ジョーカー・ゲーム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
ジョーカー・ゲーム
ジャンル ミステリースパイ
小説
著者 柳広司
イラスト 森美夏
出版社 角川書店
発売日 2008年8月31日
巻数 全1巻
漫画:Dの魔王〜ジョーカー・ゲーム〜
原作・原案など 柳広司
作画 霜月かよ子
出版社 小学館
掲載誌 週刊ビッグコミックスピリッツ
月刊!スピリッツ
レーベル ビッグコミックス
発表号 2009年6・7合併号 - 18号
(週刊ビッグコミックスピリッツ)
2009年10月号 - 2010年7月号
(月刊!スピリッツ)
巻数 全3巻
話数 全17話
漫画:ジョーカー・ゲーム
原作・原案など 柳広司
作画 霜月かよ子
出版社 小学館
掲載誌 週刊ビッグコミックスピリッツ
レーベル ビッグコミックス
発表号 2014年51号 - 2015年8号
巻数 全1巻
話数 全8話
漫画:ジョーカー・ゲーム THE ANIMETION
原作・原案など 柳広司(原作)
作画 仁藤すばる
出版社 マッグガーデン
掲載誌 月刊コミックガーデン
発表号 2016年3月号 -
巻数 既刊2巻(2016年10月現在)
アニメ
原作 柳広司
監督 野村和也
シリーズ構成 岸本卓
脚本 岸本卓
キャラクターデザイン 三輪士郎(原案)、矢萩利幸
メカニックデザイン 常木志伸
音楽 川井憲次
アニメーション制作 Production I.G
製作 JOKER GAME
ANIMATION PROJECT
放送局 AT-XTOKYO MXほか
放送期間 2016年4月5日 - 6月21日
話数 全12話
テンプレート - ノート
プロジェクト 漫画アニメ
ポータル 文学漫画アニメ

ジョーカー・ゲーム』 (JOKER GAME) は、柳広司による日本の短編ミステリースパイ小説

概要[編集]

柳広司は、デビューから一貫して歴史上の偉人を重要な役割として扱っていたが、本作においてオリジナルのキャラクターを主役として扱い作風の変化を見せた。

2008年度の「このミステリーがすごい!」で第2位に、週刊文春ミステリーベスト10で第3位にランクインした。2009年、第30回吉川英治文学新人賞及び第62回日本推理作家協会賞を受賞した。

続編として、2009年8月に『ダブル・ジョーカー』、2012年3月に『パラダイス・ロスト』、2015年1月に『ラスト・ワルツ』が発売されている。

霜月かよ子作画で漫画化され、『ビッグコミックスピリッツ』及び『月刊!スピリッツ』(小学館)にて『Dの魔王〜ジョーカー・ゲーム〜』というタイトルで、不定期連載された。単行本は全3巻。

2015年1月には実写映画化され、8月にはテレビアニメ化が発表された[1]

収録作品[編集]

ジョーカー・ゲーム
  • ジョーカー・ゲーム(『野性時代』2007年11月号)
  • 幽霊(ゴースト)(書き下ろし)
  • ロビンソン(『野性時代』2008年5月号)
  • 魔都(書き下ろし)
  • XX(ダブル・クロス)(書き下ろし)
ダブル・ジョーカー
  • ダブル・ジョーカー(『野性時代』2008年12月号、「敵手」を改題)
  • 蠅の王(『野性時代』2009年2月号)
  • 仏印作戦(『野性時代』2009年4月号)
  • 柩(『野性時代』2009年6月号)
  • ブラックバード(書き下ろし)
  • 眠る男(『野性時代』2009年10月号) - 文庫版のみに収録
パラダイス・ロスト
  • 誤算(『小説野性時代』2011年7月号、「帰還」を改題)
  • 失楽園(パラダイス・ロスト)(『小説野性時代』2011年9月号)
  • 追跡(『小説野性時代』2011年11月号)
  • 暗号名ケルベロス(『小説野性時代』2012年1月号・3月号)
ラスト・ワルツ
  • アジア・エクスプレス(『小説野性時代』2015年1月号)
  • 舞踏会の夜(『小説野性時代』2014年11月号)
  • パンドラ(文庫版のみに収録)
  • ワルキューレ(『小説野性時代』2014年9月号・10月号)

各話あらすじ[編集]

ジョーカー・ゲーム[編集]

