サバクトビバッタ

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サバクトビバッタ
産卵するサバクトビバッタ
産卵するサバクトビバッタ
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: バッタ目 Orthoptera
亜目 : バッタ亜目 Caelifera
: バッタ科 Acrididae
: SchistocercaSchistocerca
: サバクトビバッタ S. gregaria[1]
学名
Schistocerca gregaria
Forsskål1775
和名
サバクトビバッタ
英名
Desert locust

サバクトビバッタ(砂漠飛蝗、学名:Schistocerca gregaria )は、バッタ科バッタサバクワタリバッタサバクバッタエジプトツチイナゴとも。代表的なワタリバッタ(locust)として知られ、時々大発生し、有史以来、アフリカ中東アジアに被害(蝗害)を与え続けている。サバクトビバッタは体が大きく、移動距離が長く速度も速いため、大きな蝗害を起こしやすい。現在でも、地球上の陸地の約20%、世界の人口の10分の1、60の国が、この昆虫の被害を受けている。

形態[編集]

成虫のオスの体長は40-50mm、メスの体長は50-60mmであり、蝗害を起こすバッタの中では大型の部類に入る。前翅は半透明で多数の斑点があり、後翅はほぼ透明で斑点が無い。体色は、成虫になって直後はピンク、しばらくするとバラ色、茶色、オレンジブラウンなどになる。成熟するとオスはくすんだ黄色、メスは明るい黄色になる[2]

生態[編集]

サバクトビバッタ幼虫の相変異
(上)孤独相、(下)群生相
拡大写真

サバクトビバッタの寿命は3-6ヶ月、1年当たりの世代交代回数は2-5回である。雨季になるまで、1匹1匹が別々に暮らしている。雨季になって草が生長すると、雌が草地に卵を産む。卵が孵った時に、草が餌と隠れ家になるためである。

ところが草地が元々少なかったり、降水量が減って草地が減ったりすると、幼虫は残された餌場を求めて集まってくる。このような集団環境で育ったバッタが生む子の体色は、元来の緑ではなく、黄色や黒に変化する。この現象は相変異と呼ばれている。幼虫が成長すると、茶色や赤、黄色になる。また、羽根に比べて体長が短くなる。さらに、互いを引き寄せるフェロモンを放ち、群れを作るようになる。群れは10-16世代にわたって増加を続け、1つの群れは最大で1,200平方キロメートルを移動し、1平方キロメートルあたりに4,000万から8,000万匹が含まれている。

幼虫と成虫ではフェロモンの種類が異なる。幼虫のフェロモンは互いを引き寄せる働きをするが、成虫が出すフェロモンは方向感覚を狂わせる働きがある。そのため、成虫となった群れは2-3日で崩壊し、再び1匹1匹に分かれることがある(この性質を利用して、蝗害を防ぐ研究も進められている)。

分布[編集]

大発生期を除いて、サバクトビバッタの分布はモーリタニアを西端としてサハラ砂漠アラビア半島インド北部までの1,600万平方キロメートルに集中している。エチオピア高原北部のティグレ州エリトリアで生まれた幼虫は、紅海沿岸にゆっくりと移動してそこで成長する[3]。気象条件と生活環境によっては、群れが世代交代を繰り返しながら移動していくため、北はスペインロシア、南はナイジェリアケニア、東はインド西南アジアにまで達する。群れは、風に乗って移動するため、移動速度は概ね風速に近い。1日あたりの飛行距離は100-200キロメートルである。到達高度は最高で海抜2,000メートルであり、これ以上は気温が低すぎるため上ることができない。そのため、アトラス山脈ヒンドゥークシュ山脈(アフガニスタン)、ヒマラヤ山脈を超えて進むことはできない。また、西アフリカ南部や中部アフリカ熱帯雨林や中央ヨーロッパに進む事はない。一方で、紅海を超えてアフリカからアラビア半島を移動することが可能であり、1987年から1989年にかけての大発生の時には10日間をかけてアフリカから大西洋を越えてカリブ海にまで到達している。

農被害[編集]

餌を食べるサバクトビバッタ

サバクトビバッタは、毎日自分の体重と同じ量の緑の植物を食べる。種類は葉、花、皮、茎、果実、種と問わない。農作物、非農作物のいずれも食し、農被害としてはトウジンビエトウモロコシモロコシサトウキビ大麦綿、果樹、ナツメヤシ、野菜、牧草地アカシアマツバナナなどが多い。さらにはバッタからの排泄物が食べ残した食物を腐らせる。

サバクトビバッタによる農被害は、早くも『聖書』や『コーラン』に見られる。エチオピア大飢饉に関する古文書にも17世紀の被害が報告されている。20世紀以降では、1926年-1934年、1940年-1948年、1949年-1963年、1967年-1969年、1987年-1989年、2003年-2005年、2020年などの被害が大きい。

大規模な蝗害[編集]

2003-2005年[編集]

