キューポラのある街
『キューポラのある街』(キューポラのあるまち)は、早船ちよの児童文学シリーズおよび、それを原作とする映画、テレビドラマ作品。
鋳造工場の溶解炉=「キューポラ」の煙突が多く見られた埼玉県川口市[注釈 1]を舞台とした青春ドラマである。鋳物職人の娘である主人公・石黒 ジュンの周囲で起こる貧困、家族の衝突、民族、友情、性などの問題が描かれる。
小説[編集]
1959年(昭和34年)から翌年にかけ1年間、雑誌『母と子』に『キューポラのある町』の題で連載され[1]、1961年(昭和36年)に彌生書房より単行本化された[2]。1962年(昭和37年)、日本児童文学者協会賞を受賞[2]。
のち、財団法人大阪国際児童文学館(大阪府立中央図書館国際児童文学館の前身)により、「日本の子どもの本100選 戦後編」の1作に選出された[2]。
書誌[編集]
上記の単行本のあと、続編シリーズや再刊版が以下のように刊行された。
- 理論社刊(小説国民文庫)
-
- キューポラのある街 第1部(1963年) - 上記彌生書房版の定稿版。
- キューポラのある街 第2部 未成年(1964年)
- キューポラのある街 第3部 赤いらせん階段(1967年)
- キューポラのある街 第4部 さくらさくら(1970年)
- 理論社刊(新装版)
- 上記1~4部の新装に合わせ、以下の新刊が加わった。
- キューポラのある街 第5部 青い嵐(1972年)
- キューポラのある街 リスの巻 キューポラ銀座(1975年)
- 講談社文庫刊
- 1977年に外編の「リスの巻」を除く5部が文庫化された。また、第1部は「ジュン」という副題が加えられた。
映画[編集]
キューポラのある街 | |
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監督 | 浦山桐郎 |
脚本 |
今村昌平 浦山桐郎 |
原作 |
早船ちよ 『キューポラのある街』 |
出演者 |
吉永小百合 浜田光夫 東野英治郎 加藤武 市川好郎 |
音楽 | 黛敏郎 |
撮影 | 姫田真佐久 |
編集 | 丹治睦夫 |
製作会社 | 日活 |
配給 | 日活 |
公開 |
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上映時間 | 99分 |
製作国 |
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言語 | 日本語 |
次作 | 未成年 続・キューポラのある街 |
『キューポラのある街』(キューポラのあるまち)は、1962年(昭和37年)4月8日に公開された日本映画である。監督:浦山桐郎。モノクロ、シネマスコープ(2.35:1)、99分。
日活の助監督だった浦山の監督昇格デビュー作である[3]。第13回ブルーリボン賞作品賞受賞作品。監督の浦山も第13回ブルーリボン賞新人賞・第3回日本映画監督協会新人賞を受賞したほか、ジュン役を演じた吉永小百合が、当時史上最年少の17歳で第13回ブルーリボン賞主演女優賞を受賞し、大きく飛躍するきっかけになった[4]。文藝春秋が1989年に行った誌上アンケート企画「大アンケートによる日本映画ベスト150」では第42位にランキングされた。
封切り時の併映作品は『青年の椅子』(監督:西河克己、主演:石原裕次郎)。
1965年には、続編『未成年 続・キューポラのある街』(監督:野村孝)が公開された。
製作(映画)[編集]
脚本は浦山桐郎が自身の師である今村昌平と共同執筆した。
撮影は公開前年の1961年(昭和36年)12月24日より開始された[5]。
ストーリー(映画)[編集]
鋳物工場のキューポラが立ち並ぶ埼玉・川口。町工場に勤務する鋳物職人・辰五郎の長女で中学3年生のジュンは、高校進学を目指している。そんな中、仕事中の大怪我の後遺症で満足に働けなくなった辰五郎は、勤務先が同業他社に買収されたことに伴い、人員整理の対象になる。石黒家では小学校6年生の長男・タカユキ、未就学の次男・テツハルがいるのに加え、赤ん坊が生まれたばかりであり、家計は火の車となる。隣人で辰五郎の元同僚の若者・克巳が石黒家を見かね、新会社の労働組合を通じて社長にかけ合い、数か月分の傷病手当金相当の金額を支払わせることに成功するが、「アカの世話になった」ことを恥じる辰五郎は、その金をすべて酒とオートレースにつぎ込んでしまう。
ジュンは生活費や志望する全日制高校入学に必要な学費を稼ぐため、級友のヨシエが働くパチンコ店でアルバイトを始める。動けるようになった辰五郎の妻できょうだいの母・トミも、これまで従事していた内職をやめ、居酒屋で働き始める。タカユキは小遣い稼ぎのために野鳩の卵を集め、伝書鳩として訓練して売りさばくことを思いつくが、かえった雛を猫に食べられるなどしてうまくいかない。
修学旅行を控えていた中学のクラスでは、物価高騰にともない、生徒たちが持ち出せる現金の額を上げるよう教師たちに要求しており、学級会で採決をとることになった。居合わせた担任教師の野田は、積極的に賛意を示さなかったジュンを気にかける。野田は下校中のジュンを追い、パチンコ店に入ったところを認める。そこに野田の元教え子である克巳が現れてジュンの事情を説明する。翌日、野田は市の教育委員会が貧困生徒のために修学旅行費用を助成していることを教え、ジュンに小遣いを渡す。