ジョーカー・ゲーム
昭和12年秋、陸軍中枢部の多数の反対意見を押しのけて、結城中佐の提案でスパイ養成学校「D機関」が設立された。訓練生たちは互いの素性を知らないまま様々な訓練を受け、やがて優秀なスパイへと成長していく。参謀本部から連絡係兼監視役として派遣されていた佐久間中尉は、訓練生たちを「怪物」と評した。
昭和14年、佐久間は参謀本部の武藤大佐の命令で、D機関の訓練生たちと共にスパイ疑惑のあるアメリカ人ジョン・ゴードンの自宅を捜索することになった。佐久間たちは憲兵隊に偽装して捜索を始めるが、ゴードンが全く抵抗しないことに疑念を抱く。そして、ゴードンが「二度目の捜索」と口走ったため、佐久間は武藤の命令の意図を理解した。武藤は既に一度捜索に失敗しており、その失敗を有耶無耶にするためにD機関に二度目の捜索を命令し、失敗の責任を押し付けてD機関を解体しようとしていたのだった。さらに機関員の1人である三好が、「もし今回も何も見つからなかった場合は、詫びとして彼がこの場で腹を切ると進言したため、佐久間は窮地に陥ってしまう。
しかし、機関員たちと結城の言葉をヒントに佐久間は寸でで隠していた暗号表を見つけたため、武藤の企みは失敗してしまう。さらに佐久間は武藤が捜索の一件を外部に漏らしていたことを突き止めた為、結城はD機関への介入を止めさせ、参謀本部から多額の予算を手に入れることに成功した。その手腕を見た結城は佐久間をD機関に誘うが、「自分はスパイには向いていない」事と、「いざとなれば国のために自分の命を捨てる覚悟は変わらない」と断り、立ち去る結城の背を見送った。
幽霊(ゴースト)
横浜で、紀元二千六百年記念行事を狙った爆弾テロ計画が発覚し、憲兵隊が捜査に着手した。捜査の結果、テロ計画メンバーの連絡場所に英国総領事のアーネスト・グラハムが頻繁に出入りしていることが確認された。憲兵隊はグラハムを逮捕しようとするが、誤認逮捕だった場合の日英関係悪化を懸念した参謀本部から捜査の延期を命令され、代わりにD機関が捜査を担当することになった。
機関員の蒲生次郎は、『テーラー寺島』の店員という肩書きを使って顧客の一人であるグラハムのチェスの相手をする。という形で彼に接触し捜査を始めるが、不審な点は一切見付からなかった。しかし、テロ計画メンバーの連絡場所からは英国総領事館の物品が押収されており、グラハムが関与している可能性は払拭出来なかった。さらに、参謀本部の命令を無視した憲兵隊がグラハムの近辺に出没するようになったため、蒲生は総領事公邸への潜入を試みる。
深夜、総領事公邸の書斎に潜入した蒲生は隠し金庫からグラハムの手帳を見つけ出すが、グラハムが過去に行った犯罪行為の記録こそ書かれているが、爆弾テロに関する記述は一切なかった。これ以上の証拠は見付けられないと判断した蒲生は書斎を出ようとするが、結城の「完全な調査はない」という言葉を思い出し、それをきっかけにテロ計画の全容を明らかにした。爆弾テロの首謀者は総領事館に務める中国人たちであり、グラハムは情報の運び屋として知らずに利用されていただけだった。
グラハムの容疑が晴れ、蒲生はグラハムと別れることになった。その際、グラハムは「"夜の書斎で幽霊を見た"という妻の懇願を受け本国に戻ることになった」と告げた。
ロビンソン
D機関員の伊沢和男は情報収集のためロンドンに潜入していたが、新米外交官がセックス・スパイに籠絡され伊沢の正体を話してしまったため、英国諜報機関のハワード・マークス中佐に捕まってしまう。伊沢は訓練通りの尋問対処を実践し、二重スパイに志願した。マークスは伊沢を疑い自白剤を投与し本性を探ろうとするが、自白剤を投与された伊沢が「結城に売られた」と叫び出したのを聞き、伊沢が本心で二重スパイを志願したと判断し、日本への偽情報を発信するように指示した。しかし、そのことも訓練には含まれており、伊沢は偽情報の発信と共に自身が捕らわれていることをD機関に伝えることに成功する。
伊沢は隙を突き脱出を試みるが、マークスの罠にかかり追い詰められてしまう。しかし、伊沢は英国諜報機関に潜入していたスリーパーに助けられ、脱出に成功した。手筈通りの場所に向かうとD機関の協力者が待っており、伊沢は次の任地であるヨーロッパに向かった。伊沢は移動中の車の中で、結城から受け取った『ロビンソン・クルーソー』に登場する「フライデー」という人物のことを思い出していた。それは、スリーパーの暗号名だった。
事件の真相は、防諜対策を疎かにする外務省への警告と最新式の暗号機を導入するために伊沢が捕まり、脱出することを結城が企図したものだった。
魔都
上海憲兵隊に配属となった元特高刑事の本間英司軍曹は、上官の及川政幸大尉から「憲兵隊内部の内通者を探れ」と命令される。その通達の最中に及川の自宅が爆破されるという事件が発生し、本間は内通者による警告だと感じた。捜査の最中、特高時代に逮捕した塩塚朔に再会し、友人の草薙行仁がD機関のメンバーになっていることを聞かされた。さらに、D機関が青幇と手を組み中国経済を混乱させようとしていることも聞かされた。卑怯なやり方で戦争を有利に運ぼうとするD機関に対し、本間は嫌悪感を覚えた。
その夜、捜査のため上海の歓楽街に向かった本間は草薙と出くわし尾行を始める。草薙は一軒のダンスホールに入り、その奥にある部屋に入った。本間も後に続こうとするが、ガードマンに制止されてしまう。しかし、本間がポケットから取り出した身に覚えのないコインを見たガードマンは、本間を部屋に通した。部屋の中は違法賭博場となっており、本間は草薙を探すが見付けることが出来なかった。その代わり、本間は違法賭博に明け暮れる及川の姿を目にした。
数日後、本間は及川が憲兵隊の押収したアヘンを横流ししていたことを突き止めた。さらに、そのことに気付いた宮田伸照伍長を賭博場の少年に殺害させ、その少年も口封じに殺害していたことを知る。本間は及川に事実の公表を求め、逃げられないと判断した及川はそれを承諾した。しかし、そこに共犯者の吉野豊上等兵が現れ、恋仲だった少年を殺された怒りから及川を射殺し、吉野もその場で自殺してしまった。後に残された本間は、事態の処理に苦慮し、その場に立ち尽くした。
実は本間が出会った塩塚はD機関員の変装で、草薙と同一人物だったのであった。
XX(ダブルクロス)
陸軍からD機関にスカウトされた飛崎弘行は、卒業試験としてナチス・ドイツソ連の二重スパイだったカール・シュナイダーの調査を任された。しかし、調査の途中にシュナイダーは何者かに殺害されてしまった。
結城は他の訓練生たちに事件の調査を指示し、飛崎にはシュナイダーの恋人だった野上百合子の調査を指示した。シュナイダーが殺害された日の百合子のアリバイは完璧だったため、飛崎は結城の指示を不審に思った。しかし、百合子の供述に矛盾があることに気付いた飛崎が詳しく調査を進めた結果、シュナイダーを殺害したのは百合子だったことを突き止めた。百合子は、シュナイダーが親友の安原ミヨコと浮気していたことに怒り殺害したと自供した。
飛崎は、百合子が親代わりに自分を育ててくれた女性に似ていたため判断を誤ったことを結城に指摘され、感情を完全に捨て去った他の訓練生との差を思い知らされた。飛崎は任務の終了と同時にD機関を辞め陸軍への復帰願いを提出した。陸軍は口封じの意味を込め、飛崎を最前線の部隊に配属させた。結城からの敬礼で見送られた飛崎は、D機関を後にし陸軍へと戻った。

ダブル・ジョーカー[編集]

