クヌースの矢印表記

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

クヌースの矢印表記とは、1976年ドナルド・クヌース巨大数を表現するために発明した表記法である。これは、乗算加算の反復であり、冪乗が乗算の反復であるのと同様の考え方に基づくもので、冪乗の反復(テトレーション、超指数)を表す演算の表記法である。

導入[編集]

加算→乗算→冪乗[編集]

乗算は、加算の反復によって定義できる。

a\times b=\underbrace{a+a+\dots+a}_{b\text{ copies of }a }

冪乗は、乗算の反復によって定義できる。

a ^ b=\underbrace{a\times a\times\dots\times a} _ {b\text{ copies of }a }

なお、一部の初期のコンピュータでは、上向き矢印を冪乗演算子に使ったので、それを使うと

a \uparrow b=\underbrace{a\times a\times\dots\times a} _ {b\mathrm{ \ copies \ of  \ }a }=a ^ b

例として、 グーゴルプレックス 10^{10^{100}} は、10↑10↑100 と書ける。

テトレーション[編集]

ここでクヌースは、二重矢印をテトレーション(指数計算の反復)を表す演算子として定義した。肩に乗って行く様子から,タワー表記とも呼ぶ.

a\uparrow\uparrow b= \underbrace{a \uparrow a \uparrow \cdots \uparrow a}_ {b\text{ copies of }a }
= \underbrace{a^{a^{{}^{.\,^{.\,^{.\,^a}}}}}}_ {b\text{ copies of }a }

この定義によると、

 \begin{align} 3\uparrow\uparrow2&=3^3=27\,\\
3\uparrow\uparrow3&=3^{3^3}=3^{27}=7625597484987\,\\
3\uparrow\uparrow4&=3^{3^{3^3}}=3^{3^{27}}=3^{7625597484987}\\
&\approx 1.258\times 10^{3638334640024} \\
3\uparrow\uparrow5&=3^{3^{3^{3^3}}}=3^{3^{7625597484987}}\\
&\approx 3^{1.258\times 10^{3638334640024}} \end{align}
etc.

これにより、非常な巨大数を導くことができる。

他にも

10\uparrow\uparrow3 = 10^{10^{10}} = 10^{10000000000} (10の100億乗)
10\uparrow\uparrow4 = 10^{10^{10^{10}}} = 10^{10^{10000000000}}

などもある。

それ以上[編集]

だがクヌースはこれに飽き足らず、「2重矢印」による演算を反復する演算子として、「3重矢印」を定義した。

a\uparrow\uparrow\uparrow b= \underbrace{a \uparrow\uparrow a\uparrow\uparrow \cdots \uparrow\uparrow a}_ {b\text{ copies of }a }

同様に、「4重矢印」演算子も定義できる。

a\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow b= \underbrace{a \uparrow\uparrow\uparrow a \uparrow\uparrow\uparrow \dots \uparrow\uparrow\uparrow a}_ {b\mathrm{ \ copies \ of  \ }a }

これを一般的に述べると、n 重の矢印演算子は、(n − 1) 重の矢印演算子の反復として表すことができる。

a \underbrace{\uparrow\uparrow\cdots \cdots \cdots \uparrow}_{n \text{ pieces of the arrow} } b
= \underbrace{a \underbrace{\uparrow\uparrow \cdots \cdots \cdots \cdots \uparrow}_{(n-1) \text{ pieces of the arrow} }
                     a \underbrace{\uparrow\uparrow \cdots \cdots \cdots \cdots \uparrow}_{(n-1) \text{ pieces of the arrow} }
        a \cdots a \underbrace{\uparrow\uparrow \cdots \cdots \cdots \cdots \uparrow}_{(n-1) \text{ pieces of the arrow} } a}_ {b\text{ copies of }a }

具体例を挙げると、14↑↑↑↑4 は 14↑↑↑14↑↑↑14↑↑↑14 である。

なお、矢印を使った指数の記法 a \uparrow b = a ^ b も、クヌースの矢印記号の特殊例(一重矢印)として再解釈される。

優先規則[編集]

