ゴーレム

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ラビ・レーヴとゴーレム』
ミコラーシュ・アレシュ、1899年。

ゴーレムヘブライ語: גולם‎, 英語: golem)は、ユダヤ教の伝承に登場する自分で動く泥人形。「ゴーレム」とはヘブライ語で「胎児」を意味する。

概要[編集]

作った主人の命令だけを忠実に実行する召し使いかロボットのような存在。運用上の厳格な制約が数多くあり、それを守らないと狂暴化する。

ラビ(律法学者)が断食や祈祷などの神聖な儀式を行った後、土をこねて人形を作る。呪文を唱え、「אמת」(emeth、真理、真実、英語ではtruthと翻訳される)という文字を書いた羊皮紙を人形の額に貼り付けることで完成する。ゴーレムを壊す時には、「אמת」(emeth)の「א」( e )の一文字を消し、「מת」(meth、死んだ、死、英語ではdeathと翻訳される)にすれば良いとされる。

また、ゴーレムの体にはシェム・ハ・メフォラシュ (Shem-ha-mephorash) が刻まれている。これは、『旧約聖書』「出エジプト記」14章の第19節を縦書きで下から上に書き、その左に第20節を上から下に、その左に第21節を下から上に綴り、それを横に読んだ3文字の単語の総称であるとされる(ヘブライ文字で書くと、19、20、21節ともそれぞれ72文字になるため、3文字の単語が72語できる)。

プロイセン地方の伝承では、エリヤ・ヘルムとヤッフェという2人のラビがゴーレムを正式な礼拝の人数合わせに使おうと議論した結果、彼らのゴーレムが見るものすべてに火を付け始め、簡単な命令すら理解できていなかった。

製造後は自然に巨大化するとされている。ある伝承では男がゴーレムを作ったが、大きくなりすぎて額に手が届かなくなり、止められなくなった。そこで男はゴーレムに自分の靴を脱がせるように命じ、ゴーレムがしゃがんだ時に額の文字を消した。その途端、ゴーレムは大量の粘土となって男の上に崩れ落ち、男は圧死した。

プラハのゴーレム[編集]

プラハの新市庁舎にあるラビ・ロウの像
プラハの旧新シナゴーグ。伝説では屋根裏部屋にゴーレムが横たわっている

最も有名なゴーレムの物語には、プラハの16世紀後半のラビ、イェフダ・レーヴ・ベン・ベザレルのものがある。反ユダヤ主義の攻撃やポグロムからプラハのゲットーを守るため、ヴルタヴァ川の粘土でゴーレムを作った。 [1] [2]伝説によっては、プラハのユダヤ人は神聖ローマ皇帝ルドルフ2世の支配下で追放または殺害されている。

ゴーレムはヨーゼフと呼ばれ、ヨッセルとして知られる。自身の姿を隠し、死者の霊を召喚することができると言われていた。 [2] ラビ・レーヴは金曜日の夜、安息日(土曜日)が始まる前にセム(shem)を外してゴーレムを停止させていた。[3]

ある金曜日の夜、ラビ・レーヴはセムを取り除くのを忘れ、ゴーレムが安息日を妨害することを恐れた。 [4]別の話ではゴーレムが恋に落ち、拒絶により暴力的なモンスターになるものがあり、はなしによっては最終的に殺人的な暴動を起こしている。 [5]ラビがゴーレムの口からセムを引っ張り停止させると、ゴーレムは砕けた。 [4]ゴーレムの体は必要な時に再作動できるよう、旧新シナゴーグ英語版の屋根裏部屋に保管された[5] [6]その後、ラビ・レーヴは後継者以外の人間が屋根裏部屋に入ることを禁じた。ラビ・レーヴの後継者であるRabbiYechezkel Landauは、伝説を確かめるために屋根裏部屋へ上ることを望んでいたと伝えられる。 [7]

伝説によると、ラビ・ロウが造ったゴーレムはまだシナゴーグの屋根裏部屋にある。 [8] [9] 1883年に屋根裏部屋が改装されたとき、ゴーレムの証拠は見つからなかった。 [10]屋根裏部屋は一般公開されていない。 [11]

傲慢の象徴[編集]

映画「The Emperor and the Golem」のために作成されたプラハのゴーレムの像

ゴーレムはしばしば傲慢の象徴として表される。ゴーレムに知能はなく、命令された作業を実行する。多くの描写では、ゴーレムは本来従順である。一方で、ヘウムのゴーレムのように命令を拒絶し、驚異となるケースもある。この場合、ゴーレムを停止させるために策を講じる必要があり、へウムの例では製造者が崩れたゴーレムに押しつぶされている。 [12]