ダブル・ジョーカー
陸軍中佐・風戸哲正は日々変化する世界情勢の中で、陸軍における諜報組織の設立を訴え、陸軍ナンバー2である阿久津中将から正式に諜報組織「風機関」設立の許可を得る。その際、阿久津からすでに陸軍に「D機関」という諜報組織が存在することを伝えられる。風戸の風機関設立の裏には、D機関への忌避から帝国陸軍の精神を備えた諜報組織が必要とする軍上層部の思惑があった。D機関の「死ぬな、殺すな」をモットーとし、陸軍のエリートである天保銭組を使えないとする結城中佐に対抗するように風機関は諜報組織としての戦果を挙げていく。あるとき、再び阿久津中将から呼び出しを受けた風戸は、親英派でかつて英国外交官を務めたこともある白幡樹一郎が軍の最高機密とされている『統帥綱領』を盗読した疑いがあるとし、風戸に調査を命じる。そしてこの任務でD機関と風機関勝った方を正式に陸軍の諜報組織とすることを告げた。
白幡の身辺を調査した風戸は、書生として住み込んでいる森島邦雄に目を付けた。森島は半朝鮮人という経歴があり、それを公にされると日本で不利な扱いを受ける。その情報を脅迫として森島を白幡邸での内通者として仕立て上げた。伊豆の旅館にて森島の報告を聞き終えた風戸は白幡の別荘への乗り込みを計画し、その際用済みとなった森島の酒に眠り薬を仕込み、事故に見せかけて海へ落とすよう部下へ命じた。その日の深夜、白幡邸に風機関を集合させ、乗り込んだ風戸は白幡邸に人の気配が一切ないことに愕然とする。さらにその屋敷の中にはD機関の結城中佐が待ち構えていた。
風戸は結城が白幡に情報を漏らしたと憤慨したが、結城は旅館の女中が白幡に情報を伝えたことを告げる。この頃日本では、大陸の激戦続きで若い男がみな戦争に徴兵され、健康な若い男がこの頃まったく見られなくなっていた。そんな中、若く健康的な体つきの風戸たち風機関の面々は旅館の女中たちの目に留まり、彼女達は彼らが軍人であることに気付いていた。さらに、同じように健康的な若い男を書生として住み込ませている白幡の別荘もこの地域では有名であり、その中でも色白で美形だった森島は特に有名で、彼が普段酒を飲まないことまで知っていた。風戸が森島の始末のためのアリバイ作りのために飲ませた眠り薬入りの酒が裏目に出てしまったのだ。そして白幡が別荘から逃げ出した際に、彼が書いておいた『統帥綱領』のメモ書きを結城がすり替え手に入れていた。先手を打たれた風戸だったが、結城が一人で来ていることを見て、風機関員たちに結城を捕らえさせ、統帥綱領のノートを手に入れれば挽回できると踏んだ。しかし、風戸の目の前に現れたのは自らが始末を命じたはずの森島だった。実はD機関は今回の任務のはるか以前から英国へのチャンネルとして白幡に目をつけており、森島邦雄はその渡り橋役としてD機関が派遣したスパイだったのだ。さらに風戸達が森島の “偽の経歴” に食いついたことで風機関の行動が全てD機関に筒抜け状態となり、序に逆スパイの役割を果たした森島は風機関員を全員拘束してしまったのである。自分では手を下すことなく自分たちD機関の影をちらつかせるだけで任務を成功させた結城への畏怖と、旅館の女中たちにあっさり素性を見抜かれ、森島を殺そうとしたことで情報の漏洩を招いてしまうという失態で風戸のプライドは崩れ去っていった。そんな中、結城は天保銭の意味を風戸に伝えながら、形ばかりの天保銭を過大に持ち上げる陸軍を批判し、森島と共に風機関から奪った車で立ち去った。その批判の裏には、旅館で風戸が上着を女中に預ける際に、その女中に上着の中に隠れて付けていた天保銭を見られたことが正体を見抜かれた原因でもあることを暗に示していた。屈辱の中で風戸は自らが誇りとしていた天保銭を引きちぎって床にたたきつけた。
蠅の王
北支前線にある粗末な野戦病院に努める脇坂衛陸軍軍医は、裏でモスクワのスパイとして暗躍していた。そこには治安維持法違反で逮捕され肺結核で亡くなった兄・脇坂格の存在があった。兄の遺した共産主義社会に関する書籍やノートを読み漁るうちに政治運動への関心を持った脇坂は、 医者の道を進む傍ら〝K〟と名乗る左翼運動家と接触し、彼の指示で軍医となって集めた情報を “ワキサカ式” と呼ばれる独自の通信手段でモスクワの同志に送っていた。これは、日本軍が盧溝橋付近での小競り合いを口実に、中央からの指示を無視して勝手に中国と本格的な戦闘を始めたことが切っ掛けであった。
一ヶ月ほど前、脇坂の元に〝K〟から指示書が届く。そこには「蠅の王」と呼ばれる男がD機関を率いてスパイ狩りを行っているため注意せよという忠告と、スパイ・ハンターが「笑わぬ男」という暗号名を持ち、前線部隊を慰問して回る「わらわし隊」と関係があることが記されていた。脇坂はスパイと軍の二重生活とハンターの影に怯える中、偽情報を使って逆にハンターを炙り出そうと考える。そこへ「わらわし隊」に属する漫才コンビ『藤木藤丸』の藤丸がやって来て “笑わない目を持った男” の話をする。全てを悟った脇坂が慌てて引き返すと、突然何者かに襲われる。目を覚ました脇坂が見たものは、かつて彼が治療に当たっていた西村久志陸軍二等兵だった。彼こそが “笑わぬ男” にしてD機関員であり「わらわし隊」の慰問は脇坂をおびき出すための罠で、一ヶ月ほど前の〝K〟の手紙はD機関の偽装だった。さらにD機関は〝K〟の正体──片岡大尉のことまでとっくに突き止めていた。
実は脇坂が発案した “ワキサカ式” と呼ばれる通信手段とは、顔と手の綺麗な支那兵の遺体に通信文を忍ばせ、さらに遺体に野犬が嫌がる匂いと防腐剤を振りかけて目印とする方法であった。脇坂は十日前、情報を伝達するために必要な遺体が見つからず、焦った末に偶然見つけた中国人の老人を殺し、その遺体を支那兵に仕立てて情報伝達に使用したのだ。D機関はその情報を「漫才コンビのネタにする」という形で脇坂をおびき出し、その様な手間をかけたのは彼にこれ以上不自然な遺体を作らせないためだった。脇坂はD機関による “偽装の自首” という報復を食らった。
仏印作戦
中央無線電信所に勤める高林正人は、上司から仏印──フランス領インドシナ連邦に軍属の電信係として出張を命じられた。詳しい説明がないことに憤ったが、新聞に掲載された記事によると、援蒋物資の封鎖状況を監視するための視察団の一員としての出張らしかった。そして出張先である仏印の首都ハノイでの業務は、視察団が作成した通信文の暗号化と暗号電文を東京の参謀本部に送ることだった。この奇妙な命令は、視察団の団長たる土家昭信陸軍少将率いる軍事専門家三十名が陸軍・海軍に分かれている上に双方に『交流』は一切なく、おまけに陸軍は小型無線機を持参していなかった。
ベルリンに向かっていた列車が事故を起こし、その調査に赴いた諜報機関アプヴェーアに所属する、ヘルマン・ヴォルフ大佐はその副官ヨハン・バウワー中尉と共に、事故の関係者を聴取していた。
その中のオットー・フランクという男の所持品からスパイ道具を見つけ、更に尋問を続けると、男は列車事故の犠牲者であるアジア人から盗んだという。更に詳しく聞くと、そのアジア人は美術商の真木克彦なる日本人であるという。真木は、折れた鉄棒が体を貫通し、それによる失血で即死状態であったという。だがヘルマンは、真木がD機関のスパイであるとかねてから疑っており、各所に手回しをして遺体をベルリンの病院へ運ばせ、24時間体制での監視を命じた。
ヘルマンはかつて『魔術師』と呼ばれていた日本人スパイを尋問したことがあるのだが、手榴弾の爆破に乗じて逃げられ、その時に自分も負傷してしまった。そのD機関は結城中佐が作ったことも既に掴んでおり、実態は掴めないものの逃げた男がその結城であると確信しており、今度こそ結城を捕まえるために、その部下であるとされる真木の死体を利用することを思い立ったのだ。だが、列車の行き先について真木が報告を終えた帰りだと気づいたヘルマンは病院へ向かい、面会の確認をするが、遺体に面会をする者は居なかった。しかし、写真と真木の遺体を見比べて部下に確認をすると、遺体が移される前の病室に紳士が来ており、その後、間違いであったと紳士が帰ったという。ヘルマンは、その紳士が結城であったと確信し出し抜かれたことを悟った。その後、結城はドイツ国内の真木の協力者と接触して証拠を抹消していき、ヘルマンの目論みは崩れてしまう。
ただし、ヘルマンの考えは間違っておらず、真木こそD機関に所属していた機関員であった。彼は列車事故という不慮の事故により瀕死となるが、死ぬ直前に協力者リストの場所を結城に目印として残しており、リストは無事に結城に回収され、協力者たちの間で真木の死は秘密裏に処理されていた。葬儀の最中結城を探していた際、ヘルマンは病院に運ばれた時は開いたままだった真木の瞳がいつの間にか閉じられていたと言う看護婦の言葉を思い出すのだった。
ブラックバード
眠る男

