スズペスト

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スズペスト(Tin pest)とは、スズ低温における同素変態によって強度が低下し、徐々に破壊されていく現象のことである。

概要[編集]

スズには3つの同素体があり、低温からの加熱によって摂氏18℃を超えるとβスズ(白色スズ)になる。一般にこの温度をスズの変態点と呼んでいる。しかし冷却時には大幅な過冷を示し18℃では変化しない。マイナス40℃に近くなると急速な変化が起こりαスズ(灰色スズ)に変態する。このとき展性が失われて大幅に体積が増えるために機械的な破壊が起こる。例えば、しばしば材料としてスズが用いられるパイプオルガンなどが、ロシアなどの寒い地域において、この現象によって破壊された。この現象はスズ製品の1箇所ないし数ヶ所から始まり、やがて製品全体に伝染するように広がるため、ヒトのペストにちなんでスズペストと呼ばれるようになった。

スズの製品には各種の不純物が混ざっているため、実際に反応が進むのは-10℃の低温領域からであり、-45℃で反応速度が最大となる。なお、この現象が最も速く進む-45 ℃でも1 mm進むのに約500時間を要するなど、比較的遅い現象として知られている。

歴史との関連性[編集]

ナポレオン1812年ロシア遠征を企てて大敗を喫したが、その原因の1つとして冬の極寒があげられている。このときフランス軍兵士が着けていたボタンがスズペストを起しボロボロと朽ちたのである。これがロシア軍が病原菌を撒き散らしたのだという噂と相まって、兵士の士気をそぎ、敗退を加速したと言われているものの、明確な根拠は無い。

1819年にはイギリスフランクリン卿北極探検を行った際、多くの隊員を飢えと寒さで失っている。この悲劇の一因には、缶詰の蓋の溶接に用いたハンダの不備によって溶け出したによる中毒があげられているが、それとともに缶詰がスズペストを起したために予期した保存期間に耐えられなかったことを指摘する説もある。

参考文献[編集]