オーラル・ヒストリー
オーラル・ヒストリー(英語:oral history)あるいは口述歴史(こうじゅつれきし)とは、歴史研究のために関係者から直接話を聞き取り、記録としてまとめること。政治史・労働史・地域史などのように、歴史研究の方法としてフィールドワークの伝統が根づいているところや、学際的な交流がなされてきた研究領域で発展してきた[1]。出自は1920年代の都市社会学におけるシカゴ学派のライフストーリーの方法論にたどることができる[1]。
歴史学では主として文献から歴史を調べてゆくが、文献資料から知られる内容には限りがある。例えば、政策決定の過程を検討しようとしても、文献としては公表された結果のみで、どのようにそうした決定が行われたのかは、文書が残っていないことが多い。また、記録に残ることの多くは特異な事件などであり、一般人の日常生活などは文献にはほとんど残らない。その当時は常識であったことも、年月を過ぎると全くわからなくなるということはよくあることである。
当時の関係者にインタビューを行うことで、文献からはわからないことが様々に知られるようになる。以前からは、社会学の分野において「聞き書き」や「ライフストーリー」という手法が研究手法として確立されている[2]。特に近現代史の研究者の間で1990年代以降、オーラル・ヒストリーが注目されるようになり、組織的な取り組みが行われている(例えば『明治天皇紀』の編纂[3]、国鉄民営化、日米半導体摩擦などをテーマに関係者のインタビューが行われている)。
オーラル・ヒストリーは、体験者の一人語りをそのまま採録するものではなく、聞き手との共同作業によって生成される口述記録としても捉えられる[4]。その記録はアーカイブとして将来へ伝達されるものであり、概念としても口述記録そのものだけでなく、その後の利活用まで含めて理解できる[4]。デジタルアーカイブ化が進むと、アーカイブされた音声・映像・テキストに容易にアクセスできるようになり、研究や教育に加えて、ノンフィクションやドキュメンタリー制作の素材としても活用範囲が広がる[4]。
一方で、オーラル・ヒストリー資料の公開と再利用には、インタビュー収録時点から二次利用に関する許諾を得ることが求められる[4]。日本では、海外に比べて保存・公開・活用の拠点となる施設が乏しく、既存の資料館や研究機関に保存されている資料も、権利処理の難しさなどから活用に大きな制約を抱える例が少なくないとされる[5]。このため、聞き取りの実施だけでなく、保存、公開条件の設計、将来的な研究利用までを見通した運用が重要になる[4][5]。
関連項目
[編集]脚注
[編集]- 1 2 江頭, 説子 (2007-08). “社会学とオーラル・ヒストリー–ライフ・ヒストリーとオーラル・ヒストリーの関係を中心に (特集 社会科学研究とオーラル・ヒストリー)”. 大原社会問題研究所雑誌 (585): 11–32.
- ↑ 清水唯一朗 (2003). “日本におけるオーラルヒストリー -その現状と課題、方法論をめぐって-”. 文部科学省学術創成研究:暦象オーサリング・ツールによる危機管理研究(2002年度-2006年度) Working Paper Series 03: 004.
- ↑ 臨時帝室編修局史料「明治天皇紀」談話記録集成 (PDF) ゆまに書房
- 1 2 3 4 5 宮本, 聖二「オーラルヒストリー」『デジタルアーカイブ学会誌』第5巻第4号、2021年10月1日、219-221頁、doi:10.24506/jsda.5.4_219。
- 1 2 “オーラルヒストリー資料の保存・公開・活用に関する共同研究”. グローバル日本学教育研究拠点. 大阪大学大学院人文学研究科. 2026年3月17日閲覧。