パラダイス・ロスト[編集]

誤算
失楽園
追跡
在日新聞記者のアーロン・プライスは、その愛妻でベルギー人のエレンと仲睦まじく暮らしていた。しかしアーロンは10年前より英国からのスパイとしても活動しており、現在はD機関の結城中佐について調べていた。町山という人物から入手した明治33年以降5年分の陸軍幼年学校の記録から、首席で入学したのにも関わらず退学している有崎晃という人間が結城であると睨み、その有崎家の執事をしていた里村という老人の元を尋ねる。
その里村が言うには晃は生前の有崎子爵の子として明治29年に屋敷に連れてこられその後厳しく育てられたという。その後、陸軍幼年学校に入った晃はある日、幼年学校の生徒達と喧嘩をしその時のやり方が陸軍軍人に相応しくないとして退学処分を受けてしまう。そして晃は英国に留学し、有崎子爵が亡くなるその時まで帰国せず、財産は遺言のとおり里村らに分配され、その後晃は再び英国へ帰国してしまう。
里村から晃が英国で公爵と呼ばれていることを聞かされる。公爵の英語読みである「Duke(デューク)」の頭文字は「D」であり、晃の英国での後見人であるマンスフィールド・カミング海軍大佐はMI6の生みの親であり英国のスパイマスターだった。以上のことからアーロンは有崎晃が今の結城中佐だと結び付け本国へ暗号を発信していたが、その最中に陸軍憲兵隊に踏み込まれ現行犯で捕まってしまう。だが、本来は死刑であるはずのアーロンは釈放され自分が釈放された理由がわからないままであった。その後里村がアーロンの身元引受人として現れ、アーロンは長い間意識不明でやつれた晃を紹介される。里村が言うには欧州でオブザーバーとして参戦した戦いで敵軍の毒ガス攻撃により命は取り留めたもののこうなってしまったという。そして国に援助を求めたが、軍人でないことを理由に拒絶され途方に暮れたところに、負傷しているある青年が現れ、援助する代わりに里村に晃の過去を調べに来た者が現れたら、アーロンに話したことと同じ様に話せと頼まれたとのことだ。その青年こそが結城中佐であり、有崎晃は今回のアーロンのように結城中佐の身辺を探る者が現れた際にそれを誘き寄せるための囮だったのではないかとアーロンは悟った。
その後アーロンは公園で途方に暮れ、自分が釈放された理由にたどり着く。それは10年もの間自分が集めた国内の協力者のリストであった。アーロンが憲兵隊に逮捕された時、壮絶な拷問を受けた彼は自害を考え、遺書を用意していたのだが、それはアーロンの死後にリストが英国大使館に渡るようにするため、リストの紙を遺書に偽装した物であった。そしてその紙は憲兵隊に紛れ込んでいたD機関員により回収されていたのである。任務が失敗したことを痛感し身の振り方を考えているとエレンが迎えに来ており、『死に際に伴侶の顔が浮かんだスパイは引き時である』という言葉を思い出したアーロンは引退を決意し、戦争が終わったらベルギーに移住しようと思いながらエレンと共に帰るのであった。
暗号名ケルベロス
日本の技術者、内海脩はサンフランシスコからハワイ諸島を経由し日本へと向かう豪華客船朱鷺丸(ときまる)の船上で新聞のクロスワードパズルに興じていた。ある時、船上で叫ぶ声が聞こえ近づいてみると、英国人のシンシア・グレーンとその娘エマに出会う。シンシアは犬がいきなり出てきて驚いただけだといい、そばに居たエマに内海は手を差し伸べるが、警戒しているのかエマは母親の影に隠れてしまう。そこで内海は指笛でイルカの群れを呼び寄せエマを喜ばせる。
シンシアはもう大丈夫だというので、内海は二人をたまたま一緒にいた原一等航海士に任せて自身の座っていた席へと視線を向けると、一人の老紳士がクロスワードパズルを見ているのを見て挨拶を交わす。老紳士はサンフランシスコで小さな貿易会社をやっているジェフリー・モーガンといい、クロスワードパズルを見ると放置できなくなる性分だという。そこで内海はジェフリーに手伝ってもらうことにし一緒に解いていく。最終的に答えは「エニグマ」であるとわかり、内海はドイツ軍が採用しているエニグマ暗号機の話を持ち出す。ジェフリーはエニグマ暗号機の解読方法を提示した。そこで内海は日本海軍もエニグマ暗号機と同様の原理で作られていることと、ジェフリーは偽名で本名はルイス・マクラウドという諜報機関に在籍しているスパイであり、当時のコードネームである「ザ・プロフ」という名を明かす。実はD機関員の内海は、結城中佐の命で母国の諜報機関に追われて日本に亡命しようとするルイスを来させない様にするため、彼が内地に降り立つ前に拘束せよという任務を受けていた。ルイスは内海がケルベロスなる者と思い込み殺そうとするが、彼の一枚上手により失敗する。
ルイス自身は整形をしており、その完成度は古い友人や家族でさえ見分けがつかなかったが、内海はある部分を見てルイスであると判断した。クロスワード自体もクロスワードが好きなルイスのために作られたものであり餌であった。ところが、イギリス海軍の艦船が客船に対して停船命令を下し、客船は停船をする。それはルイス自身が手配したものであり一転して余裕の表情となったルイスはそこにあったワインを飲んでしまう。すると突然ルイスは苦しみ始めその場に倒れて死亡してしまう。
船医の所見によるとルイスの死因は毒殺であるという。イギリス海軍の目的はジェフリーの保護であるが、ジェフリーことルイスは既に死亡していると船長は話す。内海は乗客リストから犬を見つけ自身の下へ呼び出し、自分がジェフリーの死亡したことの状況を話す代わりに時間をもらうことに成功する。そして、本当はグレーン親子の飼い犬だったフラテの首輪の中にあった写真を見せると、彼女は真実を話し始める。
シンシアはの目的はルイスへの復讐であり、そのためにケルベロスという暗号名でドイツのスパイとして活動していた。全ては夫の航海士レイモンド・グレーンが、ルイスのエニグマ暗号解読のための策謀によりドイツ軍に殺され、よりにもよって彼の葬儀の日にその事実を知ってしまったことによるものであった。彼女が船上で叫んだのも、写真が隠されているフラテがルイスに近づいたからであるという。内海は写真を捨ててしまえば良かったと彼女に話すが、夫の写真は一番ハンサムに映ってるものだから捨てられないという。そして、内海の顔立ちと雰囲気がどことなく夫に似ていた事と、彼もまた何らかの『秘密』を背負って生きているのだと見抜いた事を呟く。内海はその言葉から彼女の覚悟を聞き、エマを彼女から引き離すべくイルカをエマに見せることにする。その間にシンシアはイギリス海軍の船へと向かい自首をすることにした。何も知らないエマは、明日母親と一緒にイルカに会えることを無邪気に期待するのだった。

