コウホネ属
| コウホネ | |||||||||||||||
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コウホネ
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| 分類(APG III) | |||||||||||||||
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| 学名 | |||||||||||||||
| Nuphar Sm. | |||||||||||||||
| 英名 | |||||||||||||||
| water-lily,spatterdock |
コウホネ属 Nuphar はスイレン科の水生植物。地下に太い根茎を持ち、葉や花茎を根出的に伸ばす。葉は水中、水面、水上と3通りの形を持ち、花は丸っこくて黄色か紅色をしている。観賞用に栽培される他、アルカロイドを含み、薬用ともされる。
特徴[編集]
水中性の多年生草本[1]。根茎は水底の泥の中にあって太くて長く横に這い、色は白い。葉や花は根茎の上に螺旋状に出て、前年までのそれらの跡が茎の上に黒っぽく残る。
葉の形に3通りがあるのがこの類の1つの特徴である。1つは水中葉で、葉身が薄い膜質になっており、その縁は大きく波打っている。2つめは水面に浮かぶ浮葉で、3つめは水面から抜き出て空中に拡がる水上葉である。普通は初めに水中葉が出て、それから次第に浮葉や水上葉を発達させる。ただし水上葉をあまり出さないものもあり、浮葉すらほとんど出さないものも1種知られる。
花は長い花茎があり、普通は根茎からでて水上に抜き出て咲くが、水面で咲く場合もある。いずれにせよ、花は花茎の先端に1個だけ生じる。萼片は普通は5枚だが、時に8枚くらいになり、丸っこく大きく発達し、普通は黄色で、これが見かけ上では花弁のようになっている。萼片の外側はしばしば緑色を帯び、また開花が終わったあとも残存している[2]。花弁は萼片より小さくて多数ある。雄しべも多数あって、その柄に当たる花糸は幅が広く、葯は内側に向く。雌しべは多数の心皮を持ち、それらが基部で融合した合生子房となっており、雌しべの先端部は並んだ柱頭が平らな面を作り、柱頭盤を形成している。これらの特長はほぼスイレン科に共通するものである。子房は上位で、この点では子房下位であるオニバス属、オオオニバス属、子房半下位であるスイレン属とは異なっている。また本属では柱頭は線状であり、柱頭盤上に放射状に並んでいる[3]。
名称について[編集]
学名はアラビア語の naufar に由来するとされ、ただしこの語は本来はスイレン属に対する名称である[4]。
和名の方は日本産の普通種であるコウホネ N. japonica に基づき、その語源には諸説あり、一般には根茎の様子から河骨とされるが、これには疑義がある。それについてはコウホネの記事を参照されたい。
分布と種[編集]
ヨーロッパからアジア、それに北アメリカと北半球の温帯域に分布する[5]。
種数については問題が大きい。本属の種には変異が多くて分類が難しいものが多いからである。ヨーロッパに産するのは N. luteum である[6]が、この種は広く範囲を取るとユーラシア大陸から北アメリカまで分布し、しかし多数の独立種を立てる説もある[7]。従ってその種数も時代と出典によって大きな差があり、例えば堀田他編(1989)では25種、伊藤(1997)では20種、園芸植物大事典(1994)では10種ほどとなっている。更に角野(1994)では7-20種としている[8]。なお大橋他編(2015)では世界で7-20種とあり、かつ日本産を6種としているので、少なく見た場合、日本に産しない種は1種のみと言うことになる[9]。
分類[編集]
スイレン科には6属(前後、諸説あり)の植物が含まれ、いずれも水生植物で、地中に根茎を持ち、水中葉や浮葉を出し、水面上に比較的大きな花をつける。その他特徴の部で述べたような共通の特長がある。ジュンサイ科なども近縁であるとされており[10]、範囲の区分には歴史的にかなりの出入りがあった。
そのような中で本属のものは本科に所属するのは当然と考えられつつも、本属に特有のいくつかの特徴を有している[11]。それはこの属の単系統性を認めるに十分な証拠となっている。ただしこれをもって本属単独で独立科を立てる説については出てはいるものの、ほぼ黙殺されている。
なお、日本には本属の種が多く、ユーラシアに広く分布するネムロコウホネ以外は日本固有種か、その周辺地域までしか分布がない[12]。現在では日本産は6種とされており[13]、さらに7種であるとの説もあり、また近年には本属で初のほぼ完全に沈水性の種であるシモツケコウホネ N. submersa が発見されてもいる。いずれにせよ、日本という極東のごく狭い地域には世界の他の地域に見られないような本属の多様化が起こっていることになるが、その理由は全く分かっていない[14]。
下位分類[編集]
本属そのものは確実に認められてきたが、属内の分類には混迷が多かった。本属を指して「スイレン科の中で最も手に負えない属」との評さえある。本属のものは形態的な変異がとても大きく、それらの間での雑種が多く形成されていると思われること、また染色体数がどれも同じであることなどから、極端な考えでは、例えばBealは1956年にそれまで記載されていた22-25の分類群をすべて1つの種 N. lutea にまとめてその下に9の亜種を認めた[15]。
