シベール (同人誌)

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シベール』は、吾妻ひでお沖由佳雄蛭児神建らがコミックマーケットで販売していた日本初のロリコン漫画同人誌1979年4月に創刊され、1981年4月の第7号をもって廃刊した。なお表紙が黒一色であったため「謎の黒本」とも称された。またコミケで行列が出来た同人サークルは『シベール』が史上初といわれる[1]。誌名の由来は『シベールの日曜日』から。

概要[編集]

『シベール』はロリコン同人誌(=男性向けエロ同人誌)の草分けかつ立役者的役割の同人サークルで、コミケにおける「ロリコン同人誌ブーム」の起点となったことで名が知られる。また同誌の潮流は日本初の商業ロリコン誌『レモンピープル』を始めとする美少女コミック誌の成立にも多大な影響を与えることになり、その後の『くりいむレモン』などの美少女アニメの展開および美少女ゲームの発展にもつながった。以上の経緯から同誌は今日に至るまで連綿と受け継がれている二次元美少女(二次ロリ)文化すべての原点とみなされている[2]

主な執筆者は吾妻ひでお沖由佳雄蛭児神建弧ノ間和歩計奈恵豊島ゆーさく三鷹公一森野うさぎなどで全員別ペンネームで描いている[3]

歴史[編集]

『シベール』は吾妻ひでおの事務所「無気力プロ」に集まった有志数人により創刊された。主力作家は漫画やアニメの愛好家が出入りする江古田の喫茶店「まんが画廊」の常連客から吾妻のアシスタントであった沖由佳雄がスカウトしてきた数名の同人で構成され[4]、この中には『シベール』に先駆けて1978年12月に日本初のロリコン同人誌『愛栗鼠』をコミックマーケット10で発表していた蛭児神建もいた。

吾妻によると同誌は「コミケからやおいを駆逐する」目的で創刊したとのことで、これは同誌のスローガンにもなった[5]。これについて米澤嘉博の証言では初期のコミックマーケットに訪れる参加者の8割が女性(腐女子)であり、流行していたものも『宇宙戦艦ヤマト』などに登場する男性キャラのボーイズラブを扱った「やおい」ものばかりであったことから、ロリコン漫画の出現とは「やおい」が蔓延するコミケという場へ向けた、男性側からの一種の対抗文化(カウンターカルチャー)であったのだという[6]。また当時の一般的な男性向けエロ漫画はリアルタッチのエロ劇画(三流劇画)がほとんどで『シベール』をはじめとするロリコン漫画の出現は「少年誌のような丸っこい記号的な絵柄でもセックスが描ける」という「かわいいエロ」の発見をもたらした。実際、吾妻と沖によれば同誌を創刊した背景には当時のエロ劇画に対する強固な反発心が根底にあったという[7][8]

3号目以降は開場前から行列ができるほどの人気を集めていたが[9]、次第に参加者の本職が忙しくなり、同誌は7号目を最後に廃刊する[10]。しかし、同人業界に『シベール』が与えた影響は大きく、これを嚆矢としてコミックマーケットではロリコン同人誌が氾濫するに至り、その後のロリコンブームの直接的な起爆剤となった[11]志水一夫はロリコン漫画ブーム到来と共に『シベール』が突然廃刊したことで、欲求不満になった有志が次々にロリコン同人誌を出しはじめたといい「盛り上がったところで消滅しちゃったもんだから、どんなモノでも売れた」と述懐している[4]

なお、吾妻が『シベール』創刊号に発表した『赤ずきん・いん・わんだあらんど』は単行本未収録のままであったが、2015年復刊ドットコムから出版された『ワンダー・AZUMA HIDEO・ランド』に初収録された。

書誌情報[編集]

『シベール』各号の発行日等(『ふゅーじょんぷろだくと』1981年10月号 108ページ〈著者:原丸太〉より)
号数 発行日 判型 印刷形態 項数 定価 備考
創刊号 (vol.1) 1979年4月8日 B5 コピー 26ページ 300円 1979年6月15日に第2版刊行。最終項の編集後記、本文2か所に差異あり
vol.2 1979年7月27日 B5 コピー 46ページ 400円 1980年8月にvol1の一部を合わせたオフセット第2版刊行。
vol.3 1979年12月 B5 オフセット 54ページ 300円 この号より完全オフセット化
vol.4 1980年5月 B5 オフセット 46ページ 300円 -
vol.5 1980年9月 B5 オフセット 80ページ 400円 掲載のアニパロ漫画が好評。この号からアニパロが増えたとのこと
vol.6 1980年12月 B5 オフセット 82ページ 400円 「メンバー間の意見の相違が作品中に」[12]表出
vol.7 (終刊) 1981年4月 B5 オフセット 108ページ 400円 「終刊それ自体をテーマとした作品」[12]多数
  • この他にも『アニベール』(1981年4月発行のアニパロ系コピー誌)[13],vol.0(吾妻・沖の2名で1978年12月に作成したコピー誌)[7]がある。

関連項目[編集]

参考資料[編集]

関連誌[編集]

