シンフォニエッタ (入野義朗)

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小管弦楽のための「シンフォニエッタ」は、日本作曲家入野義朗によるシンフォニエッタである。1954年毎日音楽賞受賞作品。

作曲の経緯[編集]

1953年初頭に書き始められ、一時作業中断していたが、斎藤秀雄より東京交響楽団の定期演奏会用の委嘱を受けたため、同年10月24日に完成した[1]

初演[編集]

1953年11月13日、斎藤秀雄指揮、東京交響楽団により初演された[2]

編成[編集]

フルート(ピッコロ持ち替え)1、オーボエ1、クラリネットバス・クラリネット持ち替え)1、ファゴットコントラファゴット持ち替え)1、トランペット1、ホルン1、トロンボーン1、テューバ1、ティンパニシロフォン大太鼓シンバル小太鼓ピアノ[3]弦楽五部

作品の概要[編集]

十二音技法を用いて書かれている。また、ボリス・ブラッハーの「可変拍子」の手法(漸増、漸減するリズム形)やオリヴィエ・メシアンのリズム手法、アルバン・ベルクのセリー手法(原音列から一定の法則に基づき新しい音列を作る)を導入している[1]

3楽章形式の作品であるが、各楽章は切れ目なく演奏される。

原音列の構造[編集]

この作品で用いられている原音列は「C-Fis-G-As-Es-Des-E-D-A-B-H-F」というものである。

この原音列(O1)を逆から読んだ逆行形(R1)は、原音列を完全五度移植したものの反行形(I6)と一致する。すなわち、原音列(O1)は、完全五度移植したものの反行形の逆行形(IR6)と一致している。作曲者は「全曲の統一」のためにこういった音列を用いたと述べている[4]

第1楽章[編集]

「イントロダクションとフーガ」アレグレット - アレグロ・モデラート。

まず、小太鼓によって、八分音符の数を1つから5つへと漸増させてゆく、この曲の統一要素となるリズムが提示され、続いて、ピアノと木管楽器により、原音列の前半6音と後半6音を重ねた上昇音形で、原音列が提示される。弦楽器のピッツィカートが厚みを増して盛り上がると、強く和音が叩かれ最初の頂点を形成する。

速度を速めてフーガが開始される。まず、クラリネット、ファゴット、チェロ、コントラバスによりフーガ主題が提示され、ここで初めて原音列が明らかにされる。このフーガ主題の冒頭のリズム形は、八分音符単位で「4→3→2→1」と漸減してゆくものである。「提示ー展開ー再現」の三つの部分からなり、展開の部分ではリズム的な展開を主体とする。再現の部分では音色を変えながら音楽が進み、頂点で「4→3→2→1」のリズム形が拡大して奏される。

第2楽章[編集]

「主題と変奏」レント。

原音列から1音おきに取った音で構成した二つの和音を、次々にフォルティッシモで打ち鳴らして開始される。この和音打撃を作曲者は「モットー」と呼んでおり、この「モットー」はその後、主題と変奏、および各変奏の間に奏される。 続いて、弦楽合奏により「主題」が提示される。この主題は、十六分音符単位で「3→1→2→4」というリズム形を繰り返すものであり、その旋律は、原音列から6つごとに拾いだした(C→Des、Des→H、H→As…)音で構成されている。 「モットー」を挟んで第一変奏が木管四重奏で奏される。第二変奏は金管楽器とピアノ、打楽器によるもので、舞曲風である。第三変奏は各楽器に主題が受け渡され、弦楽器のピッツィカートで終る。

第3楽章[編集]

「インヴェンション」アレグロ・ジュスト。

作曲者は、「インヴェンションと名付けたのは、ベルクが『ヴォツェック』において名付けたのと同じように、リズムについてのインヴェンションなのである」と述べている[5]

弦楽器が刻む音の上に、管楽器が和音を叩き付けることで、八分音符単位で「5→4→3→2→1」という周期で全合奏が響く、リズミカルな音楽で開始される。 続くA部分で弦楽器に提示される主題は八分音符単位で「1→2→3→4→5、1→4→2→5→3、1→5→4→3→2、1→3→5→2→4」というリズム形を持ち、「あるリズム形の四つ目ごとの音価を順に取る」という手法を用いている。続くバス・クラリネットから始まる部分は音価「2」から始まるもの、金管楽器から始まる部分は音価「3」から始まるもの、オーボエから始まる部分は音価「4」から始まるもの、と、様々なリズム的展開を見せる。時折、全曲の冒頭に提示されたリズム形が現れ、最後は「5→4→3→2→1」という漸減するリズム形で静かに曲を閉じる。

参考文献[編集]

  • 『最新 名曲解説全集3 交響曲Ⅲ』(音楽之友社)における、佐野光司による楽曲解説
  • 入野義郎:小管弦楽のための《シンフォニエッタ》フルスコア(音楽之友社 OGT1002)

脚注[編集]

  1. ^ a b 『最新 名曲解説全集3 交響曲Ⅲ』382ページ。
  2. ^ 『最新 名曲解説全集3 交響曲Ⅲ』383ページ。
  3. ^ 『最新 名曲解説全集3 交響曲Ⅲ』および、音楽之友社から刊行された本作品のスコアに掲載された編成表からはピアノが抜け落ちている。
  4. ^ 『シンフォニエッタ』スコアの作曲者本人による解説文より。
  5. ^ 『最新 名曲解説全集3 交響曲Ⅲ』385ページ。