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ノコギリヘビ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
カーペットバイパーから転送)
ノコギリヘビ
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 LC.svg
Status iucn3.1 LC.svg
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: 有鱗目 Squamata
: クサリヘビ科 Viperidae
: ノコギリヘビ属 Echis
: ノコギリヘビ E. carinatus
学名
Echis carinatus
(Schneider, 1801)[1]
英名
Saw-scaled viper[2][3]
Sindh saw-scaled viper[1]
Indian saw-scaled viper
little Indian viper[4]

ノコギリヘビ[5]Echis carinatus)は、クサリヘビ科ノコギリヘビ属に分類されるヘビ。別名カーペットノコギリヘビ[5]カーペットバイパー[6]中東中央アジアインド亜大陸に分布する。インドの四大毒蛇の中では最も小さく、これらのヘビは住居の近くにも現れ、体色も目立たないため、咬傷や死亡例も多い[7]。他のクサリヘビと同様に有毒であり、2亜種が知られている[8]。本項では基亜種について説明する。

分類

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以下の2亜種が知られている[8]

分布と生息地

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インド亜大陸インドスリランカバングラデシュパキスタン中東ではオマーンマシーラ島アラブ首長国連邦東部、イラクイラン南西部、中央アジアアフガニスタンウズベキスタントルクメニスタンタジキスタンに分布する[2]

砂地、岩場、粘土質、低木林など、様々な環境に生息する。岩の下に隠れていることが多い。バロチスタン州では標高1982mでの記録もある[3]

形態

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鱗のキールは鋸歯状であり、とぐろを巻きながら鱗を擦り合わせることで、のこぎりで物を切るような警告音を発する。

全長は38-80cmだが、通常は60cmに満たない[3]ニホンマムシと同じぐらいの大きさである。頭部は三角形で、吻は非常に短く、丸みを帯びる。鼻孔は3枚の鱗で囲まれ、頭部の鱗は小さく、キールが目立つ。これらの鱗が眼上板となる場合もある。眼間板は9-14枚、眼窩周囲の鱗は14-21枚である。眼と上唇板の間には、1-3列の鱗がある。上唇板は10-12枚で、通常は4番目の鱗が大きい。下唇板は10-13枚である。胴体中央部の体鱗列は25-39列で、体鱗にはキールがあり、鋸歯状となっている。また、鱗の先端は窪む。腹板は143-189枚で、腹部全体を覆う。尾下板は21-52枚で、1列に並ぶ。肛板は1枚である[3][11]

体色の地は淡黄色、灰色、赤みを帯びた色、オリーブ色、淡褐色で、背面には様々な色の斑点が入る。斑点は一般的に白く、濃い茶色で縁取られる。斑点の間には明るい模様が入る。体側面には弓状の白い模様が入る。頭部には白みがかった十字または三叉の模様が入り、目から顎にかけては不明瞭な縞が入る。腹部は白色からピンク色で、茶色の斑点が散らばる場合もある[3][11]。体色は落葉に紛れるとまったく目立たない。

生態と行動

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横這いで移動する

普通は薄明薄暮性または夜行性だが、日中に活動することもある[3]。日中は哺乳類の掘った巣穴、岩の間、倒木など、様々な場所に潜んでいる。砂に潜って頭部だけを出していることもある。雨上がりの湿度の高い夜には活動的になる傾向にある[12]。低木に登ることも多く、地上2mほどの高さに登る場合もある。雨が降ると最大80%と多くの個体が木に登り、約20匹が1つの木に集まった例もある[3]。生息域の北部では冬眠をする[13]

ヨコバイガラガラのように、主に横這いで移動する。移動速度は驚くほど速い。他の移動方法もあるが、砂地には横這いが適している。地面との接触点が少なくなるため、地面の熱による体温上昇を抑制することができる[3]。見た目が目立たない上に、性質も攻撃的であり、多くの咬傷事故を起こしている。8の字のように体を折り曲げ、バネの要領で素早く攻撃をする[13]危険が迫ると鱗同士をこすり合わせて警告音を出す。その音がノコギリを挽く音に似ていることから和名が付けられた[5]。和名に関しては千石正一が付けたものであり、テレビ番組『どうぶつ奇想天外!』の問題としても出題された。

