スタンレー・スチーマー
愛称・通称でスタンレー・スチーマー(英:Stanley steamer)は、主に蒸気自動車を製造していたアメリカの自動車メーカー、スタンレー・モーターキャリッジ(英:Stanley Motor Carriage Company)、およびその会社により製造された蒸気自動車である。
双子のスタンレー兄弟により、会社設立前から蒸気自動車の製造は行われており、1902年に会社を設立、1917年までは創業者兄弟によって操業され、1917年に会社は売却されたものの自動車製造は1927年まで続いた。会社所在地はマサチューセッツ州ニュートンで、製造工場もニュートンにあった。 The Stanley Museumの情報によると「1897年〜1924年の間におおよそ10,000〜11,000台」のスタンレー車が製造された[1]。1907年や1908年が生産のピークで、年間770〜780台ほど生産した。#生産台数
この会社の記録挑戦用の蒸気自動車"Rocket"号は1906年に205.5 km/h の速度記録を樹立し、車輪つきの乗り物として初めて「200 km/h の壁」を突破した。#速度記録への挑戦
歴史
[編集]双子の兄弟、フランシス・スタンレー(Francis E. Stanley、1849年-1918年) とフリーラン・スタンレー(Freelan O. Stanley、1849年-1940年) は、ボストン近郊のニュートン市付近を拠点に活動しており、イーストマンコダックの乾板を販売する事業の後、ニュートンの北隣の街ウォータータウン[注釈 1]の古い自転車工場を借りて自動車製造に取り組み始め、1897年に彼らにとって最初の自動車を製造し、受注生産を開始、1898年から1899年にかけて他のどの米国の会社よりも多い200台以上販売した[2]。
兄弟はこの初期段階の蒸気自動車の設計を、1899年にJohn Brisben Walkerに売却した(Walkerはロコモービル社(Locomobile)を設立した年に彼の事業のために購入し、ロコモービル社はその設計の自動車を製造し、ロコモービル蒸気車 (Locomobile Steam Carriage)として販売することになった)。設計の売却の契約書には "非競争 (non-compete) 条項"が付いており、一定期間スタンレー兄弟は同じ設計の車を別会社で製造・販売できない、という制約があった。
兄弟は1902年にスタンレー社(Stanley Motor Carriage Company)を設立。以前の蒸気自動車の設計の権利は売却済みで上述の非競争条項もあったので、兄弟はロコモービルへ売却した設計とは別の新たな設計を開発し、Newtonに工場を持ち[注釈 2]蒸気自動車を製造してゆくことになった。


- 製品の構造
初期のスタンレー/ロコモービル車は、軽い木製の車体を管状の鉄のフレーム上に装荷してリーフ式サスペンション式で、垂直煙管式ボイラーで蒸気を発生させ、ボイラーの下にバーナーが配置され、バーナーの燃料は当初は気化したガソリンで、後には灯油を使用した。ボイラー周囲に幾層にもピアノ線を巻き、強靭でありながら軽量であった。初期のモデルでは垂直煙管は銅製で、鏡板にあけた上下の穴に通していた。後期のモデルでは凝縮器の装備したことで、膨張継ぎ手に油汚れが生じるようになり溶接された鋼製の煙管を用いざるを得なくなった。ボイラーは複数の安全弁を備え、かなり安全だった。仮に安全弁が故障しても、ボイラーの圧力が高まりすぎる前にジョイント部のいずれかが破れ、それにより蒸気を逃しボイラーの圧力を下げると同時に蒸気でバーナーの火を消し乗員を護る構造になっている。スタンレースチーマーのボイラーが爆発したという文書は1件も無い[3][4]。
ロコモービルは所有者やサードパーティーによって時々改良された。
エンジンは水平対向型2気筒の復動式でスライド弁を使用した単式膨張型だった。運転はエンジンから直接後部に設置された差動歯車に直結したクランクを駆動しチェーンで後輪に伝達するようになっていた。
- 蒸気発生部
- スタンレーの蒸気エンジン。水平対向型。6馬力
スタンレー兄弟はスタンレー・モーターキャリッジ社設立後は、売却済み特許(売却済みの設計)を使わないようにするため、新型の2気筒エンジンの後輪駆動の自動車を開発した。後のモデルではアルミ製の車体も試作した。
ボイラーを前に移したところ"coffin nose"と呼ばれた。1915年には凝縮器を載せた。
- 終盤
1910年代半ばに電気式始動装置を搭載して燃費と出力の優れた内燃機関が台頭した。 1917年、兄弟は事業をPrescott Warrenに売却し、Warrenが事業を継続し、最後のスタンレースチーマーは1927年まで生産された。
車種、モデル
[編集]1903年あるいは1904年ころまでは "Type A"、"Type B"、"Type C"などと席割 (シート配置) で区別され命名されており、1904年あるいは1905年ころから「Model ○」というモデル名が使われ始めた。 下のリストは参考リスト。網羅的ではない。[注釈 3]
- 初期モデル
- Model A (1900年 - 1901年) - 10馬力。木製ボディ。最初期のラナバウト。