フランケンシュタイン、ゲーテの魔法使いの弟子、そしてターミネーターなどの大衆文化の物語にも、同様の傲慢のテーマが見られる。このテーマは、ロボットという用語を生み出したカレル・チャペックの1921年の劇 RUR(Rossum's Universal Robots) にも表れている。劇はプラハで書かれ、脚本には多くの類似点がある。 [13]

チェコ共和国の文化[編集]

ゴーレムはチェコで人気のある存在である。その名にちなんで名付けられたレストランや企業があり、チェコの有力者(レネ・リヒター)は「ゴーレム」というニックネームで呼ばれ[14] 、チェコのモンスタートラックの外装を「ゴーレムチーム」と呼ぶ。 [15]

アブラハム・アッカーマンは、現代都市における人間の自動化に関する記事に、人間を回すゴーレムの短い風刺詩を掲載した。 [16]

クレイ・ボーイへの派生[編集]

イディッシュ語とスラブ語の民話では、ゴーレムとジンジャーブレッドマン(民話)英語版の要素を組み合わせたクレイ・ボーイがある。孤独な夫婦が粘土で作り出した子供が、悲惨な結果やコミカルな結果をもたらす。 [17]

一般的なロシア語版では、子供たちが独立した年配夫婦が粘土で男の子を作る。クレイボーイ(ロシア語: Гли́няный па́реньGlínyanyĭ párenʹ )として生まれた少年を夫婦は喜び、本物の子供のように扱うが、少年は成長を止めず、食料を食べ尽くし家畜も食べ、遂には両親も食べてしまう。クレイボーイは賢いヤギに襲われるまで、村で暴れ回った。 [18]

その他の神話・伝承のゴーレム[編集]

一般的なゴーレムは土(粘土)で作られるが、神話や伝説には石や金属で作られたものも登場する。

ギリシア神話の鍛冶の神ヘパイストスによって作られた青銅の巨人タロースも、ゴーレムの一種と見ることができる。

また、『旧約聖書』「創世記」の天地創造において、アダムヤハウェによって土(ヘブライ語:アダマー)に鼻からルーアハを吹き込まれたことから、アダムもまたゴーレムであったのではないかと言われている[誰によって?]。これが正しい説だとすれば、アダムこそが世界で最初に生まれたゴーレム(それも自我を持った)ということになる。

フィクション・創作のゴーレム[編集]

その多くが神話や伝承に倣い、土や石でできているものであるが、その素材は多岐にわたってバリエーションを広げている。

ゲームなどでモンスターとして扱われるゴーレムは、大きな人型で力が強く、感情や意思を持たないか乏しい。邪悪な存在というよりは、財宝や重要アイテムなど守る、いわば障害物や強力な人型兵器(兵士)のような扱いをされることが多い。また、作られた素材により、弱点や強さが異なる場合もある。

映画・テレビ[編集]

ほかゴーレムへの言及として、大魔神安田公義監督の1966年の日本の怪獣映画 [20]がある。

文学・戯曲[編集]

  • 「命令に忠実に動くのみの人造物」という点から、魔法などを動力としたロボットをゴーレムと名付けるものも見られる。カレル・チャペックは戯曲「R.U.R.」(1920年、チャペック作)のロボットの着想について、ゴーレムからの影響を認めている[21][22]
  • また、小説『フランケンシュタイン』(1818年メアリー・シェリー著)に登場する「フランケンシュタインの被造物(怪物)」 を、死体(肉)を素材として作られたゴーレムとして紹介している資料[23]もある(ただし、この怪物は一般的イメージのゴーレムと違って自我を持っている)。
  • 『ゴーレム』(1915年、グスタフ・マイリンク著)、ジャンルは幻想文学である。

脚注[編集]

