シュペルエタンダール

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シュペルエタンダール

空中給油を受けるアルゼンチン海軍のシュペルエタンダール

空中給油を受けるアルゼンチン海軍のシュペルエタンダール

シュペルエタンダールSuper Étendard)は、フランスダッソー・ブレゲー社が開発した遷音速艦上攻撃機フランス海軍アルゼンチン海軍が採用した。1978年から実戦配備され、総生産機数は85機。

来歴[編集]

1960年代フランス海軍空母航空団は、艦上戦闘機としてヴォートF-8FNクルーセイダー艦上哨戒機としてブレゲーBr.1050アリゼ艦上攻撃機としてダッソー・エタンダールIV-M/Pを運用していたが、いずれも基本設計が古く、近い将来に後継機が必要になることが予測された[1]。しかし予算などの制約からこれら全てを同時に更新することは不可能であり、まずは空母打撃力の中核となる艦上攻撃機の更新が図られることになった[1]

当初はSEPECAT ジャギュアの艦載型(ジャガーM)が候補となり、1972年までに「クレマンソー」艦上で200時間もの空母適合試験が実施された[1]。しかし着艦時のエンジンレスポンスの遅れを補うパーシャルアフターバーナーの結果が不満足であり、最終的には棄却された[1]。その代案として、フランス海軍はマクダネル・ダグラスA-4MスカイホークヴォートA-7EコルセアIIを検討し、またダッソー社はミラージュF1 M53の艦載型を提案したが、いずれも運用するために空母側の改装が必要で、コスト上昇が懸念された[1]。このことから、1973年1月19日、ミシェル・ドブレ国防大臣はエタンダールIV-Mを発展させたシュペルエタンダールの採用を発表した[1]

まずエタンダールIV-Mの機体を改造した試作機2機が製作され、初号機は1974年10月28日、また2号機は1975年3月25日に初飛行した[2]。また量産型初号機は1977年11月24日に初飛行し、1978年6月からはフランス海軍への引き渡しが開始された[2]

機体構成[編集]

上記の経緯もあり、シュペルエタンダールはエタンダールIV-Mとの共通性が高く、機体のハードウェアは約90パーセントが共通である[1]。差異の一つが高揚力装置で、主翼リーディングエッジ・フラップは翼端まで延長され、また付け根部分の後退角がわずかに減少している[1]。これによって発着艦時の揚力を増大させると同時に、低速時の方向安定性を改善している[1]エンジンも、より強力なスネクマアター 8K-50 ターボジェットエンジンに変更されているが、アフターバーナーはもたないため、アフガニスタンのような高温・高高度地域での運用ではペイロードに制限を受けることになった[1]。なおカタパルトのシャトルへの接続はブライドルワイヤを使う方式であるため、後にアメリカ海軍がこの方式を全廃して主脚のローンチバーを使用する方式に統一すると、アメリカ空母からは発艦できなくなった[1]

各種アビオニクス類も完全にアップグレードされており、機首にはアゲブ・レーダーを搭載した[2]。これはトムソンCSF社とダッソー・エレクトロニク社が共同開発したXバンドのモノパルス・レーダーであった。またサジェム/キアフォット社製ETNA航法/攻撃システム、サジェム/キアフォット社製SKN602慣性航法装置なども搭載されている。このほかにも、クローゼ66 エア・データ・コンピュータと航法表示装置および兵装管理システム、トムソンCSF社製VE-120 HUD戦術航法装置(TACAN)、電波高度計などを装備する。コックピット前方には空中給油用プローブの装着も可能になっている。また逆に、AFAIK空中給油ポッドを搭載して、空中給油機として行動することもある。なお本機のために1,100リットルの増槽が開発されたが、発艦重量の関係から、兵装を搭載する場合にはエタンダールIVと同じ625リットル増槽を搭載する場合が多かった[1]

1985年にダッソー社が発表した改修計画案では、艦載運用以外に不必要な一部器材を撤去し、その空きスペースを利用して最新の高性能攻撃/航法システムを搭載するものとしていたが、海軍からは更なる攻撃能力の向上が要求され、1986年から近代化改修が開始された。この近代化改修計画での最大の主眼は、核弾頭を装備可能なASMP巡航ミサイル携行能力の付与で、胴体中心線下に1発が携行できるようになった。また、レーダーもダッソー・エレクトロニク製アネモネフランス語版に更新され、探知距離はほぼ倍増したほか、対地/対洋上モードやグラウンド・マッピング・モードが強化されている。さらに、コックピットにはHOTAS概念が導入され、HUDも22度の広視野型となり、TVあるいは赤外線画像の表示可能なラスター・スキャン型になっている。