- Model B (1901年) - Model Aの改良型。ホイールベース拡大。10馬力。
- Model C (1902-1903年) - 4人乗り。トノー型。
- Moddel E(1902-1903年) - 初期の20馬力ツーリングで、高馬力モデル。
- Model F(初代) (1905年-1908年) - 10馬力モデル。軽量。
- Model G (1904年) - トノー型。10馬力。
- 高性能化期
- Model K (1905年-) - セミ・レーサー。30馬力エンジン、最高時速60マイル。
- Model F (後期型)(1905年-1908年) - 20馬力。人気車種。
- Model H (1906年-1907年)- 20馬力。ツーリングタイプ。
- Model M(1907年?1908年?-1909年) - 30馬力ツーリングカー。高速型。ボイラー圧を高めると最高で70 mph(約 113 km/h)近く出せたとされる。
- Model R (1909) - 1909年のカタログに掲載されている20馬力の双気筒エンジン搭載のロードスター、オープン型のモデル。
- Model S (1908年-1909年) - 4人乗り。20馬力。
- Model Z "Mountain Wagon" (1909年) - 7〜12人乗りの山岳用ワゴン車。ホテルの送迎などで大人気。
- Model E2 (1909年- ) - 10馬力エンジン
- 10馬力系の拡大(60シリーズ)
- Model 60 および Model 61 (1910年- ) - 10馬力
- Model 62 (1911年ころ) - 10馬力のロードスター(Roadster, Runabout)。軽量で人気
- Model 63(1912年–1914年) - ツーシーターの軽量ラナバウト
- Model 70 / 71 Touring (1910年 - 1913年)- 20馬力のツアラー。1910年のModel 60(10馬力)よりワンランク上。
- Model 63(1912年–1914年) - 軽量モデル
- 大型ツアラー(モデル 80/85/87)
- Model 80 Touring(1912年–1916年) - 20馬力のツアラー
- Model 85(1913年–1916年) - 大柄のツアラー
- Model 87 Touring (1914年–1916円) - 快適性と高速性能の両立を目指した20馬力ツーリングモデル
- Model 607 (1914年) - 60系の後継。小型実用車。
- 最終世代
- Model 725 (1917-1920年) - 7人乗りツアラー
- Model 735 Touring (1918年 - 1921年) - 20馬力の最終世代モデル。台数がかなり多い。
- Medel 740 (1922年-1924年)- 改良型の最終期のフラッグシップ
- Model 740D/750 (1924年)- 最後のモデル。台数が少ない。
生産台数
[編集]スタンレー兄弟およびスタンレー・モーターキャリッジ社による自動車の製造台数は次のとおり。年 - 台数 形式で示す。試作車は曖昧な位置づけなので(1)、また正確な記録が無い年は概数で(100)など、括弧で表記されている。
|
1897 - (1) |
1906 - 640 |
1916 - 353 |
速度記録への挑戦
[編集]スタンレー・モーターキャリッジ社は速度記録への挑戦も何度か行った。 1906年に空力デザインをとりいれたStanley Rocketを使いデイトナビーチにおいてレーシングドライバー フレッド・マリオット(Fred Marriott)の運転で速度記録に挑戦。205.5 キロメートル毎時 (127.7 マイル毎時) の世界記録を樹立してDewar Trophyを獲得した。当時の自動車の速度記録を更新し、車輪つき自動車で人類史上初めて「200 km/hの壁」を超えた。この記録は、蒸気自動車による記録としては2009年8月まで破られなかった[5]。1906年には速度記録を樹立した。(1マイル28.2秒)この記録は1911年まで他のいかなる自動車によっても破られなかった。グレン・カーチスは1907年、V-8エンジンのオートバイで136 mph (218 km/h)を叩き出した。1917年まで500台生産された。
- 1903年、デイトナビーチで記録に挑む準備中のスタンレースチーマー
- 世界速度記録を樹立したスタンレー・スチーマー "Rocket" (1906年)
- 壊れた スタンレースチーマー "Rocket" (1907年)
アメリカ大統領とスタンレー車
[編集]第25代アメリカ合衆国大統領ウィリアム・マッキンリーも1901年のスタンレー・スチーマーのデモンストレーションの際に乗車した。これは、大統領が馬車の代わりに蒸気自動車を利用しはじめた点で特筆に値する。ただしこれは一回限りの乗車であった。第27代アメリカ大統領ウィリアム・ハワード・タフトは1909年に蒸気自動車をホワイトハウスの公式の自動車として採用したが、採用されたのはあいにくとライバル会社のホワイトスチーマー社の蒸気自動車であった。