ラスト・ワルツ[編集]

ワルキューレ
舞踏会の夜
紀元二千六百年記念式典の翌日、赤坂霊南坂にあるアメリカ大使館で久方振りに開かれた仮面舞踏会に出席した加賀美顕子は、オペラグラスを片手に遠い昔の記憶に思いを馳せていた。
千年の歴史を誇る旧清華公爵家当主・五條直孝の末娘として生まれた顕子は、幼い頃から五條家のしきたりや格式に縛られる事に鬱屈していた。そして十四歳の秋に女学院の送迎に雇われていた抱えの運転手と駆け落ち騒ぎを起こしたのをきっかけに、十五歳になると夜な夜な家出をしてはダンスホールに入り浸る日々を繰り返していた。ある日、ダンスホールで知り合った友達の一人に売られて愚連隊に絡まれ逃げている所を二十代半ばの若い男(結城中佐)に助けられる。まるでダンスを踊る様に顕子をエスコートした男に不思議な魅力を感じた彼女は再び会いたいと所望するも「軍務で国を離れるから無理だ」と断られてしまう。そこで顕子は名前を名乗らない彼を海底二万里の登場人物から『ミスタ・ネモ』と呼び、自分が大人になったら今度はちゃんとした音楽に合わせて踊って欲しいと約束した。
愚連隊の一件から顕子は夜遊びを控えるようになったが、時が経つ内に規律のない世界での友情は貨幣価値と同等である事と、夜遊びで出会った彼等の言動は古いしきたりに縛られている華族階級の人々と変わらないのだと分かってすっかり失望し、少なくとも金銭目的で他人を売るようなことは無いし、女性は有利に立てない事さえ受け入れられば特に気にする必要も無いという事から顕子は『華族』という枠組みの中で奔放な行動をとっていった。それから暫くした後、顕子は父親から二十歳以上年の離れた加賀美正臣陸軍大佐との婚約を告げられる。男色家の噂があるという加賀美に『自分と似たもの』を感じ取った顕子は自ら父親に話を進めるよう働きかけ、結果として加賀美は五条家という後ろ盾により中将にまで出世し、中将夫人という肩書きを手に入れた顕子も加賀見や実家に迷惑をかけない範囲で遊び回っていた。
そして目まぐるしい時が過ぎる中、顕子は一度だけ夫の仕事部屋で『ミスタ・ネモ』の写真を見かけた事を思い出した。『ミスタ・ネモ』と別れたあの日、彼を諦められなかった顕子は当時女学院で流行っていた「探偵」を雇って調べてもらった末に彼の死を知り、自暴自棄で加賀美との結婚を承諾していた。だが、『ミスタ・ネモ』が生きてると知ると彼女の中で唐突に『あの約束』が蘇る。大戦の火種がすぐそこまで迫るに伴い贅沢や装飾を自粛する声が高まる中、『約束』を果たせるのはこの舞踏会が最後だった。そして会場の音楽がワルツに変わった途端、目の前に長布をまとい黒いドミノを付けた男が現れた。直感で『ミスタ・ネモ』と分かった顕子は恭しく差し出された手を取り二人は踊り出す。悠久に続くかのようなひと時が流れていくが、その直後耳元で囁かれた言葉と『ある光景』に卒倒してしまう。
実は顕子が会場で探していたのは、軽井沢の秘密倶楽部で知り合った若い愛人・桐生友哉の姿だった。顕子は夫の書斎で『ミスタ・ネモ』の写真を見つけた後、再び「探偵」を雇って彼の周辺を調べてもらいD機関の存在を知ると、今度はスパイ活動に興味を持つようになり、その直後、桐生から持ちかけられたオペラグラス型の特殊カメラを使って加賀美が持ち帰る機密書類を写して来るというスパイ行為の勧誘に乗り、その書類を写したマイクロフィルムチョーカーペンダントヘッドに隠して持ってきていた。あの時。顕子の身に起こったのは『ミスタ・ネモ』こと結城の「二度とこんなことはなさらぬ様に」という忠告と、両脇を屈強な男に挟まれて会場を退出する桐生の姿だった。そしてチョーカーの中のマイクロフィルムは結城中佐によって、オペラグラスも何者かに持ち去られていた。桐生が逮捕されればスパイ行為をしていた自分にも容疑がかかるに違いない。そもそも二十年前の『約束』をなぜ今更果たしに来たのか・・・そこまで考えた時顕子は、D機関を潰そうとしていた陸軍内の最右翼に夫の加賀美中将が関わっているらしいという「探偵」の話を思い出し、すべての出来事は結城中佐とD機関による加賀美中将を抑えるための対抗策であり、自分はあの日の『約束』に便乗して一連の計略に利用されたのではないかと考える。しかし、所詮顕子にとって桐生友哉という若い愛人もスパイの真似事も、かつての駆け落ち騒ぎや夜遊びと同じ「退屈を紛らわせるための一環」であり、その延長として少しばかり危険な事に手を汚す事はあれど、結局は身を守れる範囲の中でしか遊ぶつもりはない。だから、今までと同じく自分にまで事が及ぶことはこれからもないと結論づける。そしてそう自覚した十五歳のあの時から変わらない自分と同じ様に、世の中が変わるだけで人は変わらないのだと、顕子は自室の鏡台の前で一人皮肉げに笑うのだった。
パンドラ
アジア・エクスプレス
満鉄特急あじあ〉号に乗車していた大東亞文化協会満州支部事務員の瀬戸礼二は、在満ソ連領事館に勤務する二等書記官のアントン・モロゾフと待ち合わせをしていた。モロゾフはハルビンの夜の街でロシア人の踊り子に入れ上げていた所を、本当は満州国の首都新京での情報収集任務を受けたD機関員である瀬戸が脅迫を交えて〝燃やした〟(協力者に仕立てた)人物で、三日前に彼から瀬戸あてに英字新聞を使用した緊急連絡法で、重要な機密情報を渡す代わりに大金を要求する通知が来ていた。瀬戸は同じく接触場所として指定されていた〈あじあ〉に乗り込むと、小型の鏡を使って挙動不審を隠さないモロゾフを監視し、彼が洗面所へ向かったのを確認してから数刻後に瀬戸が趣いて偶然居合わせた乗客を装って情報を交換する手筈だったのだが、待ち合わせ場所に行ってみると彼はおらず、隣の個室トイレを開けるとモロゾフが心臓麻痺を起こして死んでいるのを発見、さらに彼が所持していた情報が載っている筈の新聞が消えていた。実は二ヶ月の間で他にも瀬戸がソ連の内部情報提供者として掌握していた人物が立て続けに二人も同じ症状で亡くなっており、モロゾフを含む三人とも反逆者ユダを描いた『吊るされた男』のタロットカードを所持していた事から、スパイ殺しを主とするソ連の秘密諜報機関「スメルシュ」〝スメルト・シュピオナム〟(ロシア語で『スパイに死を!』の意)の仕業だと見抜く。それは同時に、暗殺者は今もこの〈あじあ〉に乗っている事と、次の奉天駅で停車するまでの2時間の間、誰も列車を降りられない事を意味していた。
そんな中、瀬戸は訓練生時代に行われたフェンシング試合の事を思い出した。当時、英国オックスフォード大学に留学していた彼は『得体の知れない極東出身の東洋人』として英国人学生達から見下される日々を送っており、そんな連中を左利きを活用した独自のフェンシング捌きで片っ端から叩きのめしていた。なので、訓練試合でも確実に勝利できると確信していたのだが、結城が対戦相手にその都度瀬戸の弱点を耳打ちしていたため、完璧なまでに打ちのめされてしまった。それは瀬戸自身の自負心を傷付けると同時に『人は得意分野に持ち込んだ時こそ、かえって致命的な失敗をおかす』という教訓を刻みつけた出来事だった。そうしてタロットカードを弄びながら食堂車にやって来た瀬戸は、共産主義革命の為に平気で命を投げ出すソ連のスパイも皇国史観に凝り固まった日本軍連中と同じだと自嘲し、同時に「スメルシュ」の暗殺者をどう炙り出し、盗まれた情報をどうやって取り返すかなどといった動きが読めないソ連スパイの対策を考えていると、母親同士がお喋りで構ってくれない事と窓から見えるひたすら平坦な景色のせいですっかり退屈しきっていた三人の子供達が瀬戸の無意識下に行っていた手品に惹かれて集まっていた。カードと素顔を見られてしまった瀬戸はとっさにコインを使った他愛もない手品を披露して子供たちを手懐けると同時に、証拠の品であるカードを三人の記憶から消させた。そして、父親が満鉄で勤めているという年長の少年から〈あじあ〉について聞かされた際『ある事』を思い出すと、それを利用するため子供達に「奉天駅で〈あじあ〉から降りて終点の大連に〈あじあ〉より先に着くにはどうすれば良いか?」というなぞなぞを出し、「君達が今から言う『特別任務』をやり遂げる事が出来たら答えを教える」という話を持ちかける。それは「昨日か一昨日の新聞を読んでいる人物を一等客室の中から探し出し、目印としてその人物の足元に例のカードを置いてくる」という『任務』で、これは子供ならば狭い車内を歩き回っていても不自然に思われず、尚且つ素早くターゲットを特定出来ると考えた瀬戸の「作戦」だった。