日本においても、例えば角野(1994)には本属のものについて分類上の特徴として従来重視されてきた特徴に変異が大きくて種の判断が困難であることを記してある[16]。これについてはその後に研究が進み、日本産のものでは多くの問題が解決されてきている。
以下にPadgett et al.(1999)と角野(2014)に挙げられている種を示しておく。
- Nuphar コウホネ属
- N. advena
- N. ×hokkaiensis:ホッカイコウホネ
- N. ×intermedia
- N. japonica:コウホネ
- N. lutea
- N. microphylla
- N. oguraensis
- var. oguraensis:オグラコウホネ
- var. akiensis:ベニオグラコウホネ
- N. polysepala
- N. pumila
- var. pumila:ネムロコウホネ
- var. ozeensis:オゼコウホネ
- N. ×rubrodisca
- N. sagittifolia
- N. ×saijoensis:サイジョウコウホネ
- N. saikokuensis:サイコクヒメコウホネ
- N. shimadae:タイワンコウホネ
- N. sinensis
- N. subintegerrima:ヒメコウホネ
- N. submersa:シモツケコウホネ
- N. ulvacea
- N. variegata
利害[編集]
害となる点はない。
利用としては、観賞用に栽培される。大きくなるものなので、庭園の池などに鉢植えを沈めて栽培される。しかし沈水葉を水槽内で鑑賞することも可能で、人工照明の下ではその状態で維持できる[17]。日本ではコウホネ N. japonica は庭園などに栽培され、特に花色が赤い品種、ベニコウホネ f. rubrotincta は鑑賞価値が高く評価される[18]。欧米では本属のもの(多分 N. luteum)をスパッタードッグ、イエローウォーターリリーなどと呼び、屋外の池や水槽などで栽培する[19]。
また薬用としても用いられる。日本ではコウホネ及びネムロコウホネの根茎を乾燥させたもの、通常は2つに縦に裂いたものを「川骨」と呼び、これにはセスキテルペン系のアルカロイドが含まれ、成分としてヌファリジン、デオキシヌファリジン、ヌファラミン、ヌファミン、アンドロヌファミンなどが知られる。効用としては利尿、利水の効果があり、浮腫、打撲などに、また浄血薬として産前産後、月経不順、血の道症などに、また鎮静剤として婦人の神経興奮状態に使用する。他に体力増進の効果があるとして疲労回復に、発汗剤として風邪薬に、健胃薬として胃腸薬に用いる[20]。
他に根茎を食べることもできるとされ、中国では「凶作時に穀物の代用になる」とされており[21]、
出典[編集]
- ^ 以下、主として伊藤(1997),p.13
- ^ 大橋他編(2015),p.46
- ^ 大橋他編(2015),p.46
- ^ 園芸植物大事典(194),p.841
- ^ 伊藤(1997),p.13
- ^ 堀田他編(1989),p.728
- ^ 伊藤(1997),p.13
- ^ 角野(1994),p.112
- ^ 大橋他編(2015),p.47
- ^ 以上、大橋他編(2015),p.46
- ^ この節、Padgett et al.(1999),p.1316
- ^ 角野(1994),p.113
- ^ 大橋他編(2015),p.4
- ^ 角野(2014)p.41
- ^ 引用を含めてPadgett et al.(1999),p.1316
- ^ 角野(1994),p.112
- ^ 園芸植物大事典(1994),p.841
- ^ 角野(2014),p.40
- ^ 中村編(1988)p.346
- ^ 園芸植物大事典(1994),p.841-842
- ^ 園芸植物大事典(1994),p.841
参考文献[編集]
- 大橋広好他編、『改定新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』、(2015)、平凡社
- 牧野富太郎原著、『新分類 牧野日本植物図鑑』、(2017)、北隆館
- 『園芸植物大事典 1』、(1994)、小学館
- 伊藤元己、「コウホネ」、『朝日百科 植物の世界 9』、(1997)、朝日新聞社、p.13-15.
- 角野康郎、『日本水草図鑑』、(1994)、文一総合出版
- 角野康郎、『ネイチャーガイド 日本の水草』、(2014)、文一総合出版
- 中村利一編集、『月刊フィッシュマガジン9月号別冊 新熱帯魚入門』、(1988)、緑書房
- Donald J. Padgett et al. 1999. Phylogenetic Relationships in Nuphar (Nymphaeaceae): Evidence from Morphology, Chloroplast DNA, and Nuclear Ribosomal DNA. American J. Bot. 86(9): p.1316-1324.