カセ鳥
座標: 北緯38度09分27秒 東経140度16分34秒 / 北緯38.1575度 東経140.2762度
| カセ鳥 | |
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上山城前広場で演舞する加勢鳥(2026年) | |
| イベントの種類 | 小正月の民俗行事[1][2] |
| 開催時期 | 毎年2月11日[2][3] |
| 開催時間 | 10時頃 - 15時頃[4] |
| 会場 | 山形県上山市中心市街地・温泉街(祈願式は上山城正門前広場)[2][5] |
| 最寄駅 | JR東日本奥羽本線・山形新幹線「かみのやま温泉駅」[6] |
| 駐車場 | あり(台数に限りあり)[6] |
| 公式サイト | |
| 備考: 上山市民俗行事加勢鳥保存会が第38回サントリー地域文化賞を受賞[7][8] | |
カセ鳥(かせどり、加勢鳥)は、山形県上山市で毎年2月11日に行われる小正月の民俗行事である[1][2][3]。来訪神の性格をもつ行事で、藁蓑の「ケンダイ」を被った加勢鳥が「カッカッカー」と唱えながら市内を練り歩き、見物客らが祝い水を浴びせて、五穀豊穣、商売繁盛、家内安全、火伏せを祈願する[1][2][9]。
行事内容
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位置づけと由来
[編集]加勢鳥は、小正月に遠い土地からやってくる神の声によって一年の豊かさを祝う来訪神行事であり、神の使いの鳥に扮したものと考えられている[9][10]。名称の由来には諸説あり、商売繁盛にちなむ「稼ぎ鳥」、火伏せにちなむ「火勢鳥」、勢いを加える鳥とする「加勢鳥」などと表記されてきた[1][11][2]。
演舞・祝い水
[編集]行事は上山城正門前広場での祈願式から始まり、笛や太鼓、摺り鉦などの囃子に合わせて「カッカッカーのカッカッカー」と歌いながら跳ね踊る演舞が行われる[12][9][2]。その後、市内中心部や温泉街を複数の班に分かれて巡行し、商店や旅館の前などで演舞を披露する[9][2][5]。歌詞には「望(もち)の年の祝い」「五穀豊穣、火の用心」「商売繁盛、万作だ」などの文言が現れ、祭りの祈願内容が織り込まれている[4][9]。
住民や見物客は、加勢鳥に手桶や柄杓で祝い水を浴びせる[12][11][13]。祝い水には火伏せのまじないの意味があり、江戸時代の大火の際に火喰い鳥が空を舞って類焼を広げたように見えたことから、鳥に水をかけて火勢を鎮める願いが込められたという説がある[2][9]。また、水商売の繁盛を祈る意味もある[1]。加勢鳥は水を浴びせられると身震いし、ケンダイに含んだ水を周囲に飛ばすこともある[14]。加勢鳥のそばには銭さし籠を持つ者が付き添い、見物客がご祝儀を入れると火伏せの御札が授与される[1][9][7]。
装束
[編集]加勢鳥に扮する者は、藁で編んだ円錐形の蓑「ケンダイ」を頭からかぶり、わらじを履いて町を練り歩く[2][15]。行事は厳寒の上山で行われ、参加者は冷水を浴びながら演舞や巡行を続ける[3][9][14][15]。藁による擦過傷を防ぐため、参加者はさらしを巻いたり、絆創膏やクリームなどで身体を保護する[14][15][16]。
ケンダイは「どんぷ」と呼ばれる道具で編まれ、重さは4 - 6キログラムほどで、水を含むと10キログラム前後になる[9][2]。その製作技術は、楢下宿で長年ケンダイを製作してきた故・遠藤章男から継承した会員に受け継がれ、加勢鳥が履く草鞋も楢下宿で手作りしている[4][17]。ケンダイから自然に抜け落ちた藁は縁起物とされ、女児の髪を結うと黒髪の豊かな美人になるといわれる[2][15]。見物客はケンダイの頭部に手ぬぐいやタオルを巻き付け、家内安全や商売繁盛などを祈願する[1][11]。
主な場面
[編集]- 下大湯共同浴場付近での演舞
- かみのやま温泉駅前での演舞
- ケンダイに手ぬぐいを結ぶ
- 身震いして飛沫を飛ばす
- 昼休憩中に並べられたケンダイ
- 落ちた藁を拾う見物客
歴史
[編集]起源
[編集]加勢鳥の源流には、「御前加勢」と「町方加勢」がある[9][2]。御前加勢は寛永年間に始まり、毎年旧正月13日に上山城へ昇殿を許された高野村の若衆3人が御前で加勢鳥を披露した。御殿では新しい手桶と柄杓で加勢鳥に水をかけ、酒と銭一貫文でねぎらった[9][11]。一方、町方加勢(町内加勢)は旧正月15日に行われ、周辺各村から集まった若衆が商家の連なる町中を歩き、町人たちは火伏せや商売繁盛を祈ってご祝儀を出し、酒や切り餅を振る舞った[11][2]。
