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キジバト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
キジバト
キジバト
キジバト Streptopelia orientalis
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 LC.svg
Status iucn3.1 LC.svg
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
: ハト目 Columbiformes
: ハト科 Columbidae
: キジバト属 Streptopelia
: キジバト S. orientalis
学名
Streptopelia orientalis
(Latham, 1790
和名
キジバト
英名
Eastern turtle dove
Oriental turtle dove
生息図
  黄緑:繁殖地
  緑:周年生息地
  水色:中継地
  青:越冬地
キジバトの分布図

キジバト(雉鳩、Streptopelia orientalis)は、鳥綱ハト目ハト科キジバト属に分類される鳥。

形態

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全長約33 cm体色は雌雄同色で茶褐色から紫灰色。に、黒と赤褐色の鱗状の模様があるのが特徴。また頚部側面に青と白の横縞模様がある。目の周囲に赤く裸出している部分がある[2]

以下は清棲(1979)による[3]

雌雄同色。額から後頭にかけて灰色であるが、後頭は赤葡萄酒色を帯びる。耳羽、腮(あご)、喉も赤葡萄酒色を帯びた灰色もしくは個体によっては灰白色である。

生態

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平地から山地の明るい森林に生息するが、都市部でも普通に見られる。樹上に小枝等を組み合わせた皿状のを作るが、古巣を利用することも多く、人工建築物に営巣することもある。このため野良猫などの獲物になることも多い。

寒冷地の個体群は冬季に越冬のために南方に渡りを行う。日本では多くの地域で留鳥であるが、北海道や東北地方北部では夏鳥として扱われる。

譜例:キジバトの雄のさえずり声
(この音程・リズムで正確に鳴くわけではない)

雄のさえずり声はかなり特徴的であり、主に早朝にさえずる。伝統的には「デーデー ポッポー」と表現され「ホーホー ホッホー」と表現する人もいる。さえずり声は個体によって音程などに違いがあり通常5音の発声であるが、4音でさえずる個体も確認される。人によっては譜例のようにさえずり声を8分の9拍子、付点4分音符=約72のテンポで「クーク グッググー」あるいは「ホーホ ホッホホー」と表現したほうがわかりやすいであろう。雌も雄ほどではないが上記のさえずり声を発する。

食性は雑食で主に果実種子を食べるが昆虫類貝類ミミズ等も食べる。

クチバシの中で種子を震わせる特徴がある。これは、飲み込みやすい位置へ種子を調整したり異物をふるい落としたりするのと、好きじゃない種子を選り分けて放り投げる二つの意味がある。クチバシの中でカララッカララッカララッと3回鳴らすと、大抵その種子は遠くへ弾き飛ばされる。食べる場合は、カララッカララッと2回で位置調整をしたあと飲み込むことが多い。

繁殖期は春から夏が多いもののほぼ周年で行い[2]、1回に2個のを産む。抱卵日数は15 - 16日。抱卵は夕方からまでの夜間は雌、昼間は雄が行う。雛は孵化後、約15日で巣立つ。

一般的にはつがいで見られることが多いが、繁殖がうまくいかなかった場合は、1シーズンで番を解消するパターンも多い。冬季には繁殖していない個体が群れを作ることもある[2]

分布

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ユーラシア大陸中部から東部にかけて、およびインド亜大陸に広く分布。

日本では、田舎に生息していることが多い。

分類

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2亜種に分類され、南西諸島のものは亜種に分ける。

  • S.o.orientalis キジバト
  • S.o.stimpsoni リュウキュウキジバト

人間との関わり

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食用・狩猟

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肉は食用になる。

日本では「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」(平成十四年法律第八十八号、通称:鳥獣保護法)[4]で狩猟鳥獣の一つに定められている(リスト一覧は同法の施行規則第三条にあり[5])。狩猟を希望する場合は同法に従って狩猟免許を取得し都道府県の名簿に登載されれば、亜種も含めて冬季に決められた区域内と手法で狩猟ができる。なお、卵の採取は同法の第八条により[4]、鳥もち・釣り針・かすみ網などによる狩猟は同法の施行規則第十条により禁止されている[5]

