ゲミンガ

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ゲミンガ
Geminga
フェルミガンマ線宇宙望遠鏡が撮影した最初の全天ガンマ線画像にあるゲミンガ(画像右側)。ゲミンガはかにパルサー、ほ座パルサーと並んで強力なガンマ線源であることがわかる。
フェルミガンマ線宇宙望遠鏡が撮影した
最初の全天ガンマ線画像にあるゲミンガ
(画像右側)。ゲミンガはかにパルサー
ほ座パルサーと並んで強力な
ガンマ線源であることがわかる。
星座 ふたご座
視等級 (V) 25.5[1]
分類 静かな中性子星
発見
発見年 1972年[2][3]
発見者 SAS-2[2][3]
発見方法 ガンマ線望遠鏡SAS-2による
ガンマ線源の発見[2][3]
位置
元期:J2000.0[4]
赤経 (RA, α) 06h 33m 54.153s[4]
赤緯 (Dec, δ) +17° 46′ 12.91″[4]
固有運動 (μ) 178.2 ± 1.8 mas/年[5]
空間速度 205 km/s
年周視差 (π) 4.0 ± 1.3 mas[4][5]
距離 815 +391
−202
光年
(250 +120
−62
pc[5])
絶対等級 (MV) 18.5 +0.9
−0.6
物理的性質
スペクトル分類 中性子星
パルス周期 γ線: 59 秒[3]
X線: 0.237 秒[6]
磁場 1.6 × 108 T
(1.6 × 1012 G[7])
光度 3.5 × 1027 W[7]
(4.2 L)
年齢 30万年[7]
別名称
別名称
ゲミンガパルサー,
ゲミンガSNR,
PSR J0633+1746,
PSR B0630+17,
SN 437,
1E 0630.9+1748,
2E 0631.0+1748,
2EG J0633+1745,
3EG J0633+1751,
GeV J0634+1746,
INTREF 306,
1RXS J063354.1+174612,
1CG 195+04,
2CG 195+04,
1ES 0630+17.8,
EGR J0633+1750,
0FGL J0634.0+1745,
1FGL J0633.9+1746[4],
ジェミンガ.
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ゲミンガ[8] (またはジェミンガ、Geminga[4]) とは、地球から見てふたご座の方向に約815光年離れた位置にあるガンマ線源の名称である。天体の正体は電波の放出がほとんどない中性子星であると考えられている[2][5]

観測の歴史[編集]

初期の観測[編集]

ゲミンガは、1972年ガンマ線望遠鏡SAS-2によって未知のガンマ線源として発見された。その後1975年に打ち上げられたガンマ線観測衛星Cos-Bによる観測ではSAS-2が発見したゲミンガの位置からの59秒周期のガンマ線パルス信号が観測されたが、この観測は100MeVで2.5度という分解能の悪いものであり、また観測回数も4ヶ月間で121回と少なかったため、この時点で統計学的に有意(偶然とは考えにくく必然たらしめる原因がある)ではないという結論が出されていた。

この領域には4つの微弱な電波源があり、その中にある既知の天体として2つの超新星残骸銀河系伴銀河があったが、そのいずれも観測されたガンマ線パルス源としては考えにくかった。このためSAS-2の研究チームはゲミンガの正体は未発見のパルサーではないかと考えたが、パルサーに特有であると考えられていた電波などのパルス放射がゲミンガからは観測されず、正体が何かは分かっていなかった[3]

その後の観測[編集]

SAS-2およびCos-Bの観測ではゲミンガの正体が何物であるかは判明しなかったが、その後のX線天文衛星HEAO-2(1978年11月打ち上げ)による観測では、正体までは特定できなかったもののCos-Bの観測した59秒周期のガンマ線パルスがエラーではなく有意であり、何らかの天体から放出されているものであることを突き止めた[9]

さらにアメリカニューメキシコ州にある超大型干渉電波望遠鏡群による観測では、HEAO-2と同じ位置に青い色をした、視等級にして25.5等級の非常に微弱な電波源が点源として観測され、その場所までの距離は約100pc(約326光年)であるとした[2]。また、コンプトンガンマ線観測衛星(1991年4月打ち上げ)のガンマ線検出器EGRETの観測でも、SAS-2およびCos-Bと同じ場所でガンマ線源が見つかった[7][10]

1991年、ドイツのX線観測衛星ROSATは、50MeVの軟X線領域の0.273秒周期パルスをゲミンガの位置で観測した[6]。このX線の観測によって、ゲミンガの正体が中性子星である可能性が極めて強くなった[2][5]

パルサーが自転により周期的に発光する原理。ゲミンガは放射の方向が地球に向いていない可能性がある。

正体[編集]