全てのクヌースの矢印(通常の指数計算である ab も含む)は、右から計算される。例えば、abc = a↑(bc) であり、(ab)↑c ではない。

具体例を挙げると、

3\uparrow\uparrow 3= 3 \uparrow 3 \uparrow 3 = 3^{3^3}

3 \uparrow ( 3 \uparrow 3) = 3 \uparrow 27 =3^{27}=7625597484987

であり、

(3 \uparrow 3) \uparrow 3 =27 \uparrow 3=27^3=19683

ではない。

拡張記法[編集]

n重矢印演算子[編集]

n 重の矢印演算子を単に \uparrow^n と書く。たとえば、

a\uparrow\uparrow b=a\uparrow^2 b,
a\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow\uparrow b=a\uparrow^{5} b.

functional power[編集]

 \left(a \uparrow^n \right)^m b は、関数

f(x) = a \uparrow^n x

m-th functional power

f^m(x) = ( \underbrace{f \circ f \circ \cdots \circ f}_m ) (x) = \underbrace{ f(f( \cdots (f }_m(x)) \cdots ))

である。つまり

 \left(a\uparrow^n \right)^m b= \underbrace{a \uparrow^n a \uparrow^n \cdots \uparrow^n a \uparrow^n }_{m \text{ copies of } a \uparrow^n } b

である。たとえば、

 \left(a \uparrow \right) ^ 3 b = a \uparrow a \uparrow a \uparrow b = a \uparrow \left(a \uparrow \left(a \uparrow b \right) \right) = a^{a^{a^{b}}}.

定義[編集]

クヌースの矢印表記は、次のように定義される。


  a\uparrow^n b=
   \begin{cases}
    1, &\mbox{if }b=0\\
    a^b, &\mbox{if }n=1\\
    a\uparrow^{n-1}\left(a\uparrow^n\left(b-1\right)\right), &\mbox{otherwise}
   \end{cases}

ここで、a, b, n は整数である。ただし、b ≥ 0, n ≥ 1 である。なおa0 ≡ 1なので、最初の2式の優先順位はどちらでもよい。

functional powerを使って、次のようにも定義できる。


  a\uparrow^n b=
   \begin{cases}
    1, &\mbox{if }b=0\\
    a^b, &\mbox{if }n=1\\
    \left(a\uparrow^{n-1}\right)^b 1, &\mbox{otherwise}
   \end{cases}

他の記法との関係[編集]

すでに述べたとおり、1重のクヌースの矢印は冪乗を表す。また、2重のクヌースの矢印は左上付き数字と同じテトレーションを表す。

 a\uparrow b = a^b
 a\uparrow\uparrow b = {}^b a

アッカーマン関数は、\uparrow^n を使ったクヌースの記法でほぼ表せる。

 \operatorname {Ack} \left(n, b \right) = \left\{ 2 \uparrow^{n-2} \left(b+3 \right) \right\} - 3 \quad \mbox{if }n\ge 3

ハイパー演算子は、積・和・後者関数も表せる以外は、\uparrow^n を使ったクヌースの記法と等価である。

 \operatorname {hyper} \left(a, n, b \right) = a \uparrow^{n-2} b \quad \mbox{if }n\ge 3

コンウェイのチェーン表記は、3連では \uparrow^n を使ったクヌースの矢印表記と等価だが、さらに長く続けることで、クヌースの矢印表記では表せない大きな数、たとえばグラハム数の範囲などを表すことができる。

 a \to b \to n = a \uparrow^n b

フォントの都合による代替表記[編集]

コンピュータ上でのテキストとして表記する場合、フォントによっては↑のような記号が無い場合もあるため、a^^bのようにサーカムフレックスを並べる表記を行う場合がある。クヌース自身も、これを代替的あるいは簡便な記法として認めている。

指数表記 ab のかわりに a^b と書くのも、これと同じである。