カワノリ
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1. 藻体 | ||||||||||||||||||||||||
| 分類 | ||||||||||||||||||||||||
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| 学名 | ||||||||||||||||||||||||
| Eaprasiola japonica (R.Yatabe) Heesch, Guiry & Rindi, 2025[1] | ||||||||||||||||||||||||
| シノニム | ||||||||||||||||||||||||
カワノリ(川苔[3]、川海苔[4]、学名: Eaprasiola japonica または Prasiola japonica)は、トレボウクシア藻綱カワノリ目カワノリ科に分類される淡水性の大型緑藻の1種である。藻体は長さ 1–20 cm(図1)、緑色の薄い膜状で1細胞層からなり、各細胞は星状の葉緑体を1個含む。不動胞子などによる無性生殖を行い、卵と精子による有性生殖も知られている。東アジアの清冽な渓流域に生育する。食用とされ、しばしば産地名を冠して大谷川苔、多摩川苔、桐生川苔、芝川苔、菊池川苔などとよばれる。
特徴
[編集]藻体は1層の細胞層からなる薄い膜状であり、鮮緑色、形は笹葉形や長楕円形、卵形など多様であり、長さ 1–20 cm、縁はときに裂ける[2][5][6][7][8][9](図1)。基部にある小さな付着器で渓流中の岩などに付着している[6]。表面観では、細胞は2個ずつ組になり、2組4個の細胞がまとまって配置している[2][5][10]。細胞は直径 4–7 µm、1個のピレノイドを含む中軸性で星形の葉緑体が細胞中央に1個存在する[2][5][6]。
細胞壁はキシロマンナンを主成分とし、セルロースやラムノースも含まれる[11]。紫外線吸収物質であるマイコスポリン様アミノ酸を含む[7]。カンペステロール、スティグマステロール、β-シトステロール、コレステロール、フィトール、cis-7-ヘプタデセン、パルミチン酸、リノール酸を含む[12]。
一年生であり、ふつう5–6月頃に萌発し始め、夏から秋が最盛期となり、12月から3月頃が凋落期となるが、産地によってかなり差がある[7][6]。若い藻体では、縁辺の細胞が不動胞子(単胞子)になって離脱し、これが新たな藻体へ成長して無性生殖を行う[6][7][9]。また、小乳頭突起や分離小葉片、分離した栄養細胞などによる無性生殖も知られている[6]。雌雄同株であり、卵と精子による有性生殖も行う[6][9]。夏から冬にかけて藻体先端から下方へ、各細胞が雄性または雌性の配偶子嚢に分化し、それぞれまとまってモザイク状になる[6]。雄性配偶子嚢は色は淡く、64または128個の雄性配偶子(精子)を形成し、雌性配偶子嚢は濃緑色で16個の雌性配偶子(卵)を形成する[6]。精子は2本鞭毛性で眼点を欠く[6]。接合子は雄性配偶子に由来する鞭毛でしばらく遊泳した後に着生し、肥大成長してから第一分裂で減数分裂を行う[6]。発芽体は付着器が分化し、葉状部が形成される[6]。染色体数は n = 3[6]。このような無性・有性生殖様式であるにもかかわらず、流速の速い渓流で分布域が下流へ移動せず維持される機構は明らかではない[7]。
分布
[編集]ネパール、中国、韓国、日本から報告されている[1][13]。

日本では本州(関東以南)、四国、九州の河川に分布し、本州では太平洋に注ぐ河川のみと考えられていたが、日本海に注ぐ信濃川水系からも見つかっている[8][7]。日本では、以下の河川から報告されている(ただしその後見つかっていない場所もある)。これらの中には、移植によるとされるものもある[14]。
- 栃木県: 那珂川支流(箸川、赤滝、内川、宮川、中川)鬼怒川支流(野沢、大谷川、鳴沢、赤沢)[15][14]
- 群馬県: 渡良瀬川支流(小平川、山田川、桐生川)、吾妻川支流(滑沢川、正木沢、滝沢川)、烏川支流(白川、小野沢、大沢川、物沢、井戸窪川、車川、水出沢、駒寄川、至沢、梨木平川、入山川、碓氷川、市野萱川)、鏑川支流(屋敷川、土合川、道平川、矢沢川、馬居沢川、落沢川、千沢川、栗山川、青倉川、七久保川、後川、土屋川、桑本川、大仁田川、日向山川、砥山川、渋沢、居合沢)、神流川支流(室沢、入沢川、塩沢川、天狗沢、船子川、東沢、白水沢、寺入沢、境沢、橋倉沢、今泉沢、野菜沢、胡桃沢、所の沢、乙父沢、西沢、槍沢、黒川、藤畠沢,矢弓沢,中の沢、北沢、樽の上沢)[15][14]
- 埼玉県: 入川支流(中津川、ヒダナ沢、大血川)、入間川支流(都幾川、越辺川、名栗川)、安谷川、赤平川支流(小森川、薄川)[14][16]
- 東京都: 入間川支流(成木川)、多摩川支流(大丹波川、入川谷、三ツ沢、日原川、養沢川、秋川)[15][14]
- 神奈川県: 酒匂川支流(白石沢)、金目川支流(大山川)、相模川支流(カンスコロバシ沢、伊勢沢、道志川)[15][14]
- 山梨県: 相模川支流(道志川車沢、秋山川寺沢)、富士川支流(野呂川、早川、樋之沢、仙域沢川)[14]
- 長野県: 抜井川(都沢川)[15][14]
