キャッチオール規制
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キャッチオール規制(キャッチオールきせい)または、補完的輸出規制(ほかんてきゆしゅつきせい、英語: Catch-All Controls)は、外国為替及び外国貿易法(日本法)を根拠として2002年4月に導入された[1][2]、日本における安全保障貿易管理の枠組みの中で、大量破壊兵器及び通常兵器の開発等に使われる可能性のある貨物の輸出や技術の提供行為などを行う際、経済産業大臣への届け出およびその許可を受けることを義務付けた制度[3]。
日本国政府が上記の輸出管理制度の中で、優遇措置の対象国を日本では「ホワイト国」(ホワイトこく)と呼んでいた[4][5][6][7][8][9]。
2019年8月2日より「ホワイト国」という名称が「グループA」,「非ホワイト国」は「グループB、C、D」へと変更された[10][11]。
概要[編集]
国際的な平和と安全を維持するためには、国家による大量破壊兵器の開発・製造や、通常兵器の過度な蓄積を阻止することが必要である。したがって、日本国政府がそのような用途に使われる可能性のある製品の輸出を規制することを目的として、この制度が制定されている。
同制度は、規制対象品目、客観要件(輸出者が需要者と用途を確認した結果、軍用に用いられるおそれがある場合)およびインフォーム要件(経済産業大臣から許可申請すべき旨の通知を受けた場合)に基づき、輸出の規制(禁止)となる品目、用途や需要者を定めることで、リスト規制のみでは対応できなかった製品の輸出規制を可能とするものである[3]。
また対象製品は極めて広範で、リスト規制対象品ほど即座に軍事転用可能なものではないが、使い方によっては大量破壊兵器や通常兵器の開発などに寄与する可能性のある製品、すなわち食料と木材以外の軽・重化学工業製品全般である[3]。日本ではワッセナー・アレンジメント協定などの国際輸出管理レジームのもと、経済産業省がキャッチオール規制を定めている。この中で「大量破壊兵器キャッチオール」と「通常兵器キャッチオール」の2種類が定められている[12]。 規制対象となる品目はHSコード第25類から第40類、第54類から第59類、第63類、第68類から第93類、又は第95類に区分されるもの[13]、及びそれら貨物に係る技術である。
対象国・地域は、「大量破壊兵器キャッチオール」については輸出貿易管理令の別表第3に示される国(「グループA」、2019年8月までの通称「ホワイト国」)26カ国以外、「通常兵器キャッチオール」については輸出貿易管理令の別表第3の2に示される国・地域(国連武器禁輸国・地域)であり、グループAに指定される欧米諸国を中心とする国はキャッチオール規制の対象外となる。これらの国は輸出管理レジームのもと管理を厳格に実施しているため、上記の兵器の拡散を行わないことが明白であるからであるとされる。
それ以外の国(グループB、C、D)へ該当品目(前述の客観要件、ないしインフォーム要件に接触する製品)を輸出する際には、基本的に契約ごとの個別許可を経済産業大臣から受けなければならない[14]。なお、グループB、C、Dの分類とキャッチオール規制の手続きに関連性は無い。
また、経済産業省は客観要件に該当する輸出先として特に懸念される企業・組織等を外国ユーザーリストとして公表している。
グループA(輸出管理優遇措置対象国)[編集]
「輸出貿易管理令 別表第3」により、2019年8月末時点で以下の26か国が対象となっている[3][15][16][8][17]。
ヨーロッパ (21)
グループB[編集]
国際輸出管理レジームに参加し、一定要件を満たす国・地域。
グループC[編集]
グループA、B、Dのいずれにも該当しない国。
グループD[編集]
「輸出貿易管理令 別表第3の2」(国連武器禁輸国・地域)[18]、「輸出貿易管理令 別表第4」(懸念国)の国・地域。
韓国への優遇措置廃止[編集]
大韓民国は、2004年にリストに追加されて以来、輸出管理優遇措置対象であるホワイト国であったが、経済産業省は2019年(令和元年)7月1日に優遇措置をやめて、ホワイト国から除外するための法令改正手続きを開始した[5][19][4][9][16]。
同年7月1日から24日までパブリックコメントを募集した後、8月2日に除外の閣議決定(第4次安倍第1次改造内閣)が行われた。7日に公布、8月28日に施行された[10][20]。日本国政府は「韓国が指定された2004年より前の状態に戻るだけ」と述べている[21][6]。
一方、大韓民国大統領の文在寅は、大方の予想を上回る「盗人猛々しい」「重大な挑戦」といった強い言葉で、これを非難した[22]。韓国はリストから除外される初めての国となる。これにより韓国は、グループAからグループBに変更となった。
