キクザメ

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キクザメ
Echinorhinus brucus1.jpg
キクザメ
Echinorhinus brucus
保全状況評価[1]
DATA DEFICIENT
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status none DD.svg
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 軟骨魚綱 Chondrichthyes
亜綱 : 板鰓亜綱 Elasmobranchii
: キクザメ目 Echinorhiniformes
: キクザメ科 Echinorhinidae
: キクザメ属 Echinorhinus
: キクザメ E. brucus
学名
Echinorhinus brucus
(Bonnaterre, 1788)
シノニム

Echinorhinus mccoyi Whitley, 1931
Echinorhinus obesus Smith, 1838
Squalus brucus Bonnaterre, 1788
Squalus spinosus Gmelin, 1789

英名
Bramble shark
Echinorhinus brucus distmap.png
生息域[2]

キクザメ(学名:Echinorhinus brucus)はキクザメ科に属するサメの一種である。東太平洋を除く全世界の熱帯、温帯域の海に生息する。本種はめったに発見されない種であり、通常水深400mから900mくらいの海底で生活するが、それより浅い海に現れることもある。太いがっしりとした魚体の最後方に二つの小さな背鰭を持ち、臀鰭(尻びれ)はもたない。体表に大きな、棘状の楯鱗(サメやエイなどに特有の)が散在していることにより他種と容易に区別できる。体色は茶色か黒色で、最大で体長3.1mにまで成長する。

キクザメが捕食する生物には、自分より小さなサメ、硬骨魚、そしてカニが含まれ、動きの遅い本種はこれらを吸い込むように捕食すると考えられる。本種は卵胎生で、メスは一度に15匹から52匹の子を産む。人間に害はなく、漁業においてまれに混獲され、魚粉肝油という形で利用されることがある。IUCNは現在本種の保全状態についてはデータ不足(DD)としているが、北東大西洋における本種の生息数は18世紀19世紀以来かなり減少しており、乱獲が原因の可能性がある。

分類と命名[編集]

本種はフランス博物学者ピエール・ジョセフ・ボナテールによって1788年にはじめて記載された。彼は本種をSqualus brucusと名付けたが、このbrucusという種小名はギリシャ語で「深海からの」という意味の語bruxあるいはbruchiosに由来する[3][4]。この時の本種のタイプ標本は紛失している[5]1816年アンリ・ブランヴィルが本種に対し、 Echinorhinus(キクザメ属)という属名を与えた[6]。 1960年代まで、太平洋で捕獲された同属種のコギクザメ英語版(E. cookei)は本種と誤認されていた[4]。英名はBramble shark(「イバラのサメ」の意)の他にSpinous shark、Spiny shark(どちらも「トゲのあるサメ」の意)などがある[7]

形態[編集]

キクザメの体(上図)。体の後方に背鰭があり、臀鰭を欠き、楯鱗(下図)が大きく棘状なのが特徴。

キクザメの体は太い円筒状であり、頭部は少し平たくなっている。鼻先は丸みを帯びていて、鼻孔が大きい。目に瞬膜はなく、目の後ろには噴水孔がある。口は幅が広く湾曲しており、両端にはわずかに溝がある。上顎には20から26、下顎には22から26の歯列が並ぶ。それぞれの歯はナイフのように先端が尖っていて、尖った小突起もいくつかみられる。5対の鰓裂がみられ、その中で最も尾側にある対が最も長い[5][8]

胸鰭は短く角張っている。一方腹鰭は長く比較的大きい。二枚の背鰭は小さく、頭寄りの第一背鰭の始点は腹鰭の始点と並んでいる。臀鰭はなく、尾柄は太い。尾鰭は非対称形で上部が伸長している[9]

皮膚は数ミリメートルの厚さの悪臭を放つ粘液で覆われている[10][11]。様々な大きさ(最大で1.5cmほど)の楯鱗(皮歯)が全身に不規則に散在する。それぞれの楯鱗は棘状で、その基底部から放射状に溝が広がっている。最大で10ほどの楯鱗が一体化することがある。90cmより小さい個体では、頭部の下側と口の周りの領域は小さな楯鱗に覆われている。大きな個体ではこの楯鱗が大きく、まばらになる。本種の上部(背部)は茶色から黒色で、紫色の光沢を帯びる。下部(腹部)は腹部より色が薄い。赤か黒の斑をもつ個体もいる。捕獲して間もないうち緑色の光沢があったという標本が一例ある。本種は最大で体長3.1mに達する。記録されている最大の重量は体長2.8mのメスの個体で、200kgであった[5][2][4]

分布[編集]

キクザメの記録はきわめて稀で、その場所は東太平洋を除く世界中の温帯、熱帯海域に散在している。ほとんどの記録は東大西洋と西インド洋に集中しており、ここでの分布域は北海ブリテン島から地中海を含みインド洋のモザンビークまで広がっている。西大西洋では、アメリカマサチューセッツノースカロライナルイジアナ、そしてトリニダード・トバゴブラジルアルゼンチンから少数の標本が得られている[4]インド太平洋ではオマーン[12]インド、南日本、南オーストラリアニュージーランド、そしておそらくキリバスで記録がある[5]

本種は海底近くで見つかり、通常水深400mから900mの大陸縁辺部や大陸棚に生息すると考えられる[13]。しかしながら、最も浅いところで冷水の湧昇がみられる水深18mの地点からも記録があり、最も深いところでは水深1214mから記録がある[2][5][9]。少なくともヨーロッパの海では、夏の間は水深20mから200mの浅い海に移動すると考えられている [4]

生態[編集]