- 静岡県: 富士川支流(芝川、大倉川)、河津川、狩野川、酒匂川支流(佐野川)、安倍川支流(有東木川)[15][14]
- 岐阜県: 長良川支流(円原川、神崎川)、揖斐川支流(水鳥川、小津川)[15][14][17]
- 三重県: 員弁川支流(河内谷川)[15][14]
- 滋賀県: 天野川支流(宗谷川)、芹川[15][14]
- 奈良県: 吉野川支流(木沢川)[14]
- 徳島県: 那賀川支流(泉谷川、大美谷川)、勝浦川支流(旭川)[15][14]
- 高知県: 物部川支流(槇山川)、四万十川支流(松葉川)、仁淀川支流(岩屋川)、吉野川支流(穴内川)[15][14]
- 福岡県: 旧八女郡星野村[14][18]
- 大分県: 玖珠川支流(山浦川)、大野川支流(大谷川)[15][14]
- 熊本県: 球磨川支流(西の内谷川、梶原川、万江川、縦木川、久連子川)、緑川支流(五老ヶ滝川)、菊池川[15][14]
- 宮崎県: 五ヶ瀬川支流(秋元川、波帰川、高千穂川)、耳川支流(奥村川、内の八重川、滝川、水無川)、大淀川支流[15][14]
生態
[編集]渓流に生育し、岩を越流する部分や段落の流れ落ちる部分、急流部にある岩の水際線などに着生している[15]。滝の落ち口の飛沫がかかる部分に見られることもある[15]。人工のコンクリート水路に生育していることもあり、水際線や水深が浅い場合は底面に着生している[15][14]。
生育地の水温は11–14°Cほど[15]。ある程度の流量がある環境に生育し、流速 1.0–2.0 m/s の場所に多いが、3.0 m/s の環境にも生育する[15]。このような環境に生育することで、珪藻類や蘚苔類との競合を避けていると考えられている[15]。生育環境の DO(溶存酸素量)は 9.0–11.0 mg/L、pH は7.2–7.8、電気伝導率は 70–100 μS/cm であることが多い[15]。光環境としては、直射日光は当らないが暗すぎない場所に生育する[15]。
保全状況評価
[編集]情報不足(DD)(環境省レッドリスト)
日本においてカワノリは減少しており、開発による河川水量の減少や河川攪乱の減少、護岸、河畔林の発達などが原因と考えられている[7][15]。第2次レッドリスト (1995) では準絶滅危惧 (NT)、第3レッドリスト (2007)、第4次レッドリスト (2012) では絶滅危惧II類(VU)とされていたが、第5次レッドリスト (2025) では情報不足(DD)に変更された[19]。
利用
[編集]カワノリは、夏から秋に渓流の岩石上から採集され、抄いて天日乾燥されて濃緑色で板状の乾燥製品にされる[7][8]。晩秋の製品が色よく良品とされる[6]。伝統的に、この乾燥製品は一般的な板海苔(紅藻のアマノリ製)よりも大判に仕上げられ、炭火などで炙って食される[7]。また、酢の物(三杯酢)や吸い物、佃煮として食されることもある[7]。甘味があって美味とされるが、野生品であり、大量に採集できるものではないため、貴重な高級品である[7]。養殖に関する研究も行われているが、実用化されていない[7][21]。
カワノリの乾燥製品はタンパク質38.1%、脂質1.6%、炭水化物41.7%を含んでおり、ミネラル、ビタミン類、食物繊維が豊富で海苔(紅藻のアマノリ製)と似ている[7]。薬用成分の研究も行われている[22]。
板海苔状の乾燥製品はふつう産地の河川名を冠して呼称され、大谷川苔(だいやがわのり; 栃木県日光市大谷川)、桐生苔・高沢苔(群馬県桐生川)、多摩川苔(東京都秋川・日原川)、桂川苔(山梨県桂川)、富士川苔(静岡県富士川)、芝川苔(静岡県富士宮市芝川)、円原苔(岐阜県武儀川)、青藍苔(徳島県那賀川)、山浦苔(大分県筑後川)、高千穂苔(宮崎県高千穂川)、菊池川苔(熊本県菊池川)などがある[7][8]。
『和名類聚抄』(平安時代中期)の17巻、菜蔬部第27、水菜類227、19丁裏2行目に「水苔弁色立成云水苔一名河苔[和名加波奈]」という記述があり、この「水苔(カワナ)」はカワノリではないかとされる[15]。もしこれがカワノリであれば、平安時代には食用として全国に広まっていたことになるが、カワノリは特定の河川の源流域のみに生育するものであることから、疑問視もされる[15]。河川源流域を全国的に渡り歩いていた木地師が伝えたとする説や、平家の一族が全国に伝えたとする説もある[15]。
静岡県富士宮市芝川で採集される芝川苔については古くから伝承があり、鎌倉時代に身延山の日蓮聖人へ献上された記録があり、その後も江戸時代の幕府、明治・大正時代の皇室へ献上された[7][15]。また大分県竹田市荻町陽目地区のカワノリは藩主の食膳に提供されていた記録があり、また昭和初期には「陽目(ひなため)のカワノリ」が全国共進会に出品され上位入賞した[7]。
カワノリと同様に河川に生育する食用藻類であるスイゼンジノリ(藍藻)やアオノリ類[注 1](緑藻アオサ藻綱)も「カワノリ」や「川海苔」と呼ばれることがあるが、生物としては全く異なる[7][24]。
分類
[編集]カワノリは、1891年に矢田部良吉によって Prasiola japonica として記載された[2]。しかし、分子系統学的研究からカワノリ属(広義、Prasiola)が単系統群ではない(Prasiococcus が内群になる)ことが示されたため、2025年に広義の Prasiola を複数の属(Prasiola、Mariprasiola、Vittaprasiola、Eaprasiola)に分割し、カワノリを Eaprasiola に移す(Eaprasiola japonica)ことが提唱されている[25]。