再興
[編集]その後、1954年の周辺町村合併による新しい上山市の誕生を機に、旧上山と周辺町村を結びつけるコミュニティの核として加勢鳥の復活が企図され、1959年(昭和34年)に有志によって復活した[7][8]。ただし、復活当初の中心メンバーは誰も加勢鳥を実際には見たことがなく、古老や郷土史家の話を聞きながらの手探りの取り組みだった[7][8]。復活当初は、カッパの上にケンダイを被り長靴を履いて練り歩いていた[16]。
1986年(昭和61年)には上山市民俗行事加勢鳥保存会が結成され、秋田県の劇団わらび座の協力を得て、「カッカッカー」の鳴き声に合わせた動きや太鼓・笛の囃子が創作され、現在みられるような演舞の形が整えられた[7][9][8]。この過程で、衣装もさらしとわらじを用いる形へと見直された[16]。さらに、1990年から2011年まで、加勢鳥が回らない郊外地域の全1万2千戸を訪ねる「事前加勢(出前加勢)」が実施された[7][16]。
担い手確保が課題となるなか、県内外からの公募やインターネットを用いた募集が進められ、近年は女性や外国人を含め全国から参加者が集まっている[18][19][20]。外国出身者には、アメリカ、ポーランド、トリニダード・トバゴ、シンガポールなどからの参加者がいる[19][21][22][13]。参加者の中には長年継続して加勢鳥を務める者もおり、行事後の直会を含めた地域住民との交流や、加勢鳥になること自体の楽しさが参加を続ける動機として語られている[9][16][14][8]。
2016年、上山市民俗行事加勢鳥保存会は、コミュニティの核となる小正月の民俗行事を復活・継承してきた活動により、第38回サントリー地域文化賞を受賞した[7]。
2021年は新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で、1959年の再開後初の中止となった[23]。2022年は縮小開催となり、2023年には3年ぶりに上山市内での練り歩きが再開された[24]。
開催概要
[編集]現在は毎年2月11日に行われ、上山城正門前広場で祈願式と演舞を行ったのち、複数の班に分かれて商店街、温泉街、消防署、警察署、スーパーマーケット前など市内各所を巡行し、各所で演舞と祝い水が行われる[4][2]。
| 時刻(目安) | 内容 |
|---|---|
| 10時00分 | 祈願式(上山城正門前広場) |
| 10時30分頃 | 演舞披露(〃) |
| 11時00分頃 - 15時00分頃 | 複数の班に分かれて上山市内を練り歩く。順路には下大湯共同浴場付近、武家屋敷通り付近、かみのやま温泉駅前が含まれる。 |
類似行事
[編集]小正月に蓑をかぶった者が人家を訪ね、「カッカッカ」などと鳴いて祝儀や餅、菓子などを受け取る習俗は、かつて各地に広く存在した[1][10][9]。東北では明治半ばまで類似行事がみられ、地域によってカッカドリ、カセギドリ、カセドリウチなどと呼ばれていた[9]。これらは「小正月の訪問者」と位置づけられ、遠い土地から来る神の声をまねて一年の豊饒を祝う故事に由来する[10]。秋田のなまはげや余目町のやや祭りも同系統の行事とされる[10]。
- 福島県土湯温泉では、1月14日夜に子供たちが家々や旅館を巡り、鳥の鳴き声をまねて餅や菓子を受け取る「カセドリ」が行われる[10]。
- 宮城県宮崎町では、小正月の夜に子供たちが家々を回って餅をもらう「ちゃせご、かせどり」の習俗があった[10]。
- 岩手県では「カセギドリ」の名がみられ、柳田國男の『遠野物語』にも記述がある[9]。
- 佐賀県佐賀市蓮池町見島地区でも「カセドリ(見島のカセドリ)」が行われている[9]。
また、類似の火伏せ行事として、宮城県登米市東和町米川五日町地区では、藁装束の男たちが家々を回って屋根に水をかけ、火伏せを祈願する米川の水かぶりが行われる[15][25][26]。
脚注
[編集]出典
[編集]- 1 2 3 4 5 6 7 8 杉岡幸徳『奇妙な祭り 日本全国〈奇祭・珍祭〉四四選』角川書店〈角川oneテーマ21〉、2007年、168-173頁。ISBN 978-4-04-710103-6。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 氷上慧一『和祭巡礼画報 イラストで見る日本の祭りと伝統行事【北海道・東北編】』イカロス出版、2024年6月20日、114-115頁。ISBN 978-4-8022-1440-7。