登場人物[編集]

結城(ゆうき)
陸軍中佐。50代年配。常に無表情で感情を表に出さない。底知れぬ頭脳と冷淡にして冷酷な言動から「魔王」の異名で恐れられる。かつては優秀なスパイとして長年に渡り敵国に潜伏し日本陸軍に有益な情報を多くもたらしたが、彼を恐れた仲間の裏切りにより敵に捕らえられるものの、隙を見て敵の情報を盗みつつ脱走した。捕縛中に受けた拷問で片手を失い、現在は義手を付けている。普段は右手に白い革の手袋をし杖をついて左足を引きずるような歩き方をしているが、歩行には何の問題もなく義手も左手であるなど、全てが敵(および味方)に対するフェイクである。
佐久間(さくま)
陸軍中尉。参謀本部からの監視役としてD機関に出向する。陸軍の規範から外れたD機関のメンバーの言動に憤慨するが、実力の高さを認識する。
三好(みよし)
D機関の訓練生。佐久間と共にゴードン宅の捜索を行う。
ジョン・ゴードン
アメリカ人スパイ。自宅に昭和天皇御真影を飾るほどの親日家を装い周囲の目を誤魔化している。
武藤(むとう)
陸軍大佐。参謀本部所属。ゴードン宅の捜索に失敗したため、その責任をD機関に押し付けようと画策する。迂闊にも料亭でそのことを漏らしていた。
蒲生 次郎(がもう じろう)
D機関のメンバー(アニメでは異なる)。横浜の「テーラー寺島」の店員に成りすまし、チェスの対戦相手としてグラハムと親密になり、身辺調査を行う。
アーネスト・グラハム
英国総領事。65歳。貧困家庭の出身で、英領インドで非合法な商売で財産を築き貴族の地位を手に入れる。
ジェーン・グラハム
グラハム夫人。45歳。名門貴族の出身で、日本に対し嫌悪感を抱いている。
張 大明(ちょう たいめい)
グラハムの執事。蒲生に弱みを握られ、協力者に仕立て上げられる。
伊沢 和男(いざわ かずお)
D機関のメンバー。ロンドンで叔父が営む「前田倫敦寫眞館」を隠れ蓑に情報収集を行う。本物の伊沢は日本国内に在住しており、マークス中佐に知られていた。
ハワード・マークス
陸軍中佐。英国諜報機関の指揮官で、過去に結城と面識がある。
本間 英司(ほんま えいじ)
憲兵軍曹。元特高刑事。上海憲兵隊に配属され、内通者の捜査を任される。
及川 政幸(おいかわ まさゆき)
憲兵大尉。上海憲兵隊分隊長。上海の治安維持で評価を得て、昇進と横沢中将の娘との婚約が決まっている。しかし、取り締まり目的で入った違法賭博に魅了され、賭博資金を得るためにアヘンの横流しを行う。
吉野 豊(よしの ゆたか)
憲兵上等兵。及川の共犯者でアヘンの運び屋。
草薙 行仁(くさなぎ ゆきひと)
D機関のメンバー。任務に支障をきたす及川を排除するため、友人だった塩塚朔に成りすまし本間に協力する。
飛崎 弘行(とびさき ひろゆき)
陸軍少尉。新兵を庇うため上官に反抗し、軍法会議にかけられたところを結城にスカウトされる。
カール・シュナイダー
ナチス・ドイツとソ連の二重スパイ。新聞記者として日本で情報収集を行う。奔放な女性関係など人目を引く行動をとり、周囲を欺いていた。
野上 百合子(のがみ ゆりこ)
シュナイダーの恋人。シュナイダーの紹介で劇団員として活動している。自由主義的思考を持ち、シュナイダーの奔放な女性関係を許容していた。

漫画[編集]

霜月かよ子作画でコミカライズ化され、『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて2009年6・7号(1月5日発売号)より「Dの魔王 〜ジョーカー・ゲーム〜」というタイトルで連載が開始され、後に『月刊!スピリッツ』(同)に連載誌が移動となる。2014年より映画版とのタイアップとして『ビッグコミックスピリッツ』で再開。仁藤すばる作画でアニメ版をコミカライズ化され、『月刊コミックガーデン』(マッグガーデン)にて2016年3月号より連載が開始された。

