スチビン
Sb H | |
| 物質名 | |
|---|---|
Stibane | |
別名 Antimony trihydride | |
| 識別情報 | |
3D model (JSmol)
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| ChEBI | |
| ChemSpider | |
| ECHA InfoCard | 100.149.507 |
| EC番号 |
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| Gmelin参照 | 795 |
PubChem CID
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| RTECS number |
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日化辞番号
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| UNII | |
| 国連/北米番号 | 2676 |
CompTox Dashboard (EPA)
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| 性質 | |
| SbH3 | |
| モル質量 | 124.784 g/mol |
| 外観 | 無色気体 |
| 匂い | 硫化水素のような不快臭 |
| 密度 | 5.48 g/L, gas |
| 融点 | −88 °C (−126 °F; 185 K) |
| 沸点 | −17 °C (1 °F; 256 K) |
| わずかに可溶 | |
| エタノールへの溶解度 | 可溶[1] |
| 蒸気圧 | >1 atm (20°C)[2] |
| 共役酸 | スチボニウム |
| 構造 | |
| 三角錐形 | |
| 危険性 | |
| 労働安全衛生 (OHS/OSH): | |
主な危険性
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極めて有毒、可燃、高い反応性 |
| GHS表示: | |
| Danger | |
| H220, H330, H370 | |
| P210, P260, P264, P270, P307+P311, P321, P377, P381, P403, P405, P501 | |
| NFPA 704(ファイア・ダイアモンド) | |
| 引火点 | 可燃性気体 |
| 致死量または濃度 (LD, LC) | |
LCLo (最低致死濃度)
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100 ppm (マウス, 1 hr) 92 ppm (モルモット, 1 hr) 40 ppm (イヌ, 1 hr)[3] |
| NIOSH(米国の健康曝露限度): | |
| TWA 0.1 ppm (0.5 mg/m3)[2] | |
| TWA 0.1 ppm (0.5 mg/m3)[2] | |
| 5 ppm[2] | |
| 関連する物質 | |
| 関連物質 | アンモニア ホスフィン アルシン ビスムチン トリフェニルスチビン |
特記無き場合、データは標準状態 (25 °C [77 °F], 100 kPa) におけるものである。
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スチビン (stibine) は、化学式 SbH3、分子量 124.78 の、アンチモンの水素化物である。水素化アンチモン (antimony hydride) とも呼ばれる水素化ニクトゲンであり、IUPAC系統名では、スチバン (stibane) と表される。無色で極めて毒性が高く、アルシンに似たニンニク様の臭いを呈する。分子構造は、結合角91.7°結合長170.7 pm(1.707 Å)のH-Sb-H結合を持つ三角錐形である。
性質
[編集]沸点 −18 ℃、融点 −88 ℃ で、比重 2.26 g/mL (−25 ℃)。CAS登録番号は [7803-52-3]。水には溶けにくく、エタノールに可溶。
室温では徐々に、200 ℃ では急速に分解し、金属性アンチモン、水素を生じる。この分解反応は自己触媒的に起こり、爆発的な反応になりえる。
スチビンは酸素もしくは空気とすらも容易に反応し、速やかに酸化される。
塩素、濃硝酸、オゾンと激しく反応する。また、低温では酸化して準安定の黄色の同素体を生成する[4]。
スチビンの化学的性質はアルシンに似ている[5]。スチビンは典型的な分子量の大きい水素化物(例えばヒ化水素(アルシン)やテルル化水素、水素化スズ(スタナン))であり、それらの元素に対して不安定である。
スチビンは塩基性を示さないが、脱プロトン化されることができる。
NaSbH
2塩はスチビニドナトリウムと呼ばれ、SbH−
2はスチビニドイオンと呼ばれる。
合成
[編集]スチビンは通常、Sb3+と化学当量のH−との反応によって合成される[6]。
また、Sb3−はプロトン性の試薬であれば水でさえも反応し、この不安定なガスを生成する。
危険性
