提出作品が認められ、以後その支給を受けて乏しい収入を補っていた。その審査員の中にはハンスリックブラームスがいたが、特にブラームスはドヴォルザークの才能を高く評価し、出版社、ジムロックにドヴォルザークを紹介した。ブラームスは以後も生涯にわたってドヴォルザークを支援していくことになった。

ジムロック社は、ブラームスの『ハンガリー舞曲集』の成功を受けて、ドヴォルザークにもこうした舞曲集の作曲を要望した。それに応えて1878年3月から5月にかけて作曲されたのが、8曲からなる『スラヴ舞曲集』(第1集)作品46である。最初に『ハンガリー舞曲集』と同様にピアノ連弾曲集として出版され、ただちに人気を博した。ドヴォルザークは同年4月には管弦楽編曲に着手しており、8月に全8曲の編曲が完成した。これも同年のうちに出版され、たちまち世界中のオーケストラのレパートリーとなった。

連弾版の初演については明らかでない。管弦楽版は第1、3、4番が1878年5月16日にプラハアドルフ・チェフの指揮により行われている。

第1集ではボヘミアの代表的な舞曲であるフリアント、ソウセツカー、スコチナーなどが取り上げられている。ドヴォルザークは民族舞曲のリズムや特徴を生かしつつも、旋律は独自に作曲している。

管弦楽版の編成[編集]

ピッコロ(第1、3、6、7、8番のみ)、フルート(第2、3、4、5番では2本、第2、5番は第2奏者ピッコロ持ち替え)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニシンバルトライアングル大太鼓弦五部

演奏時間[編集]

第1番:約4分、第2番:約5分、第3番:約4分、第4番:約7分、第5番:約3分、第6番:約6分、第7番:約4分、第8番:約4分

各曲の内容[編集]

  • 第1番 プレスト ハ長調 4分の3拍子。フリアント複合三部形式
  • 第2番 アレグレット・スケルツァンド ホ短調 4分の2拍子。ロンド風のドゥムカ。
  • 第3番 ポーコ・アレグロ 変イ長調 2分の2拍子。ロンド風、ポルカ風の曲。
  • 第4番 テンポ・ディ・ミヌエット ヘ長調 4分の3拍子。ソウセツカー風、複合三部形式。
  • 第5番 アレグロ・ヴィヴァーチェ イ長調 4分の2拍子。スコチナーとヴルタークによるロンド形式。
  • 第6番 アレグレット・スケルツァンド ニ長調 4分の3拍子。ソウセツカー、複合三部形式。
  • 第7番 アレグロ・アッサイ ハ短調 4分の2拍子。テトカ(モラヴィアの舞曲)、クヴァピーク(チェコの舞曲)などの組み合わせ、自由なロンド形式。
  • 第8番 プレスト ト短調 4分の3拍子。フリアント、複合三部形式。

第2集 作品72 (B147)[編集]

音楽・音声外部リンク
第2集作品72(管弦楽版)を試聴
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ラファエル・クーベリック指揮、バイエルン放送交響楽団による演奏。YouTubeアートトラック公式収集による。

第1集が成功したため、ジムロック社は次なる舞曲集の作曲を早くからドヴォルザークに要望していた。ドヴォルザークはすでに作曲家としての名声を確立し、次々と大作を手掛けつつあり、また前作をしのぐものを書くことは難しいと思っていて、その作曲には当初は消極的だった。しかし、1886年6月になって突然創作意欲が湧き、1ヶ月でピアノ連弾版の全8曲を完成した。これが『スラヴ舞曲集』第2集 作品72である。管弦楽編曲も同年11月から翌1887年1月にかけて行われ、両版ともそれぞれの完成の年に出版された。

第2集も連弾版の初演については明らかでない。管弦楽版は第1、2、7番が1887年1月6日にプラハでドヴォルザーク自身の指揮により行われている。

第2集ではチェコの舞曲は少数にとどめ、他のスラヴ地域の舞曲を取り入れているのが特色である。特に第2番は管弦楽版が時折TV番組やCMにも取り上げられるなど、有名である。NHKの音楽番組「名曲アルバム」の初回放送(1976年4月5日)も、この第2番が取り上げられた。

なお、各曲は第2集だけの通し番号で呼ばれることもあるが、第1集からの通し番号で呼ばれることが多い。本項では前者を採るが、後者の場合には順に第9番から第16番となる。

管弦楽版の編成[編集]

ピッコロ(第7番のみ)、フルート2(第7番のみ1本、第6番は第2奏者ピッコロ持ち替え)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニシンバル(第1、3、5、7番のみ)、トライアングル(同)、大太鼓(同)、ベル(第8番のみ)、弦五部

演奏時間[編集]

第1番:約4分、第2番:約6分、第3番:約4分、第4番:約5分、第5番:約3分、第6番:約4分、第7番:約3分、第8番:約7分

各曲の内容[編集]

  • 第1番 モルト・ヴィヴァーチェ ロ長調 4分の2拍子。オドゼメック(スロヴァキア舞曲)、複合三部形式
  • 第2番 アレグレット・グラツィオーソ ホ短調 8分の3拍子。ドゥムカまたはソウセツカー、複合三部形式。
  • 第3番 アレグロ ヘ長調 4分の2拍子。チェコ風の舞曲、複合三部形式。
  • 第4番 アレグレット・グラツィオーソ 変ニ長調 8分の3拍子。ウクライナ風のドゥムカ、複合三部形式。
  • 第5番 ポーコ・アダージョ 変ロ短調 8分の4拍子。シュパツィールカ、複合二部形式。
  • 第6番 モデラート・クアジ・ミヌエット 変ロ長調 4分の3拍子。スタロダーヴニ(ポロネーズに似たポーランドの舞曲)、複合三部形式。
  • 第7番 アレグロ・ヴィヴァーチェ ハ長調 4分の2拍子。コロ(クロアチアの舞曲)、複合三部形式。
  • 第8番 グラツィオーソ・エ・レント、マ・ノン・トロッポ、クアジ・テンポ・ディ・ヴァルセ 変イ長調 4分の3拍子。ソウセツカーにマズルカの要素を加味、三部形式。

参考文献[編集]

  • 作曲家別名曲解説ライブラリー6 ドヴォルザーク(音楽之友社

外部リンク[編集]