スペインの時

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スペインの時計から転送)
コンセプションを初演したジュヌヴィエーヴ・ヴィックス

スペインの時』 (仏語L'heure espagnole)は、モーリス・ラヴェルが作曲した1幕からなるオペラ。しばしば「コメディ・ミュジカル」(音楽喜劇)と呼ばれる。日本ではタイトルを『スペインの時計』と誤記される場合があるが、原題のニュアンスは「スペイン・アワー」とでもいったもの。すなわち「スペイン風に流れるひととき」である。演出上、舞台に大時計が置かれることからの連想で、タイトルを「スペインの時計」と誤解されたのが始まりではないかと思われる。敢えてイタリアにおける「オペラ・ブッファ」形式を借りて作曲し、「私はスペイン風にまとめてみましたよ」と、ラヴェルの皮肉っぽい洒落が効いたタイトルともなっている。

概要[編集]

ラヴェル(1910年)

ラヴェルは1907年パリオデオン座で、フラン・ノアンフランス語版英語版ファルサ(笑劇)『スペインの時』を観た際に、この劇を作曲することを決心した。原作者の了解を得た上で1907年に作曲を開始し、同年10月に短期間で完成された。しかし、初演はすぐには行われなかった。これは、聴衆がこのオペラを受け入れるか当時のオペラ=コミック座の監督が疑問を呈したため、その受理を引き延ばしていたという。

初演はその4年後の1911年5月19日にパリのオペラ=コミック座で、アルベール・リュルマンフランス語版英語版の指揮によって行われた。批評家の反応は様々であったものの、ある程度の評価は得られた。

日本での初演は、1961年7月1日に、共立講堂で、藤原歌劇団/三石精一指揮、ABC交響楽団にて行われた[1]

演奏時間[編集]

約47分

楽器編成[編集]

ピッコロフルート2、オーボエ2、コーラングレクラリネット2、バスクラリネットバスーン2、サリュソフォーンホルン4、トランペット2、トロンボーン3、コントラバスチューバティンパニ時計の振り子大太鼓小太鼓シンバルチューブラーベルカスタネットラチェットグロッケンシュピールスレイベルスプリングタンブリンタムタムトライアングルむちシロフォンチェレスタハープ2、弦5部

登場人物[編集]

スコアの表紙
人物名 声域 初演時のキャスト
1911年5月19日
指揮:アルベール・リュルマン英語版
トルケマダ テノール 時計屋の主人 モーリス・カズヌーヴ
コンセプシオン ソプラノ トルケマダの妻 ジュヌヴィエーヴ・ヴィックス英語版
ゴンサルヴェ テノール 独身の男 モーリス・クロン
ラミーロ バリトン らば曳き ジャン・ペリエ
ドン・イニーゴ・ゴメス バス 銀行家 エクトール・デュフランヌ


あらすじ[編集]

18世紀のトレドの町、トルケマダの時計店。

ラバ曳きのラミーロがトルケマダの店に入ってくる。叔父にもらった時計を修理してくれという。トルケマダが時計を分解しようとすると、女房のコンセプシオンが入ってきて町の時計台の時計を調整に行くことを忘れているとがなり立てる。亭主が出かけようとすると、コンセプシオンは店の中にかさばる二つの大きな振り子時計のどちらかをはやく二階の部屋に持ってあがってくれとわめきだす。が、亭主には重すぎる。トルケマダはラミーロに帰りを待っていてくれというが、これはコンセプシオンには当て外れだ。というのも亭主の留守に愛人を引き込んで楽しもうとしていたからだ。

ラミーロの存在が邪魔なコンセプシオンは、ラミーロに振り子時計を持ってあがってくれないかと頼む。ラミーロは美人に頼まれごとをされるのがうれしく、軽々とそれを持ち上げて二階に消えてゆく。それと同時にコンセプシオンの愛人の一人、ゴンサルヴェが現れる。ゴンサルヴェは自作の恋愛詩を披露することで頭がいっぱいで、早いことお楽しみに移りたい彼女の気持ちがわからず、へんちくりんな詩を朗読する。そこにラミーロが戻ってきたので、悪いけれどさっきの時計ではなくもう一つの時計のほうが部屋に合ってそうだからそちらを上に上げてくれないかと頼む。ラミーロはさっき運んだ時計を取りにまた二階に戻ってゆく。コンセプシオンはゴンサルヴェを振り子時計の中に隠してしまう。ちょうどそこにもう一人の求愛者イニーゴがやってきて、早速コンセプシオンを熱烈に口説き始める。それをきっぱり断るところへ、第一の時計を持ちかえったラミーロは、ゴンサルヴェの入った第二の時計を持ってまた二階に上がってゆく。コンセプシオンは時計のメカニズムは微妙だとかいって一緒に二階に上がってゆく。

残されたイニーゴは作戦を変える。時計の中に隠れて降りてきた彼女を驚かせて彼女の気を引こうというのだ。ようようのことで中に入ったころラミーロが戻ってくる。コンセプシオンに店番を頼まれ、自分は力自慢だが女心はわからないと歌う。コンセプシオンが降りてきて、時計が「うまく動かない」と嘆く。イニーゴはおどけを始めようとしたが、体が挟まって外に出られない。コンセプシオンに出ろといわれても出るのを拒否する。ラミーロが「壊れた」時計をおろしてくる。そして(イニーゴの入っている)もう一方を持ってあがる。コンセプシオンはゴンサルヴェに向かってかんしゃく玉を破裂させる。

ゴンサルヴェは全く気にせず朗読を続けるが、ラミーロが戻ってきたので時計の中に隠れる。興奮したコンセプシオンが降りてきたのを見てラミーロはまた時計を降ろしに二階に上がる。今度は詩ではなく肥満が原因である。そろそろ夫の帰ってくる時刻である。欲求不満のコンセプシオンは今度はマッチョのラミーロに目をつけ、時計はいいからと彼を二階へと誘う。

イニーゴは時計から出ようとするが、ゴンサルヴェのほうがさきに時計から出てくる。外に出ようとしたところで店の主人が帰ってくるので再び時計の中に入ろうとして間違えてイニーゴのいる時計を開けてしまう。トルケマダのうたがいを招くまいと、イニーゴは振り子をよく見ようとして挟まってしまったと言い訳し、ゴンサルヴェは時計を買うのだという。ラミーロとコンセプシオンが降りてくる。みんなでイニーゴを引き出そうとするがだめ、しかしラミーロは一人で簡単に引き出してしまう。イニーゴもまた時計を買うはめになる。

備考[編集]

  • 初演時はマスネのオペラ『テレーズ英語版』との2本立ての上演だった。
  • この作品を作曲して以降、ラヴェルは『スペイン狂詩曲』などのスペインを題材とした作品を生み出すことになる。

脚注[編集]

関連項目[編集]

参考文献[編集]

外部リンク[編集]