前述した数々の観測から、ゲミンガの正体は低エネルギーの電磁波の放出がほとんどない静かな中性子星(Radio-quiet neutron star)ではないかと考えられている。このような中性子星としては初めての観測例である。

通常知られている中性子星からは電波などの波長領域で非常に規則的なパルスが観測され、その性質からパルサーと呼ばれている。逆に、規則正しいパルス放射はその放射源天体が中性子星であることの根拠として使われる。しかし、ゲミンガのような中性子星ではこの電波の放出が極めて弱く、あるいは全く観測されない。この性質はパルサーとは対極である。

仮説上の天体であるクォーク星がこの種の天体の正体であるという可能性はあるものの、一番可能性が高いと考えられている説は、単に電波放出が地球の方向を向いていないパルサーであるとするものである。パルサーがパルサーとして観測されるのは、そのパルサーの自転軸からずれた角度で放出されている電波がたまたま地球を向いた瞬間にのみ観測できるので、地球から見ればパルス状の電波放出として見えるのである。しかし、これは裏を返せば電波放出が地球方向に向けてなされていない場合はパルスは観測されないということでもあるので、この場合は結果的に電波放出のない静かな中性子星として観測されるのである[7]

ゲミンガの当初の発見から約20年も正体が確定しなかった事は、ガンマ線の放出を他の波長領域での天体と関連付けることが難しい事を示す実例である。

局所泡との関連[編集]

局所泡のイメージ図。太陽は約300万年前から局所泡にいる。
局所泡の3Dイメージ図(白色)。やや細長く、砂時計に近い形をしている事が分かる。

太陽系は現在直径が330光年から490光年ある局所泡の中にいるが、ゲミンガを作り出した超新星爆発はこの局所泡を作り出した爆発の有力候補である。

局所泡はその周りの空間と比べて中性水素の密度が10分の1と星間物質が薄い高温ガスの領域であり、超新星爆発によって星間物質が追いやられて形成されるとされている。ガスが高温なのは爆発のエネルギーによって加熱されたためと考えられており、高温ガスからはX線が放射されている。局所泡が生じたのは数十万から数百万年前であったと考えられており、ゲミンガを作り出した約30万年前の超新星爆発はこの範囲内にある[11]。しかし、ゲミンガが生成に関与したのは一部であり、プレアデス星団の恒星も関与しているのではないかという説もある[12]

その他の性質[編集]

ゲミンガは太陽の約4.2倍のエネルギーを放出しており、約30万年前に超新星爆発によって作られたと考えられている[7]。178.2/年[5]という極めて大きな固有運動を有しており、約205km/sの空間速度で移動していると考えられている。ゲミンガの放射と星間物質との衝突によって生まれたバウショックが2本の尾として観測されている[2]。この移動は、ゲミンガを作り出した超新星爆発が、ゲミンガをはじき出すように非対称な爆発をしたためと考えられている。ゲミンガの現在の位置は地球から815光年(215pc[5])であり、ゲミンガと太陽系の移動も考えると、地球からかなり近い場所での超新星爆発である。

名称[編集]

"Geminga"の名は、「ふたご座にあるガンマ線源(Gemini gamma-ray source)」の略であり、南スイスと北イタリアで使われるロンバルド語で「それは無さそうだ (It's not there)」を意味する"gh'è minga"(発音: [ɡɛˈmiŋɡa])に掛けた駄洒落である[2][9]。これは、ゲミンガの位置に相当する天体が発見当初見つかなかったためである。

太陽系外惑星の可能性[編集]

1997年、John Mattoxらの研究チームは、コンプトンガンマ線観測衛星によるゲミンガの観測ノイズから、ゲミンガを周回する太陽系外惑星の存在を提唱した。観測された惑星ゲミンガbは、地球の1.7倍の質量を持ち、ゲミンガから3.3AU離れた場所を5.1年掛けて公転しているとされている。しかし、近年の観測では、ガンマ線のノイズは惑星の影響ではなく、地球からの影響ではないかと考えられており、ゲミンガbは存在しない可能性が高い[2]。一度存在するとされた天体が実際には存在しないと分かるのは、"gh'è minga"という言葉に掛けて名づけた天体に関連する天体としては皮肉である。

ゲミンガの惑星
名称
(恒星に近い順)
質量 軌道長半径
天文単位
公転周期
()
軌道離心率 軌道傾斜角 半径
b (未確認) 1.7 M 3.3 1861.5 0.00

関連項目[編集]

出典[編集]

座標: 星図 06h 33m 54.153s, +17° 46′ 12.91″