辰五郎はジュンの級友であるノブコの父・東吾の紹介で新たな鋳物工場の職を得るが、オートメーション化された工場の中に勘と経験を頼りとする古い職人の居場所はなく、家族に告げずに辞職してしまう。辰五郎はジュンが修学旅行に出発する日の朝にそれを伝え、家族は恐慌をきたす。ノブコに会わせる顔がなくなったジュンは集合場所の川口駅へ行かず、河川敷で時間をつぶし、普通列車に乗って志望校のある浦和へ行く。フェンス越しに高校をのぞいたジュンは、お遊戯会のような体育の授業を目の当たりにして幻滅する。一方同じ頃、同じように学校をサボって浦和に来ていたタカユキは、育てた鳩をそこで放し、自宅の鳥かごに帰って来させることに成功する。
川口に戻ったジュンは、思わずトミの働く居酒屋をのぞいたところ、トミが男相手に愛想を振りまく様子を見てショックを受ける。そこでジュンは不登校生の通称「リスちゃん」に再会し、バーに誘われ、初めて酒を飲む。そこで不良少年たちに乱暴されかけるが、危うく逃れる。この日以来ジュンは中学校に行かなくなる。
ジュンを心配した野田が石黒家を訪問する。「勉強したって意味がない」と吐き捨てるジュンに、野田は「受験勉強だけが勉強ではない。高校に行かずに働くとしても、目の前で起きることへの理解を積み重ねて、いつでも自分の意見を持つために、人は勉強をしていかなければいけないのだ」とさとす。登校を再開したジュンは、社会科見学で電機メーカーの工場を訪れる。働きながら定時制高校で学び、部活動にもいそしむ女性工員たちの姿を見て、ジュンは自立した現代の労働者の姿を見いだし、あこがれを抱き始める。
ある日、ヨシエの一家が在日朝鮮人の帰還事業に応じて、日本人の母親を残して北朝鮮へ帰ることになる。ヨシエの弟でタカユキの親友・サンキチも日本を離れることになり、彼を送り出すために川口駅に来たタカユキは、自分が育てた伝書鳩を手渡し、「手紙をつけて西川口で窓から鳩を放してくれ」と頼む。ヨシエは同じく駅に来たジュンに、愛用の自転車を贈る。帰還船の出る新潟港へ向かう列車は西川口駅に差し掛かり、サンキチは鳩を放す。川口へ飛んでいく鳩を見て母恋しさに駆られ、サンキチだけが大宮駅で列車を降りる。しかしサンキチが川口に戻ると母は経営していた食堂を閉め、別の人物と結婚するために姿を消していた。タカユキは次の帰還船が出る年明けまで、近所に住む崔[注釈 2]の一家にサンキチを預け、「もう人の世話になるのはやめよう」と誓い、ともに新聞配達のアルバイトを始める。
辰五郎は突然、元の職場での復職が決まる。克巳がやって来て祝い酒をふるまうが、その場でジュンは電機メーカーに就職する意向を明かす。サンキチが新潟に向かう朝、ジュンとタカユキは跨線橋から列車を見送る。その日はジュンの就職試験の日でもあった。きょうだいは街を駆けて行った。
キャスト(映画)[編集]
- 石黒ジュン:吉永小百合
- 塚本克巳:浜田光夫
- 石黒辰五郎:東野英治郎
- 鑑別所の教師:小沢昭一
- 女工員:吉行和子
- 松永庄治(松永鋳工の社長):殿山泰司
- 野田先生=スーパーマン(ジュンの担任教諭):加藤武
- 塚本うめ(克巳の祖母):北林谷栄
- 石黒トミ:杉山徳子
- 美代(ヨシエとサンキチの母):菅井きん
- 金山[注釈 3](ヨシエとサンキチの父):浜村純
- 刑事:河上信夫
- 平さん(木型屋):小林昭二
- 中島東吾(ノブコの父・鋳物試験技師):下元勉
- 石黒タカユキ:市川好郎
- 金山サンキチ:森坂秀樹
- 金山ヨシエ:鈴木光子
- ラーメン屋の親爺:小泉郁之助
- 電報配達員:高山秀雄
- リスちゃんの兄(不良少年グループのリーダー):木下雅弘
- 内山(ヅク割り職工):溝井哲夫
スタッフ(映画)[編集]
- 監督:浦山桐郎
- 企画:大塚和
- 原作:早船ちよ(彌生書房版)
- 脚本:今村昌平、浦山桐郎
- 撮影:姫田真佐久
- 照明:岩木保夫
- 録音:古山恒夫
- 美術:中村公彦
- 音楽:黛敏郎
- 編集:丹治睦夫
- 特殊技術:金田啓治
- 助監督:大木崇史
- 製作主任:山野井政則
- 振付:漆沢政子
- スクリプター:小林圭子(クレジットなし)[4]
- スチール:井本俊康(クレジットなし)[6]
評価(映画)[編集]
在日朝鮮人の帰還事業を肯定的に描いた(続編『未成年 続・キューポラのある街』においても、日本に残った日本人妻を主人公が説得して北朝鮮に渡らせるという原作にないストーリーが加えられている[要出典])として批判されることがある[誰によって?]が、全国日刊紙などが率先して帰還事業を歓迎した製作当時の日本の社会情勢を考慮すれば、この描写はやむを得ないとして弁護する意見[誰によって?]もある。
共同脚本の今村昌平は晩年、本作について、「当時は食えなかったんで(略)“北朝鮮は天国のような大変良いところだ”とデタラメを書いてた」と述懐した[7]。
テレビドラマ[編集]
本作を原作とするテレビドラマが、1962年11月6日にフジテレビの『シャープ火曜劇場』で放送された。
キャスト(テレビドラマ)[編集]
スタッフ(テレビドラマ)[編集]
フジテレビ シャープ火曜劇場 | ||
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