西アフリカでの2003年10月から2005年5月のサバクトビバッタの大量発生は、農業に大打撃を与え、地域の食糧安全保障に大きな影響を与えた。始めはモーリタニアマリニジェールスーダンでそれぞれ独立した小規模の群れが発生した。この後、セネガルダカールからモロッコの付近で2日間の異常な大雨が降り、それが原因で6ヶ月にわたってサバクトビバッタは急速に増え続けた。群れは移動で拡散し、20ヶ国以上、130,000平方キロメートルが被害を受けた。国際連合食糧農業機関(FAO)の見積もりによると、この対策費は4億ドル以上、農被害は25億ドルに上った。この被害は2005年前半に降水量が減り、気温が下がることでようやく終結した。被害国は、アルジェリアブルキナファソカナリア諸島カーボベルデチャドエジプトエチオピアガンビアギリシアギニアギニアビサウイスラエルヨルダンレバノンリビアマリ共和国モーリタニアモロッコニジェールサウジアラビアセネガルスーダンシリアチュニジアであった。

2020年[編集]

エチオピア、ケニア、ソマリアなどの東アフリカでサバクトビバッタが大量発生し食糧不足が懸念されている[4]。ソマリア政府は「国家の食糧安全保障にとって大きな脅威」として、国家非常事態を宣言した[5]

対策[編集]

現在、サバクバッタ駆除の主な方法は、散布機搭載車両、および空中散布機による殺虫剤散布である。殺虫剤は直接散布、または薬剤の付着した植物の摂食によってバッタに摂取される。

バッタ対策を担当する主要国際機関は、国連食糧農業機関(FAO)のサバクバッタ情報サービス部門(Desert Locust Information Service:DLIS)である。DLISはイタリアのローマ本部から状況を毎日監視し、バッタ情報ページで情報を提供している。DLISは、影響を受ける国が実施した調査結果を受け取り、この情報を衛星データと組み合わせ、降雨量の推定、季節ごとの気温と降雨量の予測により、現在の状況を評価し、6週間前までに繁殖と移動のタイミング、規模、場所を予測する。状況評価と予測は、1970年代に遡る月刊バッタ速報で公開されているが、1990年代以降のものは、FAOのウェブサイトで入手できる。FAOはまた、影響を受ける国に情報を提供し、駆除のトレーニングを行い、対策資金の配分を行う。

バッタ情報担当官[編集]

DLISはバッタ情報の専門家を養成するプログラムを2000年より開始し、各国から研修生を受け入れている。プログラムに参加するすべての研修生は、国家の指定するバッタ情報担当官でなくてはならない。参加者は多くの場合、自国のサバクトビバッタの調査、報告、管理において数年以上の経験を持つ。[6]

注釈、出典[編集]

  1. ^ この分類はITISCatalogue of Life(2008)による。
  2. ^ Insect pests of cereals in Ethiopia Schistocerca gregaria (Forskal)
  3. ^ Jahn 1993[1]
  4. ^ “東アフリカのバッタ大量発生 “人道危機” 国連が強い懸念”. NHKニュース. (2020年2月11日). オリジナルの2020年2月11日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200211031519/https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200211/k10012280921000.html 2020年7月28日閲覧。 
  5. ^ バッタ襲来で国家非常事態宣言 ソマリア、食糧難の恐れ”. 朝日新聞 (2020年2月3日). 2020年2月5日閲覧。
  6. ^ FAO:バッタ情報官養成プログラム

参考文献[編集]

関連書籍[編集]

  • 前野ウルド浩太郎 (著) 『バッタを倒しにアフリカへ』 光文社新書 2017年 ISBN 978-4334039899
  • 前野ウルド浩太郎 (著) 『孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生』 東海大学出版会 2012年 ISBN 978-4486018483
  • (英語版)Abdin, A. Stein & A. van Huis, 2001. Spatial distribution of the desert locust, Schistocerca gregaria, in the plains of the Red Sea coast of Sudan during the winter of 1999.
  • (英語版)Ceccato, P., K. Cressman, A. Giannini, S. Trzaska. 2007. The desert locust upsurge in West Africa (2003-2005): Information on the desert locust early warning system and the prospects for seasonal climate forecasting. Intl J Pest Management 53(1): 7-13.
  • (英語版)Cressman, K. 1996. Current methods of desert locust forecasting at FAO. Bulletin OEPP/EPPO Bulletin 26: 577-585.
  • (英語版)Huis, A. van, 1994. Desert locust control with existing techniques: an evaluation of strategies. Proceedings of the Seminar held in Wageningen, the Netherlands, 6-11 December 1993. 132 pp. ISBN 90-6754-364-0.
  • (英語版)Huis, A. van, 1995. Desert locust plagues. Endeavour, 19(3): 118-124.
  • (英語版)Huis, A. van, 1997. Can we prevent desert locust plagues? In: New strategies in locust control (Eds.: S. Krall, R. Preveling and D.B. Diallo), pp. 453-459. Birkhäuser Verlag, Basel. 522 pp.
  • (英語版)Huis, A. van, K. Cressman, J. Magor. 2007. Preventing desert locust plagues: optimizing management interventions. Entomologia Experimentalis et Applicata 122: 191-214.
  • (英語版)Symmons, P. & A. van Huis, 1997. Desert Locust Control campaign studies: operations guidebook. Wageningen University. 167 pp. & CD-Rom, 19 floppy disks.
  • (英語版)Werf, W. van der, G. Woldewahid, T. Abate, M. Butrous, O. Abdalla, A.M. Khidir, B. Mustafa, I. Magzoub, O.

外部リンク[編集]