掲載情報
  • Dの魔王 〜ジョーカー・ゲーム〜(『週刊ビッグコミックスピリッツ』2009年第6・7合併号 - 第11号、全5話)
  • 幽霊(『週刊ビッグコミックスピリッツ』2009年第17号・第18号、全2話)
  • ロビンソン(『月刊! スピリッツ』2009年10月号 - 2010年1月号、全4話)
  • 魔都(『月刊! スピリッツ』2010年2月号 - 同年4月号、全3話)
  • XX(『月刊! スピリッツ』2010年5月号 - 同年7月号、全3話) 小説とは結末が異なる。
  • ジョーカー・ゲーム(『週刊ビッグコミックスピリッツ』2014年第51号 - 2015年8号、全8話)
  • ジョーカー・ゲーム THE ANIMATION(『月刊コミックガーデン』2016年3月号 - 、連載中)

書誌情報[編集]

小説
漫画
公式副読本

映画[編集]

ジョーカー・ゲーム
JOKER GAME
監督 入江悠
脚本 渡辺雄介
原作 柳広司
製作 藤村直人
甘木モリオ
製作総指揮 門屋大輔
出演者 亀梨和也
伊勢谷友介
深田恭子
音楽 岩崎太整
主題歌 KAT-TUNDead or Alive
撮影 柳島克己
編集 辻田恵美
制作会社 シネバザール
Infinite Studio
製作会社 「ジョーカー・ゲーム」製作委員会
日本テレビ放送網
配給 東宝
公開 日本の旗 2015年1月31日
上映時間 106分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
興行収入 9.6億円[2]
テンプレートを表示

ストーリー[編集]

ある日、仲間をかばい誤って上官を殺してしまった陸軍士官の青年の銃殺刑が執行されようとしていた。しかし、執行直前の刑場に陸軍の結城中佐が現れ、青年の身柄を引き取った。結城中佐は命を助ける条件として、自身が創設したスパイ組織・D機関への参加を持ち掛け、青年はこれを受け入れた。青年は他のメンバーと共に過酷な訓練を受け、スパイとしての素質を開花させていく。

青年がD機関に所属して暫く経った頃、結城中佐は参謀本部の武野大佐に呼び出され、新型爆弾の製造法が書かれた極秘書類・ブラックノートの奪取を命じられる。ブラックノートはドイツからアメリカ大使アーネスト・グラハムの手に渡り、2週間後にはアメリカ本国に引き渡されることになっていた。武野大佐はD機関に奪取を命じる一方、憲兵隊を使い先にブラックノートを手に入れ、疎ましく思っていたD機関を解体に追い込もうと画策していた。結城中佐はブラックノートの任務を青年に一任し「嘉藤次郎」の偽名を与え、グラハムが赴任している国際都市・虹楊(Hung Yang)に派遣する。

虹楊に到着した嘉藤は、写真屋に成りすましグラハムに近付いた。そこで嘉藤は、グラハム邸で働くリンに目を奪われる。数日後の夜、嘉藤はグラハム邸に潜入し金庫から手帳を見つけ出すが、手帳はブラックノートとは別物だった。その場を後にしようとする嘉藤は、グラハムに襲われていたリンを助け出す。収穫のなかった嘉藤は任務のメンバー小田切・実井に叱責されるが、「目星は付いている」として、グラハムの退任パーティーに潜入する。

グラハムの書斎からブラックノートのデータが写っているネガを発見した嘉藤はグラハム邸を後にしようとするが、そこに英国諜報機関のキャンベルが現れネガを奪おうとする。運良くリンが現れたためキャンベルはその場を逃げ出し、嘉藤は小田切・実井との合流地点に向かう。しかし、嘉藤を追って来たリンにネガを奪われてしまい、2人を追って来た英国諜報機関から逃れるためリンを見失ってしまう。小田切・実井との合流地点に到着した嘉藤は、リンから取り返したネガを取り出し、街から離れようとする。しかし、目の前でリンが英国諜報機関に捕まり、また、小田切・実井が乗っていた車が爆破され、混乱に巻き込まれた嘉藤は英国諜報機関に捕まってしまう。

英国諜報機関のアジトに監禁された嘉藤は、ハワード・マークス中佐から尋問を受ける。隣の部屋ではリンが拷問を受けており、嘉藤は彼女を救うため、「英国に寝返る」と告げる。マークス中佐は嘉藤に偽情報を打電させ、彼を牢屋に連行させた。嘉藤は牢屋を抜け出し、スリーパーの協力を得てアジトを脱出しようとするが、リンを助けるため拷問部屋に戻る。マークス中佐から待ち伏せを受けた嘉藤は命を狙われるが、リンの機転でその場を脱出し、救助を待つためアジトの屋上にある時計台に向かう。2人は時計台でマークス中佐に追い詰められるが、事前に仕掛けた火薬が爆発した混乱に紛れ脱出に成功する。

結城中佐はブラックノートを手に参謀本部に報告に訪れた。「新型爆弾製造には莫大な予算が掛かる上に成功する確率が1%以下」という事実を知ると、結城中佐の理解者の笹原大佐が奪取を命じた武野大佐の責任を追及する。武野大佐は批判を避けるためD機関に責任を押し付けようとするが、結城中佐は「武野大佐がブラックノート奪取のためにグラハムを殺害しようとしていた」「軍上層部や政府を軟弱呼ばわりしていた」という事実を暴露し、公表を控えることと引き換えにD機関の存続と多額の予算を手に入れる。

任務を終えた嘉藤は、爆死を免れた小田切・実井や救助に現れた三好と共にリンを連れて日本に戻ろうとするが、そこに英国諜報機関が現れる。車に乗り込む嘉藤たちを余所に、リンは1人その場を離れた。嘉藤もまた、結城中佐から新たな指令と偽名を与えられ、次の任地に向かった。

キャスト(映画)[編集]

スタッフ(映画)[編集]

製作[編集]

2012年に映画化の企画が始まり、「エンタテインメントとして成立する日本製スパイ映画を作る」という方針から、原作の読者の入江悠が監督に起用された[3]。原作は短編の連作であるため、映画化に際しては各エピソードを繋ぎ合わせ一本のストーリーに編成された[4]。また、嘉藤と結城の関係は『スパイ・ゲーム』のネイサン・ミュアーとトム・ビショップを参考にしている[5]

主演には原作の読者の亀梨和也が起用され、役作りとして英語中国語手品・アクション・モールス信号の打電法・拳銃の分解法などを学んでいる[3]

撮影は2014年1月4日から始まり、シンガポールインドネシアバタム島で撮影された[6]。映画の舞台となる虹楊(Hung Yang)は1930年代〜1940年代の上海租界とシンガポールをモデルにしている[3]。シンガポール・バタム島ではインドネシア・シンガポール・タイフィリピンオーストラリアのスタッフ150人が参加し、英語でコミュニケーションが行われ、アクションシーンには『ザ・レイド』の助監督チームが参加している[7]