  1. ^ Green, Kayla. "The Golem in the Attic." Archived 2017-08-25 at the Wayback Machine. Moment Magazine. 1 February 2011. 25 August 2017.
  2. ^ a b Bilefsky, Dan (2009年5月10日). “Hard Times Give New Life to Prague's Golem”. The New York Times. オリジナルの2013年5月9日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130509123841/http://www.nytimes.com/2009/05/11/world/europe/11golem.html 2013年3月19日閲覧. "According to Czech legend, the Golem was fashioned from clay and brought to life by a rabbi to protect Prague's 16th-century ghetto from persecution, and is said to be called forth in times of crisis. True to form, he is once again experiencing a revival and, in this commercial age, has spawned a one-monster industry." 
  3. ^ GOLEM Archived 2022-01-25 at the Wayback Machine.. Jewish Encyclopedia. Retrieved on 2011-09-23.
  4. ^ a b GOLEM Archived 2022-01-25 at the Wayback Machine.. Jewish Encyclopedia. Retrieved on 2011-09-23.
  5. ^ a b Bilefsky, Dan (2009年5月10日). “Hard Times Give New Life to Prague's Golem”. The New York Times. オリジナルの2013年5月9日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130509123841/http://www.nytimes.com/2009/05/11/world/europe/11golem.html 2013年3月19日閲覧. "According to Czech legend, the Golem was fashioned from clay and brought to life by a rabbi to protect Prague's 16th-century ghetto from persecution, and is said to be called forth in times of crisis. True to form, he is once again experiencing a revival and, in this commercial age, has spawned a one-monster industry." 
  6. ^ The Golem Legend”. applet-magic.com. 2013年1月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月5日閲覧。
  7. ^ Winkler, Gershon (1980). The Golem of Prague. New York: Judaica Press. p. 60-63. ISBN 0-910818-24-X 
  8. ^ GOLEM Archived 2022-01-25 at the Wayback Machine.. Jewish Encyclopedia. Retrieved on 2011-09-23.
  9. ^ Bilefsky, Dan (2009年5月10日). “Hard Times Give New Life to Prague's Golem”. The New York Times. オリジナルの2013年5月9日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130509123841/http://www.nytimes.com/2009/05/11/world/europe/11golem.html 2013年3月19日閲覧. "According to Czech legend, the Golem was fashioned from clay and brought to life by a rabbi to protect Prague's 16th-century ghetto from persecution, and is said to be called forth in times of crisis. True to form, he is once again experiencing a revival and, in this commercial age, has spawned a one-monster industry." 
  10. ^ "TIME-LIFE Mysteries of the Unknown: Inside the World of the Strange and ...." Archived 2021-02-03 at the Wayback Machine. Google Books. 24 August 2017.
  11. ^ Old New Synagogue located in Praha, Czech Republic|Atlas Obscura|Curious and Wondrous Travel Destinations Archived 2011-08-29 at Wikiwix. Atlas Obscura. Retrieved on 2011-09-23.
  12. ^ Introduction to "The Golem Returns" Archived 2012-10-12 at the Wayback Machine.. Retrieved 2011-09-23.
  13. ^ Koreis, Voyen. Introduction. "Two Plays by Karel Capek: R.U.R. (Rossum's Universal Robots) & The Robber." Archived 2021-02-04 at the Wayback Machine. Google Books. 25 August 2017.
  14. ^ Bilefsky, Dan (2009年5月10日). “Hard Times Give New Life to Prague's Golem”. The New York Times. オリジナルの2013年5月9日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130509123841/http://www.nytimes.com/2009/05/11/world/europe/11golem.html 2013年3月19日閲覧. "According to Czech legend, the Golem was fashioned from clay and brought to life by a rabbi to protect Prague's 16th-century ghetto from persecution, and is said to be called forth in times of crisis. True to form, he is once again experiencing a revival and, in this commercial age, has spawned a one-monster industry." 
  15. ^ B (2020年1月25日). “VIDEO: René Richter, the Czech Man With the Strongest Jaws in the World” (英語). Prague Morning. 2020年11月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年5月29日閲覧。
  16. ^ Akkerman, Abraham (2003 – 2004). Philosophical Urbanism and Deconstruction in City-Form: An Environmental Ethos for the Twenty-First Century. 43/44. pp. 48–61. https://www.usask.ca/structurist/ 2017年8月18日閲覧。.  Published also as Paper CTS-04-06 by the Center for Theoretical Study, Prague.
  17. ^ Cronan, Mary W. (1917). “Lutoschenka”. The Story Teller's Magazine 5 (1): 7–9. 
  18. ^ Ginsburg, Mirra (1997). Clay Boy. New York: Greenwillow. ISBN 9780688144098. https://archive.org/details/clayboy00gins 
  19. ^ Der Golem und die Tänzerin (1917) - IMDb”. IMDb (1917年4月9日). 2021年8月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年8月10日閲覧。
  20. ^ 石井博士ほか(日本語) 『日本特撮・幻想映画全集』勁文社、1997年、170頁。ISBN 4766927060 
  21. ^ 井上晴樹『日本ロボット戦争記 : 1939~1945』124頁(NTT出版,2007) ISBN 978-4757160149
  22. ^ Morris, Nicola"The Golem in Jewish American Literature: Risks and Responsibilities in the Fiction of Thane Rosenbaum" p.119
  23. ^ 安田 均グループSNE 『モンスター・コレクション ファンタジーRPGの世界』(第23版)富士見書房富士見ドラゴンブック〉、1993年8月30日 (原著1986年10月30日)、116頁。ISBN 4-8291-4209-X 

関連項目[編集]