コゲツノブエ

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コゲツノブエ
殻の3列の顆粒と楕円形の殻口が特徴
分類
: 動物Animalia
: 軟体動物Mollusca
: 腹足綱 Gastropoda
: 吸腔目 Sorbeoconcha
上科 : カニモリガイ上科 Cerithioidea
: オニノツノガイ科 Cerithiidae
: カニモリガイ属 Cerithium
: コゲツノブエ C. coralium
学名
Cerithium coralium Kiener,1841

コゲツノブエ(焦げ角笛)、学名 Cerithium coralium は、吸腔目オニノツノガイ科に分類される巻貝の一種。インド太平洋の熱帯・亜熱帯域に分布し、内湾の砂泥底に生息する。和名末尾に「貝」をつけ「コゲツノブエガイ」と呼ばれることもある[1][2]

特徴[編集]

成貝は殻高30mm・殻径10mmほどで、螺層はほぼ膨らみがなく整った円錐形である。殻の色は暗褐色-黄褐色で、個体や生息地の条件により灰黒色も見られる。殻表には縦横に溝が走り、大きさが揃った丸い顆粒が3列に規則正しく並ぶ。ただし殻頂や背面の顆粒は磨耗しやすく、螺肋が横縞状にわずかに残るだけの個体もいる。

成貝の体層は殻口左側に瘤が形成され、断面は円ではなくやや背腹に平たい。殻口は縦長の楕円形で、殻に対してやや斜めに開き、短い水管と後溝があり、外側が肥厚する。殻口外縁には小さな突起が放射状に並び、横から見ると「~」形に湾曲する。なお若い個体では殻口が肥厚せず、左側にも瘤がない。

標準和名の「ツノブエ」は、形や彫刻が整った貝殻が装飾を施された角笛に似ることに由来し、カニモリガイ属 Cerithium の複数の種類にこの名が充てられている。本種はその中でも黒褐色が強く、和名通り焦げているように見える。また科が異なるウミニナ Batillaria multiformisカワアイ Pirenella pupiformis にも似るが、殻の膨らみがない円錐形であること、殻口が肥厚すること、殻表の彫刻が顆粒状であることで区別できる[1][2]

生態[編集]

インド太平洋の熱帯・亜熱帯海域に分布し、日本では紀伊半島以南の暖流に面した地域で見られる。

河口や内湾の砂泥底に生息し、干潟マングローブで見られる。オニノツノガイ科は浅海の岩礁・サンゴ礁性のものが多く、本種のように内湾砂泥底に棲むものは珍しい。また本種は潮が引いても水が残る澪筋、タイドプール、干潮線付近等の狭い区域に集まっており、ウミニナ類よりはカノコガイ Clithon fabaヒメカノコ Cl. oualaniense 等とよく見られる。また砂泥に浅く潜っていることも多く、干潟の表面に出ている本種の多くは死殻、またはユビナガホンヤドカリ Pagurus minutusテナガツノヤドカリ Diogenes nitidimanusなどの小型ヤドカリ類が入っている。

保全状態評価[編集]

  • 絶滅危惧II類 (VU)環境省レッドリスト
    • 県別レッドリスト
    絶滅危惧I類 - 兵庫県(2014年「Aランク」[3])・宮崎県(2015年[4]
    絶滅危惧II類 - 三重県[5]・長崎県(2016年[6]
    準絶滅危惧 - 高知県(2017年[7])・熊本県(2014年[8])鹿児島県(2014年[9]
    その他 - 徳島県(2013年「留意」[10]

日本では南日本に分布するが、内湾の埋立や環境汚染により生息地・個体数とも減少している。死殻しか見つからない干潟もある。日本の環境省が作成した貝類レッドリストでは2007年版で絶滅危惧II類(VU)として掲載され、各県が独自に作成したレッドリストでも8県で絶滅危惧種として名が挙がっている。干潟の環境保全上で留意すべき種類である[5]

しかし一方で多産地発見等の報告もある。例えば長崎県レッドリストでは2010年版で「絶滅危惧IB類(EN)」とされたが2016年改訂で「絶滅危惧II類(VU)」とランクダウンした。沖縄県レッドリストでは2005年版で一旦「準絶滅危惧」とされたが2017年版で削除された[6][11]

脚注・出典[編集]

  1. ^ a b 長谷川和範,2000『日本近海産貝類図鑑』2017年第2版 奥谷喬司編著 東海大学出版会 ISBN 9784486014065
  2. ^ a b 三浦知之,2007『干潟の生きもの図鑑』南方新社 ISBN 9784861241390
  3. ^ 兵庫県版レッドリスト2014(貝類・その他無脊椎動物)種リスト(貝類)2019年2月11日閲覧
  4. ^ 宮崎県版レッドリスト(2007年改訂)2019年2月11日閲覧
  5. ^ a b 日本のレッドデータ検索システム コゲツノブエガイ(ただしこのデータベースには少数ながら誤りや最新でない情報が含まれている場合もあるので注意)
  6. ^ a b 長崎県レッドリスト 分類群ごとのレッドリスト掲載種(中間見直し後)貝類[PDFファイル/22KB]
  7. ^ 高知県レッドリスト(動物編)2017改訂版(2018年10月15日変更)2019年2月11日閲覧
  8. ^ 熊本県の保護上重要な野生動植物リスト−レッドリスト2014−2019年2月11日閲覧
  9. ^ 鹿児島県レッドリスト 陸産貝類・淡水汽水産貝類2019年2月11日閲覧
  10. ^ 徳島県版レッドデータブック 6.その他の無脊椎動物<改訂:平成25年>(PDF:208 KB)
  11. ^ 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)初版-改訂第3版・カテゴリー対照表(PDF:283KB)