航法装置ではサジェム/キアフォット社製慣性プラットフォームが追加され、兵装およびエア・データ・コンピュータはUAT90に変更されて演算能力が高められ、レーダー警戒受信装置、VCN65電子戦表示装置の装備などによって自己防御能力も強化された。機体フレームの強化も合わせて実施され、寿命飛行時間が6,500時間に延ばされた。

この改修型シュペルエタンダール(スタンダード2仕様)初号機は1990年10月5日に初飛行し、ダッソー社ではさらに2機の試作改修機を製作して実用化への飛行試験を実施し、1993年から量産改修作業が開始された。改修予定機数は当初、40機程度が予定されていたが、ラファールMの実用化が遅れたことから、54機に追加された。

なお、2003年には前方赤外線監視装置(FLIR)、地形参照航法装置を装備し、夜間作戦能力を向上させるスタンダード5仕様へのアップグレードが計画され、一部の機体への改修作業が開始された。

採用国[編集]

運用史[編集]

フランス海軍[編集]

フランス海軍での初陣は、1983年9月22日にレバノンにおけるフランス平和維持軍の支援任務であった[1]。クルーセイダーが艦隊防空用の単能機だったこともあって、フランス海軍の空母航空団が行ったほとんどの作戦において、シュペルエタンダールは主力機として投入された[1]

フランス海軍では、当初、クルーセイダーとシュペルエタンダールの両方がラファールMによって更新される予定だったが、国防予算の削減によってラファールMの開発が遅延したことから、まず陳腐化・老朽化が深刻なクルーセイダーの後継として、空対空戦闘能力に限定されたF1規格の機体を配備したのち、シュペルエタンダールの後継として、マルチロール機としてF3規格の機体を配備するという方策が採られることになった[1]

このためにシュペルエタンダールは当初予定よりもかなり長く現役にとどまることになり、新しい原子力空母シャルル・ド・ゴール」に搭載されて、不朽の自由作戦にも投入された[1]。その後、ラファールMの配備の進展に伴って、2016年7月13日にフランス海軍での運用を終了した[3]

アルゼンチン海軍[編集]

アルゼンチン海軍には14機採用されている。1982年に発生したイギリスとのフォークランド紛争では、イギリス艦船に対してエグゾセ空対艦ミサイルを使用し、イギリス海軍駆逐艦シェフィールド」を撃沈するなど大きな被害を与え、イギリス海軍に空母機動部隊フォークランド諸島接近を逡巡させるなど、同機の名前を世界的に有名にした。

イラク空軍[編集]

イラン・イラク戦争において、イラクが発注したミラージュF1の納入が遅れたため、つなぎとして5機がイラク空軍に貸与され主にイラン向けタンカーに対しての通商破壊やイラン艦艇への攻撃に使用された。これらは、失われた1機を除いてミラージュF1納入後にフランスに返還された。詳細はイラン・イラク戦争における航空戦を参照。

派生型[編集]

シュペルエタンダール
初期生産型。
シュペルエタンダールM
近代化改修型。

諸元[編集]

出典: Taylor 1983, pp. 65–66

諸元

性能

  • 最大速度: 高高度: マッハ1; 低高度: 1,180 km/h (637ノット)
  • 失速速度: 250 km/h (135ノット) ※全備重量7,800 kgでの着艦速度
  • 戦闘行動半径: 850 km (460 nmi) ※エグゾセAM39空対艦ミサイル1発+増槽2基搭載、Hi-Lo-Hiミッション時
  • 実用上昇限度: 13,700 m (45,000 ft)

武装

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登場作品[編集]

脚注[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Tokunaga 2010.
  2. ^ a b c Taylor 1983, pp. 65–66.
  3. ^ Gert 2016.

参考文献[編集]

  • Gert, Kromhout「Sunset for the SEM : フランス海軍シュペルエタンダールの終焉」『航空ファン』第65巻第10号、文林堂、2016年10月、20-23頁、NAID 40020942432 
  • Taylor, John W. (1983). Jane's All the World's Aircraft 1982-83. Jane's Publishing Company Ltd.. ISBN 978-0710607805 
  • Tokunaga, Katsuhiko「フランス海軍最新鋭空母上の老兵 シャルル・ド・ゴールとシュペルエタンダール」『航空ファン』第59巻第4号、文林堂、2010年4月、32-37頁、NAID 40016984049 

関連項目[編集]