コミットメント

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経済学においてコミットメント(こみっとめんと、: commitment)とは、その行動しかとれないようにするような実効性のある仕組みをつくることを意味する[1]。つまり、単なる口約束ではなく「自分の行動を縛る具体的な仕組み」をつくらなければコミットメントではない[2]。 合理的な一人の人間が意思決定する場合には選択肢が広いほど良いのに対して、複数の主体(個人・企業・政府など)が相手の出方を伺いながら行動する場合には、選択の幅を狭め、自分にとって最適な行動がとれないようにすること(=コミットメント)によってかえって得をする場合があり、経済学の一分野であるゲーム理論ではこのような状況が分析されている[1]

コミットメントの例[編集]

経済学者神取道宏東京大学教授)はコミットメントの例として次の6つを挙げている。

金融危機銀行破綻処理[3]
個別の銀行が破綻しそうなとき、金融システムや経済の安定化のためには政府が経営不安に陥った銀行を公的資金投入により救済する必要がある。しかし、銀行が経営不振に陥る前に政府が「破綻した銀行は救済しない」と宣言しておくことによって、銀行の経営規律が守られ、かえって金融恐慌が起こりにくくなるかもしれない。
スペイン軍のメキシコ侵攻[2]
植民地を作るためにメキシコに侵攻したスペイン軍を率いたコルテスは現地に着いた際に1隻を除く全ての自船を焼き捨ててしまった(1521年)。スペイン軍は「戦う以外の選択が出来なくなる実効性のある仕組み」をつくることによって相手を怯ませ有利に戦いを進めることができた。
ユーロ危機[4]
ユーロ加盟国が財政危機に陥った場合、他の加盟国も悪影響を受ける可能性があるため、破産しそうな一加盟国を加盟国全体が救済する誘引が存在する。それに対し、財政破綻した国に対する制裁を条約化することによって、各国の財政規律が守られて財政危機が起こりにくくなるかもしれない。
テロ対策[5]
テロが起きた際、テロリストの要求に従うことが政府にとって最適な選択に見える。しかし、テロリストの要求に従うことは長期的にはテロ発生の頻度を高めてしまうかもしれない。この例において、「テロに対して強硬な対応を法律で義務化すること」や「タカ派の政治家を首相や大統領にしておくこと」が一種のコミットメントとなる。
最低価格の保証[6]
家電量販店が「他店の方が安い場合は同じだけ値引きします」と宣言することはコミットメントである。この宣言により他店はいくら値引きしてもコミットした店舗から顧客を奪うことが出来なくなり、結果として値引き競争を回避できる。
画家は版画の原版を廃棄する[7]
画家が「版画を増刷する」という選択肢を自ら出来なくすることによって、コレクターは作品の希少価値を信じて高額の評価をする。画家が規定の100枚を刷った後に原版を捨ててしまうことは事後的には最適ではないが、「絶対に増刷しない」ことにコミットすれば、作品の希少価値が担保される。

双曲割引の下でのコミットメント[編集]

心理学の影響を強く受けて生まれた行動経済学と呼ばれる分野では人間の非合理な側面が研究されており、人間が常に将来の利益よりも目先の利益を過大評価してしまう双曲割引と呼ばれるバイアスが明らかになっている[8]。 このような双曲割引の下では、現在の自分が将来の自分の選択を制限(コミットメント)することによってより良い選択を実現することが可能である[9]。 このような双曲割引が問題となる具体例として、過剰消費やダイエットが挙げられる。 双曲割引の下では消費が過剰になり思い通りに貯蓄ができなくなってしまう。ハーバード大学デビッド・レイブソン[10]は貯蓄におけるコミットメント手段として非流動性資産を用いて過剰消費と過小貯蓄の問題を緩和するモデルを提案している[11]

出典[編集]

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  1. ^ a b 神取 2014, p. 384.
  2. ^ a b 神取 2014, p. 385.
  3. ^ 神取 2014, pp. 380-384.
  4. ^ 神取 2014, pp. 385-387.
  5. ^ 神取 2014, pp. 388-389.
  6. ^ 神取 2014, p. 389.
  7. ^ 神取 2014, pp. 389-390.
  8. ^ 池田 2012, pp. iii-iv.
  9. ^ 池田 2012, pp. 23-24.
  10. ^ Laibson 1997.
  11. ^ 池田 2012, p. 26.

引用文献[編集]