博物館
[編集]スタンレー博物館(The Stanley Museum)は、スタンレー兄弟の家族史と、兄弟の会社が製造した蒸気自動車に特化した展示を行っている。所在地はメーン州キングフィールド(40 School Street, Kingfield, Maine)
現存車、展示例
[編集]スタンレー博物館の責任者デビー・スミス(Debbie Smith)によると、500〜600台ほどのスタンレー・スチーマーが現存しており、そのほとんどは博物館の展示品となっている[1]。
- スタンレー博物館(上述) - 1905年、1909年、1910年、1916年のスタンレー・スチーマーを展示。
- Marshall Steam Museum(デラウェア州、蒸気自動車の博物館) - 1907 Semi-Racer Model K, 1908 Model EX, 1908 Roadster H-5, 1910 Touring Model 71, 1912 Touring Model 87, 1913 Roadster Model 78/Touring Model 65/Touring Model 76, 1914 Model 607, 1915 Mountain Wagon Model 820, 1916 Touring Model 725, 1918 Touring Model 735, 1922 Touring Model 740, 1924 Model 750 など。その多くが “road-worthy (公道での走行可能)”の状態。
- National Museum of Transportation (TNMOT, ミズーリ州) - Model 740Bを展示
- Heritage Museums & Gardens (マサチューセッツ州) - 1911 年 Stanley Steamer Model 62 Runaboutを展示
資料
[編集]- 『ザ・トゥナイト・ショー・ウィズ・ジェイ・レノ』の司会ジェイ・レノはスタンレースチーマーを保有して仕事で走らせる。水が漏れたが彼のコレクションの中で一番のお気に入りである。
- 米国のカーペットクリーニングのサービスの商標がある。
- 映画カーズにラジエーター・スプリングスの創設者にスタンレーが出てくる。この名前はスタンレースチーマーに由来する。
脚注
[編集]- 注釈
- ↑ Maple Streetという通りの名まで挙げている資料もある
- ↑ Newtonの地元住民のブログなどでは、Galen Street 近く、その裏の丘 (up the hill on Centre Street at the location of the old Hyde Farm)にスタンレー社やその工場があったとされ、会社に併設された兄弟の居住用の家は数軒が現在でも残っている、とのこと。
- ↑ もともとType A, Type B...などと呼ばれていた車種を後年になって"Model A", "Model B"...などと呼称を変更して、全車種を"Model ..."という呼び方に統一していたり、一部に情報が不足している車種があったり、製造年が明確でない車種があったり、残存カタログには掲載されているが実車が現存しておらず若干疑問視されている車種があったり、愛好家により若干呼び方のブレもあり、スタンレー・スチーマーの愛好家の間でも情報を整理整頓しきれず、若干混乱がある模様。
- 出典
- 1 2 “Steam Cars And More: A Visit To The Stanley Museum”. 2025年11月30日閲覧。
- ↑ Georgano, G.N (1985). Cars: Early and Vintage, 1886-1930. London: Grange-Universal
- ↑ Friends of Auburn Heights Preserve -FAQ
- ↑ “boiler restauration”. 2025年11月30日閲覧。
- ↑ 2009年8月にThe British Steam Car Challenge Teamにより、記録は更新された。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- Stanley Steamers
- Museum web page on the Stanley Steamers in Kingfield
- 1906 Stanley Steamer
- Stanley Steamer -- Technical Information
- World's largest collection of Stanley Steamers in one place.
- Stanley Register Online - Worldwide register of existing Stanley steam cars
- British Steam car Challenge 2006
- Stanley Steamers driven and explained by Jay Leno