は主にネズミカエルトカゲといった小動物だが、ムカデサソリ、大型昆虫など多様な節足動物も食べる[13]。食性が幅広く、地域により主食とする餌を変えることができる。一部地域での個体数の多さは、このことに起因する可能性がある[3]

インドの個体群は胎生であり、インド北部では冬に交尾する。4-8月にかけて出産するが、他の時期に出産した記録もある。幼蛇の体長は115-152mmで、3-15匹の仔を産む[13]。23匹の仔が生まれた記録もある[3]

咬傷と毒性

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本種の生息域は広く、人間の生活圏とも重なる。また個体数も多いため、噛まれる被害件数が非常に多い。アフリカなどに生息する近縁種は世界で最も多くの蛇咬傷による死者を出している[14]出血毒神経毒細胞毒心臓毒で非常に強く、ニホンマムシの130倍、コブラの5倍にあたる。1950年前後のインドの統計では、本種による死亡率は36%に達している。ほとんどのヘビは人間側から手を出さなければ攻撃せずに逃げていくなどの行動原則を持つが、ノコギリヘビの場合は気性が荒く、近くにいる人間には無条件に噛み付く。そのため世界で最も危険な毒蛇の一種とされる[15]

毒の乾燥重量は平均して約18mg、最大で72mgである。毒の注入量は最大12mgに達し、成人の致死量である推定5mgを上回っている[13]。咬まれると数分以内に、局所的に腫れや痛みなどの症状が現れる。重症化すると12-24時間以内に腫れが広がり、皮膚に水ぶくれが現れることもある[16]。毒の保有量や注入量には個体差がある。死亡率は約20%であるが、現在は抗毒素の存在により、死亡例は少なくなっている[13]

全身では主に出血と血液凝固障害が起こり、吐血メレナ喀血血尿鼻血、血液量減少が起こることもある。咬まれてから数時間-6日以内に、乏尿または無尿となる事が多い。約半数の症例では溶血が起こり、これによって急性腎不全となり、人工透析が必要となる場合もある。また播種性血管内凝固症候群も腎不全の原因となる。咬まれた場合は数時間以内に、抗毒素の投与と静脈内への水分補給が必要である[16]。少なくとも8種類の多価および一価の抗毒素が利用できる[4][17]

本種の毒は医薬品の材料にもなっている。例えばエチスタチンは抗凝固薬として働く。他の多くのヘビ毒と類似しているが、特に強力であり、構造が単純であるため、容易に複製が可能である。毒の精製によって得られるが[18]化学合成も可能である[19][20]。エカリンという物質は、抗凝固物質の試験に利用される[21][22]

聖書

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イザヤ書の「飛びかける燃える蛇」は本種との説がある[23]