- 1 2 3 堀勝雄「日本の祭り 第38回 山形県上山市「加勢鳥」」『歴史街道』1996年2月号、11-16頁。
- 1 2 3 4 5 “2/11(水・祝)上山市民俗行事 加勢鳥”. 上山ラプソディ (2026年2月9日). 2026年3月15日閲覧。
- 1 2 「城下に響く「カッカッカー」 山形・上山で奇習「加勢鳥」にぎやかに」『朝日新聞デジタル』2026年2月12日。2026年3月15日閲覧。
- 1 2 “上山市民俗行事 加勢鳥”. やまがたへの旅(山形県公式観光サイト). 2026年3月15日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 “上山市民俗行事加勢鳥保存会 コミュニティの核となる小正月の民俗行事を復活・継承”. サントリー文化財団. 2026年3月15日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 鈴木邦男「祭りだ「カー」 豊穣の鳥 山形の奇習「加勢鳥」、蓑かぶり鳴き声高らかに」『日本経済新聞』日本経済新聞社、2017年1月27日。2026年3月15日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 大石始『異界にふれるニッポンの祭り紀行』産業編集センター、25-37頁。ISBN 978-4-86311-168-4。
- 1 2 3 4 5 6 7 上山三平「火伏の民俗行事?カセドリは全国いろんな所でみられる?」『街角』やまがた冬2015季刊第23号、2015年、22-24頁。
- 1 2 3 4 5 重森洋志『東北お祭り紀行』無明舎出版、8-9頁。ISBN 978-4-89544-408-8。
- 1 2 杉岡幸徳 著「日本トンデモ祭りめぐり」、郡司聡ほか 編『怪』 vol.0024、角川書店〈カドカワムック〉、2008年、232頁。ISBN 978-4-04-883992-1。
- 1 2 「「カッカッカー」の掛け声が街中に 山形県上山市の伝統行事「加勢鳥」 海外からの参加者も」『YBC NEWS NNN』山形放送、2026年2月11日。2026年3月15日閲覧。
- 1 2 3 4 “藁の服を着て水を掛けられる奇習カセ鳥”. デイリーポータルZ (2012年3月2日). 2026年3月15日閲覧。
- 1 2 3 4 5 奇祭ハンター まっく (2020年1月28日). “かみのやま温泉の「加勢鳥」裸体に水をかけられ、雪の上を草鞋で歩く奇習に悶絶!”. オマツリジャパン. 2026年3月15日閲覧。
- 1 2 3 4 5 “加勢鳥レジェンド”. 上山ラプソディ. 2026年3月15日閲覧。
- ↑ 「奇習、奇声「カッカッカー」跳ね回る 江戸初期から伝承」『朝日新聞デジタル』2018年2月12日。2026年3月15日閲覧。
- ↑ “地域は舞台 上山市民俗行事加勢鳥保存会” (PDF). サントリー地域文化賞. 2026年3月15日閲覧。
- 1 2 “ミノをかぶって、鳥になる! 山形の奇習「加勢鳥」に外国人も熱視線”. Jタウンネット (2018年2月13日). 2026年3月15日閲覧。
- ↑ “奇習・加勢鳥「カッカッカーのカッカッカー!」民俗行事が運ぶ笑顔(山形・上山市)”. TUYテレビユー山形 (2026年2月11日). 2026年3月15日閲覧。
- ↑ 「願い込め祝い水 「練り歩き」も復活 上山「加勢鳥」 /山形」『毎日新聞』2023年2月12日。2026年3月15日閲覧。
- ↑ 「寒い中大量の水をザブーン!! 五穀豊穣を願い38羽の「加勢鳥」が温泉街を練り歩く! トリニダード・ドバゴ出身のALTも初参加!(山形・上山市)」『NewsDig』テレビユー山形、2025年2月11日。2026年3月15日閲覧。
- ↑ 「奇習「カセ鳥」、今年は中止 山形・上山」『河北新報オンラインニュース』株式会社河北新報社、2021年1月22日。2021年12月8日閲覧。
- ↑ 「防火願って「カッカッカー」 山形・上山の奇習「カセ鳥」」『河北新報オンライン』株式会社河北新報社、2023年2月12日。2023年2月17日閲覧。
- ↑ “ユネスコ無形文化遺産「米川の水かぶり」”. 登米市. 2026年3月15日閲覧。
- ↑ “米川の水かぶり”. 文化遺産オンライン. 2026年3月15日閲覧。
外部リンク
[編集]- 上山ラプソディ
- ミノかぶり跳ねる奇習「加勢鳥」 - YouTube(朝日新聞、2018年2月11日)