2022年8月4日、日韓外相会談の中で韓国側はホワイト国への復帰を日本側に求めた。背景には徴用工問題をテコにして有利な材料を引き出したいという思惑があったが、日本側は徴用工問題とホワイト国復帰は別問題であるとして要請に応じなかった[23]。
日本は今回の措置を緩和する条件として、「通常兵器キャッチオール規制」を韓国側に要求している。この制度は、食品と木材を除く全品目を、兵器転用を防止する対象にしており、日・米・欧各国が導入している。
脚注[編集]
- ^ “安全保障貿易管理の歴史と背景 | 安全保障貿易情報センター(CISTEC)”. www.cistec.or.jp. 2019年7月12日閲覧。
- ^ “安全保障貿易管理におけるイラン向け輸出許可取得の要否について | 貿易・投資相談Q&A - 国・地域別に見る - ジェトロ”. www.jetro.go.jp. 2019年7月6日閲覧。
- ^ a b c d “安全保障貿易管理**Export Control*キャッチオール規制”. www.meti.go.jp. 2019年7月5日閲覧。
- ^ a b “大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて”. 経済産業省 (2019年7月1日). 2019年7月1日閲覧。
- ^ a b “EUは韓国を非「ホワイト国」扱い | SWBS”. 2019年7月26日閲覧。
- ^ a b “韓国を「ホワイト国」から除外へ 日本経済への影響は限定的との見方も”. ライブドアニュース. 2019年7月26日閲覧。
- ^ INC, SANKEI DIGITAL (2019年7月26日). “韓国除外 8月2日決定へ調整 貿易優遇国指定”. 産経ニュース. 2019年7月26日閲覧。
- ^ a b “優遇措置対象国から除外の可能性がある韓国 説得に総力戦を展開か”. ライブドアニュース. 2019年7月26日閲覧。
- ^ a b “安倍首相「欧州のどの国も韓国を最優遇せず、今回特別の優遇措置をやめる」 | Joongang Ilbo | 中央日報”. japanese.joins.com. 2019年7月26日閲覧。
- ^ a b “輸出貿易管理令の一部を改正する政令が閣議決定されました (METI/経済産業省)”. www.meti.go.jp. 2019年8月2日閲覧。
- ^ “「ホワイト国」→「グループA」に 経産省が名称変更”. 日本経済新聞 電子版. 2019年8月2日閲覧。
- ^ 安全保障貿易管理におけるキャッチオール規制:日本 | 貿易・投資相談Q&A - 国・地域別に見る - ジェトロ
- ^ [1]:16 項貨物・キャッチオール規制対象品目表
- ^ “輸出管理に関するFAQ | 安全保障貿易情報センター (CISTEC)”. www.cistec.or.jp. 2019年7月6日閲覧。
- ^ 輸出貿易管理令 別表第三 - e-Gov法令検索
- ^ a b INC, SANKEI DIGITAL (2019年7月1日). “韓国への輸出管理見直し 半導体製造品目など ホワイト国から初の除外 徴用工問題で対抗措置”. 産経ニュース. 2019年7月26日閲覧。
- ^ “韓国の優遇措置除外を8月2日にも閣議決定|全国のニュース|佐賀新聞LiVE”. 佐賀新聞LiVE. 2019年7月26日閲覧。
- ^ 輸出貿易管理令 別表第三の二 - e-Gov法令検索
- ^ “半導体材料の韓国向け輸出管理を厳格化、信頼関係毀損で”. ブルームバーグ (2019年7月1日). 2019年7月1日閲覧。
- ^ “インターネット版官報 令和 元年8月7日 (第66号)”. 国立印刷局 (2019年8月7日). 2019年8月7日閲覧。
- ^ 日本テレビ. “「ホワイト国」から韓国除外 閣議決定へ”. 日テレNEWS24. 2019年7月26日閲覧。
- ^ “文大統領「日本、盗っ人猛々しい」 ホワイト国除外で”. 朝日新聞. (2019年8月2日)
- ^ “徴用工問題 韓国が「ホワイト国」復帰要請 日本は「別問題」と拒否”. 産経新聞 (2022年8月20日). 2022年8月22日閲覧。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- 『キャッチオール規制』 - コトバンク
- ワッセナー・アレンジメントの公式ウェブサイト(英語)
- 安全保障貿易管理 - 経済産業省
- 韓国向け輸出管理の運用の見直し - 経済産業省
- 大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて - 経済産業省