農業害鳥

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耕地にまかれたなどの種子食害することもある。

種の保全状況

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国際自然保護連合(IUCN)が定めるレッドリストでは2024年現在で低危険種(Least Concern, LC)と評価している[1]。日本の環境省が定める環境省レッドリストでも2015年発表2020年最終改訂の第四次レッドリストには掲載されていない[6]。都道府県が作成するレッドリストでも本種を掲載するところはない[7]

象徴

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かつては切手の意匠にもなった。10円切手(1963年11月発売)、62円切手(1992年11月発売)、80円切手(2007年10月発売)で使われていた。80円切手も2014年で発売終了となっている[8][9]

呼称

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標準和名は「キジバト」とされ、『日本鳥類目録』(1974)[10]、『世界鳥類和名辞典』(1986)[11]などではこの名前で掲載されている。和名の由来はキジの雌に体色が似ていることとされる。

身近な鳥であり地方名も比較的多く知られる。あまり変わった名前はなく「ハト」が付くものが多い。最も広く見られるのが「ヤマバト」という名前で、東北地方から九州北部まで見られる[12]。。一方で九州の中南部や四国では「サトバト」という名前が多い。「ノバト」は茨城県や福島県に見られる。この辺りの名前は分布地に因む命名である。色合いなのか食性なのか「ツチクレ」という名前があり、「サトバト」と同じような場所に見られる。特徴的な鳴き声に由来する「デデイポッポ」「テテポポ」などが岩手県・宮城県を中心に知られる。南九州や沖縄県では「カラハト」ともいうという。「ドバト」、単に「ハト」と呼ぶ地域も多い。このレベルになると本種に限らず公園などにいるカワラバトとの呼称でも使われる。ハト類の総称的な名前としてはハトやドバト以外にも「オカセ」(岡山県)、「コキジ」(香川県)、前述の「ツチクレ」(長崎県)などの変わった名前もあるという[12]

種小名 orientalisは「東洋の」という意味で分布地に因む命名である[13]

キジバト類を表す英名 turtle dove はカメ(turtle)とは無関係であり、キジバトの鳴き声に基づくラテン語名 turtur に由来する。かつては turtle 単体でもキジバトを意味した。

脚注

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  1. ^ a b BirdLife International. (2024). Streptopelia orientalis. The IUCN Red List of Threatened Species 2024: e.T22690439A264165100. doi:10.2305/IUCN.UK.2024-2.RLTS.T22690439A264165100.en
  2. ^ a b c 『山渓ハンディ図鑑7 新版 日本の野鳥』、104頁。
  3. ^ 清棲幸保 (1979)『日本鳥類大図鑑 Ⅱ(増補改訂版)』. 講談社, 東京. doi:10.11501/12602100(国立国会図書館デジタルコレクション)
  4. ^ a b 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(平成十四年法律第八十八号) e-gov 法令検索. 2025年8月15日閲覧
  5. ^ a b 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行規則(平成十四年環境省令第二十八号) e-gov法令検索. 2025年8月15日閲覧
  6. ^ 生物情報収集提供システム いきものログ > レッドリスト・レッドデータブック 環境省生物多様性センター 2025年8月31日閲覧
  7. ^ ホーム > 種名検索 日本のレッドデータ検索システム. 2025年8月15日閲覧.
  8. ^ 新料額の普通切手及び郵便葉書等の発行等(2 販売を終了する普通切手・郵便葉書等の内容)”. 日本郵便株式会社 (2013年12月6日). 2022年6月9日閲覧。
  9. ^ 別紙3 販売を終了する普通切手の意匠等”. 日本郵便株式会社. 2022年6月9日閲覧。
  10. ^ 日本鳥学会 編 (1974) 『日本鳥類目録(改訂第五版)』. 学習研究社, 東京. doi:10.11501/12638160(国立国会図書館デジタルコレクション)
  11. ^ 山階芳麿(1986)『世界鳥類和名辞典』. 大学書林, 東京. doi:10.11501/12601719(国立国会図書館デジタルコレクション)
  12. ^ a b 農商務省 編 (1921) 『狩猟鳥類ノ方言』. 日本鳥学会, 東京. doi:10.11501/961230(国立国会図書館デジタルコレクション)
  13. ^ 内田清一郎, 島崎三郎 (1987) 『鳥類学名辞典―世界の鳥の属名・種名の解説/和名・英名/分布―』. 東京大学出版会, 東京. ISBN 4-13-061071-6 doi:10.11501/12601700(国立国会図書館デジタルコレクション)

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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