[編集]不安定な可燃性の気体であり、毒性が極めて高く、半数致死量(マウス)は100ppmである。 人体に対しては少量でも溶血作用を示し、肝臓・腎臓毒でありなおかつ神経毒、呼吸器毒である。また、激しく反応して火災・爆発を引き起こすため、取り扱いには注意が必要。 陰極材料にアンチモンが添加された鉛蓄電池は、充電時に微量のスチビンを発生するため、蓄電池室のように大量の鉛蓄電池を扱う場合には換気に注意する必要がある。
毒性学
[編集]スチビンの毒性は他のアンチモン化合物のものとは異なり、アルシンのものに類似する[7]。スチビンは赤血球のヘモグロビンと結合し、体内での赤血球の破壊を引き起こす。スチビン中毒のほとんどはアルシン中毒を伴い、実験ではそれらの毒性が等しいことが示されている。曝露後の初期症状は数時間後に現れ、頭痛、目眩、吐き気を引き起こし、溶血性貧血(非抱合型ビリルビン濃度の上昇)、血色素尿症、腎障害の症状が続く。
用途
[編集]スチビンは、化学気相成長法(CVD)によって少量のアンチモンをシリコンにドープし、半導体材料を製造するのに用いられる。エピタキシャル層においても用いられる。スチビンが燻蒸剤として用いられるという報告もあるが、その不安定性と扱いにくい合成法のため、ホスフィンがより一般的な燻蒸剤となっている。
歴史
[編集]スチビンはアルシンに似ており、マーシュの試験法によって検出することができる。マーシュの試験法は、ヒ素の存在下で生成されたアルシンを検出することができる[5]。1836年頃にジェームズ・マーシュによって考案されたこの方法は、ヒ素を含まない亜鉛と希硫酸を使い、試料がヒ素を含む場合は気体のアルシンが生成される。この気体はガラス管へ導かれ、約250 ℃から300 ℃まで熱することで分解する。ヒ素の存在は、加熱部に残る沈殿物によって示され、低温部の黒色の沈殿物によってアンチモンの存在が示される。
1837年、ルイス・トムソンとパッフは、独立にスチビンを発見したが、適切な合成法が存在しなかったため、毒性についての性質が明らかになるまで時間を要すこととなった。1876年、フランシス・ジョーンズがいくつかの合成法を試したが[8]、アルフレッド・ストックによってスチビンの性質のほとんどが明らかになったのは1901年のことだった[9][10]。
有機スチビン
[編集]有機化学において、水素化アンチモンを親化合物として一般式が RR1R2Sb(置換基は H または有機基)と表される誘導体をスチビンと呼ぶ。
関連項目
[編集]出典
[編集]- ^ John Rumble (June 18, 2018) (English). CRC Handbook of Chemistry and Physics (99th ed.). CRC Press. pp. 4–41. ISBN 978-1138561632
- ^ a b c d NIOSH Pocket Guide to Chemical Hazards 0568
- ^ “Stibine”. 生活や健康に直接的な危険性がある. アメリカ国立労働安全衛生研究所(NIOSH). 2026年2月17日閲覧。
- ^ Stock, Alfred; Guttmann, Oskar (1904). “Ueber den Antimonwasserstoff und das gelbe Antimon”. Berichte der Deutschen Chemischen Gesellschaft 37: 885–900. doi:10.1002/cber.190403701148.
- ^ a b Holleman, A. F.; Wiberg, E. "Inorganic Chemistry" Academic Press: San Diego, 2001
- ^ Bellama, J. M.; MacDiarmid, A. G. (1968). “Synthesis of the Hydrides of Germanium, Phosphorus, Arsenic, and Antimony by the Solid-Phase Reaction of the Corresponding Oxide with Lithium Aluminum Hydride”. Inorg. Chem. 7: 2070–2. doi:10.1021/ic50068a024.
- ^ Fiche toxicologique n° 202 : Trihydrure d'antimoine. Institut national de recherche et de sécurité (INRS). (1992).
- ^ Francis Jones (1876). “On Stibine”. Journal of the Chemical Society 29 (2): 641–650. doi:10.1039/JS8762900641.
- ^ Alfred Stock; Walther Doht (1901). “Die Reindarstellung des Antimonwasserstoffes”. Berichte der Deutschen Chemischen Gesellschaft 34 (2): 2339–2344. doi:10.1002/cber.190103402166.
- ^ Alfred Stock; Oskar Guttmann (1904). “Ueber den Antimonwasserstoff und das gelbe Antimon”. Berichte der Deutschen Chemischen Gesellschaft 37 (1): 885–900. doi:10.1002/cber.190403701148.