カワノリは膜状の藻体をもつため、体制に基づく伝統的な分類体系では緑藻綱のヒビミドロ目やアオサ目に分類されていたが[5][20]、系統的にはアオサなどとは大きく異なることが明らかとなり、21世紀にはトレボウクシア藻綱カワノリ目に分類されるようになった[1]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- 1 2 3 4 Guiry, G.M. (2025年7月10日). “Eaprasiola japonica (Yatabe) Heesch, Guiry & Rindi 2025”. AlgaeBase. World-wide electronic publication, Nat. Univ. Ireland, Galway. 2026年2月20日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 Guiry, G.M. (2025年7月10日). “Prasiola japonica R.Yatabe 1891”. AlgaeBase. World-wide electronic publication, Nat. Univ. Ireland, Galway. 2026年2月20日閲覧。
- ↑ 「カワノリ」『改訂新版 世界大百科事典』。コトバンクより2026年2月22日閲覧。
- ↑ 松村明; 三省堂編修所, eds. (2019), “かわのり(川海苔)”, 大辞林 4.0, 三省堂
- 1 2 3 4 廣瀬弘幸 & 山岸高旺 (編) (1977). “カワノリ”. 日本淡水藻図鑑. 内田老鶴圃. p. 327. ISBN 978-4753640515
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 岩本康三 (1994). “Prasiola japonica (カワノリ)”. In 堀輝三 (編). 藻類の生活史集成 第1巻 緑色藻類. 内田老鶴圃. pp. 352–353. ISBN 978-4753640577
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 有賀祐勝 (2019年). “渓流に生育する淡水藻カワノリ”. 海苔百景. 一般財団法人 海苔増殖振興会. 2026年2月20日閲覧。
- 1 2 3 4 加藤信子「カワノリ Prasiola japonica YATABE のステロールおよび脂肪酸組成」『東海女子短期大学紀要』第24巻、1998年、63-67頁、CRID 1050564287604626432、2025年4月28日閲覧。
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- ↑ Rahmawati, L., Park, S. H., Kim, D. S., Lee, H. P., Aziz, N., Lee, C. Y., ... & Cho, J. Y. (2021). Anti-inflammatory activities of the ethanol extract of Prasiola japonica, an edible freshwater green algae, and its various solvent fractions in LPS-induced macrophages and carrageenan-induced paw edema via the AP-1 pathway. Molecules 27 (1): 194. doi:10.3390/molecules27010194.
- ↑ 團昭紀 (2008). “スジアオノリの生理生態学的研究とその養殖技術への応用”. 徳島県立農林水産総合技術支援センター水産研究所研究報告 6: 1–10.
- ↑ 「カワノリ」『栄養・生化学辞典』。コトバンクより2026年2月22日閲覧。
- ↑ Heesch, S., Guiry, M. D., & Rindi, F. (2025). “Taxonomic revision of the genus Prasiola Meneghini, 1838 (Prasiolaceae, Trebouxiophyceae) results in the establishment of three new genera”. Cryptogamie Algologie 46 (2): 19-30. doi:10.5252/cryptogamie-algologie2025v46a2.
外部リンク
[編集]- 「カワノリ」。コトバンクより2026年2月22日閲覧。
- 有賀祐勝 (2019年). “渓流に生育する淡水藻カワノリ”. 海苔百景. 一般財団法人 海苔増殖振興会. 2026年2月20日閲覧。
- “富士山に暮らす 富士山を源とする清流に自生する幻のカワノリ「芝川のり」”. 国土交通省 中部地方整備局 富士砂防事務所. 2026年2月22日閲覧。