  • ミャアちゃん官能写真集』 - 1981年8月発行[18]。吾妻ひでおの漫画『スクラップ学園』の主人公 猫山美亜(ミャアちゃん) のイラスト等を収録。C18(1981年夏のコミケ)にて1,600冊を6時間かけて頒布[19]
  • 『AMA』 - 1979年12月創刊。81年7月の第4号で終刊[20]。アニメニア・アーミー発行。『機動戦士ガンダム』の成人向け同人誌。男性向けアニパロ誌の嚆矢として知られる。
  • 『クラリスマガジン』 - 1980年8月創刊。同年12月の2号で休刊[13]。『ルパン三世 カリオストロの城』の同人誌。ロリコンファンジンの中核としてコミケで人気を博すが、増刷時の未発送トラブル(サークル関係者ではなく再販時の関係者の不祥事)で某アニメ誌を巻き込んだ「同人誌史上最大の詐欺事件」と呼ばれる「クラリスマガジン事件」を起こした[21]
  • 『人形姫』 - 1980年12月創刊。サーカスマッドカプセル(千之ナイフ破李拳竜が中心のサークル)発行。少女サイボーグやピグマリオンコンプレックスを主題とした同人誌[18]
  • 『ロータリー』 - 1980年7月創刊[20]。1989年夏コミ時点で27号[22]。ロータリークラブ発行。あるデザイン学校の学生がシベールを見て自分たちも同様の同人誌の発行を志す[18]。1981年夏のコミケにおけるロリコンファンジンの大量出現の契機を作る。
  • 『ヴィーナス』 - 1981年5月創刊、同年11月の第3号で終刊[23]。ムーンライン製作室発行。「アニメ女性キャラクター・ヌード専門誌」を名乗る[13]。1981年夏のコミケにおけるロリコンファンジンの大量出現の契機を作る。

脚注[編集]

  1. ^ みぐぞう『くりいむレモン毒本』華ディスコ 2017年 87頁
  2. ^ 森川 2011.
  3. ^ コミックマーケット準備会コミックマーケット30’sファイル青林工藝舎 2005年7月,P241
  4. ^ a b 青山, 志水 & 斉田 1994, p. 141.
  5. ^ 蛭児神建『出家日記―ある「おたく」の生涯』角川書店 2005年11月 40頁
  6. ^ ある編集者の遺した仕事とその光跡 天災編集者!青山正明の世界 第30回 ロリコンにおける青山正明(2)
  7. ^ a b コミックマーケット準備会『コミックマーケット30’sファイル』青林工藝舎 2005年7月,P242
  8. ^ 吾妻ひでお『逃亡日記』日本文芸社 2007年1月 180頁より「まあ、そういう……エロ界の革命をね。この世から劇画を駆逐せよとね(笑)。そのころは同人誌もやっていたけど、あれは“やおい”を駆逐する目的だったの。結果的には劇画誌から劇画を駆逐したんだけど。みんなアニメ顔になったんだから(笑)。なかなか劇画もしぶといけどね。でも、子供時代から少年誌を読んでいる子供たちは、そういうアニメ顔でエロを読んでいるんじゃない、今? オレ自身はアニメ顔のエロはきらい。劇画の女性もきらい。ほどよく融合したリアリティーのある絵が好き。今のロリエロ漫画が氾濫してる時代、影丸譲也さんとか、笠間しろうさんの描く熟女がなつかしいよ。『いい肉(しし)してやがるなあ』とかの名ゼリフがあったりね。ロリエロ飽きた」
  9. ^ 計奈恵のツイート 2019年10月21日
  10. ^ 沖由佳雄+KAZUNA(計奈恵)トークイベント「『シベール』の頃」 - 明治大学米沢嘉博記念図書館
  11. ^ その後『シベール』に追随するロリ系のファンジンが多く現れたものの、主流ジャンルはロリータの範疇から外れた「美少女もの」や「アニパロ」などになっていく(別冊宝島104『おたくの本』1989年 p.105)。
  12. ^ a b ふゅーじょんぷろだくと』1981年10月号「特集 ロリータあるいは如何にして私は正常な恋愛を放棄し美少女を愛するに至ったか」 P109
  13. ^ a b c ふゅーじょんぷろだくと』1981年10月号「特集 ロリータあるいは如何にして私は正常な恋愛を放棄し美少女を愛するに至ったか」 P94
  14. ^ 怪しい編集者 - ネットゲリラ 2018年11月25日付
  15. ^ 川本耕次『ポルノ雑誌の昭和史』ちくま新書 2011年 112頁
  16. ^ 吾妻ひでお失踪日記イースト・プレス 2005年3月 142頁
  17. ^ 大塚英志ササキバラ・ゴウ『教養としての〈まんが・アニメ〉』講談社〈講談社現代新書〉、2001年。ISBN 978-4061495531
  18. ^ a b c ふゅーじょんぷろだくと』1981年10月号「特集 ロリータあるいは如何にして私は正常な恋愛を放棄し美少女を愛するに至ったか」 P93
  19. ^ コミックマーケット準備会『コミックマーケット30’sファイル』青林工藝舎 2005年7月,P265
  20. ^ a b アニメージュ増刊 アップル・パイ 美少女まんが大全集 P116
  21. ^ クラリスFC『クラリス狂専誌 クラリスMAGAZINE』No.1+No.2+「クラリスマガジン被害者同盟からのお知らせ」セット - まんだらけオークション
  22. ^ 『漫画同人誌エトセトラ'82~'98 状況論とレビュ-で読むおたく史』 P155
  23. ^ アニメージュ増刊 アップル・パイ 美少女まんが大全集 P117

外部リンク[編集]