卵黄のつまった袋をつけたキクザメの胎児

動きの遅い本種は、自分より小さいサメ(アブラツノザメなど)や、硬骨魚エソなど)、カニを捕食する。咽頭が口の大きさに比較して大きいため、吸い込むように餌生物を捕食していると考えられる[5]。本種は卵胎生である。メスは2つの卵巣と2つの子宮を持つ。子の数の記録は15匹から52匹となっていて、産み出された子の体長は40cmから50cmと推定されている [4][14]。出産直前の胎児の楯鱗は発達中であり、肌にあいた穴のなかにある小さな棘としてみることができる[15]。性的成熟に達するときの体長は未だ定かでないが、成熟したオスの最小記録は1.5m、成熟したメスの最小記録は2.1mである[5]

人間との関係[編集]

キクザメが人間に危害を及ぼした事例は知られていない。本種はトロール漁業などの漁業、あるいはスポーツフィッシングを楽しむ釣り人によって混獲される。東大西洋では本種は魚粉に加工されるが、商業的にはあまり重要でない[7][5]南アフリカでは本種の肝油が薬として高い価値を持つが、一方インドではその油は価値の低いものとみなされ、防虫のためカヌーに塗るなどして使われる[14]。現在北ヨーロッパ沿岸や地中海では本種はきわめて珍しい種であり、歴史的史料に基づくと北東大西洋における本種の個体数は18世紀19世紀以来かなり減っていると考えられる。この減少の原因は漁業にあるといわれるが、それは本種が長い寿命をもちゆっくりと成長する種であるため、乱獲による影響を強く受けると考えられるからである[4][9]。しかしながら、種全体としてはIUCNは十分な情報を得られておらず、本種の保全状態についてデータ不足(DD)としている[1]

出典[編集]

  1. ^ a b Paul, L. 2003. Echinorhinus brucus. In: IUCN 2011. IUCN Red List of Threatened Species. Version 2011.1. International Union for Conservation of Nature.
  2. ^ a b c Compagno, L.J.V.; Dando, M.; Fowler, S. (2005). Sharks of the World. Princeton University Press. pp. 70–71. ISBN 978-0-691-12072-0. 
  3. ^ Bonnaterre, J.P. (1788). Tableau encyclopédique et methodique des trois règnes de la nature... Ichthyologie. Panckoucke. p. 11. 
  4. ^ a b c d e f g Castro, J.I. (2011). The Sharks of North America. Oxford University Press. pp. 44–46. ISBN 978-0-19-539294-4. 
  5. ^ a b c d e f g h Compagno, L.J.V. (1984). Sharks of the World: An Annotated and Illustrated Catalogue of Shark Species Known to Date. Food and Agricultural Organization of the United Nations. pp. 25–26. ISBN 92-5-101384-5. 
  6. ^ Blainville, H. de (1816). “Prodrome d'une nouvelle distribution systématique du règne animal”. Bulletin de la Société Philomathique de Paris 8: 105–112. 
  7. ^ a b Froese, R.; Pauly, D. (eds). "Echinorhinus brucus". FishBase. March 2012 Version. Downloaded on March 24, 2012.
  8. ^ McEachran, J.D.; Fechhelm, J.D. (1998). Fishes of the Gulf of Mexico Volume 1: Myxinformes to Gasterosteiformes. University of Texas Press. p. 103. ISBN 978-0-292-75206-1. 
  9. ^ a b c Kabasakal, H.; Oz, M.I.; Karhan, S.U.; Caylarbasi, Z.; Tural, U. (2005). “Photographic evidence of the occurrence of bramble shark, Echinorhinus brucus (Bonnaterre, 1788) (Squaliformes: Echinorhinidae) from the Sea of Marmara”. Annales Series Historia Naturalis 15 (1): 51–56. http://www.zrs.upr.si/media/uploads/files/kabasakal%20et%20al+.pdf. 
  10. ^ Martin, R.A. "Echinorhiniformes: Bramble Sharks". ReefQuest Centre for Shark Research. Downloaded on March 24, 2012.
  11. ^ Kemp, N.E. (1999). “Integumentary System and Teeth”. In Hamlett, W.C.. Sharks, Skates, and Rays: The Biology of Elasmobranch Fishes. JHU Press. pp. 43–68. ISBN 978-0-8018-6048-5. 
  12. ^ Javadzadeh, N.; Vosoughi, G.; Fatemi, M.R.; Abdoli, A.; Valinassab, T. (2011). “The first record of mesopelagic shark, Echinorhinus brucus (Bonnaterre, 1788; Squaliformes; Echinorhinidae), from the Oman Sea, Iran”. Journal of Applied Ichthyology 27: 1119. doi:10.1111/j.1439-0426.2010.01615.x. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1439-0426.2010.01615.x/abstract. 
  13. ^ Last, P.R.; Stevens, J.D. (2009). Sharks and Rays of Australia (second ed.). Harvard University Press. p. 42. ISBN 0-674-03411-2. 
  14. ^ a b Joel, J.J.; Ebenzer, I.P. (1991). “On a bramble shark with 52 embryos”. Indian Council of Agricultural Research Marine Fisheries Information Service Technical and Extension Series (Suppl. 108): 15, 31. http://eprints.cmfri.org.in/4601/1/Article_08.pdf. 
  15. ^ Silas, E.G.; Selvaraj, G.S.D. (1972). “Descriptions of the adult and embryo of the bramble shark Echinorhinus brucus (Bonnaterre) obtained from the continental slope of India”. Journal of the Marine Biological Association of India 14 (1): 395–401. http://eprints.cmfri.org.in/1596/1/Article_30.pdf. 

関連項目[編集]