出典

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  1. ^ a b c Ananjeva, N.B.; Orlov, N.L.; Papenfuss, T.; Anderson, S.; Srinivasulu, C.; Srinivasulu, B.; Thakur, S.; Mohapatra, P.; Kulkarni, N.U.; Deepak, V.; Egan, D.M.; Els, J.; Borkin, L.; Milto, K.; Golynsky, E.; Rustamov, A.; Nuridjanov, D.; Munkhbayar, K. (2021). Echis carinatus. IUCN Red List of Threatened Species. 2021 e.T164694A1068235. doi:10.2305/IUCN.UK.2021-3.RLTS.T164694A1068235.en. 2025年12月12日閲覧.
  2. ^ a b Echis carinatus”. The Reptile Database (2025年). 2025年12月12日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l Mallow, David; Ludwig, David; Nilson, G. (2003). True vipers: natural history and toxinology of Old World vipers (Original ed ed.). Malabar, Fla: Krieger Pub. Co. p. 359. ISBN 978-0-89464-877-9 
  4. ^ a b Echis carinatus antivenoms”. Munich Antivenom Index. 2010年12月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年9月13日閲覧。
  5. ^ a b c 中井穂瑞領『ヘビ大図鑑 ナミヘビ上科、他編 分類ほか改良品種と生態・飼育・繁殖を解説』誠文堂新光社、2021年、381頁。ISBN 978-4-416-52162-5
  6. ^ 疋田努監訳、竹内寛彦訳『知られざる動物の世界 10 毒ヘビのなかま』朝倉書店、2013年、68、70頁。ISBN 978-4-254-17770-1
  7. ^ Whitaker Z (1990). Snakeman. London: Penguin Books Ltd. p. 192. ISBN 0-14-014308-4 
  8. ^ a b ITIS - Report: Echis carinatus”. www.itis.gov. 2025年12月12日閲覧。
  9. ^ A Checklist of Indian Snakes with English Common Names”. University of Texas at Austin. 2025年12月12日閲覧。
  10. ^ 田原義太慶『毒ヘビ全書』グラフィック社、2020年2月25日、184-185頁。ISBN 978-4-7661-3313-4 
  11. ^ a b Boulenger, George Albert (1890). Reptilia and Batrachia. The Fauna of British India, Including Ceylon and Burma. Reptilia and Batrachia. London: Taylor and Francis. pp. 422-423. doi:10.5962/bhl.title.5490. https://www.biodiversitylibrary.org/bibliography/5490 
  12. ^ Mehrtens, John M. (1987). Living snakes of the world in color. New York: Sterling Pub. Co. p. 480. ISBN 978-0-8069-6460-7 
  13. ^ a b c d e f Daniel, J. C. (2002). Daniel, J. C.. ed. The book of Indian reptiles and amphibians. Mumbai: Bombay Natural History Society. p. 252. ISBN 978-0-19-566099-9 
  14. ^ WHO | WHO issues new recommendation on antivenom for snakebites”. web.archive.org (2020年7月24日). 2024年12月21日閲覧。
  15. ^ Walls, Jerry G. (2013年11月20日). “The World's Deadliest Snakes” (英語). Reptiles Magazine. 2024年12月21日閲覧。
  16. ^ a b Ali G, Kak M, Kumar M, Bali SK, Tak SI, Hassan G, Wadhwa MB (2004). "Acute renal failure following Echis carinatus (saw–scaled viper) envenomation". Indian J. Nephrol. 14: 177-181. PDF Archived 2019-02-14 at the Wayback Machine. at Indian Medlars Centre Archived 2006-09-12 at the Wayback Machine.. Accessed 12 September 2006.
  17. ^ “Immunoreactivity and neutralization efficacy of Pakistani Viper Antivenom (PVAV) against venoms of Saw-scaled Vipers (Echis carinatus subspp.) and Western Russell's Vipers (Daboia russelii) from the Indian subcontinent”. Acta Tropica 250 (250). (February 2024). doi:10.1016/j.actatropica.2023.107099. PMID 38097152. 
  18. ^ Echistatin from Echis carinatus”. Sigma-Aldrich. 2025年12月13日閲覧。
  19. ^ Saw-scaled Vipers”. Electronic Medical Curriculum. 2002年3月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年9月29日閲覧。
  20. ^ Garsky, V M; Lumma, P K; Freidinger, R M; Pitzenberger, S M; Randall, W C; Veber, D F; Gould, R J; Friedman, P A (1989-06). “Chemical synthesis of echistatin, a potent inhibitor of platelet aggregation from Echis carinatus: synthesis and biological activity of selected analogs.” (英語). Proceedings of the National Academy of Sciences 86 (11): 4022–4026. doi:10.1073/pnas.86.11.4022. ISSN 0027-8424. PMC 287380. PMID 2726764. https://pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.86.11.4022. 
  21. ^ Fabrizio, M. Charlene (2001-06). “Use of Ecarin Clotting Time (ECT) with Lepirudin Therapy in Heparin-Induced Thrombocytopenia and Cardiopulmonary Bypass”. The Journal of ExtraCorporeal Technology 33 (2): 117–125. doi:10.1051/ject/2001332117. ISSN 0022-1058. https://ject.edpsciences.org/10.1051/ject/2001332117. 
  22. ^ Textarin/Ecarin Time”. Specialty Laboratories. 2003年12月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年6月5日閲覧。
  23. ^ Pratt, Ronald P. Millett and John P. (2008年11月5日). “What Fiery Flying Serpent Symbolized Christ? | Meridian Magazine”. Meridian Magazine | Latter-day Saint News and Views. 2024年12月21日閲覧。

関連項目

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