公開[編集]

2015年1月31日公開。1月31日、2月1日の2日間で17万4,121人を動員し、興行収入は2億713万1,700円を記録し映画観客動員ランキング(興行通信社調べ)で初登場第2位となった[8]。10代〜50代までの幅広い観客層を集客した[9]

テレビアニメ[編集]

2016年4月から6月までAT-XTOKYO MX他にて放送された[10][1]。また、Blu-ray BOX上下巻には黒の野良猫ヨル(声 - 関智一)が視点のエピソード「黒猫ヨルの冒険」が前後編に分けて収録されている。

Newtype×マチ★アソビ アニメアワード2016において乃木坂46賞を受賞した。

キャスト(アニメ)[編集]

スタッフ(アニメ)[編集]

主題歌(アニメ)[編集]

オープニングテーマ「REASON TRIANGLE」
作詞・作曲 - HIDEO NEKOTA / 編曲・演奏 - QUADRANGLE
エンディングテーマ「DOUBLE」
作詞・作曲 - 高津戸信幸 / 編曲 - MAGIC OF LiFE宮井英俊 / 演奏 - MAGIC OF LiFE

各話リスト[編集]

話数 サブタイトル 絵コンテ 演出 作画監督
第1話 ジョーカー・ゲーム(前編) 野村和也 矢萩利幸
第2話 ジョーカー・ゲーム(後編) 野村和也 安乱純志 中村深雪
第3話 誤算 浜名孝行 二宮壮史 窪田康高、小谷杏子
第4話 魔都 竹内敦志 細川ヒデキ 山口飛鳥
第5話 ロビンソン 黄瀬和哉
第6話 アジア・エクスプレス 須之内佑典 窪田康高、石井明治
第7話 暗号名ケルベロス 小村方宏治 新野量太、森田史
第8話 ダブル・ジョーカー(前編) 佐藤雄三 森大貴 山口飛鳥
第9話 ダブル・ジョーカー(後編) 二宮壮史
森大貴
第10話 追跡 荒川直樹 二宮壮史 新野量太、森田史
古川良太
第11話 板津匡覧 中村深雪
第12話 XX ダブル・クロス 野村和也 中村深雪、窪田康高
映像特典1 黒猫ヨルの冒険(前編) 細川ヒデキ 石井明治
映像特典2 黒猫ヨルの冒険(後編)

放送局[編集]

日本国内 テレビ / 放送期間および放送時間[13]
放送期間 放送時間 放送局 対象地域 [14] 備考
2016年4月5日 - 6月21日 火曜 23:00 - 23:30 AT-X 日本全域 CS放送 / リピート放送あり / 製作委員会参加
2016年4月6日 - 6月22日 水曜 0:30 - 1:00(火曜深夜) TOKYO MX 東京都
水曜 1:35 - 2:05(火曜深夜) テレビ愛知 愛知県
水曜 2:30 - 3:00(火曜深夜) 毎日放送 近畿広域圏 アニメ特区』第1部
2016年4月7日 - 6月23日 木曜 0:00 - 0:30(水曜深夜) BS11 日本全域 BS放送 / 『ANIME+』枠
日本国内 インターネット配信 / 放送期間および放送時間
配信期間 配信時間 配信サイト 備考
2016年4月7日 - 6月23日 木曜 12:00 更新 dアニメストア
2016年4月14日 - 6月30日 不明 楽天ショウタイム 最新話は1週間無料
Gyao! 最新話は1週間無料
GYAO!ストア
ニコニコチャンネル 第1話は常時無料 / 最新話は1週間無料
DMM.com
バンダイチャンネル 第1話は常時無料 / 有料会員は全話見放題
U-NEXT
ひかりTV
J:COM オンデマンド
ビデオパス
ビデオマーケット
HAPPY!動画
ムービーフルPlus
ライブ配信時間未定 ニコニコ生放送
2016年4月20日 - 7月6日 未定 PSストア

BD / DVD[編集]

発売日 収録話 規格品番
BD
2016年7月27日 第1話 - 第6話 ZMAZ-10711
2016年9月28日 第7話 - 第12話 ZMAZ-10712
DVD
1 2016年7月27日 第1話 - 第3話 ZMBZ-10721
2 2016年8月24日 第4話 - 第6話 ZMBZ-10722
3 2016年9月28日 第7話 - 第9話 ZMBZ-10723
4 2016年10月26日 第10話 - 第12話 ZMBZ-10724

舞台[編集]

同名タイトルで、2017年5月にZeppブルーシアター六本木で上演予定。脚本・演出は西田大輔が担当[15]

脚注[編集]

  1. ^ a b スパイ小説「ジョーカー・ゲーム」TVアニメ化、キャラ原案は三輪士郎”. コミックナタリー (2015年8月10日). 2015年8月10日閲覧。
  2. ^ 『キネマ旬報』2016年3月下旬号、72頁。
  3. ^ a b c 映画パンフレットP19。
  4. ^ 映画パンフレットP23。
  5. ^ 映画パンフレットP24。
  6. ^ 亀梨和也が“天才スパイ”に!深田恭子&伊勢谷友介と共演…映画『ジョーカー・ゲーム』”. cinemacafe.net (2014年1月6日). 2014年3月27日閲覧。
  7. ^ 映画パンフレットP23。
  8. ^ 【国内映画ランキング】「ベイマックス」依然強し「ジョーカー・ゲーム」は2位デビュー”. 映画.com (2015年2月3日). 2015年2月4日閲覧。
  9. ^ 『ベイマックス』が『妖怪ウォッチ』を抜いた!正月興収ナンバーワン!【映画週末興行成績】”. シネマトゥデイ (2015年2月3日). 2015年2月4日閲覧。
  10. ^ アニメ『ジョーカー・ゲーム』2016年4月から”. ORICON STYLE (2015年12月11日). 2015年12月11日閲覧。
  11. ^ a b c d e f g h i j k l m CHARACTER”. TVアニメ『ジョーカー・ゲーム』公式サイト. 2016年6月3日閲覧。
  12. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r STORY”. TVアニメ『ジョーカー・ゲーム』公式サイト. 2016年6月3日閲覧。
  13. ^ ON AIR”. TVアニメ『ジョーカー・ゲーム』公式サイト. 2016年3月4日閲覧。
  14. ^ テレビ放送対象地域の出典: 放送分野の動向及び規制・制度(資料2)”. 政府規制等と競争政策に関する研究会「通信・放送の融合の進展下における放送分野の競争政策の在り方」. 公正取引委員会. p. 2 (2009年10月9日). 2016年8月12日閲覧。 基幹放送普及計画”. 2016年8月12日閲覧。 地デジ放送局情報”. 一般社団法人デジタル放送推進協会. 2016年8月12日閲覧。
  15. ^ “西田大輔の脚本・演出でアニメ「ジョーカー・ゲーム」舞台化、鈴木勝吾ら出演”. ステージナタリー. (2017年1月5日). http://natalie.mu/stage/news/215721 2017年1月6日閲覧。 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]