カリー化

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

カリー化 (currying) とは、計算機科学分野の技法の一つ。複数の引数をとる関数を、引数が「もとの関数の最初の引数」で戻り値が「もとの関数の残りの引数を取り結果を返す関数」であるような関数にすること。この技法は、クリストファー・ストレイチーにより論理学者ハスケル・カリーに因んで名付けられたが、実際に考案したのは Moses Schönfinkel とゴットロープ・フレーゲである。

f( a, b ) = c という関数 f があるときに、F( a ) = g ただし、g( b ) = c という関数 g が得られる関数 F を定義した場合、F は、f をカリー化したものである。

関数 ff:(X \times Y) \to Z の形のとき、f をカリー化したものを g とすると、g:X \to (Y \to Z) の形を取る。非カリー化 (uncurrying) とは、これの逆の変換である。

カリー化とは直感的には、「関数の複数引数を、1引数ずつ順に、バラバラにする」ということである。たとえば、除算の関数 {\rm div}(x, y) = \frac{x}{y} をカリー化したものを {\rm cdiv} とすると、{\rm cdiv} はxのみを引数に取る。そして {\rm inv}={\rm cdiv}(1) とすると、{\rm inv} はyのみを引数に取る新しい関数となり、{\rm inv}(y) = \frac{1}{y}、つまり引数の逆数を返す関数になる。

理論計算機科学の分野では、カリー化を利用すると、複数の引数をとる関数を、一つの引数のみを取る複数の関数のラムダ計算などの単純な理論的モデルと見なして研究できるようになる。圏論では、カリー化の概念を冪対象普遍性に見出せる。適当な2つの対象から別の対象への f: X \times Y \to Z に対して、射 g: X \to Z^Y が一意に対応する。

カリー化をする現実の動機の1つに、カリー化することで後述する部分適用が行いやすくなることが挙げられる。たとえば、加算を行う関数 (+) をカリー化してから、最初の引数だけに 1 を適用すれば、インクリメント用の関数が簡単に作れる。

カリー化を基盤としているプログラミング言語もある。特にMLHaskellでは関数は常に一つの引数のみを取り、複数の引数を取る関数とは、単にネストされた複数の一引数関数の糖衣構文にすぎない。第一級関数を扱える言語、たとえばLISPSchemeF#ScalaErlangEiffelPerlRubyPythonR言語S言語JavaScriptなどでは、カリー化関数を作ることができる。

他の概念との混同[編集]

カリー化は部分適用と混同されやすい[1][2]。部分適用とは、複数引数ある関数の引数の一部だけに実引数を適用する操作のことで、上述の{\rm div}(x, y)の例で言えば、{\rm div}から{\rm inv}を導出する操作を指す。一方、カリー化は{\rm cdiv}を導出する操作であり、引数への値の適用までは行わない標準C++ライブラリstd::bind1st は部分適用の一例である。

この混同はしばしば言語設計者によってもなされる。Groovyでは、部分適用を行う標準メソッドにcurryという名前がつけられている。

また、Haskellにある標準関数curryも、一般的なカリー化と厳密には違う動作をする。この関数は (a, b) -> c という型を持つ関数を a -> b -> c 型の関数に変換するが、元の関数は2要素のタプルを取る1引数関数であり、2引数関数ではない。Haskellは上述のとおり全ての関数が1引数関数であり、よってHaskellプログラムの上では、厳密な意味でカリー化を行う関数は定義できない。 ただし型理論上は、X、Yという型の要素を持つタプルの型は直積 X \times Y とほぼ同一視できるため、必ずしも誤用というわけではない。

関連項目[編集]

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ http://lambda-the-ultimate.org/node/2266
  2. ^ http://www.uncarved.com/blog/not_currying.mrk