ストレッガ海底地すべり

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ストレッガ海底地すべりの所在地

ストレッガ海底地すべり[1]:158(ストレッガかいていじすべり、英語: Storegga slide)は北海に所在する大規模な地すべり跡及びそれを生じさせたイベントの名称である。

紀元前6225年から紀元前6170年の間にかけて発生したと考えられている、現在のノルウェー沖付近の大陸棚で発生した計三回の海底地すべりの総称である。これらの海底地すべりは合計290 km2の長さに及び、3500 km3の土砂が移動した。その結果、北海及び大西洋巨大津波を引き起こした[2]:289

概要[編集]

Storeggaはノルウェー語で「大きな縁」(stor (great) + egg (edge))の意を持つ大陸棚であり、ムーレの海岸の沖に所在した。海岸から100 kmほどの場所に大陸棚の淵があり、その場所において発生した大規模な海底地すべりがストレッガ海底地すべりである。また史上最大規模の地すべりであったと考えられている[2]:289

この海底地すべりは巨大な津波を引き起こし、その結果スコットランドなどに多量の堆積物を堆積させた。スコットランドのモントローズ盆地英語版においてはこれがよく観察され、堆積物に含まれていた植物を用いた放射性炭素年代測定により、この地すべりが紀元前6225年から紀元前6170年の間に発生したことが明らかとなった[3][4]

地すべりを引き起こした原因として様々な説が考えられてきた。Margonellis (2014)は海底に存在したメタンハイドレート地震によって約164倍に膨張したことによる崩壊を考えた[5]Williams (2016)氷河によって地面が迷子石のように運搬されたり、地震などによって陸上が崩壊したりしたことに伴って海底が崩壊したという考えを示した[6]

被害と痕跡[編集]

津波[編集]

地点別の津波到達高度[7]
地点別の津波到達高度[7]
スコットランドモントローズ盆地(英語版)に見られる、ストレッガ海底地すべりに起因する津波堆積物
スコットランドモントローズ盆地英語版に見られる、ストレッガ海底地すべりに起因する津波堆積物

地すべりが発生した場所から見て西にあるドッガーランドは現在海面上昇によって水没してしまい、ドッガーバンクと呼称されるとなっているが、ストレッガ海底地すべりが発生した当時は陸地であった。ここには中石器時代の人々が居住しており、現在のイギリスデンマークオランダを結ぶ陸橋となっていた。この場所はラグーン干潟などが広がっていた場所であり、住民は主に漁労によって食料を得ていたが[8]、この津波によって大きく人口を減少させたと考えられている[9][10][11]

脚注[編集]

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  1. ^ 藤原治 『津波堆積物の科学』東京大学出版会、東京、2015年11月。ISBN 978-4-13-060761-2NCID BB19821295OCLC 932368111国立国会図書館書誌ID:026811303 全国書誌番号:22659853 OL 31445526M 
  2. ^ a b Bondevik, Stein; Mangerud, Jan; Dawson, Sue; Dawson, Alastair; Lohne, Øystei (2003-08-05). “Record-breaking Height for 8000-Year-Old Tsunami in the North Atlantic”. Eos, Transactions, American Geophysical Union 84 (31): 289-293. Bibcode2003EOSTr..84..289B. doi:10.1029/2003EO310001. hdl:1956/729. https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1029/2003EO310001 2007年1月15日閲覧。. 
  3. ^ Bondevik, S; Lovholt, F; Harbitz, C; Stormo, S; Skjerdal, G (2006). "The Storegga Slide Tsunami - Deposits, Run-up Heights and Radiocarbon Dating of the 8000-Year-Old Tsunami in the North Atlantic". American Geophysical Union meeting. Bibcode:2006AGUFMOS34C..01B
  4. ^ Bondevik, S; Stormo, SK; Skjerdal, G (2012). “Green mosses date the Storegga tsunami to the chilliest decades of the 8.2 ka cold event”. Quaternary Science Reviews 45: 1-6. Bibcode2012QSRv...45....1B. doi:10.1016/j.quascirev.2012.04.020. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0277379112001679 2020年12月6日閲覧。. 
  5. ^ Margonellis, Lisa (10 2014). “An Inconvenient Ice”. Scientific American 45 (4): 82-89. Bibcode2014SciAm.311d..82M. doi:10.1038/scientificamerican1014-82. JSTOR 26040413. PMID 25314880. 
  6. ^ Sarah C. P. Williams (2016-02-16). “Skimming the surface of underwater landslides”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 113 (7): 1675-1678. doi:10.1073/pnas.1524012113. ISSN 1091-6490. OCLC 5998619024. PMC 4763740. PMID 26884637. https://www.pnas.org/content/113/7/1675 2020年12月6日閲覧。. 
  7. ^ P.C. Marrow (1992) (PDF). Seismic Monitoring of the North Sea. London: Health and Safety Executive. ISBN 978-0-11885999-8. NCID BA2856927X. OCLC 647046581. OL 10054979M. https://www.hse.gov.uk/research/othpdf/200-399/oth323.pdf 2020年11月29日閲覧。 
  8. ^ Coles, Bryony. “The Doggerland project”. エクセター大学. 2020年12月6日閲覧。
  9. ^ Weninger, Bernhard; Schulting, Rick; Bradtmöller, Marcel; Clare, Lee; Collard, Mark; Edinborough, Kevan; Hilpert, Johanna; Jöris, Olaf et al. (2008-12-31). “The catastrophic final flooding of Doggerland by the Storegga Slide tsunami”. Documenta Praehistorica 35: 1-24. doi:10.4312/dp.35.1. https://revije.ff.uni-lj.si/DocumentaPraehistorica/article/view/35.1 2020年12月6日閲覧。. 
  10. ^ Rincon, Paul (2014年5月1日). “Prehistoric North Sea 'Atlantis' hit by 5m tsunami”. 英国放送協会. オリジナルの2020年11月18日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20201118190958/https://www.bbc.com/news/science-environment-27224243 2020年12月6日閲覧。 
  11. ^ Hill, John; Collins, Gareth S.; Avdis, Alexandros; Kramer, Stephan C.; Piggott, Matthew D. (11 2014). “How does multiscale modelling and inclusion of realistic palaeobathymetry affect numerical simulation of the Storegga Slide tsunami?”. Ocean Modelling 83: 11-25. Bibcode2014OcMod..83...11H. doi:10.1016/j.ocemod.2014.08.007. ISSN 1463-5003. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1463500314001164 2020年12月6日閲覧。.  オープンアクセス

関連文献[編集]

関連項目[編集]

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外部リンク[編集]

座標: 北緯64度52分 東経1度18分 / 北緯64.867度 東経1.300度 / 64.867; 1.300